Something for T. #09



David Tと関わりのある様々な方にお話を聞くこのコーナー。第9回目はギタリスト 山岸潤史さんです。現在ニューオーリンズに拠点を移し活動中で、ワイルド・マグノリアスのライブで一時帰国中の山岸さんに、自身のソロアルバム『My Pleasure』や、Band of Pleasureでの活動などいろんなお話をお伺いしました。ぜひご一読ください。ご意見・ご感想、並びに山岸さんへのお便りなどございましたら、 管理人ウエヤマ までぜひぜひお送りください!

【前編】




── デイヴィッド・T・ウォーカーのギターに出会ったきっかけからお聞かせください。

山岸潤史さん(以下、山岸):72年とか73年とかその辺りだと思うな。ちょうどオレがウエスト・ロード・ブルース・バンドを演ってた頃ね。当時ね、ブルースのレコードを良く聴いてたんやけど、まだまだ日本にそんなに入ってきてなかったんよ。で、大阪に日本で唯一ブルースのレコードを扱ってたレコード屋があって。そこにいつも行っていろんなレコード探してたわけ。

── そこでいろんな音源に出会うと。

山岸:そうね。段々とソフィティスケイトされた音楽を聴き始めた頃やな。キング・カーティスのキングピンズとか、ロスのファンキー・サムズとかね、いわゆるスタジオミュージシャンが演ってるような音楽に注目し出したわけや。そこでデイヴィッド・T・ウォーカーっていうギタリストがいるってことがわかって。

── なるほど。

Billy Preston
『Everybody Likes Some Kind of Music 』
(1973)
Carole King
『Fantasy』
(1973)
山岸:ブルーサムから出たクルセイダーズの1stとかポール・ハンフリーのソロアルバムとかにもデイヴィッド参加してるやろ。言うたらメンバー似たような感じやん? 特にポール・ハンフリーのソロアルバムは好きで良く聴いとったなあ。あとはビリー・プレストンの『Everybody Likes Some Kind of Music』ってアルバムとかキャロル・キングの『Fantasy』とか、あの辺を聴いたのよ。キャロル・キングは大好きでさ。昔からずっと聴いてるんだけど。で、キャロル・キングってODEやんか。キャロル・キングのオープニング・アクトをデイヴィッドは演っとったそうやで。

── ホントですか。

山岸:うん。デイヴィッド本人が言うとったよ。デイヴィッド・T・ウォーカー・バンドって。

── それは今となっては夢のようなライブですね。

山岸:最初にデイヴィッドのソロアルバム聴いたのがそのODEでの最初のアルバムの『Real T』。でも最初聴いたときはなんかこう肩透かしくらった感じやったのよ。

── 肩透かし。

山岸:オレはもっとね、コーネル・デュプリーの『Teasin'』とか、そんな感じの音を期待しとったわけ。ブルージーでファンキーなね。でも『Real T』って「歌のない歌謡曲」みたいな感じというかさ。なんかBGMっぽいっていうか。当時はそんな感じだったなあ。

── なるほど。

山岸:「What's Going On」のカヴァーでもさ、やっぱ、ギターソロを期待してたわけよ。かっこいいソロを。ところがそんなの無いじゃない?

── メロディ中心にフレーズ組み立ててるような。

山岸:そうそう。ところが実はまだオレにはわからんかったんやね。メロディをギターで「歌う」こととか、そのことの奥深さとか。メロディの屑し方とかいろんなことが後になってわかったんやけど、当時は気が付かへんかったんやね。まだ20才そこそこやもん。というようなことで、当時はデイヴィッド・T・ウォーカーというギタリストから一時興味が失せたというかね。

── それからまたデイヴィッドに注目するときが来るわけですか。

山岸:オレが初めてアメリカに行ったんが75年だったかな。その頃ちょうどフュージョンという音楽が流行り始めた頃で。そうこうしてる時にジェフ・ベックの『Blow By Blow』が出て、ラリー・カールトンがバーンと出て来て。その辺りからスタジオミュージシャンに脚光が当たり始めたんやね。その頃に出会ったのがマリーナ・ショウの『Who Is This Bitch, Anyway?』。これにまずレコナイズされたかなあ。

── 大名盤ですよね。

山岸:デイヴィッドとラリー・カールトンのツインギター、カッコエエなあって思ってて。でもその後、オレが思いっきりデイヴィッド・T・ウォーカーというギタリストをレコナイズしたんがボビー・ウォマックの『Poet』っていうアルバム聴いたときやわ。

