David T. Works Vol.36

David Tが参加した数々のアルバムの中からピックアップして紹介するこのコーナー。まだまだ続きます。ではVol.36の10選をどうぞ。

Carole King / Rhymes & Reasons (1972)

前作『Music』まで彼女をサポートしたダニー・クーチ(G)、チャールズ・ラーキー(B)といった面々が再びサポートするも、ハーヴィ・メイソン(Dr)、ボビー・ブライアント(Trp)、アーニー・ワッツ(Sax)といったメンバーを加えサウンド面での充実を図る意図も読み取れる一枚。が、主役はあくまでも彼女の歌と旋律そしてピアノの調べ。アルバムラストを飾る「Been To Canaan」はその象徴とも言える名曲だ。大名盤『つづれおり』に比べシンプルで控え目な印象の強い全12曲だが、その素朴な佇まいが彼女流のポップフィーリングの現れであることに遅まきながら気付かされる。ルー・アドラーのプロデュース、当時OdeでレーベルメイトだったDavid Tの参加は自然な流れだったのかもしれない。邦題『喜びは悲しみの後に』がタイトルに付けられたA6「Bitter With The Sweet」で聴けるDavid Tのギターは比較的控え目。だが翌年73年の次作『Fantasy』ではエンジン全開のサポートを果たし、彼女のツアーに同行、彼女はDavid Tのソロアルバム『Press On』に参加する。お互いの親交を深めるきっかけとなった記念碑的作品だ。

Sally Kellerman / Roll with the feelin' (1972)

女優サリー・ケラーマンがシンガー・ソングライターの楽曲を歌った一枚。ジェリー・リオペル作のアルバムタイトル曲や「Take a Chance」をはじめ、スティーヴン・スティルス「Sugar Babe」、ペギー・リプトン作の「Sweet Journey's End」など、低く肝の据わった迫力で歌う彼女の姿は、シンプルでダウン・トゥ・アースなバッキングに不思議と調和する。プロデューサーにビリー・ペイジ、アレンジャーにジーン・ペイジが名を連ねる本作にDavid Tもひっそりと参加。キャロル・キングの1stアルバム『Writer』にも収録されていた「Child Of Mine」では、フレーズを重ねながら次第に音数を増やし本領発揮するDavid Tの姿が映る。ペギー・リプトン作のマイナートーンナンバー「Dynamite Lover」で聴ける骨太ベースに絡む生ピアノとDavid Tのワウギターが軽いファンクネスを演出する。派手さは皆無だが印象的でバラエティに富んだ楽曲が並ぶSSW的ニュアンス溢れる好盤だ。

Z.Z.Hill / Z.Z. (1974)

サザンソウルシンガーZ.Z.Hillのマッスルショールズ録音盤。ゴリゴリ一辺倒とは異なり、馴染みやすいメロディとともに、ソウル、ブルース、ゴスペルなど多彩な影響が見て取れるチカラのこもった彼のボーカルが実に素晴らしく、時代の洗練と素朴なアーシーテイストが同居するサウンドが柔らかく安定感をもたらす仕上がり具合。R&Bナンバー「Let Them Talk」でのエクセレントで美しいDavid Tの鮮やかなフレーズの数々がZ.Z.の歌声に華を添えているのは疑いようのないところだ。

Frankie Valli / Inside You (1975)

ボブ・クリューのプロデュースによるヴァリ節全開の75年作。なぜか72年のフォーシーズンズ名義のMowest盤『Chameleon』から「Love Isn't Here (Like It Used To Be)」と「The Night」の2曲再収録があるという不可思議さは置いておくとして、ヴァリの麗しき歌声がたっぷり楽しめるポップアルバムであることは言うに及ばずの快作だ。メロウで甘いメロディのアルバムタイトル曲をはじめ、ケニー・ノーランのペンによるポップソング「Hickory」など、肩に力を入れずに楽しめる一枚に仕上がっている。アルバム冒頭に飛び出すストリングス入りのビートチューン「Just Look What You've Done」で聴けるDavid Tの弾力感たっぷり切れ味鋭いカッティングが、全編に勢いとポップ魂を注入しているかのようで潔い居心地になるのだ。

Jackson5 / Joyful Jukebox Music (1976)

前作『Moving Violation』発表後、モータウンからエピックに移籍。その後、モータウンからリリースされた未発表曲集がこれ。未発表集だけあって、ポップでソウルな音づくりはこれまで通りだが、年代に差があるのか統一感の無さは目をつむるとしても、マイケルの声変わりが進んだ頃の過渡期的な仕上がりの楽曲に評価が左右するのは否めないところ。しかし、飛び抜けたキャッチーさに欠けるものの楽曲のクオリティは高く今聴いても新鮮さがちらほらと聴き取れるところが彼らの強み。David Tの粘っこいカッティングがフィーチャーされたミゼル兄弟作によるスピード感溢れるグルーヴィチューン「Love Is The Thing You Need」など聴きどころは多い。「Pride And Joy」で聴ける相変わらずのDavid Tのサポートぶりを目の当たりにすると、少し大人になったマイケルの姿と重なり、そしてそのマイケルの成長の過程とともに同じ時代を暖かく見守り続けたであろうDavid Tの眼差しとも重なり、思わず笑みがこぼれてしまうのだ。

