David T. Works Vol.60

いよいよ600枚到達! まだまだ続くこのコーナー! Vol.60の10選をどうぞ。

Harmonica Slim / The Return Of Harmonica Slim (1969)

50年代から西海岸で活動を続けるハーモニカ奏者が、フライング・ダッチマン傍系BluesTimeレーベルに残した一枚。セッションメンバーには、ルイ・シェルトン(G)やマックス・ベネット(B)のほか、ピアノとオルガンではアーティ・バトラーの名前も。同業ハーモニカ奏者ジョージ・スミスが参加しているところも面白いところだ。David Tもこのセッションにほぼ全編に渡って参加。リピート中心のリズムバッキングに徹し、目立ったプレイは聴こえてこない地味な貢献ではあるが、さりげないバッキングの中に後年何度も披露されるDavid T印全開の特徴的フレージングがチラリと顔を覗かせると、なぜか安心感のようなものが漂うから不思議。それでも、ラストを飾るスタンダード「Things Ain't What They Used To Be」では、短い小節ながらも一聴してそれとわかるブルージーなソロプレイを披露する若きDavid Tの姿が見て取れる。

上田知華 / I Will (1991)

今井美樹のヒットナンバー「Piece Of My Wish」の作者として、また80年代には多くのアイドルの楽曲を手掛けた彼女が、90年代最初にリリースしたソロ3作目。軽快なポップスからしっとりとしたR&Bテイストまで、バラエティに富んだ自作曲を、西海岸のミュージシャンたちが完全バックアップ。デヴィッド・キャンベルのアレンジワークに、ウィルトン・フェルダー、マイク・ポーカロ、マイケル・ランドゥ、ディーン・パークス、レニー・カストロらが加わったサポートは、楽曲のポテンシャルをうまく引き出しながら、湿り気のない印象的な彩りを添えていく。David Tもその一役を担う的確な貢献で参戦。「Lean On Me」や「Rolling On」などで聴けるDavid T節満載のメロウなフレーズと力強さを伴ったバッキングは、彼女の歌声が描く視界を豊かに拡げたに違いない。

Holland-Dozier-Holland / The Picture Never Changes (1992)

60年代にはモータウンで活躍したソングライター兼プロデューサーユニット、エディ・ホランド、ラモント・ドジャー、ブライアン・ホランドが、70年代インヴィクタス時代に残したベストワーク集。ソウルミュージックの鑑のようなツボを外さない楽曲がずらりと並ぶなか、David T的注目は「Where Did We Go Wrong」という一曲。エロイーズ・ロウズの1977年作『Ain't It Good Feeling Good』で披露され、微かに奏でられるDavid Tのギターフレーズやジーン・ペイジによるストリングス隊の音色が印象的なこの楽曲を、ここでは同じレコーディングトラックを微妙に再編集し、エロイーズではなくエディ・ホランドのヴォーカルに一部差し替えた別バージョンとして収録。このエディ版「Where Did We Go Wrong」は、その後さらに微妙に編集し直された別テイクが、同様のコンセプトによるベストワーク盤で1997年リリースの『The Invictus Years』、2000年リリースの『Why Can't We Be Lovers - The Invictus Session』、2009年リリースの『Love And Beauty...Plus (The Complete Invictus Masters)』に収録されるという、少し不思議な現象も。男女異なるシンガーによる印象の違いはあれど、ほぼ同じバックトラックから聴こえてくるDavid Tの変わらぬギターフレーズに、絶大な安心感を覚えてしまうのだ。

織田哲郎 / T (1993)

80年代にはTUBEへのヒット曲提供、90年代にはB.B.クイーンズ、ZARD、DEENら、多くのアーティストへの楽曲提供でミリオンセラーを連発したシンガー・ソングライター兼プロデューサーが、自身の名前の頭文字をタイトルに冠し、サイモン・フィリップスやエイブラハム・ラボリエル、フィル・チェンほか海外勢も交えきらびやかに仕上げた一枚。J-Popフィールドでのエンターテインメントな活動が目立つせいか、良質なプロダクションが見過ごされている感もあるが、誰もが口ずさむメロディーメーカーとしての卓越に加え、安定感あるポップスとして形作る音楽センスのふところ深さが聴けば聴くほど随所に見え隠れする。David Tは「愛が届くまで」と「朝がくるまで」の2曲に参加。バーナード・パーディ、ビリー・プレストン、ワー・ワー・ワトソンに、ホーンセクションとストリングス隊も加わった豪華な音像のなか、決して前に出過ぎないDavid Tらしいフレーズで肩のチカラの抜けたさりげない貢献を果たしている。同時リリースされたセルフカヴァーアルバム『Songs』にもDavid Tが参加。

播東和彦 / Colors Of Groove (2000)

90年代直前に、山岸潤史、清水興、続木徹ら、バンド・オブ・プレジャーの前身ともいえるメンバーと「六本木スワンプ・バンド」を結成。並行してソロ活動を続けてきたシンガー・ソングライターが、満を持してリリースした2000年作は、80年代のソロ楽曲や、90年代のジョニー吉長バンド時代の楽曲など、自身のキャリアを俯瞰する彩りの仕上がり。David Tは「I Need Ya Lovin'」一曲に参加。山岸潤史、続木徹、ジェイムズ・ギャドソン、デヴィッド・シールズ、チョコレート・バンクスといったメンバーが紡ぐ穏やかながらも芯のある軽快なグルーヴに乗って、甘くソウルフルに奏でる播東の歌声と、いつもと変わらぬ弾力感たっぷりに切れ味鋭いフレーズで呼応するDavid Tのメロウなギタープレイの会話は、楽しさに満ちたバンドアンサンブルという音楽語彙で、互いの信頼関係を彼ら自らが証明しているかのようだ。

