David T. Works Vol.47

まだまだまだ続くこのコーナー。Vol.47の10選をどうぞ。

Aretha Franklin / Hey Now Hey (The Other Side Of The Sky) (1973)

上下逆さまでもアレサの顔が表現される不可思議テイストのアルバムジャケットが幾分地味な印象を与えてしまっている本作だが、中身の素晴らしさは折り紙付き。クインシー・ジョーンズが全面プロデュースを務め、ブルース、ゴスペル、ジャズ、ソウルのエッセンスをアレサ流に注ぎつつ旨みを十二分に絡め料理した一枚だ。フィル・ウッズのサックスプレイが光る「Somewhere」や、スイングテイスト満載の「Moody's Mood」、ビリー・プレストンが客演したブルースナンバー「Just Right Tonight」など、多彩な楽曲群を難なくこなすアレサの表現力は絶大。中でも、クインシーらしいオーケストレーションの調べが艶やかな実妹キャロル・フランクリン作のしっとりとしたナンバー「Angel」のしなやかでメロウな表現力には、いつまでもこの歌声に浸っていたいと思わせる説得力と感動がある。それに並んで凄みを持つもう一つの名曲がボビー・ウォマックのカヴァー「That's The Way I Feel About Cha」。穏やかな前半部分から次第に高揚する7分あまりの時間にアレサの魅力が充満するこの名演は、詳細なクレジットが記載されてないものの、バックアップするメロウなギターはDavid Tによるもの。永きに渡って事実関係が不明確だったが、David Tご本人が昔の記憶を辿った結果、間違いないことが確認。なお、エレピを生ピアノの置き換えたこの曲の別バージョンが、2007年にリリースされた未発表曲集『Rare & Unreleased Recordings From The Golden Reign Of The Queen Of Soul』に収録されている。

Gladys Knight & The Pips / Knight Time (1974)

前年ブッダ・レーベルに移籍した彼らが、モータウンに残した音源を傍系のSoulレーベルからリリースした一枚。録音音源が多かったのか、翌年75年にも本作同様の未発表集『A Little Knight Music』をリリースする彼らだが、だからといって、曲単位でプロデューサーが異なる寄せ集め的一枚と割り切るのは性急。脂の乗ったグラディスの歌声は力強く、安心感が充足する作品であることに間違いない。マイケル・オマーティアン、アーティ・バトラーら、モータウンではお馴染みの楽曲製作陣の中、4曲の製作と楽曲提供に関わったジョニー・ブリストルの貢献は目立つところで「Somebody Stole The Sunshine」や「Billy, Come On Back As Quick As You Can」など、アップテンポでしなやかなナンバーが印象的だ。David Tは、ジム・ウェザリー作のバラードナンバー「Between Her Goodbye And My Hello」に参加。ピップスが下支えするコーラスワークと、ジミー・ハスケル&ポール・ライザーによる柔らかなストリングスアレンジが化学反応する中、グラディスの歌声に呼応するDavid Tのギターフレーズは、俄然楽曲のクオリティに貢献していると思わせる説得力に満ちている。

Diana Ross / Diana Ross (1976)

日本では某飲料メーカーのCMにも使用された、映画「マホガニー物語」のテーマ曲「マホガニーのテーマ」や、メロウな前半部から一転してアップビートなファンキーサウンドが宙を舞う全米No.1ヒット「Love Hangover」など、有名曲を多数収録した76年作。スタンダード「Smile」や、ルーファス版でも知られるアシュフォード&シンプソン作の「Ain't Nothing But A Maybe」など、彼女の作品の中では地味な一枚だが、手堅いカヴァーの選曲も手伝ってバラエティに富んだ楽曲群が程よくまとめられた感のある一枚だ。David Tの参加は影は薄く残念だが、それでも「You're Good My Child」での弾力感たっぷりのカッティングや「Kiss Me Now」での隙き間を縫う得意のキラ星フレーズにどこかしら安堵感も。

Johnny Mathis / The Best Days Of My Life (1979)

