David T. Works Vol.61

まだまだ続くこのコーナー! Vol.61の10選をどうぞ。

Hank Ballard & The Midnighters / The 1963 Sound Of (1963)

1950年代から活動するグループ、ハンク・バラード率いるザ・ミッドナイターズの1963年作。ダンスナンバーからスロースタイルまで、R&B中心に50年代から60年代にかけて押しも押されぬ活躍を果たしたグループの変わらぬ魅力が満載の一枚は、彼ら後期キャリアとして時代と向き合いあらたな道を模索している感も大で、その心持ちがアルバムタイトルに象徴されてもいる。同時期活動していたキンフォークスの一員としてDavid Tもレコーディングに参加。David Tのキャリアとしては初期のもので特徴的なフレーズはまだ影を潜めているものの、片鱗をのぞかせるバッキングスタイルがわずかに見え隠れしている。

Betty & Dee / The Girls... (1976)

クレジット表記が一切ない謎の女性二人組の一枚。だが、グラディス・ナイト&ザ・ピップスの「Storms Of Troubled Times」や「Once In A Lifetime Thing」のカヴァー含め、全曲がジム・ウェザリー作のナンバーであるところが見逃せないキーファクター。派手さは皆無だが、フォーク的色合いに加えソウルやゴスペルまでバラエティに富んだテイストと美しいメロディが甘美に奏でられる好盤だ。そこに潜む軽妙なソウルフィーリングを支えるのが、高揚感あふれるストリングス隊の調べやタイトなリズムセクションによる、バリー・ホワイトやジーン・ペイジ人脈を彷彿とさせる安定感たっぷりのメロウネスサウンド。David Tもほぼ全編に渡ってサウンドの一翼を担う全力投球の参戦を果たし、メロウな世界観を抜群の十八番フレーズで彩っている。

Robert Winters & Fall / Magic Man (1981)

60年代から活動を続けるソウルシンガーのこれが初ソロアルバム。アルバムタイトル曲「Magic Man」のスマッシュヒットにも恵まれたほか、バラード調の「When Will My Love Be Right」など、伸びやかで張りのある声で硬軟取り混ぜたナンバーを包み込むように歌うふところ深さが全編ズラリの一枚だ。ジーン・ペイジがアレンジに関わった4曲にDavid Tも参戦。いずれも極微少の音量ながら「Touched By You」や「She Believes In Me」などで聴ける主役の歌を決して邪魔しない控え目な貢献が実にDavid Tらしくて美しく、「Into My World」のようなボトムの効いた弾力感たっぷりのフレーズも楽曲のメリハリをじわりと描いている。

Robert Guillaume / To Love Again (1984)

俳優としての活動を主とするロバート・ギヨームの数少ないレコード音源の一つがコレ。シンガーとしても定評のある彼を、アレンジと全体指揮を担うジーン・ペイジのほか、ンドゥグ・チャンスラー、ネイザン・イースト、フレディ・ワシントン、ポール・ジャクソン・Jr.、アーニー・ワッツら米国西海岸勢が強力にバックアップした一枚だ。ディオンヌ・ワーウィック版でも知られる「To Love Again」や、マイケル・ジャクソンの名盤「Thriller」に収録予定でマイケル版がレコーディングされたものの最終的にお蔵入りとなったマイケル・センベロ作「Carousel」、アン・マレー版で知られるランディ・グッドラム作の「You Needed Me」のカヴァーなど、歌声にマッチした美しいメロディの選曲も二重丸。David Tは、後年ベスト盤にも収録される「What Are Friends For」のほか、「This Time」でも目立った場面こそ少ないものの、一聴してそれとわかる音色のバッキングで主役の歌声を際立たせる貢献を果たしている。

The Controllers / For The Love Of My Woman (1987)

60年代に結成後、70年代後期にデビューし、80年代にMCA移籍後のこれが通算6作目。高音と低音のバランスも抜群なヴォーカル&コーラススタイルはそのままに、洗練を重ねたスタイルが結実した一枚だ。サム・ディーズ、アリ・オリ・ウッドソン、ノーマン・ハリスといった作家陣の参加も功を奏し、楽曲単位で聴き応えたっぷりなトラックがズラリ。メロウな歌声とサウンドにDavid Tも数曲で彩りを添える。女性ヴォーカルが加わり艶やかさを増した「Love Is On Our Side」では定番的フレーズをサラリと挟み込むゆるやかな貢献だが、サム・ディーズ作の「Play Time」では、美しく柔らかな歌声と見事に呼応するDavid Tの存在感あるギターの音色が、力強くも優しく全編に響き渡っている。

山下憂 / Gloomy (1988)

