David T. Works Vol.57

まだまだまだ続くこのコーナー! Vol.57の10選をどうぞ。

The Jackson 5 / Greatest Hits (1971)

70年代を席巻したスーパーグループが絶頂期にリリースしたベスト盤。デビューシングル「I Want You Back」にはじまり、「ABC」「The Love You Save」「I'll Be There」の4曲連続チャート1位という輝かしい実績はもちろんのこと、言わずもがなの名曲をズラリと揃えた構成は、David Tをはじめとした西海岸のスタジオミュージシャンらが強力バックアップした誰もが納得のグレイテストヒッツ仕様。デビューからたった2年でベスト盤がリリースされるという異例の現象も含めて、別格な人気ぶりがうかがいしれる一枚だ。そんな中、彼らのオリジナルアルバムには未収録でシングル盤でのみリリースされた「Sugar Daddy」が本作に収録され、David Tも微細な音量ながら参加。アルバム全編通して感じる「スターとそれを支えるスタジオミュージシャン」的彼ら兄弟とDavid Tの存在は、表舞台と裏方とは交わることのない関係性だということに思いを馳せてしまう一方、それぞれが互いを必要としていたという構図でもあったことを言い添えたくなる。ヒットチューン集という体裁以上の感慨が深く印象に残るのだ。

Kenny Rogers / Christmas (1981)

米国を代表する国民的ポップ&カントリーシンガーのクリスマス仕様アルバム。しっとりとした低音ヴォイスが紡ぐ安定感抜群の楽曲が並ぶ本作は、一家に一枚的定番感覚が宿る穏やかさたっぷりの肌触り。レオン・ンドゥグ・チャンスラー、ネイザン・イースト、クラレンス・マクドナルド、ポール・ジャクソン・Jrら西海岸勢の強力なバックアップがナチュラルで質の高いポップソングづくりに貢献している。さらにアレンジワークをジーン・ペイジが担当、とくれば、David Tの参加がセットのようなもの。だがここではその特徴的な音色はほとんど聴こえず、プレイの輪郭をつかむのも困難な微量の参加が残念なところ。ストリングス隊をはじめとした大勢の伴奏陣の中で存在感を消しながら貢献する姿を想像すると、これもまたDavid Tらしい立ち位置振る舞いだと実感。

Della Reese And Brilliance / Della Reese And Brilliance (1985)

シンガーとしてジャズ、ソウル、ゴスペルの領域をまたがりながら1950年代から活躍するデラ・リースと、4人のシンガーがユニットとしてリリースしたゴスペルアルバム。ライヴ感覚溢れる仕上がりは、“Brilliance”としてメンバーに加わったO.C.スミス、メリー・クレイトンら強力な歌声を伴って聴き手を圧倒。David Tはほぼ全曲に参戦する活躍ぶりで、特徴的な音色をそこかしこで存分に披露。熱くメロウに個性的な歌声が充満する中、決して前に出過ぎない控え目なタッチながらも確実に存在感を残す素晴らしいプレイで、バンドアンサンブルを担うバッキングギタリストとしての妙味をくっきりと残している。

Barry White / The Man Is Back! (1989)

全編を彩るアッパーなプログラミング仕様は、80年代後半というこの時期らしいトレンドが満載な一方、90年代に続く新しいR&Bサウンドの地平が見え隠れもする端境期の趣き。だが、アルバム後半に登場する、バリー節炸裂のバラード「It's Getting Harder All The Time」や「Don't Let Go」では、低音ヴォイスとストリングスの音色が交差する王道的メロウネスが全開する。時代がどんなにかわろうとやっぱりバリーはバリーなんだと痛感する展開にどこか安堵の気持ちも。「Follow That And See (Where It Leads Y'all)」で聴けるDavid Tのバッキングは、フレーズこそ違えど、70年代一世を風靡した名曲「愛のテーマ」でのバッキングプレイを思い起こさせる単音フレーズによる組み立てが主。多彩なフレーズは影を潜め「バリーとの仕事はこんなふうさ」と言わんばかりの、ただただフレーズをリピートする姿もまた、実にDavid Tらしい風情に満ちている。

Brenton Wood / That's The Deal (1994)

ポップフィーリングを携えた軽妙なソウルネスが持ち味のブレントン・ウッド。控え目だった活動期間を経てベテランシンガーが90年代に放った本作には、打ち込み的エッセンスが覗くプロダクションに時代の空気が充満。かと思えばメロウテイストの「This Love Is Real」などで聴ける力みのないやわらかな歌声が癒しにも似た持ち味を残す不思議な趣きの一枚だ。そんな中「The Very Thought Of You」で聴けるDavid Tのやわらかな音色は、主役ウッドの優しい肌触りの歌声にそっと寄り添いながらとろけるような香りを醸し出す。左右両チャンネルから異なるDavid Tのギターフレーズが聴こえるというアレンジとサウンドプロダクションにも拍手。

