David T. Works Vol.08

David Tが参加した数々の名演の中からピックアップして紹介するこのコーナー。まだまだまだまだ続きます。Vol.08の10選をどうぞ。

The Mamas & The Papas / People Like Us (1971)

男女4人の混成ユニット、ママス&パパスの71年作。60年代の大ヒット曲「California Dreamin'」を引き合いに出すまでもなく、彼らの生み出す素晴らしい歌声とコーラスは本作でも健在。ポップなメロディの楽曲に、ジョン・フィリップスとデニー・ドハーティーの男性陣と、キャス・エリオットとミッシェル・フィリップスの女性陣が交互に掛け合いながら展開するボーカルスタイルは今聴くと懐かしさを感じると同時に新鮮でもある。透き通るコーラスが宙を舞うその裏では、がっちりとしたバッキングがあることもまた事実。エド・グリーンとアール・パーマーのステディなドラムに、ジョー・サンプルの美しく響くキーボード。それにDavid Tのスウィートフレーズが見事に調和しているから不思議。「Pacific Coast Highway」での、この時期多用していたワウペダルによるアプローチや、「Shooting Star」や「No Dough」などのメロウバッキングなど、70年代初頭の「抑制されたエキサイト感全開」のプレイが楽しめる。

Gloria Scott / What Am I Gonna Do (1974)

グリーンのセーターがチャーミングで印象的なグロリア・スコットの唯一のアルバム。バリー・ホワイトのプロデュースによるこのソウルフルなアルバムは、軽快なファンキーさの中にもジーン・ペイジのストリングスが静かに彩りを添え、実にしっとりとしたメロウグルーヴに仕上がっている。「It's Better To Have No Love」や「I Think Of You」などはその好例でグロリアの歌声も伸びやかで美しい。しかし、本作の本作たる所以はアルバム冒頭を飾る「What Am I Gonna Do」にとどめを刺す。この甘く切ない最高にファンキーでメロウなグルーヴィソウルミュージックにはDavid Tの軽快で小気味良いバッキングが地味ながらも的確なグルーヴ感を生んでいる(隣でカッティングを行っているのはワー・ワー・ワトソンだと思われる。これまた最高のメロウバッキング!)。それにしても実に実にロマンティック! スウィートソウルミュージックとはこの曲のことを言うのだろう。

Waters / Waters (1975)

70年代から80年代、LAの超売れっ子兄弟4人コーラスグループの1stアルバム。ワーナーから発売された2nd(これも本作と同じ『Waters』というタイトルでややこしいが)がAOR系ファンの間では有名だが、このBlue Noteからの1stも秀逸の出来。落ち着きのあるソウルフルでメロウな楽曲が並び、4人のボーカルワーク、そしてコーラスワークが存分に楽しめる。アルバム冒頭を飾るA1「Trying Hard To Look Inside」は、全編にフィーチャーされたストリングスと、チャック・レイニーの縦横無尽に跳ねるベースが好対照に絡みあい、そこにDavid Tならではのメロウバッキングが見事に調和するという名演。一風変わったリズムとメロディで始まるA4「Motherland」で聴けるコーラスワークの絶妙さも聴きどころだが、豪華なストリングスアレンジの隙間からこぼれる小気味よいDavid Tのピッキングフレーズも楽曲の色彩を決定付ける抜群のタイム感で見事である。曲間に挿入される水の音が効果的に場面転換の演出として機能するという、バランス感覚にあふれた構成も印象的。洗練さよりもアーティストの自身の躍動感を素直に感じてしまう名盤だ。

Four Tops / Night Lights Harmony (1975)

不動の4人が織り成すボーカルスタイルがモダンな風味にブレンドされた75年作。彼らの長きに渡るキャリアの中ではハイライトと言える時期ではないものの、一流ミュージシャンたちをばっちり揃えた当時のトレンドが垣間見える音作りで楽しめる一枚だ。エド・グリーン(Dr)、ウィルトン・フェルダー(B)、マイケル・オマーティアン(Key)、リー・リトナー(G)、ジェイ・グレイドン(G)らによる洗練さとは対照的に、変わらぬ4人の歌声があいかわらずオーソドックスで、全体の印象はやはり「熱」のこもったソウルネスを感じずにはいられない。A1「Seven Lonely Nights」A5「I've Got What You Need」やB1「I Can't Hold On Much Longer」などに代表されるDavid Tのギターもまさに王道ともいうべき旋律を弾き出して、彼らのパフォーマンスに彩りを添えている。特にB3「I'm Glad You Walked Into My Life」でのスローテンポでメロウなDavd Tと彼ら4人の共演は聴き応え十分だ。

Fania All Stars / Delicate And Jumpy (1976)

ラテン〜サルサグルーヴの雄、ファニア・オール・スターズが76年に残したファンキー&メロウな一枚。それもそのはず本作のプロデュースとアレンジはジーン・ペイジ。ここから聴こえる音は、まさにラヴ・アンリミテッドかバリー・ホワイトか、といった具合で、ストリングスの効いたメロウな楽曲がずらりと並ぶ凄まじいアレンジだ。そこにファニアらしいパーカッシブさとホーンセクションによる躍動感がうまく調和し、メロウ&ラテン・グルーヴという稀有な世界を描いている。「Sabrosa」などはその典型、いや結集といった感もある大ファンキー大会だ。どのような経緯があっての参加なのかは不明だが、スティーヴ・ウィンウッドがギターで参加しているのも興味深いところ。しかし、ジーン・ペイジといえばやはりDavid Tのギターは不可欠らしく、スティーヴのギターを凌ぐ存在感を随所に放っており「さすが」の一言だ。

