David T. Works Vol.53

まだまだまだ続くこのコーナー! Vol.53の10選をどうぞ。

Tamla-Motown Festival Tokyo '68 (1968)

David T初来日のステージを収録した記念すべき一枚は、スティーヴィー・ワンダーとマーサ&ザ・ヴァンデラスのモータウン・アーティスト二組の来日公演収録盤。同行予定だったテンプテーションズが直前に来日キャンセルとなったものの、本盤収録地である東京・渋谷公会堂以外にも横須賀や沖縄など米軍キャンプ地でも公演を重ね、TV出演も果たしたという盛りだくさんの来日。東京ユニオン・オーケストラの面々をバックに、トップバッターのスティーヴィーのステージに続いて登場したマーサ&ザ・ヴァンデラスのリズムセクションとして、トレーシー・ライト(B)とメル・ブラウン(Dr)の二人、すなわちキンフォークスの面々と共に参戦したDavid Tは、ギタリストとしてはもちろんのこと、バンドマスターも兼任する重要なポジションとしてバックアップ。アルバムジャケット裏面には、客席を背にバックアップメンバーとコンタクトをとる様子がうかがえるDavid Tの姿が。主役のバックアップに徹し派手なプレイは一切無いものの、「Honey Chile」などでは一聴してそれとわかるバードランドの音色とフレーズが満載の素晴らしいバッキングを披露している。

Jackson5 / ABC (1970)

華やかなジャクソン5の歴史はDavid Tのバックアップとともにあった。そう言っても差し支えないほど、両者は表裏一体の役割と関係で70年代初頭を突き進んだ。表舞台で脚光を浴びた主役たちと、クレジット表記も許されない裏方の距離は、一見すると途方もない開きがあるようにも映る。しかし裏方たちによるスタジオワークの粋は、彼らの代表曲となった「ABC」や「The Love You Save」をはじめ、40年以上を経た今でも決して色褪せないクリエイティビティで主役を輝かせる。全編から香り立つポップソングの王道的オーラは、仕事人たちの確固たる自信とプライド、そして主役たちへの温かな眼差しが違和感無く調和した姿だと感じたい。デルフォニックスの「La La Means I Love You」のカヴァーで聴けるDavid Tの柔らかなタッチとフレーズを聴くたび、主役を見守る懐深い佇まいを感じずにはいられないのだ。

The Friends Of Distinction / Friends & People (1971)

同時期のフィフス・ディメンション同様、多彩なコーラスワークとオーケストレーションによるソフトロック的佇まいが全開するヴォーカルグループの71年作。アレンジャーとして関与したジェリー・ピータース総指揮の元、本領発揮の感ある王道的展開「Jenny Wants To Know」や、重厚テイストの「It's Time To See Each Other」のほか、ボサノヴァ調の軽妙ポップス「I Can't Get You out of My Mind」や、バーブラ・ストライサンドやディオンヌ・ワーウィック版で知られる「People」、しっとりとソウルフルに迫るエドガー・ウィンター「Dying To Live」など、カヴァー曲での個性もしっかりと主張。David Tはほとんど輪郭をつかめない極々微量の参加で残念だが、バラエティに富んだ楽曲を緩急つけたサポートで彩ることを自覚したギターワークの重要性をあらためて痛感すること然りだ。

Gary Puckett / The Gary Puckett Album (1971)

自身のバンド、ユニオン・ギャップでの活動後、満を持してリリースしたゲイリー・パケットのソロ名義での初アルバムは、風格漂う歌唱力を活かし、60年代後半から70年代初頭に多く見られる、オーケストレーションを織り交ぜ当時の話題曲カヴァーを配置したMOR系シンガー風の佇まい。レオン・ラッセル「Delta Lady」やポール・ウィリアムス「Do You Really Have A Heart」、ディオンヌ・ワーウィックのバカラック曲「I Just Don't Know What To Do With Myself」に、バリー・マン&シンシア・ワイル作「Angelica」など、選曲の妙も聴きどころの一つ。唯一ジーン・ペイジがアレンジャーとして加わったサイモン&ガーファンクル「ご機嫌いかが(Keep The Customer Satisfied)」のカヴァーで、途中、瞬間的に飛び出すDavid Tのフレーズは、匿名性高いセッションで、その匿名性を十二分に発揮しながらも、これぞDavid Tのギターだと唸らせる非匿名的エッセンスを同時に醸し出すという妙技でドキリ。この個性こそが、この直後、あらゆる録音現場で重宝され飛躍的活躍を約束した源泉でもあるのだ。