1994年にジェイ・グレイドンのプロデュースによる「Ever After Love」をシングルリリースしたことでも知られるシンガー・ソングライター唯一のソロ作は、日本人的ニューミュージックな風貌の世界観を、ディーン・パークス、スコット・エドワーズ、ニール・ラーセン、ソニー・バーク、エド・グリーン、ジェフ・バクスターら米国西海岸のツワモノらがバックアップするという個性あふれる一枚。David Tがプロデュースを担った本作は、日本とDavid Tの接点が育まれはじめた80年代後半にリリース。主役の個性と良好な化学反応をおこしたサウンドは、曇り空のような色合いを描く印象的な肌触り。「オキナワグラス」の中盤に飛び出すDavid Tのソロワークでは、抑制的なバッキングから一転して、クールさに身をまといながらも感情を込めに込めた渾身のギタープレイが炸裂する。

Byron Miller / Psycho Bass (2015)

近年はDavid T. Walker Bandの一員として欠かせないベーシストの2015年最新作。同じくDavid T. Walker Bandの一員であるンドゥグ・チャンスラーをはじめ、ジョージ・デュークやシーラEら旧知のメンバーに加え、カマシ・ワシントンやブランドン・コールマンら新鋭アーティストも迎えながら、重心低い70年代ファンクテイストとまろやかな横揺れグルーヴの緩急を織り交ぜた聴き心地良さ満載の一枚だ。スローテンポながらワウサウンドによる立体的なうねりが炸裂する「Oh, Really」や、キンバリー・ブリューワーや元チャプター8のヴァレリー・ピンクストンらがボーカル参加しメロウテイストに仕上げたスティーヴィー・ワンダーのカヴァー「Higher Ground」などでは、ジョージ・デュークの十八番的フェンダーローズが効果的にグルーヴの彩りを添え、アル・ジャロウのカヴァー「Heart's Horizon」で聴ける熱のこもったバイロンのベースプレイには、原曲にも参加したデュークへの追悼も脳裏をよぎる。ベーシストのソロアルバムだけにベースプレイを引き立たせるアレンジが見られるものの、その強調が嫌味に聴こえずサウンド全体に自然に溶け込むところは、バンドアンサンブルを裏で支えるミュージシャンならではのアルバムだからかも。David Tは「U Must Be Crazy」と「Eyes」の2曲に参加。David T流フレーズはここでもまったく不変で、安心感をもたらす仕事ぶりが絶妙だ。

Larry Carlton & David T. Walker / @ billboard Live Tokyo (2015)

これまでありそうでなかった二人のギターレジェンドの共演。クルセイダーズの一員として、あるいは、マリーナ・ショウの名盤『Who Is This Bitch, Anyway?』での奇跡のコンビネーションなど、対照的なプレイスタイルの二人。レコーディングでの共演は多いものの、リハーサルで約20年ぶりに再会した二人がはじめてライヴステージで共演した、邂逅の一コマを収めた一枚だ。「Nite Crawler」や「March Of The Jazz Angels」など、ラリーの主軸のステージにDavid Tがゲストで参加するという趣きの中、「Soul Food Cafe」ではDavid Tに主役の場面がスイッチ。「Feel Like Makin' Love」では、マリーナ・ショウ版で聴けるギターワークとはひと味違う対話の瞬間が見て取れる。慣れ親しんだ掛け合いではなく、互いに相手の語彙を探り合いながら徐々に打ち解け合っていく様子は、交わりそうで交わりのなかった二人のヒストリーそのもののようであり、互いを理解し合おうとするリスペクトの眼差しに満ちている。

Lee Ritenour / A Twist Of Rit (2015)

自身のソロ曲リメイクを中心に新曲も織り交ぜた2015年最新作。デイヴ・グルーシン、パトリース・ラッシェン、アーニー・ワッツ、デイヴ・ウェックル、マイケル・トンプソンら旧知の豪華メンバーと織り成すリラックスしたグルーヴが満載で、ギタリストとしての原点を力みなく表現した快心の一枚だ。3曲の新曲のうち「W.O.R.K.n'」と「Pearl」の2曲では日本から小曽根真が参加、「W.O.R.K.n'」ではオルガンを披露している。アルバムタイトル曲にもなった残る新曲「Twist Of Rit」にDavid Tが参加。主役リトナーに加え、ワー・ワー・ワトソンも参加したギタリスト3人によるこの曲には、リトナーよりさらに一世代上のワー・ワーとDavid Tの二人への敬意に満ちた、落ち着きのあるまろやかなグルーヴが宿っている。

Vulfpeck / Thrill Of The Arts (2015)

Spotifyで無音トラックによる資金獲得という一癖ある企画力で話題をさらった米国西海岸バンドのこれがフルアルバムとしては最初の作品。ネット世代ならではの手腕がフォーカスされがちだが、そこにあるのはエレピの音飾を効果的に起用するなど70年代のファンクやソウルの旨味を軽やかに消化するポップ感覚と惜しみない先人たちのリスペクト。屈託のない大いなる敬意は、彼らにとってレジェンド級存在のDavid Tとのコラボレーションを自然なカタチで導いた。2014年に先行配信リリースされた、現代版モータウンサウンドとも受け取れる「Christmas in L.A.」では、70年代モータウンに大きく貢献したDavid Tのギターをオマージュの1ピースとしてはめ込み、「Game Winner」でもメロウなギターが彼らのポップマインドに見事にハマっている。

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