Something for T. #04



David Tとかかわりのある様々な方にお話を聞く「Something for T.」のコーナー。第4回目にご登場いただくのは、Dreams Comes Trueのリーダー&ベーシスト、中村正人さんです。ベーシスト、アレンジャーそしてプロデューサーとして、David Tと何度も共演を果たした中村さんに、2003年ドリカムワンダーランド直前のメールインタビューが実現しました。ドリカムのこと、そして吉田美和さんのソロアルバム制作のことなど、David Tとの関わりについてお話を伺うことができました。ご意見・ご感想、並びに中村さんへのお便りなどございましたら、 管理人ウエヤマ までぜひぜひお送りください!





── David T Walkerをドリカムのレコ−ディングに参加した最初のきっかけ、 及び経緯についてお聞かせください。

中村正人さん(以下、中村):中学生の頃からDavid T. Walkerの大ファンで、とにかく音楽ではソウルミュ−ジックが非常に好きで、MOTOWNはもちろん、フィラデルフィア、それからもちろんシグマサウンド系もなんですけど、そういうものを聴いて中学校時代はソウルミュージック大ファンをやってました。そんな中で、とにかくDavid Tの素晴らしさというものを、しみる程感じていまして、その当時僕もギターをやってましたので、中学生の僕としてはいつかはDavid Tとレコーディングをしたいと、あるいはツアーをしたいという夢をもっていました。そんなわけでDavid Tにドリカムのレコーディングに参加してもらったのがきっかけです。そして、そのドリカムのレコーディングに参加した最初の曲が「7月7日、晴れ」という楽曲です。そもそも『beauty and harmony』でDavid T. Walkerと正式に知り合い、是非ドリカムにもということで、『beauty and harmony』のレコ−ディング終了直後にDavid Tに一日残ってもらって「7月7日、晴れ」に参加してもらったんです。それがドリカム関係では最初のキッカケですね。

── リスナーとして、David Tのギタープレイについてどんな印象をお持ちですか。他のギタリストと比べて感じる特徴などありますか?

中村:彼にしか出せない音、フレーズ、それからタイミング、というものが、とにかく僕の感性のツボにハマるというか。これは、ジャズミュージック、ソウルミュージックを通しても考えられるんですけど、まあ、おおよそギター以外だと、やっぱりマイルス・デイヴィスとかコルトレーンとか、そういう人達しか持っていない、本当に神様からGIFTを貰っているんだろうなと思えるような、その人しか出せない音やフレーズをDavid Tは持っていると思っています。とにかく中学時代から、David Tが参加してしているアルバム全て集めていたという状態ですので、アルバム1枚にDavid Tが1曲しか弾いていなくても買っていました。これはもう他のギタリストと比べてとかいう問題ではなくてですね、他のミュージシャン達と比べても、David Tの存在、もちろんフロントマンとしてもそうですけど、歌ものをやらせた時の優れた能力といいますか、音楽の素晴らしさという意味では、とにかく比べられるギタリストはいないんじゃないかなと思います。

── 「ベ−シスト中村正人」として、David Tのプレイは?

中村:初めて実際にレコーディングで一緒にプレイしたというのは、DREAMS COME TRUEの『SING OR DIE』というアルバムで、ロンドンのミュージシャン達とロンドンのスタジオでレコーディングした時です。とにかくDavid Tが入るだけで、バンド自体の音楽性が高くなるというか、まさに魔法のギターというか、どっちかというと僕のジェネレーションは、正確にタイトに弾くというパフォーマンスに集中して練習してきたところがあるんですけど、David Tのギタープレイというのは本当に歌っている、常に歌っている。しかも、たとえばですね、僕らの「ドリカムワンダーランド1999〜冬の夢」でDavid Tと一緒にツアーを廻った時、シーケンサー(=コンピューターのパーカッション)をまわしてたんですけど、そういうシーケンサーと一緒にやってもDavidが入ると全てバンドサウンドがひとつにまとまってしまうという、そういうギタープレイヤーです。まさに、本当に最高のワインといいましょうか、最高の調味料といいましょうか、とにかくプレイヤー同志のサウンドをひとつにまとめてしまうというのが、彼のギターサウンドですね。本当に控えめなんですけど、全てを音楽的にしてしまうというプレイヤーです。

── 同様の質問です。「プロデューサー中村正人」として、David Tのプレイは?