Solomon Burke / The History Of Solomon Burke (1972)

キング・オブ・ソウル。2010年に惜しまれつつ他界したソウル&ゴスペル界の重鎮が60年代から70年代初頭の楽曲を、既録曲と新しいアレンジで再録し編集した、アルバムタイトル通り自身のキャリアとヒストリーを語るに相応しい一枚。70年代のMGM/Prideレーベルに残した、1971年のソロ『Electronic Magnetism』収録の「The Electronic Magnetism (That's Heavy Baby)」、1972年『We're Almost Home』収録の「I Can't Stop Loving You」、映画『Cool Breeze』サントラ盤に収録の「Love's Street And Fool's Road」をベスト盤的意図で収録し、それ以外の60年代楽曲はすべて再レコーディング。「If You Need Me」や「Tonight's The Night」などで聴けるブルースフィーリング溢れるDavid TのR&Bバッキングは、随所にワウペダルの音色も織り交ぜるこの時期特有の奏法を駆使しながら、楽曲の持つ大きなうねりを形作る素晴らしい貢献を果たしている。

Barry White / I've Got So Much To GIve (1973)

バリーサウンドのこれが夜明け。アレンジャーとして参加し、この後タッグを組み続けるジーン・ペイジとの共同作業によって紡がれるサウンドは、この時点でほぼ完成の域。本国での存在感と確固たる支持は日本人になかなか伝わりにくいところではあるが、バリー本人の低音ヴォイス、流麗なオーケストレーション、端正な表情のキレのあるリズム隊といった音楽的エッセンスは、直接的刺激となって聴き手に迫る。そんな艶やかなバリーサウンドの冒頭を飾るテンプテーションズの「Standing In The Shadows Of Love」のカヴァーを皮切りに、静かに淡々とフレーズを奏でるDavid Tの姿が。タイトル曲「I've Got So Much To Give」ではエンディング間際にここぞとばかりに飛び出すお馴染みのフレーズが時を待っていたかのように彩りを見せる。ラストを飾る「I'm Gonna Love You Just A Little More Baby」は、バリーサウンドの何たるかを具体的な音色で示した真骨頂的展開の名曲。ループ感覚溢れる優雅な弦楽器の間に芯のあるリズムが刻まれながら歌うバリーの低音ヴォイスを聴くと、このまま時が止まるのを忘れさせる永遠が静かに寄り添うのだ。

Thelma Houston / Thelma Houston [UK Edition] (1973)

モータウンの傍系レーベル、モーウェストに残したテルマ・ヒューストンの2ndアルバムの英国発売盤。72年にリリースされた米国発売盤は既にここで紹介しているが、1年遅れの73年にリリースされたこの英国盤とはなぜか収録曲が微妙に異なるという不思議な体裁となっている。追加収録となった楽曲の中には米国盤同様にDavid Tの音色がチラホラ。同じ73年にモータウンからリリースされたジュニア・ウォーカー&ザ・オールスターズの『Peace & Understanding Is Hard To Find』に収録されたバージョンと一部バックトラックが同じ「I Ain't Going Nowhere」や、テルマのソウルフィーリングが際立つメロウテイストの「Nothing Left To Give」、同時期にレーベルメイトだったシスターズ・ラヴ版とほぼ同じバックトラックで演じた「I Ain't That Easy To Lose」など、なぜ本国米国盤では収録されなかったのか首を傾げたくなる楽曲たちがズラリ。理由はさておき、数多の楽曲づくりと、その中から選りすぐられたトラックの流用という一見相容れないこれら取り組みに、クオリティの追求と効率化を目指したモータウンというレーベルのしたたかさが見え隠れする。と同時に、まだまだ倉庫に眠る陽の目をみない素晴らしき楽曲たちの存在をついつい妄想してしまうのだ。