Brenton Wood / Come Softly (1977)

長いキャリアを誇るR&Bシンガー、ブレントン・ウッドの77年作。ソウルフルな中にもポップでモダンな色彩が見え隠れするグルーヴィなアレンジが心地よい仕上がりだ。16ビートのハイハットが刻まれるイントロで始まるA2「Come Softly To Me」は、ストリングスとキュートな女性ボーカルが絶妙に調和したポップでダンサブルなヒットチューン。David Tの出番は非常に少ないものの、A4「Love Is Free」ではほとんどフレーズとは言えないほどの隙間だらけのカッティング音だが、それでも彼のプレイだとわかる絶妙のタイム感による「単音カッティング」を聴かせてくれる。地味ながらもボーカルの個性を際立たせるのに貢献する堅実なプレイだ。

吉田美奈子 / 愛は思うまま (1978)

前々作『Flapper』前作『Twilight Zone』とティン・パン・アレイ系ミュージシャンらとがっぷり四つに組み、その演奏力を十分に活かしたソウルミュージックを発表してきた彼女が、ジーン・ペイジのプロデュースのもとLAのミュージシャンを起用した78年の意欲作。それが功を奏したか、洗練されたポップ感覚の中に調和する彼女の表情豊かな歌が聴けるという点で極めて印象的な作品に仕上がっている。A1「愛は思うまま」から軽快なリズムとストリングスに彩られたLAサウンドが炸裂。スローテンポの名曲A3「時よ」の、これぞ美奈子節と言わんばかりの美しい歌声と楽曲も聴き応え十分だし、続くA4「海」での透き通る歌声もスウィートで表情たっぷりだ。そんな中、David Tも地味ながらも彼女の歌の魅力を引き出すに十分な手腕を発揮。B2「猫」ではミドルテンポの小気味よいファンキーさの中、ワー・ワー・ワトソンとともに粘っこいリズムを展開。伸びやかな歌声と対照的なギターの音色が見事に調和した名曲だ。ラストを飾る「影になりたい」でも、きらびやかなアルバムの幕を閉じるに相応しい、しっとりとしたDavid T節を惜しげもなく披露している。

The Chocolate Jam Co. / The Spread Of The Future (1979)

レオン・ンドゥグ・チャンクラー率いる痛快ファンキーユニットの鮮烈な1枚。アース・ウインド&ファイアにも似たサウンドアプローチはゲスト参加としてアル・マッケイ(G)やアースのホーンセクションメンバーが名を連ねているせいかも。A3「This Time」やB1「Looking Glass」などはその典型で、小気味良く攻撃的に刻まれるアル・マッケイのギター、ハンドクラップやファルセットコーラスワークなど、そのアレンジは絶妙で、とにかくファンキー! しかしこのファンクネスの中にDavid Tのメロウなバッキングが絶妙に絡んでいるのもまた事実。B2「Suite Chocolate」などのスローテンポのファンクでは、いつものキラ星プレイが全開。とにかくアル・マッケイとの好対照プレイがアルバム全編を支配しており強力だ。大人数の大ファンキー大会の中で地味ながらも確実に意匠を残す、そんなDavid Tを再認識できるアルバムだ。

Al Johnson / Back For More (1980)

ノーマン・コナーズのプロデュースによるアル・ジョンソンの80年作。アップテンポのグルーヴナンバーから非常に落ち着きのあるスローテンポのバラードまでソウルフルに歌いこなす感じがGood。沸点ぎりぎりの熱加減をうまくコントロールしながら歌う表現力と、多くの職人ミュージシャンたちによるバックトラックも、ブラコン一歩手前のAOR的世界とクールネスが交差する均整のとれた絶妙テイスト。David Tも的確なバッキングを全編通して披露。「You Are My Personal Angel」のようなスローテンポの楽曲の中に、アルの熱唱とタメを張るリラックスしたDavid Tのプレイがしっかりと確実に聴き取れる。

The Isley Brothers / Masterpiece (1985)

70年代のT-Neckレーベルでの『3+3』『The Heat Is On』はあまりにも有名な名作。が、80年代に入ってからのアイズレー・ブラザースにも名盤はある。本作は、ワーナー移籍後第一弾となる極めてメロウな一枚。ブラコン全盛時の85年という時代からか、スネアにきっちりとエフェクトのかかった独特の音像が目立ちながらも、ジーン・ペイジのストリングスアレンジによる落ち着きのある大人のムード漂う仕上がり具合が派手さを一気に抑制するポイントとして機能。しかしそのコーラスワークに代表されるゴージャスながらもシンプルな音作りは、決してトレンドを追いかけたものではなく、しっかりと根付いたフィーリングの底力を感じさせるに十分。David Tも出番は少ないがA2「My Best Was Good Enough」で、しっかりとそのしっとり感を演出するのに貢献している。このバンドを本作だけで語ることは不可能だし、さして意味もないが、90年代に入っても活動を続ける彼らの存在を知る上では避けて通れない作品であることは確かだ。

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