David T. Works Vol.37

David Tが参加した数々のアルバムの中からピックアップして紹介するこのコーナー。まだまだ続きます。ではVol.37の10選をどうぞ。

The Whispers / The Whispers (1971)

ロン・カーソンのプロデュース、アレンジャーとしてアート・フリーマンが名を連ねたウィスパーズのこれが1stアルバム(1973年に『Planets Of Life』と改題されリイシュー)。楽曲単位で微妙にサウンドの傾向が異なりアルバムとしての統一感は希薄な部分もあるが、全曲魅力あるスウィートな歌声が100%堪能できるという意味で名盤の誉れ高き一枚として燦然と輝きを放っている。中でもメロウネスが際立つ楽曲ではDavid Tのキラ星プレイが聴こえてくる。シングルカットされた「Seems Like I Gotta Do Wrong」や「I'm The One」では印象的なメロディとオーケストレーションが高揚感を誘いDavid Tのフレーズも自然と楽曲に溶け込む仕上がり具合。BS&Tのカヴァーでも知られる名曲「You Made Me So Very Happy」でも粘っこい特徴的なフレーズで一際存在感を発揮している。

Solomon Burke / Music To Make Love By (1975)

永きキャリアの中、程良くトレンドに沿いながらサウンドを微妙に変化させているソロモン・バーク。そんな彼がChessに残した75年作は、重心の据わった安定感あるリズムと艶やかなストリングスそして魅惑の低音ヴォイスがバリー・ホワイトの諸作にも似た色気とダンディズムで充満。詳細なクレジットの記載はないが、アレンジャーに名を連ねるジーン・ペイジの存在を考えるとサポート陣も同様の一派が勢揃いしたのでは?と推測も可能だ。アルバム冒頭を飾る表題曲からいきなりその世界が幕を開け、全編その香りを放ち続ける。David TはミディアムテンポのR&Bナンバー「Let Me Wrap My Arms Around You」や、ハーフタイムシャッフルに女性バックコーラスが絡む「Come Rain Or Come Shine」でくっきりとした輪郭のフレーズを連発。ソロモンが放つ低音トークヴォイスとハイトーンによるシャウトのコントラストがあまりにも鮮やかな「You and Your Baby Blues」は、音の隙間に繰り出されるDavid Tの濃密なフレーズとともに、その官能的世界が沸点に達する見事な一曲だ。

Barry White / Let The Music Play (1976)

本家低音ヴォイス、バリー・ホワイトの76年作。安定感あるエド・グリーンのドラムが繰り出すミディアムテンポのバリーサウンド特有の色彩に幾分メロディアスな風味が加味され華やかさが増した感もチラホラ。ラヴ・アンリミテッドのサポートもその華やかさに貢献度100%。しかし本作では、これまでバリーの片腕として連れ添ったアレンジャーのジーン・ペイジがクレジットから消え、代わりにドン・ピークが名を連ねた転換期とも言える一枚なのだ。それでもスローテンポの「I'm So Blue And You Are Too」ではそんなおぼろげな不安を吹き飛ばす色気十分な目くるめく世界に突入。全編に渡って絡むDavid Tのメロウで奥ゆかしいサポートも絶妙この上ない。アルバムラストを飾る表題曲では「Love Theme」から一貫して続くバリーの目指した世界が壮大に繰り広げられる。その風景は胸のすく思いだ。

Nancy Wilson / Life, Love & Harmony (1979)

適度なポップ感と適度なソウルテイスト、そして適度なジャズフレイヴァー。ナンシー・ウィルソンのパフォーマンスはこの“適度”な湯加減が“適温”過ぎるきらいがあるがゆえ、深い印象を刻むに至らないことが多いのかも。だが、時折り見せるちょっとした温度の高さに心地良い刺激を受けることがあるのも事実。ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、リー・リトナー(G)、エディ・ワトキンス(B)ら西海岸勢が強力バックアップした本作は、適温を微妙にはずす違和感が点在する意外な一枚だ。そんな適度感と意外性が見事な化学反応を起こす「Sunshine」では、楽曲の持つ不可思議なテイストに威風堂々立ち向かい軽くいなす彼女の表現者としてのポテンシャルの高さにあらためて舌を巻く。David Tの出番は非常に少ないが、それでもラストを飾るメロウテイストのアップテンポナンバー「Heaven」で、彼らしい粘り気のあるカッティングを披露している。

The Keane Brothers / Taking Off (1979)

トム・キーン&ジョン・キーンの兄弟ユニットが79年にリリースした2ndアルバム。クラブDJ御用達の必殺チューン「Candy」収録の本作は、ダンス・クラシックの定番中の定盤として名高い。「モータウンサウンドを演りたかった」という本人たちの証言にもあるように、プロデューサーのラモント・ドジャーをはじめ、ジェイムズ・ギャドソンら往年のサポート陣と、当時売り出し中のデイヴィッド・フォスターやデイヴィッド・ペイチらによる新基軸テイストが一同に会した柔軟ながらも強力な仕上がり具合が実に心地良い。リオン・ウェアの名曲「I Wanna Be Where You Are」も、若き二人の気迫みなぎる情熱たっぷりの好カヴァーだ。さてさて問題はここから。派手さはないものの随所に聴こえてくる弾力感溢れるギターカッティングはDavid Tによるものと思えるのだが、クレジットには「David T. Washington」という名が。記載ミスなのか意図的な誤表記かは不明だが、実はこんなギタリストはこの世に存在せず。調査の結果、やはりDavid Tの参加が判明。という曰く付きのアルバムなのでした。

Cheryl Lynn / In The Night (1981)