── 「Game」が収録されてるアルバムですね。

Bobby Womack
『Poet』
(1981)
山岸:もうね、あのアルバムは全部やわ、全部。あの仕事の全部が強烈やったね。

── 名演がぎっしり詰まってますよね。僕も大好きなアルバムです。

山岸:デイヴィッド・Tという人はフィーチャード・ギタリストではないからね。あくまでも歌を邪魔せずに後ろでギター弾くっていうスタイルでしょ? 言うたらデュプリーやエリック・ゲイルよりも地味でしょ。地味に聴こえるっていうかね。

── そんな感じもありますね。

山岸:デュプリーとかエリック・ゲイルっていわゆるルーツがブルースなんよ。ブルーノートとメジャーペンタトニックのスケールが多いけど、デイヴィッドはもっとメジャー7thとかマイナー9thとかのスケールを使うやろ。だからちょっと匂いが違う。で、デュプリーやゲイルはそのブルージーな感じが買われたわけよ。 イーストコーストでの音楽にマッチしてたというか。だからバッキングだけじゃなくてソロプレイも期待されてたというか、フィーチャーされることが多かったわけじゃない? ところがデイヴィッド・Tってそういうソロプレイってあまりないんよ。その頃の音源では。

── 確かにそうですね。

山岸:ウエストコーストで作られる音ってブルース臭はあまりなかった。ところがイーストコーストの音楽ってブルースの香りがしてたんよ。一斉風靡したキングピンズのあのリズムセクション。パーディ、ジェモット、デュプリーね。あとはチャック・レイニーとかゴードン・エドワーズもそうやけど、みんな色が濃いやろ。あのAtlanticレコードとかオレたちは聴き漁ってたわけよ。こいつらカッコエエなあって。だいたいニューヨーク制作でしょ。あと、ジュニア・パーカーが後期にGroove Marchantに残した素晴らしいアルバムが2,3枚あって。オレはもう当時ドーンとやられたわけ。ブルースのアルバムなんだけど、バックがとても洗練されてるわけ。いわゆるブルースマンのアルバムのような、いなたい感じじゃなくって、ちょっとジャジーな感じとか絶妙で。クレジット表記はないんだけど、パーディ、チャック・レイニーが参加してるアルバムでね。

── ふむふむ。

山岸:デイヴィッドのギターって個性というか色というか見えにくいタイプやろ。もともと自己顕示欲は強いほうと思うねんけど、前に出てくるタイプではなかったはずなんよ。歌の後ろでじっとプレイするみたいな。で、プレイにしても雲の上を飛んでる感じというか浮遊してる感じというか。

── 浮遊してる。

山岸:ふわふわ〜っていう感じ。例えばどこまでがバッキングでどこからがソロなんか今一つようわからん感じというかね。同じバッキングギタリストでもデュプリーなんかだとソロプレイのときはバッチリ前面にでてくる。その辺りは違う感じがあって、デイヴィッドの場合はそこがいいところでもあったわけよ。

── なるほど。

山岸:で、さっき話したボビー・ウォマックの『Poet』の後くらいから、クルセイダーズで来日し始めたでしょ。そこでのデイヴィッドのプレイって、仁王立ちでギター弾くスタイル。グッと押さえた感じというか。「デイヴィッドって凄いぞ」っていろんな人が口にし始めたきたんがその頃だったね。

── 実際にデイヴィッドと対面するのはいつ頃なんですか。

山岸:本人と最初に会ったのは、86年くらいに『JAZZ LIFE』誌の対談企画だったかな。ちょうどクルセイダーズのツアーか何かで来日してるときにデイヴィッドが良く泊まってた新宿のホテルの部屋で対談ってことになって。で、その対談の前日にオレはライブがあって、その後ずっと朝まで飲んでたの。その飲みが結構盛り上がってかなりひどい二日酔い状態だったのね。対談はその日の昼からだったんで全然酒が抜けきれてない状態でとりあえずデイヴィッドの部屋に行ったのよ。

── ふむふむ。

山岸:初めてデイヴィッドと会うことができて対談も始まったんだけど、途中で気分悪くなって。デイヴィッドの部屋のトイレに駆け込んじゃって(笑)。

── (笑)。

山岸:そしたら今度はトイレが詰まっちゃってさ(笑)。水が溢れ出して止まんなくなったわけよ。どないしょーって感じでパニクッてさ。なんやかんやで20分くらいトイレに入ってたわけさ。で、ようやくトイレから出てきたらデイヴィッドが「どうしたの?」って聞くから状況を説明して。そんな初対面だったからね、デイヴィッドにはその後ずーっと言われてるんよ。「ジュンはトイレが長いからな」って(笑)。