中村:とにかく彼は、いつもレコーディングで僕が考える、或いは彼に期待する事すべてを提供してくれてますね。David Tに何かを弾かせようではなくてですね、David Tが僕の書いた曲でどう表現してくれるかっていうのが楽しみなので、David Tに「ああしてくれ、こうしてくれ」というのは、あまりないです。ただ、彼自身も主体的な考え方よりも、僕らDavid Tファンからのアイディアを非常にオープンマインドで聞いてくれるので「David Tのあのアルバムの、あんな感じの弾き方で弾いてくれ」というようなリクエストはあります。

── レコーディング、ツアーなどでのDavid Tのエピソードがあったら教えてください。

中村:David Tと一緒に廻る人は、一癖も二癖もある人達ばかりなんですけど、特に『beauty and harmony』の最初のツアーは、ラルフ・マクドナルド、ハーヴィー・メイソン、チャック・レイニー、エリック・マリエンサル、グレッグ・アダムス、ジェイ・ウィンディングという、つわものばかりだったんですけど、そんな中でもDavidTは常にカームダウンといいますか、冷静でピースフルな感じで、バンドを幸せな落ちついた雰囲気にするという感じでした。とはいうものの、彼は非常にお茶目でジョークばかり言ってますね。とにかくDavidは一旦はしゃぎ出すと実は止まらないというところがあります。そんなとこが、吉田美和と息がピッタリあうんじゃないかなと思っています。

── 「DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2003」総合プロデューサーの立場から、今回のツアーへのDavid Tの参加の経緯と意図、また期待することをお聞かせください。

中村:今回の「DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2003」というのは、91年・95年・99年とは、かなり趣の違ったものにしたいと思っていました。これはどういう意味かというと、今までは究極のミュ−ジックエンタ−テインメントを目指していましたので、馬が出たり大きなセットがあったり自動車がドームの中を走り廻ったり、セットとか仕掛け、ダンスパフォ−マンスを含めて非常に凝っていたんですけど、今回のWONDERLANDは、とにかく自然の中で一日中、音楽を楽しみたいという意図があります。これは吉田美和のアイディアで、とにかく一日中、原っぱで、みかん箱ひとつを置いて歌が歌えたらいい、というようなツアーコンセプトが最初にありました。しかも『beauty and harmony 2』をリリースした年というのもあり、吉田にとっては非常に意味のある年なので、「DREAMS COME TRUE WONDERLAND」史上初、『beauty and harmony』のコ−ナ−も作ろうじゃないか、ならばDavid Tがいなければ成立しないということで、David Tに参加してもらいましたし、意図、経緯、あるいは期待するところも、今まで話したとおりです。DavidがDavidのままでいてくれればいいと。ただそんな感じですね。

── 多くの発言や行動から、吉田美和さんはギタリストとしても人間的にもDavid Tにかなり惚れ込んでると想像するのですが、『beauty and harmony』制作時には既にメンバーとしてDavid Tは「必須」だったのでしょうか?

