David T. Works Vol.52

知れば知るほど、追えば追うほど、目立ったプレイから控え目な仕事まで、その量の膨大さに舌を巻きます。というわけで、まだまだまだ続くこのコーナー。Vol.52の10選をどうぞ。

Ike & Tina Turner / Nutbush City Limits (1973)

この時期立て続けに作品をリリースする夫婦デュオの73年作。パワフルでダイナミックなティナのヴォーカルにドライヴの効いたアイクのギターを両輪とする彼らのサウンドは、アグレッシヴなステージパフォーマンスも相まって、ロック、ソウル、R&Bのフィールドを行きつ戻りつの意匠をまとうものの、実はポップで親しみやすい質感を併せ持っていることもまた事実。その作風は本作でも貫かれており、彼ら二人による楽曲に加え、ドビー・グレイ「Drift Away」や、60年代に初出曲のセルフリメイクとなった「River Deep, Mountain High」、スタンダード「You Are My Sunshine」のハードエッジなカヴァーなど、あらゆるジャンルを超越するアレンジと色彩が彼ら流の解釈で軽快に佇む。そんなバラエティに富んだ楽曲群の中、「That's My Purpose」でほんの僅かに飛び出すDavid Tの音色が。レコーディングでもステージでもほとんど接点のない彼らだが、ここで聴こえるDavid Tの微量のバッキングフレーズを耳にすると、このメロウで弾力的なギターと彼らの躍動感とが織り成す化学反応を、もっと楽しんでみたかったと思わずにはいられない瞬間の高揚がある。

Sonny & Cher / Mama Was A Rock And Roll Singer Papa Used To Write All Her Songs (1973)

同じく60年代から活動を続ける夫婦デュオが、70年代中期に活動停止する直前のラストアルバム。アルバート・ハモンド「カリフォルニアの青い空」や、ジョニー・ナッシュ「I Can See Clearly Now」、ドゥービー・ブラザーズ「Listen To The Music」といった同時代のカヴァー曲をしっかりと織り込みながら作品としてまとめるチカラは百戦錬磨の料理人、主役の一人ソニー・ボノの手腕か。ラリー・カールトン(G)、ディーン・パークス(G)、ジョー・サンプル(Key)、マイケル・オマーティアン(Key)といったツワモノがバックアップする中、デヴィッド・ハンゲイト(B)、デヴィッド・ペイチ(Key)、ジェフ・ポーカロ(Dr)らTOTO一派が参加していることも特徴的で、ニール・ダイアモンドの「Brother Love's Traveling Salvation Show」など、特有グルーヴの片鱗が垣間みれる。David Tの活躍は少なく「The Greatest Show On Earth」で極微量にしか輪郭をつかめない貢献だが、若き日のTOTO勢に対峙した最初期のこのセッションで、彼らのプレイがどのように映ったか実に興味深いところだ。

Love Unlimited Orchestra / White Gold (1974)

バリー・ホワイト率いるオーケストラ集団のこれが2nd。バリー・ホワイト名義やラヴ・アンリミテッド名義など、名義こそ違えどこの時期リリースされるバリー関連の諸作には、ストリングスとビートが優雅かつセクシーに融合するバリーサウンドのメロウネスがあらゆる形で全開。中でも「オーケストラ」名義の本作には、1st同様、スケールの大きな空間的広がりと、コンパクトにグルーヴする緻密なサウンド美学が全編みなぎるように交差。そこに欠かせないのはミュージシャンを率いるジーン・ペイジのアレンジ&コンダクト、そしてDavid Tのギターワーク。そのジーン・ペイジも後に自身のソロアルバムでもカヴァーした名曲「Satin Soul」は、数あるバリーサウンドの中でも高揚感という点では指折りの佇まい。フルオーケストラの生演奏で聴いてみたいポピュラーソングランキング上位を長年キープする一曲だ。

Yvonne Fair / The Bitch Is Black (1975)

