David T. Works Vol.55

まだまだまだ続くこのコーナー! Vol.55の10選をどうぞ。

The Olympics / Do The Bounce (1963)

50年代から活動を続け、のちに続くソウルグループのスタイルに大きな影響を及ぼしたともいわれるオリンピックスは、R&Bヴォーカルグループとしてドゥワップを主体としたダンスナンバーを数多く残した。若きDavid Tは当時活動していた自身のバンド、キンフォークスの面々とともに彼らライヴやレコーディングに参加。本作収録のシングルリリースもされた「The Bounce」で聴けるギターの音色に特徴的なフレーズや奏法はまだ影を潜めており、スタイル確立に向け進みつつある道中の貴重な一コマといった風貌。ここから四半世紀、茶目っ気たっぷりなジェントルマンの歩みは、多彩にそして確固たる個性に姿を整えながら続いていくのだ。

Barry White / Just Another Way To Say I Love You (1975)

ジーン・ペイジ指揮で繰り広げられる黄金必勝パターンのサウンドプロダクション。ソロ名義やラヴ・アンリミテッド・オーケストラ名義のほか、3人娘ラヴ・アンリミテッド名義など含め、この時期のバリーサウンドは枠組みこそ微妙に姿を変えながらも、根底に流れるメロウなスタイルと美意識は一貫した佇まいでブレがない。それを支えるのはその名の下に集ったミュージシャンたちの堅実なバックアップ。「I'll Do For You Anything You Want Me To」で聴ける楽しさ溢れるポップなテイストと、主役の低音ヴォイスが交差する音空間に見事に寄り添うキラ星フレーズや、ラヴ・アンリミテッドのヴォーカルこそないもののスローテンポでメロウな「Let Me Live My Life Lovin' You Babe」で聴けるどこまでも淡々と噛み締めるように一音一音を刻むDavid Tの姿に、バッキング奏者としての秘めたる矜持をみる思いだ。

The Magic Disco Machine / Disc-O-Tech (1975)

関与したプロデューサーが楽曲ごとに異なる寄せ集め的風貌からもわかる通り、謎の覆面ユニット的佇まいの実態は、オクラ入り楽曲を含めたモータウンの膨大なトラックを元に編集された企画モノ。とはいえ、個々の楽曲は弛みのないファンキーテイストのディスコサウンド満載でぬかりなし。スピード感溢れるグルーヴの「(I Could Never Make) A Better Man Than You」は、シスターズ・ラヴが73年にシングルリリースした楽曲に、David Tのソロパートをエンディングに大きくフィーチャーし、「Tryin' To get Over」で聴けるDavid Tのバッキングも、ダンスミュージックに不可欠な腰の座ったキレ味が全開だ。実はこの曲のバックトラックにジャクソン5のヴォーカルが加わった未発表曲「Would Ya Would Ya Baby」が、2012年にリリースされた彼らのレアトラック集『Come And Get It: The Rare Pearls』に収録。このトラックが72年にレコーディングされたにもかかわらず陽の目を見ず、75年リリースの本作用にヴォーカル抜きで仕立て直されたということが判明した。同様に本作でメインヴォーカル不在のトラックとして収録された「Jumbo Sam」と「Let's Go Back To Day One」も、先述のジャクソン5未発表曲集に収録。いやはやモータウンのフトコロ深さとたくましさたるや。恐るべし。

The Love Unlimited Orchestra / Super Movie Themes - Just A Little Bit Different (1979)

タイトル通り、映画のテーマ曲をラヴ・アンリミテッド・オーケストラ名義によるバリー流解釈のストリングスサウンドで再構築した一枚。「スーパーマンのテーマ」に「シャフトのテーマ」や「グリース」などの有名映画曲を、流麗なオーケストレーションとタイトなリズムセクションが交差する手法で彩ったサウンドは、一聴するとイージリスニングジャズ的佇まいの肌触りながらも、どこかソウルフィーリングの香る印象を残すから不思議。David Tは控え目な参加で残念だが、それでも「キングコングのテーマ」など、バリーサウンドを彩るアンサンブルの一員に徹しながら、淡々としながらも要求に的確に応えるバッキングで貢献している。

Brian McKnight / I Remember You (1995)

ソングライターやプロデューサーとしても確固たる地位を築くR&Bシンガーが、95年にリリースしプラチナアルバムとして大ヒットした2ndアルバム。全編アーバンなテイストを醸す甘く美しいメロディのオリジナル曲が占めるなか、唯一のカヴァーとして選曲されたヴァン・モリソンの「Crazy Love」に我らがDavid Tが参加。とはいえ、ここで聴けるギターバッキングは、途中ワー・ワー・ワトソンの滋味溢れるギターソロが奏でられたあと、転調しながらエンディングを迎える見事な構成の楽曲の背後に、うっすらとかろうじて輪郭をつかみ取れる程度の微細な音量による控え目な風貌。一瞬の僅かな音色のためだけにでもあらゆる場面で必要とされる腕と、真摯に応える姿勢のナチュラルな同居。これこそ音楽家David Tの魅力であり真骨頂なのだ。

Smap / Smap 008 Tacomax (1996)

