David T. Works Vol.42

まだまだまだ続くこのコーナー。Vol.42の10選をどうぞ。

Lou Rawls / A Man Of Value (1972)

David Tとは盟友の仲、ルー・ロウルズのMGM盤。バラエティに富んだ楽曲がずらりと並ぶ本作だが、それもこれもシンガーとしての確かな表現力があってこそ。むせび泣くサックスの音色とルーの低音ヴォイスが切なさに拍車をかけるレオン・ラッセルの名曲「Song For You」や、メリー・クレイトンやリタ・クーリッジ版でも知られるキャロル・キング&ジェリー・ゴフィン作「Walk On In」、スティーヴィー・ワンダーの「Evil」など、一見無作為に思えるカヴァー曲も、意外な程ルーの感性と歌声にフィット。プロデューサーとしてクレジットされているマイケル・ロイドの思惑がピタリとハマった感が大の一枚に仕上った。この時期ルーとは71年の『Natural Man』でも顔を合わせているDavid Tは、冒頭を飾る表題曲「A Man Of Value」でルーの語り口と絡みながら登場。続く「The Politician」や「Where The Wind Blows Free」でもそのさり気ないサポートは止むこと無く、重心の低いファンキーナンバー「Too Much Living To Do」でのワウペダルを駆使したフレーズや、B.J.トーマス「Goodbye's A Long, Long Time」のカヴァー、メロウテイストをひっさげたジェイムズ・テイラー「Fire And Rain」など、バッキング教科書ココにアリ的凄腕プレイが全編を通してひっそりと充満。このひっそり加減がたまらなくDavid T流で素敵印二重丸だ。

Barry White / Together Brothers (1974)

同名タイトル映画のサウンドトラックを、バリー・ホワイトがフルサポートで料理した一枚。となれば、ラヴ・アンリミテッドによる華麗なヴォーカルワークとラヴ・アンリミテッド・オーケストラによる美しいオーケストレーションを率いたお馴染みのバリーサウンドがお約束通りに満載で、当然のごとく関与するジーン・ペイジもアレンジ&楽曲制作でいつもと変わらずの貢献ぶりだ。となれば、David Tをはじめ、ワー・ワー・ワトソン、エド・グリーンといったチームワークたっぷりのバッキング名手の顔ぶれがレコードの溝から容易に見え隠れ。クレジット表記なしでも彼らの存在が際立つというバリー現象がここでもイキだ。連続したショートレンジの楽曲、譜面指示と思われる精緻なアンサンブルなど、あくまで映画本編を引き立たせる抑制されたプレイによるBGM的佇まいが支配する中、一歩退いた感触の音世界に、均整のとれた姿でクッキリと残されるDavid Tの輪郭がやはり美しく頼もしい。

The Osmonds / Love Me For A Reason (1974)

マイク・カーブ製作によるご存知オズモンズ兄弟の74年盤。楽曲制作とアレンジワークに大きく関与したH.B.バーナムの行き届いた指揮官ぶりが、彼らのポップフィーリングを高品質に仕上げた充実の一枚。多くを占めるカヴァー曲も、そんな彼らの王道的色彩と僅かな意外性を両立させる重要なファクターとして機能する。スタンダードナンンバー「Ballin' The Jack」や、アル・グリーンもカヴァーしたテンプテーションズのファンキーチューン「I Can't Get Next To You」など、アイドルだと思ってると痛い目にあうよ的一体感溢れるポップテイストが瑞々しく強力。唯一兄弟たちのペンによる「Sun, Sun, Sun」で、幾分ダウナーな雰囲気の意外な側面を残すところもさすがのプロダクションだ。そんな中、David Tも派手さはないものの随所でその個性を披露。ジョニー・ブリストル作で本人も同年直後にリリースするソロ作『Hang On In There Baby』で演じる表題曲「Love Me For A Reason」では、本家版とはまた一味違うテイストを残しながらもあくまでしなやかでメロウなフレーズを一貫して連発している。その鋭く乾いたそのバッキングフレーズはソロモン・バーク作の「Send A Little Love」でも静かに披露。彼ら兄弟の「らしさ」をうまく引き立てながらアルバム全体を軽快で華やかなものにする“確かな仕事”の好例だ。

Diana Ross / Ross (1978)

70年代後半にひっそりと残された一枚。曲によって、プロデューサーやアレンジャーが異なり、また録音年代も微妙に異なるなど、幾分寄せ集め的な印象が話題性に欠いた要因かも。リリース当時の録音で占められたA面4曲はベースラインがくっきりと際立つディスコティック風。が、対照的に74年と75年の音源が一曲づつ挿入されたB面では、派手さは無いもののしっとりと聴かせる彼女の歌世界が広がっている。ポール・ライザーのアレンジワークが光る「Reach Out, I'll Be There」での、力みのないダイアナのヴォーカルがストリングスを伴い次第に高揚する展開は実にビューティフル。David Tは「Where Did We Go Wrong」に客演。自身の名曲「Touch Me In The Morning」にも通じる静かで優しいメロディとアレンジで歌うダイアナをがっちりと支える落ち着いたトーンのギターフレーズが、楽曲全体に溶け合いながら印象的な余韻を残している。