中村:『beauty and harmony』を作ったのはもう7年半前で、吉田は非常に才能のあるアーティストなんですけども、実はミュージシャンとして特定の音楽のジャンルを聴き込んだり、あるいはマニアックに追ったりと言う事は経験としてはありません。『beauty and harmony』をつくる時に、とにかく僕がプロデューサーとして吉田美和に提供したかったのは、やはりその一流のミュージシャン、一流のミュージシャンというのは、売れっ子ミュージシャンというのではなくて、音楽的に自分の音を持っている人達と是非やってもらいたかったんですね。僕も中学生の頃から憧れていたDavid Tにレコーディングしてもらうチャンスでしたし、とにかく吉田にDavid Tやハーヴィー・メイソンをはじめとした偉大なミュージシャンたちとプレイする事によって、ひとつ音楽的にインスパイアされて欲しかった。あるいは吉田美和が頭の中で作っていたソロアルバムの音楽の世界を表現したかったということもあり、やはり歌もので最高なのはDavid T.Walkerしかいない。僕の最初の『beauty and harmony』の構想で、最初にリストに上げたのは、やはりDavid Tだったんですね。もう、当時は吉田美和とDavid Tが一緒にやるというだけで、僕としては非常に幸せな気持ちでいっぱいになったという記憶があります。

── マリーナ・ショウが74年に発表した『Who is this bitch, anyway?』というアルバムがあります。『beauty and harmony』参加メンバーを見て「これは90年代の『Who is〜』を創ろうとしているのだな」と直感しましたが、このアルバムの存在というのは『beauty and harmony』制作に何か影響を与えているのでしょうか。

Marlena Shaw
『Who is this bitch, anyway?』
(1974)

吉田美和
『beauty and harmony』
(1994)
中村:まさに指摘してくださった通りです。当時のインタビューでも答えているんですけど、『beauty and harmony』の構想を吉田から聞いた時に、僕はまさにですね、『Who is this bitch, anyway?』をつくりたかったという想いがありました。当然のことながら、『Who is 〜』の主要メンバー、とくに最初の3曲をやっているメンバーがどうしても必要だったので、このメンバーになりました。とくにリズムセクションとしては、ハ−ヴィ−・メイソン、チャック・レイニー、そしてギタ−としてはDavid T。これ以外には考えられなかった。まさに90年代の『Who is this bitch, anyway?』を作ろうと思いました。そしてアレンジャーとしても、できるだけあの感覚が90年代としても蘇るような、あるいは『Who is 〜』でひとつ身を結んだソウルミュージック、ヒップホップ、ジャズの融合体、あるいは、そのスタジオワークにおける限定された中での即興性、アドリブ性、グルーヴ、そういうものを目指したかったので、やはり『Who is this bitch, anyway?』というのは、まさに『beauty and harmony』の意中の作品であったことは確かです。

── David Tをはじめとした、いわゆる「ビッグネームな巨匠たち」とのレコーディングは、どんな感じで進むのでしょうか? 

中村:基本的に僕が書いたアレンジ譜を渡し、そして『beauty and harmony 』の時も『beauty and harmony 2』の時もそうなんですけど、僕はガイドとしてあくまでも参加してくれているミュージシャンがきっかけとしてつかんでくれるような、アイディアのガイドとして、僕が打ち込んだデモテープを聴かせています。そのデモテープを聴きながら、譜面を見てもらってアクセントとかコード進行とかは指定してありますけど、あとはとにかく、自分のパーソナリティーを思いっきり出してくれというディレクションをします。そしてレコーディングが進む度にミュージシャンからもいろいろ表現方法が出てきますので、僕が一番彼らが活きている、あるいは彼らが一番でているという表現方法を、僕の方から指摘して、その指摘されたフレーズ、あるいはアイディアを使って、最終的な作品に残すように心掛けています。巨匠たちは実はですね「自由にやってくれ」と言われていることが、あまりないんですね。彼らは、自由にやっているようなんですけど、アメリカのミュージックシーンというのは、アレンジャー、それからプロデューサーのオーバープロデュースが非常に多いので、彼らが自由にやれる空間というのは非常に少ないそうです。僕のとっている方法は70年代初期の、ミュージシャンがパッと集まって、そしてお互いが良いフレーズを出し合ってレコーディングをしていくという、そういうレコーディングをしていますので、レコーディングが終わると、巨匠たちには口を揃えて「とにかく素晴らしい、楽しいレコーディングだった」というふうに言ってもらってます。とにかくそれぞれを最大限に活かさなければ吉田美和に対してもいい音楽が作れませんし、彼らを起用している意味がないと思っていますので、そのへんは注意深く、しかしディレクションはしっかりとして、彼らがめいっぱい自分たちを発揮できるように注意してレコーディングしています。

── 『beauty and harmony 2』は、バックトラックを西海岸と東海岸のそれぞれのミュージシャンが担当してますが、この起用には何か意図があるのでしょうか?

