【前編】
── バンド・オブ・プレジャー結成の経緯からお話いただけますか。
清水興さん(以下、KO):あれはね、山ちゃん(=山岸潤史さん)の『My Pleasure』というアルバムがあってね。ちょうどそのアルバムをリリースした頃、彼のプロデュースでDavid T、ジェイムズ・ギャドソン、マイケル・ワイコフを呼んで、「Tokyo Soul Volcano」っていうイベントライブを汐留のPITで演って。彼が当時やってたチキン・シャックから、ボビー・ワトソンと続木徹もこのライブに参加してたから、事実上これがバンプレの最初の形だったんやないかな。その時期、俺も初めてDavidやギャドソンとかと会うことができてね。
── それが最初の出会いで。
KO:実は、さらに時を遡るとね。その汐留のPITでのライブより前に、メルダックから『Mama, I Want To Sing』っていうゴスペルミュージカルのサントラ盤制作の話があって。ちょうどそのミュージカルの日本公演があったときね。で、山ちゃんがこのアルバム制作に関わることになって。
── あのアルバムにはDavid Tも参加してますよね。
KO:そうそう。山ちゃんはDavidとは以前雑誌の対談で一度ご一緒したことがあったらしいけど、そのサントラ盤録音の時はじめて、Davidやギャドソンとの共演が実現できたらしいんやね。で、山ちゃんもさ「俺のリーダーアルバム、もうこのメンバーでやらんとあかんやろ!」みたいな勢いで、彼らを呼んで作ったと。それが『My Pleasure』なんやね。
── 山岸さんがキーパーソンだったのですね。
KO:そうやね。で、その『My Pleasure』発売記念ライブツアーが終わった後、せっかくこういうメンバーが出会ったんやから、これっきりっちゅーのももったいないし、ちゃんとバンドとして活動できへんかなぁ、みたいな話になって。で、ベースやってたボビー・ワトソンは参加が難しいという話になって。で、ベースは俺に声がかかって。そうやって始まったのがBand of Pleasureなんです。
── 最初はライブ活動からだったんですか?
KO:全国7、8公演くらい。クラブサーキットをやったね。で、これはおもろいから、レコードつくろうや、っていう話になって。当時、俺はヒューマン・ソウルっていうバンド演ってて「グラマー」っていうレーベルがあったんで、そこから出そうか、となったわけ。
── それが『Live At Kirin Plaza』ですね。
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Band of Pleasure
『Live At Kirin Plaza』
(1992)
写真は2002年にS2Sより再発された
新装ジャケット(SSDF-9009)
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KO:そう。あのアルバムは2チャンネルで録っててね。曲は結構たくさん録音してて、その中からいいやつをピックアップしてまとめたっていう。俺の中でも凄く好きなアルバムでね。マルチをたてずにダイレクトのツー・トラックミックスやねんな。だから細かいバランスの問題とかあるけど、エンジニアも一発勝負の世界やったし、独特の緊張感とライブならではのナマナマしさがうまーく録音されてるんやね。いまだにね、あのライブアルバムは凄い好きなんよ。で、そんなこんなで録音したテープを、山ちゃんにロスに持ってってもらって。マスタリングをバーニー・グランドマンにお願いして。そういうことで出来上がったアルバムなんです。
── で、その後、2枚スタジオ盤を。
KO:そやね。フォーライフと契約が決まって。で、その後、JVCから『JVC SOUL ALL STARS』っていうオムニバスを出すことになって。ちょうどその頃、山ちゃんはニューオーリンズに活動を移そうとしててね。Band Of Pleasureって外タレ3人のバンドになった、みたいなね(笑)。だから、この『JVC SOUL ALL STARS』がBand of Pleasureとしては最後の活動になってしまったというわけですね。
── 録音はL.A.で。
KO:あの頃、日本のスタジオ代ってめっちゃ高かったのよ。逆にL.A.ってのはホンマ安くてね。ま、他にもいろんな要因があるけど、俺たちがL.A.でやってた一番の理由はそこやね。また、いいエンジニアとか日本まで航空運賃払って招聘したりせんでも、現地やったら電話一本かけたらすぐ来れるみたいな利点もあったからね。気候もええし。当時は車の免許もってのる俺だけやったから、運転手役やったりしてたね。いろいろ大変やったけど、おもろかったよ。
── David Tのギターを最初に目の当たりにしたときはどんな感じだったんでしょう?