Smappies / Smappies Rhythmsticks (1996)

1995年の『Smap 007 Gold Singer』を皮切りに、米国スタジオミュージシャンを起用した制作が続くスマップのアルバム。その発展形としてついにスマップの楽曲をうた抜きのインスト盤としてリリースした一枚がコレ。マイケル・ブレッカー、ハイラム・ブロック、デヴィッド・スピノザ、チャック・レイニー、オマー・ハキムらトップミュージシャンによる鮮やかで旨味十分の料理は、ジャズ&フュージョン的香りが全編に漂う極上の舌触り。くもりなき清々しさをも醸すサウンドプロダクションに、モンスターグループが奏でる高い楽曲クオリティにあらためて気づかされもする。「Pain(切なさが痛い)」で聴ける、冒頭から飛び出す誰もが納得のDavid T節に、心トキメく高揚と安堵が交差しながら全身を包む。実に素敵。

林田健司 / Marron (1996)

90年代のJポップシーンで表裏両舞台でマルチなクリエーターぶりを発揮した林田健司のビクター移籍後初の一枚。ダイナミクス溢れる振り幅あるダンサブルチューンから印象に残るメロディアスな楽曲まで多彩なバラエティで質の高いサウンドがズラリの快作だ。David Tはスローバラード「Pastel Curtain」に参戦。ツボを押さえた王道的メロディに、終盤、生ピアノが効果的に挿入されるジャズ的ヒネリあるコード展開に、妙味をはずさないDavid Tのソロプレイが抜群のタイム感でフィーチャー。十八番的フレーズの積み重ねにもかかわらず他のプレーヤーでは絶対に真似の出来ないギタープレイの連続に、誰もが聴き惚れてしまうはず。

David Ruffin / The Great David Ruffin: The Motown Solo Albums, Vol.2 (2006)

ご存知テンプテーションズの元シンガーが、モータウン在籍時の75年から77年に残したソロアルバム『Who I Am』『Everything's Coming Up Love』『In My Stride』の3枚をまるごと収録したベスト盤。同じ企画の「Vol. 1」に続くコンピレーション盤だが、「Vol. 2」の本作にはさらにアルバム未収録曲や未発表曲が追加収録。その未発表曲の一つ、スティーヴィー・ワンダー作の「Make My Water Boil (Loving You Has Been So Wonderful)」にDavid Tが参加。元々70年代初頭に録音されオクラ入りになっていたトラックを、数年後あらためてリリースし直すことになった際、オーバーダブの形でDavid Tが起用されたが、結局リリースされず終いになったという曰く付きのこの楽曲。特徴的なフレーズは聴けない残念な参加だが、それでもオーバーダブとして起用されるDavid Tの存在そのものの影響力を痛感する仕事のひとつだ。

Leon Ware / Moon Ride (2008)

自主制作による限定的リリースの前作『A Kiss In The Sand』から4年、スタックスレコード移籍後初のアルバムがコレ。ラテン風味あふれる「Soon」や「A Whisper Away」をはじめ、生楽器とプログラミングをバランス良く駆使する極上のプロダクションは、期待に違わぬメロウネス溢れるリオン節と見事に調和。David Tは「Just Take Your Time」に参加。哀愁漂うリオン特有のメロディと特異なコード進行、ウィスパーヴォイスの繊細をはじめとした幾重にも階層化する主役リオンのメロウな歌声に、力みなく寄り添うDavid Tのギターフレーズは、身も心も委ねたくなる甘みたっぷりの美しさと包容力に満ちている。

Ed Motta / AOR (2013)

70年代的香り漂うグルーヴ感覚溢れるポップフィーリングは、アルバムタイトルに偽りなしの極上メロウネス。ブラジルのサウンドクリエーター、エヂ・モッタの2013年作は、インコグニートのブルーイをも一部楽曲で起用するなど、アートワークからサウンドプロダクションに至るまで、レコードコレクター的資質の遊び心も満載の抜け目ないプロデュースぶり。フェンダーローズをはじめとしたエレピサウンドを効果的に取り入れながら、躍動するベースサウンドの屋台骨に管楽器を織り交ぜることで生まれる居心地の良さは、サウンドプロダクション巧者ぶりが目に留まりがちだが、おおらかでスモーキーなエヂの歌声が大きく貢献していることを付け加えておきたい。エヂ自身も大ファンだと公言するDavid Tは「Ondas Sonoras」一曲にフィーチャー(英語盤タイトルは「Dondi」)。イントロから飛び出す120%David T節満載のフレーズに、アルバムタイトルに込められた音空間の風景が見え隠れしている。なお、本作はポルトガル語盤と英語盤の2つの言語盤がリリース。そんなところにもエヂの多彩ぶりと音楽愛が表現されている。

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