Love Machine / Love Machine (1975)

日本でも人気を博した女性7人組ソウルユニットの75年作。70年代後半には派手なコスチュームなどビジュアル的要素や麗しき容姿も手伝ってディスコグループとしての側面が強調されて捉えられたが、本作ではダンサブルチューンだけでなくミディアムからスローまで、全編ソウルフィーリングとポップフィーリングの香るバラエティに富んだ楽曲構成の中、歌唱力やコーラスワークも含め彼女らのポテンシャルが発揮された感ある仕上がりで実に侮れない。アレンジワークにジーン・ペイジが関与したこの作品に、クレジットこそないもののDavid Tの貢献があることは言わずもがな。冒頭を飾るジョニー・リヴァースのカヴァー「Poor Side Of Town」や、ニール・セダカの「Laughter In The Rain」カヴァーで聴ける背後で主張しすぎないバッキングプレイに加え、ジーン・ペイジのペンによる「Shoot Your Best Shot」での鋭く切れ込むソロプレイに、思わずガッツポーズしてしまう瞬間の醍醐味を密かな楽しみとして味わうことができる。

Billy Preston / Late At Night (1979)

A&Mからモータウン移籍後初の一枚。とは言え、支えるミュージシャンは旧知のLAの腕利きたちで、ヴォーカルと鍵盤のいずれもビリー節を存分に披露する“らしさ”全開の作品に仕上がっている。David Tはアルバム冒頭を飾るアグレッシヴな一曲「Give It Up, Hot」から弾力感たっぷりのファンキーバッキング雨あられ連発の大貢献で、ミドルテンポの「You」でも存在感あるフレーズを随所に披露している。また、映画「Fast Break」のサウンドトラック盤でも共演したシリータが「It Will Come In Time」と「With You I'm Born Again」の2曲に参加しているのも見逃せないところで、そのうちの1曲「It Will Come In Time」では、ビリーらしい軽快なピアノの調べの中、そっと傍らに寄り添いながら強烈なフレーズを披露するDavid Tの姿が。ほぼ全編に渡ってフィーチャーされたDavid Tの弾むバッキングを耳にすると、長年に渡るビリーとの阿吽の呼吸とスペシャルな信頼関係を実感。

Kenji Sano / Culture Chameleon (2011)

80年代からカラパナのベーシストとして、最近ではEXILEのミュージカル・ディレクター兼バンドマスターとしても活動し、“キャプテン”の愛称で親しまれる佐野健二のこれが初となるソロアルバム。デヴィッド・ガーフィールド(Key)、アレックス・アクーニャ(Per)、シーラ・E(Per)、マイケル・パウロ(G)、ジェイムズ・スチューダー(Key)など、これまでのキャリアで築いた多彩な人脈がこぞって参加した、親しみやすい人柄がしのばれる一枚だ。TOTOのジョセフ・ウィリアムズをヴォーカルにフィーチャーし、アース・ウィンド&ファイア版を意識したビートルズナンバー「Got To Get You Into My Life」に、ビル・チャンプリン&ジェイ・グレイドンをフィーチャーしたコモドアーズ「Slippery When Wet」やアイズレー・ブラザース「For The Love Of You」のほか、ブランニュー・へヴィーズ「Never Stop」と「Have A Good Time」など、新旧問わずヒネリと王道を程よくブレンドしたカヴァー曲と自身によるオリジナル曲をバランス良く配置した選曲も二重丸。David Tは、EXILEのヴォーカルATSUSHIが参加した「What's Going On」のカヴァーと、スローでメロウな佇まいのオリジナル曲「LA Midnight」の2曲に参加。いずれもDavid Tらしさが十二分に発揮される選ばれるべくして選ばれた楽曲で、適材適所感覚を発揮したプロデューサー手腕が見事の一言。日本と海外を橋渡ししながら、現場感覚と音楽を形作る役割の両輪を動かす確かな信頼感に裏打ちされたミュージシャンシップを感じる作品だ。

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