David T. Works Vol.29

David Tが参加した数々のアルバムの中からピックアップして紹介するこのコーナー。まだまだ続きます。ではVol.29の10選をどうぞ。

Cher / Foxy Lady (1972)

60年代から現在まで幅広いキャリアを誇るシェール嬢の72年作。マッスル・ショールズ録音による69年の名盤『3614 Jackson Highway』のアーシーなテイストを残しつつも、ストリングスやホーンセクションの起用、適度なポップ感とソウルフレイヴァーによる居心地の良さを実感できるバラエティに富んだ構成は聴き応えたっぷり。この時期の女性シンガーのアルバムと比較しても全く引けをとらない個性溢れる隠れた名盤だ。レオン・ラッセルの名曲「Song For You」のカヴァーでは、重厚さとしなやかさが同居する彼女の個性が存分に発揮。盟友ソニー・ボノの手によるB1「The First Time」でも音数の多いアレンジの中で存在感を残す彼女の歌声がしっかりと楽曲の軸となって佇んでいる。そんな中、共同プロデューサーとして名を連ねるジーン・ペイジが関わった楽曲ではDavid Tも僅かに参加。A4「Down Down Down」や軽いファンキーテイストのB5「Never Been To Spain」などで音の隙間から時折り聞こえるDavid Tのカッティング音にホッと一安心して納得ナットク。

The Four Tops / Main Street People (1973)

フォー・トップス、73年の傑作盤。スティーヴ・バリとランバート&ポッターのプロデュース・ワークによる手堅い音作りと、それに応えるバックミュージシャン陣のタイトな伴奏、美しいストリングスの音色が一体となって凄みとキレを放つ怒濤の一枚だ。ポール・ハンフリー(Dr)、ウィルトン・フェルダー(B)、マイケル・オマーティアン(Key)、キング・エリソン(Cong)らの腰の座ったプレイの前で、相変わらずのシャウトとハーモニーを聴かせる彼らのパフォーマンスは、この時期では間違いなくベスト。小気味良いテンポでリズムトラックがグルーヴするA5「Am I My Brother's Keeper」、サントラ『Shaft In Africa』にも収録されているマイナー&メロウグルーヴチューンA6「Are You Man Enough」、スピード感と安定感がどっぷり同居するB3「Peace Of Mind」、珠玉のメロウバラードB2「Too Little, Too Late」、ストリングスとラリー・カールトンのフレーズが美しく響くB5「Main Street People」など、バラエティに富んだ楽曲群は聴きどころが多く飽きさせない。ベストトラックは力強い高揚感とリズムアレンジが彼らの持ち味をグッと盛り上げるA2「I Just Can't Get You Out Of My Mind」だろうか。David TもB4「One Woman Man」でのメロウフレーズなど、地味ながらこの豪華な一枚にさりげなく貢献している。

Cheech & Chong / Cheech & Chong's Wedding Album (1974)

コメディユニット、チーチ&チョンのコメディアルバム。米国でのかれらの人気は未だに根強いものがあるそうで、その独特のお笑い感覚はハマるとツボの感が大だそう。全編彼らのコメディパフォーマンスが爆発する元祖スネークマンショー的な構成で、いわゆる「演奏」が聴けるのはほんの一部だけという奇妙キテレツ摩訶不思議なアルバム。ところが本作、ODEレコードからの発売でプロデューサーにはルー・アドラーがクレジットされているところがミソで、そこにDavid Tが絡むのは当然というか必然。というわけで「Black Lassie」1曲のみだが、きっちりと仕事を果たしている。

Hues Corporation / Rockin' Soul (1974)

まさにロッキン・ソウル。敢えて言うならそこにポップテイストが注入された感のあるヒューズ・コーポレーションの代表作がコレ。男女3人による素晴らしいヴォーカルワークがアルバム全体を支える核となっていることはメロウバラードナンバーA2「How I Wish We Could Do It Again」を聴けば一聴瞭然。しかし重くなり過ぎず軽すぎずという絶妙のポップさ加減もこのグループの魅力の一つだ。その魅力が最大限に発揮された全米ヒットチューンB2「Rock the Boat」、力強いリズムアレンジとコーラスが聴きごたえ十分のB5「Into My Music」やアラン・トゥーサン作のB3「I'll Take a Melody」など、バラエティに富んだラインナップも見事なところ。そんな中、David TはB1「Love's There」に参戦。この時期特有のバードランドの音色を十分に響かせながら、力強く粘り気のあるフレーズを残している。

Jay Dee / Come On In Love (1974)

バリー・ホワイトのプロデュースにジーン・ペイジのアレンジという黄金パターンの一枚。ストリングの音色が響き渡る中、お馴染みのバックアップ陣が顔を揃えたと思われるメロウネスたっぷりの展開が全編を彩っており思わず拍手の仕上がりだ。ディスコ・グルーヴ半歩手前の絶妙過ぎるタイム感も実に病みつきな躍動感を醸し出す。思わずため息がこぼれそうな甘くせつないスローバラードA3「You've Changed」や、バリー・ホワイト節が炸裂するB5「You're All I Need」あたりは聴きどころ十分。アルバム全体としてはワー・ワー・ワトソンのギターフレーズが多く聴こえてくるが、それでもミドルテンポのA4「I Can Feel Your Love Slipping Away」などでは、粒立ちの良いクリアで引き締ったドラムとベースのリズム隊の横で控え目にカッティングを続けるDavid Tの姿が。アルバムタイトル曲「Come On In Love」でも控え目過ぎるほどバッキングに徹するその姿にこれまた思わず拍手、なのである。