── いろんな意味できっかけとなったミュージカルアルバム『Mama, I Want To Sing』の録音が88年に開始されるわけですが。

『Mama, I Want To Sing』
(1988)
山岸:大きなプロジェクトでね。ミュージカル公演に合わせてサウンドトラックを作ろうって話があって。プロデュースをボビー・ワトソンがやることになって。ボビーがオレにも手伝ってくれって話になって。

── ちょうどチキンシャックでいっしょに活動されてる頃ですよね。

山岸:ボビーはルーファスで赤坂MUGENってとこでライブ演った頃、一度帰国した後に日本に在住することになって。その後オレはボビーとチキンシャックでいっしょに演ることになったけど、最初はボビー・ワトソン・バンドってことでいっしょに演り始めたわけ。ボビーとオレと続木とマーティー・ブレイシーなんかと組んで。JIROKICHIとか六本木のバレンタインとかでライブ演ったりしてね。で、そこではオレはボーカルがいるバンドを演りたかったわけ。一方でチキンシャックはインスト中心だったから。まあ、同じようなメンバーだったけどね。

── なるほど。

山岸:で、ちょうど88年くらいかな。その最中に『Mama, I Want To Sing』の話が持ち上がって。ボビーから電話があったのよ。「ジュン、メンバー誰がいいと思う?」って。で、ルーファスのメンバーだったジョン・ロビンソンとトニー・メイデン、それからキーボードにアンジェラ・ウィンブッシュというようなメンバーで承諾もらったけど、他にも何パターンか候補を考えとったわけ。で、そこに登場するのがニール・オダって人でね。

──デイヴィッドのソロアルバム『Yence』と『Ahimsa』をプロデュースしてる方ですよね。

山岸:そうそう。彼が『JAZZ LIFE』誌でデイヴィッドの特集やってた頃に知り合って仲良くなったんだけど、彼はよくロスに行ってたりしてジェイムズ・ギャドソンとも知り合いでだったんで連絡先を教えてもらってたわけ。

── ほほぉ。

山岸:で、ボビーとメンバーの話になったときに「ジェイムズ・ギャドソンどうやろな?」って提案したら、それいい!ってことになって。じゃキーボードは誰がおるかなって考えてレス・マッキャンはどうやってことになって、じゃあ、ギターでデイヴィッド・Tも、という流れだったわけ。で、それが全部オッケーだったのよ。

── 考えてみれば凄いメンバーですよね。

山岸:それを演ってるときにオレ、フッとアイデアが浮かんだわけ。当時、彼らが残した70年代の素晴らしいソウルミュージックってのが消えつつあって主流が打ち込み系になっていってた時期だったやんか? だからそういった素晴らしい音を残した人たちと「今の音」で何か出来ないかと思ったわけ。チキンシャックでもそういうことを演りたいとは思ってたけど、実際に70年代に残してきた人たちとやったら面白いんやないかと思ったんよ。

── なるほど。

山岸:オレね、昔、教則ビデオを作ったことがあって。いろんなリズムパターンに合わせてレクチャーするみたいな感じの中で、最後に実演するっていう構成だったんだけど、その最後の演奏曲として取り上げたのが「Song For You」だったわけ。で、『Mama, I want To Sing』の打ち上げのときにね、ホテルのボビーの部屋だったかにデイヴィッドとギャドソンを呼んでそのビデオを見せたわけ。「オレ、こういうのを演りたいんよ、あんたたちといっしょに」って。あなたたちが残したあの素晴らしい音楽をもう一回演ってみいへんかって。そしたら「じゃあジュン、やろうよ」って言ってくれてね。そっから全てが始まったんよ。

── 山岸さんのソロアルバム『My Pleasure』やその後のBand of Pleasureに繋がっていくと。

山岸:その頃にようやく気が付くわけ。デイヴィッドの『Real T』の凄さを。なんでもないようなメロディを弾いてるようなギターだけど、それがいかに大変なことなのかって。それを演ることって実は凄いことなんだと。『Press On』なんかとんでもないこと演ってるしね。

── 『My Pleasure』は僕も大好きなアルバムですけど、どういう風に出来上がっていったんですか。

山岸潤史
『My Pleasure』
(1988)
山岸:まずブルースナンバーとか自分の好きな曲を選んでアレンジしてね。で、オレの昔っから大好きなフェイバリットソングの「Best thing that ever happened to me」をぜひ演りたいって思ってた。この曲でデイヴィッドのギターを聴きたい!って思ったわけ。オレがギターで歌を歌ってデイヴィッドがソロを弾く。これがオレの夢やったんやな。

