いつも、ずっと、いつまでも。
─ 新作『For All Time』に寄せて ─
「いつも、ずっと、いつまでも」。15枚目のソロアルバムとなる新作タイトル『For All Time』には、そんな意味があるという。
2008年には実に13年ぶり13枚目となる復帰作『Thoughts』、2009年には初のウインターソング・アルバムにトライした14作目『Wear My Love』のリリースなど、ここ数年、ライヴ活動に加え自身の作品づくりを活発化するギターの匠から届けられた新作『For All Time』。多彩なカヴァーと自身のオリジナルをバランス良く配置した強力なバンドサウンドに加え、若き日に多用したワウワウ・ペダルとディストーション・サウンドの効果的挿入や、生弦楽器によるオーケストレーションの起用、2009年と2010年にステージで共演し息の合ったコンビネーションをみせたマリーナ・ショウのヴォーカル参加など、さらなるサウンドの厚みと華やかな彩りが添えられた意欲作である。
そこに一貫しているのは、彼が常々表明する「Press On With A Smile(前向きに、笑顔で)」に代表されるシンプルでポジティヴな信条が、これまでの作品同様に投影し続けられているということだ。そこにあるのは、誰もが抱く普遍的な感情の起伏を哲学的ともいえる深い洞察と美意識で表現する真摯な姿勢と、遊び心溢れるユーモアを大事にするしなやかな感性。それらが特徴的で艶やかなギターの音色と交差することで、美しくやわらかな躍動がうまれる。新作『For All Time』にも、彼のヒストリーに連なるテーマがそこかしこに注がれているのだ。
その想いの強さは、彼自身久しぶりとなるヴォーカルが随所で披露されていることからも伝わってくる。「うたで表現すべきメッセージがこれまであまりなかった」というデヴィッド・Tだが、裏を返すと、前作『Wear My Love』でのポエトリー・リーディングや、彼がリード・ヴォーカルを担った37年前のオリジナル曲「Press On」に込められたスピリットの意味と重要性にあらためて気がつく。新作に収められた「Joyful Insight」や「Soul, In Light & Grace」、そしてタイトル曲である「For All Time」で彼自身から発せられる言葉の数々に潜むスピリチュアルでおおらかな感性は、37年前に自らの心の内から放たれた視線の延長線上にあるもの。彼の日常の中に自然体の風貌で常に居座り続けながら、その時々で表現者としての意欲を突き動かしたフィーリングは、“うた”という血肉によってメッセージの色合いを、より強い輪郭で描いた。そこにあるのは、若き日のエネルギッシュな感性を回想し現在の心境と重ね合わせる彼一流の表現スタイル。そのスタイルは、パーソナルなメッセージが普遍的なイマジネーションを喚起するという、音楽の送り手と聴き手の双方に幸せな関係を築く。そのことこそが彼の音楽表現の根底にある素晴らしさであると僕は受け取りたいのだ。
バラエティに富んだ楽曲の数々に、変わらぬスタイルの美しくも鋭い旋律に満ちた新作。タイトルに込められた「いつも、ずっと、いつまでも」という想いは、ピリリと引き締められるような感触と流麗で柔らかな喜びと愛に満ちた鼓動が相まった音楽の醍醐味となって、僕の中にある「いつも、ずっと、いつまでも」とは何かをもさりげなく問う。ラストを飾るタイトル曲を聴くころには、このままずっと浸っていたいという感情を抑えられなくなるほどに、強固なリズム隊とストリングスの調べ、そして彼の歌声と“うたうギター”のすべてが一体となって、強くそして優しく聴き手を揺さぶる。
一音一音を呼吸するかのように紡いだパーソナルでピースフルな手紙のような音楽。受け取った僕らは、いつでもすぐ手の届くところに置き、きっと何度も読み返す。そして、そこに描かれた示唆に富んだメッセージが聴き手と共鳴したとき、「いつも、ずっと、いつまでも」の答えは、それぞれの心の内にそっと書きとめられるはずだ。
2010.12.08 ウエヤマシュウジ
●収録曲(全11曲)
01. For All Time (Overture)
デヴィッド・Tがこれまでプレイしたさまざまな楽曲のエッセンスやフレーズを重層的にちりばめた構成が、彼の音楽ヒストリーをコンパクトに提示しているかのようなオープニング曲。万華鏡をのぞく感覚にも似た楽しさと美しさは、聴き手の想像力をかきたてながら、このあと続く作品への期待感を高めていく。アルバム幕開けに相応しい序曲だ。