中村:『beauty and harmony 』が主に西海岸のミュージシャンを集めてNYで録音したということもあったのですが、今回は曲によっていろいろ変化を付けたい、しかも西と東のトップミュージシャン、リズムセクションでいうと、オマー・ハキムとウィル・リー、チャック・レイニーとハ−ヴィー・メイソンというように、僕がとにかく音楽をよく聴いていた頃のこの二大ミュージシャンたち、このセッションチームが、さらに彩りを加え、そしてバラエティーを持たせることが出来ると思って、『beauty and harmony 2』では西と東に分けました。

── 昔からのDavid Tのファン層と、ドリカムファンからDavid Tを知った層とでは、いろんな意味でギャップがあると思います。「ドリカムファン」は、David Tについてはどんな印象をもっていると思いますか?

中村:ギャップがあるのは、どちらかというと昔からDavid Tを聴いているファンじゃないのかなと思います。DREAMS COME TRUEのファンはどちらかというと、ミュージシャンを聴くというよりも、吉田美和の歌と詩を非常に愛してくれているみなさんなので、さらにその吉田のパフォーマンスに花を添える、あるいはパフォーマンスをグッと盛り上げるといった意味でのDavid Tのパフォ−マンスについては、非常にみんなも感動しています。僕は今年で45歳になるんですけど、やっぱりDavid Tのような素晴らしいミュージシャンをいろいろな人に聴いてもらう、あるいは、いろんな世代に伝えていくのが僕の一番大切な仕事だと思っています。やっぱりDavid TをDavid Tのファンを含めて、より多くの人に聴いてもらいたいという願いがあります。そうですね、やはりこれからもそのギャップを乗り越えたところでの音楽性の素晴らしさがDavid Tの素晴らしさなので、そういう意味ではジャズ、ブルース、ソウル、ポップまで、David TはDavid Tのカラ−で全てのジャンルの音楽を盛り上げて、我々ファンも心をオープンにしてDavid Tを紹介していきたいと思っています。

── 「DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2003」、見どころ聴きどころをお聞かせください。

中村:とにかくこれはもう、演奏と歌が全てだと思ってます。派手な演出もありませんし仕掛けもないんですけども、とにかくDavid Tをはじめ、フィル・コリンズが抜けた後のジェネシスでドラムをたたいているニア・ジー。ブレッカー・ブラザーズバンドやノラ・ジョーンズなどで売れっ子のアダム・ロジャースというギタリスト、彼はソロアルバムも出してましてジャズのエリア、あるいはラテンのエリア、クラッシックのエリアについても大変優秀なギタリストです。彼らのプレイ、そして吉田美和や僕のDREAMS COME TRUEのプレイや歌、そして日本のミュージシャンたちの素晴らしい演奏がとにかく全てだと思っています。どうぞ自然の中で、音楽に身を委ねて一日楽しんで頂ければ、と思っています。

(2003年7月、メールインタビューにて)



中村正人(なかむら・まさと)
東京都出身。1988年ドリームズ・カム・トゥルーを結成。リーダー&ベースプレイヤーとして活躍。現在はプレイヤーとしてだけではなく様々なプロデュースにまで活動の幅を広げている。


吉田美和
『beauty and harmony 2』
(2003)
DREAMS COME TRUE オフィシャルサイト
http://www.dctgarden.com/


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