KO:最初にBand of Plesureとしてライブを演ったときね、ま、俺もさ、最初はうれしいという気持ちばっかりでね。なんせ巨匠やからね。で、リハのときにDavid が目の前で弾いてるわけよ。それがさ、もう、ホンマにね、凄いのよ。おなじみのフレーズが次々と飛び出してくるわけ。
── おなじみのアレですか。
KO:そうアレやがな。ある意味、ワンパターンのフレーズかもしれんけど、でもね、どうしようもないくらい、こう、グッとくるわけよ。で、ライブ本番のときにね、Davidがメインになって一人でギターを弾くっていう場面があったんやけど、それをね、横で見ててね。もう、なぜかわからんけど、涙でてきてもうてね。俺も長年いろいろ演奏してきたけど、ライブ途中で、しかもステージ上で、涙でてきたなんてのは経験はないよね。足震えとったよ、正直言うて。うわぁ〜って。嫌になるくらい気持ちえんねん。
── それは気持ちよさそうですね〜。
KO:いやホンマ。で、彼もホントにリラックスした感じで弾いてるんだろうけど、でも、プレイの一つ一つが、そばで見てるとものすごく力強くてね。もう、これでもかこれでもかっていうぐらいに次から次へと出てくるわけや。だから、その後のステージ、俺、ちゃんと弾けるかな、っていうくらい興奮しとったし、感動してたね。その後、何度かいっしょにプレイして、俺もようやく冷静に弾けるようになったけど、最初のステージは、冷静さなんて吹っ飛んでたからね。えげつなかったよ、ホンマ。
── ライブならではの緊張感ですね。
KO:ライブはホンマ面白かったね。マーヴィン・ゲイメドレーとか演ってたなあ。「インナー・シティ・ブルース」とか「マーシー・マーシー・ミー」とか「What's Going On」とかね。だって、本物なんだもん、彼ら。これはDavidやギャドソンのおかげやと思うんだけど、彼らといっしょに演ってるとね、自然と無駄な動きがなくなっていくような感じというのがあってね。
── 無駄な動き、ですか。
KO:例えばマーヴィン・ゲイの曲なんかでも、俺もバンプレ(=Band of Pleasure)演る以前にも何度もカヴァーしてたわけよ。せやけど、彼らといっしょにプレイすると、それまで自分が演奏していたプレイの中で、何が無駄なプレイなのかがわかったっていうかね。「あ、これはいらん音、これはいる音」みたいなことが、弾いててその瞬間瞬間でわかるというかね。ギャドソンがドラム叩いて、Davidが弾いて、その同じ空間にいると自然とね、そういう無駄をいっさい取り除かれていってしまう、っていうかね。そやからね、「あー、今までいらんこと弾いてたんやなー」って痛感したね。
── それは弾いててわかるんですか?
KO:そやねん。不思議なことに、無駄なプレイをしようとしたら「あー、その音はいらんねん」っていう信号が自分の中のどこからか送られてくるという感じやねん。「そりゃお前、ちゃうやろ」みたいなね。
── いっしょにプレイしてる人間だけの特権ですね。
KO:聴いてる人からみたら、全然気にならない些細なことではあるんやけどね。でも、演ってる本人にとってみれば「そうかー、そういうことやったんか」みたいなね。
── 素晴らしいことですね。
KO:だって彼らが作ってきた音楽やからね、R&Bって。それこそ、もう数えきれないくらいのセッションやって培ったもんがあるやろうし。そりゃあもう凄い人たちですよホンマ。面白ったのは、六本木にあるテンプスっていうバーでいっしょに飲んでたときに、たまたま店でかかっていたあるBGMがあって「あ、これ、ギャドソン、叩いてるヤツでしょ」って言うたら、ギャドソン本人は「ん? いや、知らんな」っていう答えで。そんなはずないなと思って、マスターにその曲の入ったアルバムジャケット持ってきてもらってクレジットみたら「プロデュース、ジェイムズ・ギャドソン」って書いてあるわけ。「やっぱ、そうやん、これあんたがプロデュースしてるんやん、先生」って話で。いちいち憶えてられんほど、いかに膨大な数のセッションやったかってのがわかるエピソードやったな。
── 「らしい」話ですね。
KO:もちろん自分でプロデュースするアルバムの場合はちょっと違うかも知れんけど、大半は、他にプロデューサーがいるわけで、その場合、そのプロデューサーが抱えてるいろんなアーティストのアルバムをまとめて録音するわけよ。スタジオ代もばかにならんし、同じミュージシャンを使って、違うアーティストの楽曲を一度に録ったほうが効率的やし。そういう現場に呼ばれて行って限られた時間内でやることやらなあかんのやから、大変なわけよ。そらもう膨大な数の曲を次から次へとこなしていくっていう。彼らは仕事早いのはそういう歴史の積み重ねがあったからやろな。
── やっぱ違いますか、仕事の感じ。
KO:早かったよー。バンプレのレコーディングでも、ほとんど一発でオッケーという感じやったね。大体テイクワンでみんな探りを入れてて、テイクツーではほとんどオッケーだったなあ。ちょっと気になるところがあって録り直しになってもテイクスリーで絶対決まる。アレンジのディレクション変えたりとか、よほどのことが無い限り、テイクフォー以降ってのは無かったね。だから俺も気合いはいったで、ホンマ。テイクツー目は、これで決めなアカンっていう気持ちになるわけやからね。
── プレッシャーかかりますね。
KO:ギャドソンなんか、ひどかったよ。例えば、2テイク目録り終わったとき、誰かがちょっと「もう一回録ろう」なんて言い出したとき、「どこが気に入らないんだ? 俺はもうこれ以上には叩けないっ!」とか言ってさ、3テイク目を演ろうとしないで、スタジオから出て行ってロビーで休憩してるわけ。自分がOKテイクだと思うプレイができたら「俺はもうこれ以上やらない」っていう(笑)。
── めちゃめちゃ緊張感ある現場ですねー(笑)。
KO:バンプレの場合、せーので5人で演って録音っていうのがほとんどやったからね。で、それをそのまま録音して80%は出来上がってたね。ま、キーボードとかギターのオーバーダブは若干あるのはあるけど、でも基本は5人いっしょに一発できめる、ってなパターンやな。
── 例えばDavid Tのギターもだいたい一発でOKみたいな感じだったんですか?