02. Eleanor Rigby
ビートルズの名曲カヴァー。ジェリー・ピータース指揮によるアクティヴで壮大なストリングス隊にデヴィッド・Tのギターが宙を舞うアレンジが見事な一曲。ライヴステージ上ではデヴィッド・Tのオリジナル曲「Going Up」演奏中にこの曲のメインフレーズをさらりと織り交ぜる遊び心たっぷりのアレンジを披露したり、過去には、1991年にリリースされたジョン・レノンのトリビュートアルバム『Love - John Lennon Forever』収録の同曲カヴァーでギタープレイを披露したりなど、デヴィッド・Tお気に入りの一曲。ジョン・レノンの命日である12月8日が本作のリリース日であることも感慨深い一つのストーリーだ。
03. If You Want Me To Stay
スライ&ザ・ファミリー・ストーンが1973年に発表したアルバム『Fresh』収録曲のインストカヴァー。ンドゥグ&バイロンのリズム隊が、強力に楽曲をバックアップ。ワウワウペダルも駆使した粘り気たっぷりのファンクネスが見事だ。
04. God Bless The Child
多くのシンガーにカヴァーされるビリー・ホリディのナンバー。ゲストヴォーカルとして参加したマリーナ・ショウの艶やかで気品あるジャジーな歌声が見事にハマった素晴らしいアンサンブルの一曲。
05. Song For My Father
ホレス・シルヴァーの名曲カヴァー。ンドゥグによるヴィブラフォンの音色も楽曲に彩りを加えた、粋なソウル・ジャズ。
06. Compassionate Tranquility
デヴィッド・Tによるオリジナル曲。優しさと寛容な趣きが、静かにゆったりと全編に響く、デヴィッド・Tらしさに満ちた一曲。
07. Justified
デヴィッド・Tによるオリジナル曲。弾力感たっぷりに、ひきずるように奏でるリズム&ブルースは、デヴィッド・Tのルーツが垣間みれる奥深い佇まい。ワウワウ・ペダルによる多彩な表現にチャレンジしている。
08. Joyful Insight
デヴィッド・Tによるオリジナル曲。実に1973年の「Press On」以来の、デヴィッド・T本人のリード・ヴォーカル入り。ストリングスを従え真正面からブルースやゴスペルのフィーリングを奏でる姿はこれまでのソロ作にもあまりない試み。次第に高揚感が増幅されるアレンジと、スピリチュアルなテーマが実にDavid Tらしい。
09. Let's Stay Together
アル・グリーンの名曲カヴァーをマリーナ・ショウのヴォーカル入りで表現した一曲。楽曲の持つ高揚感を、マリーナの歌声がやわらかく演出している。なお、デヴィッド・Tは過去、全編バンド・オブ・プレジャーがバッキングで参加したオムニバスアルバム『JVC Soul All Stars』(1996年)や、デヴィッド・ガーフィールド&フレンズによるジェフ・ポーカロのトリビュートアルバム『Tribute To Jeff』(1997年)でも、この曲のカヴァーにギター参加している。
10. Soul, In Light & Grace
デヴィッド・Tによるオリジナル曲。ンドゥグ、バイロン、クラレンス、そしてデヴィッド・Tほか、マリーナ・ショウとエンジニアの面々までもが加わったメンバー全員によるコーラスワークが楽曲中に響き渡る構成も面白いところ。滅多に聴けないデヴィッド・Tのディストーション・サウンドによるソロプレイや、途中途中に披露される日本語ワードも、彼一流のチャレンジ精神とユーモア感覚。中盤以降に徐々に加わって来るデヴィッド・Tの歌声とともに、グルーヴ感溢れる躍動に満ちた楽曲展開が、名曲「Press On」に連なる一曲であるような感覚をもおぼえる名演だ。
11. For All Time
デヴィッド・Tによるオリジナル曲。いつも、ずっと、いつまでも、という想いに込められた優しさとおおらかな心持ちが、ストリングスの音色と相まって、強いメッセージとなって深い余韻を残しながら聴き手を柔らかく包み込む。
2010.12.08 ウエヤマシュウジ
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