David T. Works Vol.48

まだまだまだ続くこのコーナー。Vol.48の10選をどうぞ。

Dick Glasser Presents Artistry In Sound (1970)

エヴァリー・ブラザーズやヴェンチャーズ、アンディ・ウィリアムスらのプロデュースワークなど、ポップス界を彩る製作者として名を残す才人ディック・グラッサーが、アル・キャプスとアーティ・バトラーをアレンジャーに迎え、自身の名義で発表した一枚。サイモン&ガーファンクル「明日に架ける橋」やビートルズ「ヘイ・ジュード」、ヴェンチャーズの「Walk Don't Run」など、当時のヒット曲や自身と関わりの深い楽曲を、新たなアレンジで再構築したイージー・リスニング・ジャズ的風貌の仕上がり。唯一「Moody」で聴けるDavid Tのバッキングは、ストリングや管楽器が並ぶアンサンブルの中で静かながらも際立つフレーズで楽曲にメリハリをもたらす装飾を添えている。なお、アルバムジャケットには「David Tyrone Walker : Bass」とのクレジットが。楽器パートは単なる表記ミスだと思われるが、ミドルネームの「T」が本名である「Tyrone」と明記された珍しいアルバムだ。

Vikki Carr / Vikki Carr's Love Story (1971)

そのディック・グラッサーがプロデュースを務めたヴィッキー・カーの71年作。ゴードン・ライトフットの「If You Could Read My Mind」や、ランディ・ニューマン「I'll Be Home」、アリス・クラーク版でも知られるジミー・ウェッブ作「I Keep It Hid」など、多彩なカヴァー曲をしっとりと歌い上げる姿に、どんな楽曲でも自身の歌世界に聴き手を引き込む柔らかな個性を痛感。David Tは、アルバム冒頭を飾る「I've Never Been a Woman Before」に参加。ほとんど聴き取ることができないほど小さな音量でのフレーズだが、David Tらしい仄かに香るメロウな音色が楽曲に自然なカタチで溶け込んでいる。

Solomon Burke / I Have A Dream (1974)

1972年から続くMGMでの諸作で接点のあるソロモン・バークとDavid T。その延長線でもある74年作は、アルバムタイトルにキング牧師の演説フレーズを冠したトリビュート的コンセプトの一枚。これまで同様ジーン・ペイジがアレンジャーとして関与した本作にもDavid Tはほぼ全編に渡って参加。アルバム冒頭のタイトル曲にはじまり、「Looking For A Sign」や「We Can Be Together Again」でのキレのあるふくよかな音色はこの時期のDavid Tの真骨頂。続く「Social Chance」や「I Ain't Gonna Give Up (Till I Find A Way)」でも楽曲の彩りに貢献するパーカッシヴでメロウなフレーズを連発。多忙を極めたはずのこの時期のDavid Tだが、繰り出される脂の乗り切った強烈な音色はやはり聴きどころ十分だ。

Cleveland Robinson / Cleveland (1976)

自身の名前を逆さまに綴り自ら興したレーベルに残したクリーヴランド・ロビンソン唯一のアルバム。軽快にハネるリズムに、大仰すぎないストリングス隊、さりげなくしなやかに全体を支える女性バックヴォーカルの彩り。決して多くはない音数の隙き間を縫うメロウなフレーズに、シンプルな歌声が重なるアンサンブルは、ニューソウル的趣きも香る力みのないグルーヴの泉。クレジットこそないものの、多くを語らず、しかし常に傍らに横たわるDavid Tのプレイは本作の佇まいに大きく貢献。ヴォーカルラインに沿いながら緩急溢れるフレーズで迫る「I Got Yours, You Got Mine」や、ストリングスと軽妙なグルーヴが調和する「No One Can Take Your Place」のメロウネス。しっとりとしたR&B的アプローチの「I Give To You, And You Give To Me」に、ワウペダルを駆使した「Twenty-Four Hours A Day」など、くっきりと足跡を残す仕事ぶりがアルバムの完成度をさらりと高めている。

H.B. Barnum / America The Beautiful (1976)

David Tとは切っても切れないという意味では、ジーン・ペイジに並んでセッション度数の高い重要人物の一人、アレンジャーにしてプロデューサーのH.B.バーナムがソロ名義でリリースした一枚。アルバムジャケットに描かれた数々のアメリカを代表するモチーフからもわかる通り、米国人以外にもお馴染みな“アメリカ”をテーマにしたスタンダードナンバーのインストカヴァー集という一風変わった体裁の逸品だ。クレジットの記載が一切ない匿名的アンサンブルだが、聴こえてくるギターの音色はまさしくDavid Tのそれ。ディスコ的リズムで軽快に高揚するアップテンポな楽曲の中、いつもよりもふところ深く弾んだバッキングを披露するその音色に、“アメリカバンザイ”ならぬ、“David Tバンザイ!”を声高に叫びたくなる一枚だ。

High Inergy / Shoulda Gone Dancin' (1979)