60年代にジェイムズ・ブラウンに見出されたディーヴァが残した唯一のアルバム。ノーマン・ホイットフィールド製作による本作は、ワウペダルやリズムボックスに深いリヴァーブの効いたノーマンサウンドと、押しの強いイヴォンヌ流ファンクネスが程よくブレンドされた躍動が全編を支配。マーヴィン・ゲイがゲストヴォーカル参加したファンキーナンバー「Funky Music Sho Nuff Turns Me On」や、前年74年にルーファスがヒットさせたスティーヴィー・ワンダー作の「Tell Me Something Good」、そのスティーヴィーのカヴァー「You Can't Judge A Book By Its Cover」など、硬軟とりまぜた楽曲群のほとんどをジェイムズ・ギャドソン(Dr)、エド・グリーン(Dr)、ジェイムズ・ジェマーソン(B)、ワー・ワー・ワトソン(G)、デニス・コフィー(G)、アール・ヴァン・ダイク(Key)といったノーマン人脈がバックアップする中、本作制作以前に異なる体制で制作された楽曲もバランス配置。そのうちの一曲、72年にシングルリリースされ、グロリア・ジョーンズ&パム・ソイヤー制作指揮による「It's Bad For Me To See You」にDavid Tがひっそりと参加。残念ながらクレジットからも漏れてしまったDavid Tの控え目かつ静かなプレイは、ストリングスが効果的に挿入されたこのトラックの肝となるバックアップではないものの、ファンキーでパワフルな彼女が見せたメロウネスの片鱗をごくごく一角だが担っているようで実に誇らしく思えるのだ。

Marvin Gaye / Here, My Dear (1978)

『離婚伝説』という邦題が、当時離婚問題を抱えていたマーヴィンの状況を示唆するが、二枚組かつ全曲自身のペンによる作品というボリュームから聴こえてくるのは悲しみと苦悩に揺れる偉大なるシンガーの凄みと多感な感性。アルバム毎にコンセプチャルで特徴的なテイストが際立つマーヴィンの70年代、その最後を締めくくる本作にはグルーヴ感溢れるファンクネスや長尺なナンバー群、重厚になり過ぎない隙き間が覗く軽妙感覚など、これまでに無かったサウンドと色合いのソウルフィーリングが詰まっており、2000年代の今にも通じる佇まいが刺激的でもある一枚だ。「Anger」や「Is That Enough」などのループ感覚溢れるファンクナンバーも、この路線が続いていたらマーヴィンはどんな世界を描くのかという期待を抱かせるに充分。ヴォーカル版とインスト版の両方が収められた「When Did You Stop Loving Me, When Did I Stop Loving You」は、前作『I Want You』で描いた世界にも通じる物悲しいテイストが充満する一曲で、クレジットこそないものの背後に僅かに聴こえるDavid Tのメロウなギタープレイは、マーヴィンが込めた感情の起伏を一層増幅させる。

Ren Woods / Out Of The Woods (1979)

60年代にはキッズソウルグループの一員として、その後、女優業にも進出し活躍したシンガーの1stソロ作。アース・ウインド&ファイアのモーリス・ホワイトが設立したCBS系列のARCレーベルからのリリースで、その関係からかアル・マッケイが全面プロデュース、当時同レーベルに在籍していた元フィフス・アヴェニュー・バンドのジョン・リンドの共同プロデュースによる本作は、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、ジェフ・ポーカロ(Dr)、ジェイムズ・ジェマーソン・Jr(B)、テニソン・スティーヴンス(Key)といった西海岸勢が集結した肝煎りの一枚。「I Love The Way You Do It」や「Sweeter As The Day Goes By」などのファンキーチューンから、同じく当時レーベルメイトだったラリー・ジョン・マクナリー作のミディアムナンバー「I'm In Love With You」まで、快活さとメロウなソウルネスを兼ね備える表現力は実に軽快で頼もしい。David Tはアルバムラストを飾る「Straight To Love」に参加。輪郭を掴むことすら困難な参加だが、ダンサブルテイストの楽曲に仄かに香るメロウなニュアンスを描く控え目サポートを果たしている。

Billy Preston / The Way I Am (1981)