95年の前作『SMAP 007 Gold Singer』同様、米国トップミュージシャンを揃えた豪華盤。マイケル・ブレッカー(Sax)、ウィル・リー(B)、ワー・ワー・ワトソン(G)、オマー・ハキム(Dr)、フィル・ウッズ(Sax)、ラルフ・マクドナルド(Per)、スティーヴ・フェローン(Dr)、ハイラム・ブロック(G)ら腕利きが紡ぐアンサンブルは、バックトラックだけ聴いても十分なクオリティとグルーヴで聴き手を圧倒。前作に引き続き参加したDavid Tも、ベートーベンの「ピアノソナタ第8番」をモチーフにリアレンジした「Theme of 008 (piano sonata no.8)」で、短い小節数の中でキレのあるバッキングを聴かせ、ミディアムテンポの一曲「声を聞くよりも」ではスティーヴ・ガッドとアンソニー・ジャクソンの的確なリズム隊の上で、メロウな十八番フレーズを優しく奏でバックアップ。エンターテインメントを支える職人の確かな手腕とアンサンブルによるグルーヴは、主役スマップ抜きのインスト集『Smappies』へと発展する。

林田健司 / 今夜はBEST2000 (2000)

90年代初頭からスマップをはじめ多くのアーティストに楽曲提供を行うクリエーター林田健司が、並行して進めた自身のソロ活動をまとめ、一部新録曲を加えリリースしたベスト盤。ツボを押さえたキャッチーなメロディで聴き手を惹き付けるポップチューンがずらりと並ぶ中、97年リリースのソロアルバム『東洋一』収録のリメイク曲となる「Stay 2000」にDavid Tが参加。アンソニー・ジャクソン、オマー・ハキムのリズム隊を起用した鉄壁のバックトラックには、感情を込めた主役のヴォーカルに終始付かず離れずの距離感で鋭くもメロウなフレーズを最初から最後まで全く途切れることなくたたみ掛け続けるDavid Tの姿が。6分近い楽曲の中で、途中、待ってましたとばかりに繰り出す高揚感溢れる構成力のソロパートと、ありとあらゆる引き出しを駆使しながらサラリと奏でる歌伴ギターの妙味。2000年代に突入しても、まったく衰えを知らず、それどころか艶やかさをグッと増したレジェンドのうたうギターは、もう一人のヴォーカリストのごとくそっと寄り添っている。

Euge Groove / Just Feels Right (2005)

80年代後半からスティーヴ・グローヴの名前で数多くのセッションで活動、その後、2000年代以降ユージ・グルーヴと名前をあらためたサックス奏者のこれが4作目。フレディ・ワシントン(B)、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、マイケル・ホワイト(Dr)、クラレンス・マクドナルド(Key)、トニー・メイデン(G)、レイ・パーカー・Jr(G)、レニー・カストロ(Per)ら豪華メンバーを揃え、オリジナル楽曲による明快なコンテポラリージャズを披露した意欲作だ。アルバムタイトル曲をはじめ「This Must Be For Real」や「12:08AM」で聴ける、一歩退いた立ち位置で静かに音を重ねるDavid Tの控え目バッキングは、主役グルーヴの情感こもったサックスと他楽器とのバランス加減をはかりながら、アンサンブルの一員に徹し微量ながらもここぞという一音で足跡を残す貢献。永きキャリアの中でも変わらぬ信条が、奏でられる音色から十分に感じ取れることの素晴らしさをあらためて実感。

Sir Gant & The Invisible Force / The Journey (2011)

ピーボ・ブライソンやアニタ・ベイカーらとの共演をはじめ70年代後半からキャリアを重ねる鍵盤奏者ディーン・ガントが、サー・ガント名義のソロユニットとしてリリースした一枚。バンドメンバーの一員としてガントが参加し共に来日公演も果たしているアル・マッケイをはじめ、マーカス・ミラー、パウリーニョ・ダ・コスタ、オマー・ハキムら多彩なミュージシャンが、人工的なサウンドに有機的なバックアップで調和するグルーヴを残すなか、David Tもその彩りを添える一員として参加。硬質なリズムトラックにガントのやわらかなヴォーカルが幾重にも寄り添うメロディアスな一曲「I'm Gonna Miss You」で聴けるゆるやかなギターフレーズや、ブルージーでジャズテイスト溢れる生ピアノが印象的な「Les Bleu」でのアコースティックなストリングステイストをも醸すバッキングなど、メリハリが強調されがちな澄んだサウンドに、一瞬で息吹を宿らせる音色で貢献している。

Jackson 5 / Come And Get It: The Rare Pearls (2012)

言わずと知れたポップスター兄弟がモータウンに残したレアトラック集。短いスパンで作品リリースを連発し、スター街道を突き進んだ70年代初頭の彼らの輝きが、精鋭スタッフによる親しみやすい楽曲づくりや、凄腕スタジオミュージシャンたちによるバックトラックのポピュラリティに大きく支えられていたという事実は熱心な音楽ファンには知られているところ。再発CDのボーナストラック化を含め、時折りリリースされる彼ら未発表音源の数々は、陽の目を見ず眠るトラックの膨大さを証明するとともに、当時の彼らが与えた影響力の大きさをも物語る。切っても切れない表裏の関係であったDavid Tのギターも、本作に収録された未発表音源の中にクッキリと刻印。その中の一曲「Would Ya Would Ya Baby」の出自は少々ややこしく、実際には72年にレコーディングされていた音源を、75年に「The Magic Disco Machine」名義でモータウンようりリリースされた企画盤『Disc-O-Tech』にインスト曲「Tryin' To Get Over」として収録されたもので、そのトラックに彼らヴォーカルを加えオクラ入りしていたバージョンが、未発表音源として本作で陽の目を見ることに。レコーディングやトラックの再利用を徹底した分業システムで商品化するモータウンという巨人のしたたかさと、ポップミュージック制作のなんたるかを、彼らレアトラックの存在そのものが示唆している。

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