KO:Davidはね、その5人いっしょに演るベーシック録音のときに、アドリブ的なフレーズも合わせて弾いてたね。Davidは、オーバーダブがあまり好きじゃないねん。だからベーシックトラックの時点でほぼ全部弾いておく、という感じで。とにかくOKテイクは早かったよ。それまで培ってきたいろんなものを感じたね。で、エンジニアでアル・シュミットっていう人がいたんやけど、その人がまた面白くてね。
── 『A Tiny Step』で参加されてますね。
KO:そう。彼は、一曲一曲、録音始める前に、調整室側からトークバックを使って「一曲目、なんとかなんとか(=曲名が入る)テイクワン」って必ず曲名を自分で喋ってテープに残すのよ。で、ちょっと演奏失敗とかするやん。そしたらすかさずテープをとめて、「では、なんとかかんとかテイクツー」ってまた入れて始めるわけ。絶対にテープにクレジットを自分で入れるのよ。
── それはどういう意味で?
KO:さっきの話やないけど、昔は一度にたくさん録音してたわけよ、いろんなアーティストのをね。だから、録音したはいいけど、後でどれがどれかわからなくなるっていう状況があったんやろうね。だから、必ずテープのはじめに何のどのテイクなのかを自分の声で記録しておくっていう方法だったんじゃないかな。今はスタジオにあるパソコンにリアルタイムで書き込んでいくから、そんなことやらないけどね。いや、バンプレやってるときは、既にそういうスタジオがほとんどだったから、自分の声でテープにクレジットを残すってやり方は懐かしかったなあ。例えば、まだ曲名とか決まってない状態の曲を録音するときなんかでもね「じゃ次、アンタイトルド」とか言って(笑)。
── 徹底してますね(笑)。
KO:それがまた、その「テイクワン」っていう声にかぶるかかぶらないか、というタイミングでギャドソンがカウント始めるわけ。「おいおい、かぶってるやん」っていうね(笑)。それでもお構いなしにやっとったな。それほどみんな気ぃ短いねん(笑)。もう間髪いれずに入ってくるから、テープ廻ったらこっちも必死やし、エンジン全開なわけ。でも、これが一日幾つもの仕事をやってきた人たちのやり方なんやなーって。あらためて勉強になったね。そういうスピード感ないと、十数曲もでけへんやろなって。鍛えられたよね、ホンマに。
── とにかく「早い」と。
KO:恐ろしくね。ただ「早い」だけじゃなくて、内容はもう凄いからね。アイデアも豊富やし。
── アイデア豊富。
KO:そう。例えばDavidってホンマ凄いと思ったのは、例えばバンプレの中にはボーカル有りの曲も幾つかあって、そういう曲を録音するときに、歌メロが決まってなくて演奏だけ先に録音するっていう場合があるわけ。で、歌メロが決まってないにも関わらず、結構、強気なオブリガードとかフレーズをビシバシ入れてくるのよ。「ええっ? 何をしはるんですかぁ先生〜!」てな感じよ。ところが、歌が入って完成トラックを後で聴くと、これが不思議。ちゃーんとエエ感じになっとるんよね。見事なまでに。あたかも歌メロを予想してたかのように、ボーカルラインとギターがばっちりハマってるわけ。
── 長年の経験ゆえ、でしょうかね。
KO:そうやねー。俺もさ、結構心配だったりするわけよ。無難なフレーズじゃなくて、かなり個性的なフレーズとかやったりするから「大丈夫かなぁ、これ」って。でも、最後はちゃんとハマってるっていう。きっとDavidの体の中には、俺にはわからん何かがあるんやろね、きっと(笑)。
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