A&Mからモータウンに移籍した70年代後半からのビリー。そのモータウンでの二作目となる本作は、ネイザン・イースト(B)、デヴィッド・ハンゲイト(B)、フレディ・ワシントン(B)、アーサー・ライト(G)、チャールズ・フィアリング(G)、グレッグ・ポリー(G)、ワー・ワー・ワトソン(G)、スティーヴ・ルカサー(G)、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、ジェフ・ポーカロ(Dr)、デヴィッド・ペイチ(Key)、ソニー・バーク(Key)といった新旧世代入り交じりの西海岸ミュージシャンが多数参加したビリー人脈適材適所による豪華サウンドが展開。スペイシーなシンセサウンドが印象的なインスト「Good Life Boogie」や、エディ・ケンドリックスのカヴァー「Keep On Truckin'」などのファンクネスをはじめ、シリータがヴォーカル参加したサム・クック「A Change Is Gonna Come」や、荘厳な佇まいでソウルフルに迫る「The Way I Am」など、豪華バックアップに一歩もひけをとることなくルーツに根ざしたR&Bやゴスペルを呑み込みビリーテイストに昇華したサウンドが実に素晴らしい仕上がり。ジーン・ペイジのアレンジが光る「Lay Your Feelings On Me」、ミドルテンポのメロウナンバー「I Won't Mistreat Your Love」、リンダ・ルイスもカヴァーしたバーバラ・ルイス「Baby I'm Yours」のカヴァーで聴けるDavid Tのギターフレーズも、サウンドの色彩に密やかに溶け込む音色で貢献している。

Johnnie Taylor / Best Of The Old And The New (1984)

80年代初頭、70年代後半から在籍したコロンビアを離れ新規一転移籍したビヴァリー・グレンでの二作目。とは言え、アルバムタイトルが物語るように、前作『Just Ain't Good Enough』収録曲の再録と、その前作録音時に録り溜めたとおぼしき音源を新曲として織り交ぜた感の企画盤的色合いもある一枚。David Tは前作にも参加し素晴らしい音色を聴かせるが、新曲群の中でもパーカッシヴなリズム隊とメロウなストリングス隊が粋な「Seconds Of Your Love」や「Shoot For The Stars」、軽快なビートの「Hey For The Winner」など、一聴してそれとわかる音色を存分に披露。この時期同じくビヴァリー・グレンのレーベルメイトでもあったボビー・ウォマックの諸作にも通じる、ストリングスと生ピアノがフィーチャーされリヴァーブの効いたリズム隊が音空間を彩るサウンドプロダクションに、David Tの音色はやはり欠かせないエッセンスだ。

Charles Wright / Finally Got It... Wright (1996)

アル・マッケイやジェイムズ・ギャドソンも在籍したザ・ワッツ・103rd・ストリート・リズム・バンドとしての活動で知られるチャールズ・ライト。70年代にはソロアルバムも発表している彼が、新録作に加え過去の作品と未発表音源を再編集し2006年にリリースした作品がコレ。ソロ作品制作のために70年代に録音されたと思われる、旧知の間柄であるDavidとのセッションも再編されて収録。「Follow Your Spirit」や「Let Me Make Love 2 U」で聴ける、朴訥とした歌声に寄り添うDavid Tのメロウなギターフレーズは、異なる道を歩んだ二人が時空を超えて接し合った瞬間の優しい記憶の回想のよう。単なる未発表作品集の体裁としてのリリースではなく、永きに渡るキャリアを俯瞰し自身の今と融合させる試みの意図が、当時のセッションから30年以上経った今だからこそ聴き手に響くのに違いない。

Keb Mo / The Reflection (2011)

ブルースやジャズをベースにアコースティックでコンテンポラリーなサウンドを多彩に奏でるケブ・モの、自身のレーベルからのリリースとしてはこれが二作目。これまで多くのアーティストとセッションを果たしてきた彼が、今度は彼らを自身のアルバムに惜し気もなくフィーチャーした意欲作だ。マーカス・ミラーがベース参加した気怠さ漂うリオン・ウェアとの共作「My Shadow」や、インディア・アリーがヴォーカル参加した「Crush On You」、デイヴ・コズのむせび泣くサックスがアコースティックな音世界にジャジーなムーディさを醸すイーグルス「呪われた夜」のカヴァーなど、随所にスムースジャズやAOR的佇まいも香る、ルーツミュージックとして括るにはあまりにもったいない広がりのある音楽空間を、切れ味鋭く小気味良いケブ・モのギターワークと朴訥としたヴォーカルが大仰になり過ぎない身丈と深みで調和するところが最大の聴きどころ。David Tは、ケブ・モのスライドギターに乾いたきらびやかさで対照的に奏でる「The Whole Enchilada」や、ゆるやかなレゲエトーンが心地良い「All The Way」、コンテンポラリーブルース調の「The Reflection (I See Myself In You)」の3曲に参加。同じギタリストながら奏でる音色と個性が異なるのはもちろんだが、音楽を全体としてとらえクリエイトする姿勢は相通じる共通項。世代を超えて互いにリスペクトし共鳴し合う、音楽の良心を運ぶ遺伝子はここにもしっかりと息づいている。

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