Gladys Knight / Gladys Knight (1979)

ブッダからCBSに移籍後初のリリースとなった本作は、ともに歩んだピップスの名前を外して挑んだソロ名義での第二作。自らの名前をアルバムタイトルに冠した自信がさらりと全編にみなぎる一枚だ。これまで多くの場面で彼女の歌声を支えたDavid Tもクールで熱いグラディスのソウルネスに応える充実のサポート。後にスピナーズもカヴァーするシシー・ヒューストンの「I Just Want To Be With You」をはじめ、ジーン・ペイジによる美しく響くストリングスとタメの効いたビートが対比的に描かれるジョニー・ブリストル「If You Ever Need Somebody」のメロウなカヴァーなど、静かにバッキングに徹するDavid Tの姿が随所に映し出される。David T自身も5thアルバム『Press On』でカヴァーしたリーバー&ストーラー作の「I (Who Have Noting)」でも、重たい曲調の中、最後の最後にきらりと光る姿を見せるという奥ゆかしくも個性的なバッキングで貢献。ゆったりとメロウな「The Best Thing We Can Do Is Say Goodbye」で聴けるフレーズは、まさにDavid T節の真骨頂で、続くアース・ウィンド&ファイア風アップテンポのダンサブルチューン「It's the Same Old Song」でも切れ味鋭いカッティングで応戦。力強く艶のある歌声に出過ぎず引っ込み過ぎずのサポート。これぞ歌モノバッキングの的確すぎる仕事の代表格。

Smokey Robinson / Warm Thoughts (1980)

この時期、短いインターバルでコンスタントに作品をリリースし続けたスモーキー。全編、静かで落ち着きのある佇まいが実に彼らしい仕上がりの一枚だ。中でも妻クローデットとのデュオで奏でる「Wine, Woman And Song」は、ストリングスの響きと軽妙なエレピが穏やかなグルーヴを描く名曲。その穏やかさは、スティーヴィー・ワンダーとの共作「Melody Man」のアップビートな曲調でも印象が不変だ。フィル・アップチャーチ、ワー・ワー・ワトソン、マロ・ヘンダーソンと、珍しい組み合わせでギタリストが多数参加する本作で、David Tはひと際存在感あるプレイで楽曲に色気を付加。アルバム冒頭を飾る「Let Me Be The Clock」では、いかにもスモーキーらしい歌声とメロディの楽曲にごく自然に絡み付く柔らかなフレーズが素晴らしく、その姿は続く「Heavy On Pride (Light On Love) 」や、美しいバラード「Into Each Rain Some Life Must Fall」でも消えることはない。「What's In Your Life For Me」や「I Want To Be Your Love」で聴ける静寂に潜む鋭いトーンはDavid Tならではの演出で、無意識のうちに高揚する自分に気付かされる。その空気はラストを飾る「Travelin' Through」でも引き継がれ、優しくムーディな音世界に包まれながらアルバムは閉幕。静かなる情熱とソウルフィーリングが点描のように宿る隠れた名盤だ。

Donna Washington / Going For The Flow (1981)

前作『For The Sake Of Love』に引き続きチャック・ジャクソンのプロデュースによる81年作。ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、レオン・ンドゥグ・チャンクラー(Dr)、パトリース・ラッセン(Key)、フレディ・ワシントン(B)といった面々による的確なアンサンブルが、彼女の歌声を最大限にバックアップ。ルーサー・ヴァンドロス&デヴィッド・ラズリーのペンによる冒頭の一曲「'Scuse Me, While I Fall In Love」を皮切りに一気に飛び出し、アッパーでダンサブルだけでない曲調を織り交ぜながら、アルバム全編を一気に通過していく柔軟なプロダクションが心地良い。David Tはブレンダ・ラッセルが提供した2曲「It's Something」と「Going For The Flow」に参加。デヴィッド・フォスターとの共作でブレンダ自身も83年のソロアルバム『Two Eyes』で演じた「It's Something」では、本家版にも負けず劣らずのしなやかで伸びのあるドナの歌声にウォーターズのバックボーカルとDavid Tのキラ星プレイが重なりしっとりとしたソウルフィーリングが充満。アルバムタイトルにもなった「Going For The Flow」で、ダンサブルながらも切ないメロディに切れ味鋭くフレーズを重ねるDavid Tの姿はやはり存在感たっぷりだ。

Billy Preston / Pressin' On (1982)