Frankie Crocker Heart and Soul Orchestra (1976)

アルバム冒頭を飾る「Love In C Minor」が鳴り出すとフロアの高揚感が一気に加速。そんなディスコ時代直前の風景が容易に想像できるダンスミュージックが満載の一枚。一呼吸も乱れること無く安定したリズムを叩き出すジェイムズ・ギャドソンのハイハットグルーヴに、ウィルトン・フェルダーのパーカッシブで躍動感十分なベース、一体感十分なホーンセクション&ストリングスと、時折り飛び込んでくるDavid Tの粘り気あるカッティングフレーズ。すべての要素がダンスタイムを演出するために用意されたといっても過言ではないノリノリ度120%のアレンジは、70年代後半という時代を感じさせても、鮮度が無いかと言えばそうでもない。決して家でじっくり聴くタイプの音楽ではないが、一音一音に卓越した技術とセンスが宿っていることは言わずもがな。ま、じっくり聴き過ぎると疲れますけどね。

Quincy Jones / I Heard That! (1976)

1枚目は全曲オリジナル、2枚目はベスト盤という一風変わった76年の2枚組アルバムがこれ。まさにこの時期に至るまでのクインシーの集大成。アルバム内ジャケに飾られた数々の記念の盾が彼のキャリアの充実度を物語るのはもちろんだが、その音楽性は言うに及ばずのクオリティ。さらにこれらの楽曲群を支えたサポート陣の数も半端ではなく、当時考えうるスタジオミュージシャンのほぼ全員が関わりを持っていたとのではと思わせるその人脈、人間力も尋常この上ない。あらためて彼の素晴らしさを実感できる全16曲がここに収められている。David Tは1枚目の5曲に参加。冒頭を飾るタイトル曲から、きらびやかで洗練されたグルーヴの洪水の中で派手さはないものの明解でクリアなバッキング音がクインシーの音空間を彩るのに絶品の貢献を果たしている。

Nancy Wilson / I've Never Been To Me (1977)

ジーン・ペイジ&ビリー・ペイジのプロデュースによるナンシー・ウィルソンの77年作。70年代の彼女の作品はメロウでポップなテイスト満載でうっとり度120%。どれも甲乙つけ難い仕上がりなのだが、本作もその例に洩れない一枚。77年という時代からか、幾分かのきらびやかさと画一的なリズムが目立ってきた感のあるアルバム全体のテイストはさておき、バックを彩る面々の相変わらずの的確な仕事ぶりにまたしても舌を巻くこと然り。ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、ウィルトン・フェルダー(B)、アーニー・ワッツ(Sax)、ソニー・バーク(Key)、ジェイ・グレイドン(G)、レイ・パーカー・Jr(G)といった強者達の芸術的サポートがきらりと光る仕上がりだ。David Tもそんな彼女のバックアップをさりげなく実行。アルバム冒頭を飾るA1「Flying High」からまさしくフライングなフレーズで応戦、B3「Nobody」でもパーカッシブかつメロウなオブリを連発し、存分な活躍を果たしている。

B.L.V.D. / Love on My Mind (1996)

詳しい経歴は不明だが、ゆったりと美しいハーモニーを聴かせながらも芯のあるブラックネスを醸し出すシンガーの一枚である。オーソドックスなスタイルのR&Bに90年代というフィルターを通して出来あがるソウルミュージックはまさに洗練の極み。プロデューサーにクレジットされているドン・ピークの力によるところが大きいと思われるこの作品には、David Tが全面的参加で大きく貢献している。キャロル・キングの「You've Got a Friend」では、お馴染みのフレーズが実に落ち着きのある音空間を演出、カーティス・メイフィールドの「Give Me Your Love」では、この曲のみ参加のワー・ワー・ワトソンとともに、バーバラ・メイソンとの息の合ったハーモニーをバックアップするDavid Tの姿がそこに映る。全曲聞き終えたときにアルバム全体からにじみ出るメロウネスは、まさにDavid Tのギターでしか表現できないだろうと誰しもが感じるであろう必須条件。そこにDavid Tの個性が凝縮されていることは疑う余地のないところだ。

Ron Levy's Wild Kingdom / GreaZe Is What's Good (1997)

ハモンドオルガン奏者ロン・レヴィ率いるワイルド・キングダム名義での97年作。90年代に発売されたとは思えない佇まいの、全編B-3オルガンの音色が躍動するジャズ・ソウル・ファンクなテイストと、随所に聴けるヒップホップ感覚の同居はまさに温故知新。オルガン好きにはたまらない魅力が満載で楽しめる一枚だ。メルヴィン・スパークス(G)、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、フレディ・ハバード(Trp)といった熟練たちも顔を覗かせるバック陣の手堅い演奏も、時代がトリップしたようなライブ感を感じさせるに十分。「What's Going On」のカヴァーではアイドリス・ムハマドの淡々と刻まれる乾いたドラミングにロンのオルガンが絶妙に交差しながらグルーヴしたかと思いきや、「Long Time Ago」では強烈に存在感を残すベースのリズムと、一変して繰り広げられるロンのフェンダー・ローズの浮遊感の対比が新鮮な色彩を放つ。そんな中、David Tも数曲でバックアップ。全体的には地味なプレイだが、オルガンの音色にDavid Tのフレーズが違和感なくハマる様が堪能できる。

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