踊ることを目的に強弱あるリズムリピートによる快感度の充実と、そんなリズムに絡むメロディアスな歌のアンサンブルによる高揚感の持続。ダンサブルなサウンドが主流となった70年代後半から80年代初頭にかけてこの2種類の“躍動感”の流れがあるとしたら、シェリル・リンのアルバムは間違いなく後者。1stアルバム収録の大ヒット曲「Got To Be Real」のキャッチーさに耳を奪われると気がつかないが、アルバム一枚を通して聴くとその表現力の豊かさが確認できるはずだ。そんな彼女のレイ・パーカー・Jrプロデュースによる3rdアルバムが本作。前作、前々作同様に敏腕ミュージシャンをバックに起用した安定感ある伴奏に乗って自在に歌い上げる彼女。シングルカットされたミディアムテンポのダンサブルなリズムのアルバムタイトル曲をはじめ、レイ・パーカーのしっとりとしたギターワークが堪能できるスローテンポのR&Bナンバー「Hurry Home」など、楽曲の良さも手伝って力強さと繊細さを巧みに表現している。彼女の登場がもう少し早い時代だったらどんな風合いの作品を残していたか。そのマジックの想像も一興だ。David Tは落ち着きのあるミディアムテンポの「With Love On Our Side」一曲のみに参加。ジーン・ペイジのストリングスが効果的に挿入される一方で、決して前に出ない一歩引いたアプローチながらも楽曲に埋没しないという神業バッキングが絶妙。このアンサンブルをものにするレイ・パーカーの手腕も見事というしかない。

Klique / It's Winning Time (1981)

Con Funk Shunが全面的に製作に関与した3人組ユニットの81年作。その影響か、明快でキレのあるファンキービートが全編を支配。打ち込み風のコンテンポラリーサウンドの風貌だが、それらのほとんどはあくまで凄腕バックミュージシャン達の人力によるもの。個性的な音を奏でる裏方の彼らが本当の意味で次第に匿名的になっていくアレンジ感覚の変遷が読み取れる微妙な時代に残された一枚だ。躍動感溢れるダンスビート炸裂の「Love's Dance」、メンバーの紅一点デビー・ハンターがボーカルをとるスローテンポの「Better Times」、ワー・ワー・ワトソンのギターが効果的に演出される「You Brought My Love To Life」など印象に残る楽曲も少なくない。そんな中、バラードナンバー「Middle Of A Slow Dance」ではDavid Tのフレーズがここぞとばかりにメロウに迫る活躍を果たす。その後、メインボーカルのハワード・ハンツベリーはソロに転向。彼が88年にリリースした『With Love』でもDavid Tがサポートしている。

Kenny Rogers / We've Got Tonight (1983)

シーナ・イーストンとのデュエットで大ヒットを記録したアルバムタイトル曲を収録した83年作。バラード主体で安心して楽しめるAOR風味のポップスが満載で、それを形作るスタッフもやはり凄腕の面々が名を連ねるという王道的一枚だ。デイヴィッド・フォスターとアル・シュミットが関与した壮大なバラードナンバー「All My Love」や、ライオネル・リッチーとジェイムズ・カーマイケルによる「How Long」など、時代とシンクロした人選と構成も持ち前のポップ感覚のあらわれ。アルバムラストを飾るビリー・プレストンの名曲「You Are So Beautiful」のカヴァーに見え隠れするソウルフィーリングも熟練の成す静かなる表現力だ。David Tはライオネル・リッチーのプロデュースによる「Love, Love, Love」一曲のみ参加。ネーザン・イースト(B)、ンドゥグ・レオン・チャンクラー(Dr)、ポール・ジャクソン・Jr(G)らの繰り出す大人のリズムの横で、地味ながらもしっとりと一聴してそれとわかる激渋バッキングを披露している。

L.J. Reynolds / Lovin' Man (1984)

ドラマティックス時代の彼を知る人ならば込み上げてくる力強さに拍手喝采のソロ3作目。シンセプログラミング多用のサウンドプロダクションが奇異に映る部分が無きにしも有らずだが、聴けば聴く程、情熱的なL.J.の歌声が次第にその違和感を解きほぐす。余分な脂肪が皆無な引き締ったシャウトは見事の一言だ。プログラミングによるドラム音がほぼ全編を支配する中、ジェイムズ・ギャドソンのシンプルなドラムが旨味を醸す「Touch Down」では、ヴェスタ・ウィリアムズらのバックコーラスも軽やかでアッパーに決まる。David Tはスローテンポのメロウナンバー「Don't Give Up On Us」一曲のみに参加。他の楽曲に比べシンプルで落ち着きのあるアンサンブルの中、L.J.の歌声にデュエット相手のように絡むDavid Tの艶やかなフレーズの数々が極上のメロウネスを演出している。

Joe Sample / Oasis (1985)

流れるような主旋律の動きに寄り添うようにシンコペイトしながらうまれる鍵盤の物語。ジャズという枠組みでは語れない程、ポップで色彩感の強い特有の調べが拡がる85年作がコレ。同じ時期に並行して活動中のクルセイダーズの面々との共同プロデュースによる本作には“親しき仲にも礼儀あり”的緊張感がアンサンブルを程良く優しく包み込む。美しい調べを奏でるピアニストは数あれど、この人ほどメロディを意識しながらアプローチする人もそういない。物哀しい風景が目の前に映し出される「Asian Eyes」や、フィリス・ハイマンのハスキーで太いヴォーカルが躍動する「The Survivor」など印象的なソングライティングのセンスが随所で光る。David Tは「Loves Pradise」一曲のみに参加。ブラコン路線の淡白でソリッドなリズムセクションに突如として深みのあるDavid Tのギター音とフレーズが聴こえてくる瞬間、切れ味と円やかさが交錯しながら味わい深い佇まいを描いていく。

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