9分を超すダンサブルでアッパーなタイトル曲での幕開けは名刺代わりのご挨拶。アルバム中盤では「Midnight Music Man」や「Love Of My Life」などメロウで高揚感あるアレンジが光る楽曲が織り交ぜられた全編通して楽しめる一枚。キャリアの後期となるジェイムズ・ジェマーソンが息子のジェマーソンJr.と揃って参加しているのも面白いところ。ジェイムズ・ギャドソン、ワー・ワー・ワトソンらとのセッションとなった2曲でDavid Tも陰ながら貢献。「I've Got What You Need」では比較的静かな参加だが、ラストを飾る「Too Late (The Damage Is Done)」で聴ける、楽曲中盤にそのフレーズが大々的にフィーチャーされる展開が二重丸。

The Wispers / Shhhh (1980)

60年代半ばに属したDoreレーベルでのシングル録音をまとめた一枚。永きに渡って続くメロウな彼らヴォーカルスタイルのキャリア初期の息吹が伝わってくる好企画盤だ。David Tは66年にシングルリリースされたジーン・ペイジのアレンジによる「You Got A Man On Your Hands」と「You Can't Fight What's Right」に参加。スウィートなヴォーカルワークの横で、控え目ながらもメロウなキラ星フレーズを繰り出すDavid T。もし今、この両者の共演が実現するなら、より円みを帯び熟した洗練が顔をのぞかせるに違いないという想像とともに、40年以上前のこれら音源と基本的には変わらない同じような構図の佇まいが描かれるだろうと思わずにはいられない彼らのスタイル。体に染み付く力強い個性とはまさにこのことだ。

The Temptations / Back To Basics (1983)

アルバム冒頭を飾る「Miss Busy Body」の突き刺すようなシンセサウンドに時代のトレンドが象徴的に描かれるテンプスの83年作。ノーマン・ホイットフィールドやウィリー・ハッチほか複数名のプロデューサーの関与や「The Battle Song (I'm The One)」へのフォー・トップスの参加、本作録音後のデニス・エドワーズの脱退と84年の次作『Truly For You』から正式加入となるアリ・オリ・ウッドソンの「Stop The World Right Here」への参加というリードヴォーカルの交代劇など、時代のトレンドと向き合いながらバンドの在り方を模索する姿が「基本に立ち返れ」というアルバムタイトルに象徴された感もある一枚だ。我らがDavid Tは、アール・ヴァン・ダイク(Key)、ソニー・バーク(Key)、フレディ・ワシントン(B)、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)らによる「Isn't The Night Fantastic」一曲のみに参加。ミドルテンポのこの楽曲で、ポール・ライザー指揮による弦楽器のアンサンブルが高揚する中盤、パーカッシヴなベースラインに呼応するようにメリハリの効いたカッティングフレーズで静かなる主張を披露するDavid Tのプレイに粋な職人気質を痛感。

James Brown & Friends / A Night Of Super Soul (2005)

1987年、デトロイトのタブークラブで行われたセッションの模様を収録したライヴ盤。御大JBに加え、ウィルソン・ピケット、ビリー・ヴェラ、ジョー・コッカー、ロバート・パーマー、アレサ・フランクリンといったゲスト陣が代わる代わる登場する豪華な一枚だ。元々は1989年に『Soul Session Live 1987』としてリリースされていたアルバムで、なぜか当時はアレサの楽曲のみ大幅カット。その後アレサの楽曲を含め完全リイシューされたのが本作というワケだ。我らがDavid Tは、微かに聴き取れる程度の参加だがアレサのバック演奏陣として登場。なお、このセッションの模様を収録したDVD映像『A Night Of Super Soul』(日本版『Soul Session 1987』)もリリースされており、ホンの僅かだがアレサの後ろで静かに奏でるDavid Tの姿が確認できる。

Sisters Love / With Love (2010)

レイチャールズのバックシンガー隊だったレイレッツを起源とし、70年代にはA&M、Mowest、モータウンにシングル盤のみリリースしたシスターズ・ラヴ。60年代後半には彼女たちのライヴツアーバックバンドの一員として、また、多くのシングル盤に録音参加するなどDavid Tとも繋がりの深いこのガールズソウルグループが1972年にMowestレーベルに録音したものの、なぜか発売には至らずオクラ入りになっていたアルバムが2010年に突然のイシュー。アルバムに収録予定だった全10曲から当時シングルカットされた4曲のうち、2006年にコンピ盤としてリリースされた『Give Me Your Love』にも収録されていた「You've Got To Make Your Choice」と「I'm Learning To Trust My Man」はいずれもDavid Tが参加していたが、今回明らかになった残る6曲の数曲にも派手さは無いもののDavid Tの個性的な音色が点在。ボビー・ウォマックの「Communication」、スウィート・インスピレーションズが歌ったダン・ペン作「Sweet Inspiration」、ニーナ・シモンやフォー・トップス版で知られるジミー・ウェッブ作「Do What You Gotta Do」などの多彩なカヴァー曲で決して前面には出ない控え目バッキングの教科書的仕事で貢献。なおCD化にあたって、当時シングルリリースされDavid Tも参加した「Give Me Your Love」や未発表曲を含む計5曲が追加収録されている。

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