A&Mを離れ移籍したモータウン時代最後となる一枚。アッパーでダンサブルなプロダクションはこの時代特有の色彩で、冒頭を飾るアルバムタイトル曲はその象徴ともいえるファンキーサウンド。しかし、そこは持ち前のメロディセンスと豊かな音楽力を発揮するビリー。ポップでわかりやすい硬軟一体の楽曲配置や、ブラザース・ジョンソン、ジェイムズ・ギャドソン、チャック・レイニーらが描く、直線的な刺激の中に宿る角の取れた丸みあるファンクネスなど、単なるディスコサウンドに終止しない程よいバランス加減がさすがの一言だ。自作曲以外にも、アーティ・バトラーのペンによるバラード「I'm Never Gonna Say Goodbye」や、共同プロデューサーとして名を連ねるラルフ・ベネター&ギャレン・シノグレス制作のダンサブルチューン「Don't Try To Fight It」もビリーの歌声にズバリとハマり、そのバラエティ感覚に舌を巻くこと然り。力強い生ピアノやうねるシンセなど時折り飛び出すビリー節にも思わずニヤリで、スラップベースによる弾力的サウンドの「I Love You So」などはその象徴的一曲。そんな中、David Tも旧知の間柄が醸す呼吸を随所で披露。ビリーらしい旋律で迫る「Turn It Out」で聴ける粘り気たっぷりのフレーズや、スローテンポの「Loving You Is Easy ('Cause You're Beautiful)」での渾身のメロウプレイなど聴きどころは多数。ゆったりとしたメロウな楽曲、力強いヴォーカル、女性陣による華麗なバックヴォーカル、それらと一体化するDavid Tのギターをステージでも堪能したいと思わずにはいられない佇まいがここにある。躍動感溢れるジャケ写はノーマン・シーフ。

Wilton Felder / Secrets (1985)

ジョー・サンプル(Key)、レオン・ンドゥグ・チャンクラー(Dr)、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、ネイザン・イースト(B)、エイブラハム・ラボリエル(B)、マイケル・ワイコフ(Key)など、クルセイダーズ人脈とLAミュージシャンによって制作されたフュージョンテイストが香る一枚だ。冒頭を飾るアルバムタイトル曲「Secrets」や、スラッピングによる強調されたベースラインが印象的な「La Luz」などは、その象徴的サウンド。だが、この時代特有の硬質で断片的な音像の中に柔らかい肌触りが見え隠れするところは実に面白いところで、所々で聴けるジョー・サンプルのピアノの音色もその印象に一役買っている。また、2曲でボビー・ウォマックのヴォーカルをフィーチャーしたのも聴きどころの一つ。そのうちの一曲「(No Matter How High I Get) I'll Still Be Lookin' Up To You」はいかにもウォマックな彩りのソウルバラードで、ウォーターズらによるバックヴォーカルの多重的な歌声も相まってゴスペル風味漂う仕上り。もう一曲、重いビートの「The Truth Song」でもウォマックのソロ作品といってもいいほど、バックアップ陣のサウンドが違和感なくそのシャウトに溶け込んでいる。そんな中、「I Found You」のラスト直前で突如として舞うDavid Tのソロプレイは、音色こそ幾分時代を反映した装飾的な味付けだが、鋭く円やかなキラ星フレーズは丸ごと健在。ゆったりと流れてきた楽曲のイメージを一変させる刺激が、この上なくたまらないのだ。

Dee Bradley / The Candy Man (2006)

リオン・ヘイウッド率いるレーベルEvejim Recordsからの一枚。ほとんどの楽曲をプロデュースしたのはリオン本人ということもあってか、74年にリリースされたリオンのソロアルバム『Come And Get Yourself Some』に収録した一曲「I Want to Do Something Freaky to You」のカヴァーで本作は開幕する。リオンが手掛けたもう一曲「Too Much Man to Cry」はがらりと変ってブルースフィーリング溢れる展開で、ピート・ピーターソンが手掛けた二曲「This Is The Night」と「Temperatures Rising」は、オーガニックな香り漂うR&B的一曲。多種多様な旋律とリズムを最新の味付けで料理した楽曲群はまさに今の気分だ。日本人ギタリスト、マサ小浜によるキレのあるギター参加も彩りを添えている。そんな中、David Tはスローテンポのメロウナンバー「How Did I Wake Up to a Stranger」と「You Promised Me Love」に参加。ポップな旋律とシャウトが印象的に重なるソウルフィーリング満載のナンバーに、カラザースのギターによる特徴的なDavid Tの音色が一重にも二重にも楽曲の存在感を際立たせている。と同時に、David Tのプレイがなお健在であることをも物語る好盤だ。

back next
Top
About
『For All Time』
『Wear My Love』
『Thoughts』
Solo album 60's & 70's
Solo album 80's & 90's
Unit album
Band of Pleasure
David T. Works
 01  02  03  04  05  06  07  08  09  10
 11  12  13  14  15  16  17  18  19  20
 21  22  23  24  25  26  27  28  29  30
 31  32  33  34  35  36  37  38  39  40
 41  42  43  44  45  46  47  48  49  50
 51  52  53  54  55  56  57  58  59  60
 61 NEW!
Discography NEW!
Talk To T.
Something for T.
 #01 タイロン橋本さん
 #02 清水興さん
 #03 宮田信さん
 #04 中村正人さん
 #05 石井マサユキさん
 #06 椿正雄さん
 #07 二村敦志さん
 #08 鳴海寛さん
 #09 山岸潤史さん
 #10 山下憂さん
 #11 切学さん
 #12 ニール・オダさん
 #13 風間健典さん
 #14 中村正人さん
 #15 伊藤八十八さん
 #16 続木徹さん
Link