Leon Ware / Love's Drippin (2003)

2014年には新作『Sigh』をリリース、衰え知らぬ健在ぶりをみせたリオン・ウェアの2003年作。リオン節炸裂の「All Around The World」で幕をあけるや否や、ワー・ワー・ワトソンと共作したアッパーな「Saveur」など、打ち込みと生演奏を巧みにマッシュアップしながら、官能的で濃密なリオン特有の世界観が全編に繰り広げられていく。実は、P-Vineからリリースされた日本盤のみに収録されたボーナストラック2曲にDavid Tが参加。そのうちの1曲「'Round Midnight」では、コントラストの強い現代的なサウンドにアレンジしたセロニアス・モンクのスタンダードにのってDavid Tのギターがメロウネスを誘い、もう1曲「Open Hearted」でもリオンのヴォーカルと女性バックコーラス隊の傍らで官能的な呼吸のフレーズを連発し、楽曲を牽引している。

Phyllis Hyman / In Between The Heartaches (2004)

未発表曲と他アーティストのアルバムでコラボした既発曲を組み合わせたコンピレーション盤。1978年に客演したファラオ・サンダーズ『Love Will Find A Way』収録の「Everything I Have Is Good」や、2002年にリリースされたコンピ『Soul Togetherness 2002』で初披露された「Sleep On It」、1981年のソロ作『Can't We Fall In Love Again』収録の「Don't Tell Me, Tell Her」の別バージョンなど、David Tが参加した既発曲が収録されるなか、本作で初披露された1980年録音の未発表曲「If You Ever Change Your Mind」と「In Between The Heartaches」にもDavid Tが参加。派手さはないものの、ふところ深いハイマンの歌声にしっかりと寄り添い、静かに存在感を残すDavid Tのプレイはさすがの一言だ。

Sam Moore / Overnight Sensational (2006)

ブルース・スプリングスティーン、ポール・ロジャース、ジョン・ボン・ジョヴィ、スティーヴ・ウィンウッド、エリック・クラプトン、ビリー・プレストンといった豪華メンバーの参加が話題をよんだサム・ムーア復活作。ソウルマンへのリスペクトに満ちたパフォーマンスがズラリと並ぶなか、衰え知らぬ主役ムーアの圧巻の歌声に聴き惚れること間違いなしの一枚だ。ラストを飾る「You're So Beautiful」は、制作途中で他界した作者ビリーによるピアノと、マイク・フィニガンのオルガンが彩りを添えるなか、中盤、エリック・クラプトンのむせび泣くギターソロがだめ押しのように食い込む感動的な一曲。David Tは「Riding Thumb」一曲に参加。グレッグ・フィリンゲインズがピアノとクラヴィネットで躍動感を演出し、ロバート・ランドルフが粘り気たっぷりなペダルスティール・ギターで楽曲を彩る中、微細な音量ながらも弾力感たっぷりに得意のバッキングを披露している。

DREAMS COME TRUE / ATTACK25 (2014)

前作から3年半以上ぶりにリリースされた、デビュー25周年を記念するボリューム感たっぷりの一枚。アルバム前半に本作初お目見えとなる新曲を並べ、後半には「さぁ鐘を鳴らせ」「想像を超える明日へ」「MY TIME TO SHINE」「愛がたどりつく場所」「AGAIN」など、CMやTV番組とのコラボによるヒットチューンを配置するという思い切った構成は、エンターテインメントの王道を突き進む本領発揮の感ある緻密なバラエティ。ギターにカシオペアの野呂一生、ドラムに菅沼孝三が数曲に参加したことも話題を呼び、中でも躍動感たっぷりな「軌跡と奇跡」で聴ける二人のプレイは、ホーンセクションも加わったアグレッシヴで重量感たっぷりなサウンドで、ドリカムテイストに新たな血を通わせた。David Tは「MORE LIKE LAUGHABLE」一曲に参加。キラ星フレーズで応戦するDavid Tのプレイには、20年ちかくに渡って共演を果たしてきた一体感ある阿吽が響いている。

Marvin Gaye - Donald Byrd / Where Are We Going? - Woman Of The World (2014)

ブルーノート・レコード75周年を記念し、レコード・ストア・デイ向け限定でアナログ盤のみリリースされたスペシャルアイテム。レーベル面がそれぞれ、A面はモータウン、B面はブルーノートになっているという珍しい仕様の一枚で、タイトル通り、マーヴィン・ゲイとドナルド・バードの接点とも言える楽曲2曲が、異なるバージョンで収められている。B面は、ドナルド・バード1972年作品『Black Byrd』収録の「Where Are We Going?」と、1973年『Street Lady』収録の「Woman Of The World」で、既にリリース済の2曲だが、A面にはマーヴィンの歌入りで異なるアレンジ版が収録。そのうちの一曲「Where Are We Going?」は、2001年のベスト盤『Very Best Of Marvin Gaye』で初披露され、同年続いてリリースされた『Let's Get It On (Deluxe Edition)』にオルタネイティヴバージョンが披露されたテイクの別ミックスとして収録。もう一曲のマーヴィン版「Woman Of The World」は、オフィシャルには本盤が初披露となる一曲。ミゼル兄弟のアレンジに乗って歌うマーヴィンの横で、さりげないプレイで応戦するDavid Tのギタープレイを聴くと、なぜ当時リリースされなかったのか不思議なほど、重なり合うソウルフィーリングとクールな佇まいとがひたすら心地良く共鳴している。

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