── なるほど。

山岸:オレとボビーとレス・マッキャンとギャドソンと続木徹、そしてデイヴィッド。このメンバーでこの曲を録音することになって。今でも忘れへんけど、スタジオでオレが先にメロディ録り終えて、デイヴィッドのソロ弾き始めた瞬間、涙がバーって流れてきてね。もう止まらへんかったよね。なんやこれー!って。

── ……わかる気がします。

山岸:自分のソロアルバムでデイヴィッドに最高のプレイをして欲しかったのよ。今まで聴いたことないようなプレイをね。オレの中で強烈なデイヴィッドのプレイってのはさっきも話したボビー・ウォマックの『Poet』なんだけど、それ以上のものを弾いてもらいたかったわけ。例えば、これまでいろんな形でデイヴィッドは「お仕事」をしてきたわけやん? で、中にはこれどういうこと?っていうような仕事もあるわけでしょ。デイヴィッドには似合わないような、体に馴染みのない変なコードチェンジしながらそこに合わせてプレイせなあかんこととかさ。それって、依頼する側が彼の持ってる世界が見えてないってことなんよ。心込められへんのよ。でもハッキリとしたコンセプトがあって、ホントに気持ちが込められるシチュエーションを作ったら絶対マジックが起きる。そう思ってたわけ。

── 起きましたよね。

山岸:そう、起きたんよマジックが! あんな経験したことなかったよ。なんで涙でるかわからへんかった。もちろん「悔しい・つらい・悲しい」とは違うねん。「幸せ」や。幸せの涙やね。「Please send me someone to love」なんかテイクワンやで。

── ホントですか!? あれがテイクワン!?

山岸:そうやねん。凄いマジックや。そんとき思ったんは「こんなギター弾きたい」とかじゃないねん。「こんな大人になりたい」って思ったんよ。

── うわぁ〜。

山岸:それは未だに忘れられない瞬間やね。うん。ホントにこのアルバム作って良かったと思うてる。いろんなこともらったしね。幸せそのものやったなあ。で、そういった幸せな瞬間をレコーディングだけじゃなく、ライブでも味わいたいと思うようになったんやな。

── それがBand of Pleasureへと。

山岸:ホンマにそうなんやけど、Band of Pleasureってそれが楽しみで作ったバンドやもん。演奏してるとデイヴィッドとかギャドソンは凄いのが出てくるわけよ。それがオレには楽しみでしょうがないわけ。デイヴィッドがソロになる直前とか、オレ、自分でギター弾いてて「さあ、次、くるぞくるぞ」と思いながらデイヴィッドの入ってくる瞬間待ってたもん(笑)。

── (笑)。

山岸:『My Pleasure』というアルバム作ってるときって、今になって考えると、ある意味で「啓示」やったんかなーって思うねん。

── 啓示。

山岸:あの時、オレのホントの人生が始まったと思うもん。もちろんそれまでもいろんなきっかけはあったよ。でも、今ここにおるオレはあそこから始まった。あのときすべてが見えたんよ。自分が何をやるべきかが。それはさ、やっぱりデイヴィッドとの出会い、ギャドソンとの出会いってのが大きかったよね。

── なるほど。

山岸:もう一つ忘れられん思い出はね、『My Pleasure』を録音するって決まってからある日、デイヴィッドから「曲は何を演ろうか」って電話がかかってきたんよ。で、オレは「Best thing that ever happened to me」とダニー・ハザウェイの「We Need You Right Now」を演りたいねんけどって伝えたわけ。そしたら「明日どうしてる?」って聞かれて。「ちょっとそっちに寄るから」って言うわけ。次の日、そうね、昼の12時過ぎやったかな。オレんちのドア、コンコンってノックする音がして。誰やろ?と思ってドア開けたら、デイヴィッドがそこに立っとんねん。ギターケース肩に下げて。

── へえー!

山岸:「セッション演る前に打ち合わせがてらちょっと練習しようよ」って言うわけ。話をしようよって。考えられへんかったね、その状況が。ちょうどその時、そこにオレの嫁さんも子供もおったんよ。子供なんてデイヴィッドといっしょにギター弾く真似して遊んどんねん(笑)。

── なんか……、凄い光景ですよね。

山岸:そういった一つ一つのことがね、「お前はこれからこうやっていけ」って言われてるような感じやったんやね。その時点より前のキャリアは無くてもいいって思ったもん。だから今は「ソロアルバム何枚作ったか」って聞かれたら「3枚です」って答えてる。『My Pleasure』以降の3枚なんよ。もちろんそれ以前のアルバムも自分の作品であるけど、ホントに自分の思うことが表現できて、今でも自分で聴けるものということで言うたらその3枚なんよね。



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