Carrie Lucas / Street Corner Symphony (1978)

曲間に「Stand By Me」の一部をうまく挟み込んだアレンジも洒落っ気たっぷりのダンスナンバー「Street Corner Symphony」で幕を開けるキャリー・ルーカス嬢のディスコティックな一枚。続く「But My Heart Says No」では一変してスローバラードでムーディなテイスト全開で本領発揮の彼女だが、全編に渡って力みの感じられない自然体の佇まいと堅実なグルーヴとの調和が聴きどころの一つ。アレンジワークにワー・ワー・ワトソンとジーン・ペイジが名を連ねた本作にDavid Tもひっそりと参加。比較的小さい音量でしか聴き取れない地味なバランス加減だが、押さえるところは押さえ、しっかりとそして遠慮なく存在感を残す仕事ぶりはさすが。アッパーなトラックが並ぶ中、エレピとストリングスが程よく交差するメロウナンバー「Questions」は、女性ボーカルバッキングの何たるかが肌で感じ取れるハイライト的一曲だ。

The Supremes / At Their Best (1978)

70年代の珠玉の名曲を網羅したシュープリームスのベスト盤。このコーナーではDavid Tが参加したオリジナルアルバムを取り上げているため、ベスト盤は原則対象外としているのだが、本盤には一曲だけオリジナルアルバム未収録の名曲が収められている。73年にシングル盤リリースされたスティーヴィー・ワンダー作の名曲「Bad Weather」のカヴァーがそれ。これがもう思いっきりDavid T節がフィーチャーされたポップチューン。何度聴いてもどこからどう切っても顔を覗かせる金太郎飴的スウィートバッキングを味わうと、また違った甘い蜜を堪能したくなる。これぞDavid Tマジックの真骨頂。

Bobby Womack / Poet 2 (1984)

81年の前作『Poet』、次作『Someday We'll All Be Free』を含めたビヴァリー・グレン・レーベル3部作の一枚。ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、マイケル・ワイコフ(Key)らによるバックアップの仕事振りは『Poet』の続編的香り漂う堅実なプレイだが、さすがに3年の月日は大きく、画一的サウンドによる味付けが色濃く反映された感ある仕上がり具合が時代を感じさせ印象的だ。しかしそこは天下のボビー。しっとりとした楽曲では持ち前のソウルフルな熱唱が全開で他を寄せつけない圧倒的な存在感を残している。副題に“フィーチャーリング”とクレジットされたパティ・ラベルのデュエット参加や、かつてボビーが提供した「Breezin'」以来の交流と思われるジョージ・ベンソンが華麗で粋なソロプレイを披露する「Through The Eyes Of A Child」など聴きどころも多い。David Tは、ゆったりとしたリズムに乗ったR&Bナンバー「Surprise, Surprise」や「I Wish I Had Someone To Go Home To」など落ち着きのある自然体プレイで参戦。特にアルバムラストを飾るスローナンバー「American Dream」での、ボビーが奏でる力強いメッセージによるパフォーマンスを後押しするDavid Tの素晴らしいプレイは、楽曲の持つポテンシャルを一段底上げしているかのようだ。

The Fourth Of May / It's All About Jesus (1985)

故ブラザー・ジョー・メイを父に持つ4人の兄妹によるユニットの85年作。本作の仕切り役をつとめるメンバーの一人、チャールズ・メイのプロデュースによる実にライブ感覚溢れる仕上がりのゴスペルアルバムだ。そのチャールズと、同じくメンバーのアネット・メイの二人が73年にリリースした『Songs Our Father Used To Sing』収録のジョー・メイのヒットメドレーの第二弾「Bro. Joe May Medley #2」は聴きどころの一つ。キーボードで参加したビリー・プレストン同様、David Tもいつも通りの安定したバッキングでサポート。人の声による圧倒的なエネルギーが有無を言わさず心を揺さぶり、そこに加わるDavid Tの鈴の音フレーズが勝るとも劣らない目に見えないチカラで高揚感を誘う。多くのゴスペルアルバムに起用されるDavid Tという存在。信仰的意味合いによる繋がりはともかく、音楽的な必然の結果として彼が必要とされることの意味をあらためて考えさせられる一枚だ。

Stanley Turrentine / La Place (1989)

ボビー・ライルのプロデュースによる新生ブルーノートからの89年作。エイブラハム・ラボリエル(B)、フレディ・ハバード(trp)、ポール・ジャクソン・Jr(G)といった往年の凄腕達とともに時代に即した感のあるソリッドでコンテンポラリーなフュージョンに仕上げた一枚だ。全編気持ちの良い完璧なインストトラックが続く中、「Night Breeze」では唯一のヴォーカルナンバーとしてジーン・カーンがゲスト参加。しっとりとした歌声の中、絡み付くスタンリーのブロウがボビー・ライルのピアノとともに実に大人の雰囲気を醸し出す。さらにボビーのオルガンがダウン・トゥ・アースな「La Place Street」ではフィル・アップチャーチのブルージーなギターが炸裂する。そんな中David Tは「Touching」一曲のみに参加。スローテンポのR&Bに映えるスタンリーのテナーに、キレのある上質な辛口ワインを味わうかのごとく緩急のあるフレーズを奏でるDavid Tの円熟味はもはや最高の夜を演出するに欠かせない定番メニューと化している。

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