盟友ジャック・ゴールドとの共作が続く70年代後半を締めくくる一枚。大きな路線変更はなく安定感たっぷりの歌世界がアルバムに充満。ランバート&ポッター作「Bottom Line」や、フリオ・イグレシアスで知られるコール・ポーターのスタンダード「ビギン・ザ・ビギン」など、ジョニー流ポップスの王道がずらりと鎮座する。アレンジワークと全編を流れるオーケストレーションを手掛けるのは名手ジーン・ペイジ、となればそこに加わるギタリストはDavid T。冒頭を飾る「Would You Like To Spend The Night With Me」や続く「As Time Goes By」の他、アップテンポでグルーヴィな「Gone, Gone, Gone」など、目立ったフレーズこそないものの地道で堅実なバッキングで貢献。そんな中、ジョニーらしさが120%発揮されるミドルテンポの「How Can I Make It On My Own」で聴けるDavid Tの静かでしなやかなプレイは、柔らかな佇まいに調和しながら楽曲の描く物語に心地良く横たわっている。

High Inergy / High Inergy (1981)

ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、フレディ・ワシントン(B)、クラレンス・マクドナルド(Key)ら西海岸人脈が名を連ねた直球ダンスナンバーが並ぶアッパーな一枚。レゲエ調ナンバー「I Just Wanna Dance With You」や、ダイアナ・ロス版でも知られるアシュフォード&シンプソン作の「Now That There's You」など、選曲にちょっとした変化球があるところもミソ。David Tは「Don't Park Your Loving」と「Soakin' Wet」の2曲に参加。マッキンリー・ジャクソンによるストリングスと80年代的硬質サウンドプロダクションの中で、キレのあるパーカッシヴなバッキングをさりげなく披露している。

The Love Unlimited Orchestra Presents Mr. Webster Lewis / Welcome Aboard (1981)

鍵盤奏者でありマルチな肩書きを持つウェブスター・ルイスが、バリー・ホワイトとタッグを組んだ一枚。ジャケットに写る本人の姿からわかる通り、ラヴ・アンリミテッド・オーケストラを指揮しディスコ的要素としっとりメロウな軽音楽風味を盛り込みながら、時代に即したフュージョンライクなテイストを意外な程丁寧に融合。その手腕は、かつてバリーが組んだジーン・ペイジのそれとはまたひと味違った個性で、総合プロデュースのバリーとともに、ラヴ・アンリミテッド・オーケストラの新たな音楽性を少しだけ垣間見せる。「Easin'」でキラ星のごとくいつものフレーズで応戦するDavid Tのプレイは、ギター音がさほど多くないアルバム世界の中で、存在感を際立たせている。

Smokey Robinson / Touch The Sky (1983)

年1枚のペースで新作をコンスタントにリリースするという意欲的活動を見せた80年代初頭のスモーキー。骨格に大きな変化は見られないものの、この時代特有のアップテンポなコンテンポラリーサウンドと自身のハイトーン&スモーキーヴォイスによるメロウサウンドが一体化した安定感抜群の作品だ。David Tもその片腕的存在を十二分に発揮。ミドルテンポの「All My Life's A Lie」や「Dynamite」、十八番的スローナンバー「Sad Time」など、地味ながらもクッキリと輪郭を残すサポートを果たす。ハイライトとも言える「Gone Again」で聴けるバッキングなのかリードなのかわからないくらいフィーチャーされたDavid Tのフレーズに、スモーキーからの絶大なる信頼と、彼にしか描けない音世界への憧憬を再認識してしまうのだ。

Crusaders / Ghetto Blaster (1984)

スティックス・フーパーに代わりドラマーがレオン・ンドゥグ・チャンスラーにスイッチした84年作。アーニー・バーンズのジャケットアートワークも印象的だが、裏ジャケに写るメンバーの顔写真が、ジョー・サンプル、ウィルトン・フェルダー、ンドゥグの3人のみであるところに、永きに渡るキャリアに必然ともいえる時代の変遷による過渡期振りが象徴されているようにも映る。その3人による共同プロデュースの体裁をとった本作は、時代の波に向き合いながらコンテンポラリーなインストミュージックを追求する意欲が、アップビートでノリの良い楽曲のテイストに投影されている。とはいえ、ジョーのとろけるエレピが縦横無尽に響く「Zalal'e Mini (Take It Easy)」など、姿を変えながらも彼ら流ジャズ&ファンクの持ち味は健在。バンドの一員としてこの時期、82年から毎年続いた来日公演の重要なサポートメンバーとしてフィーチャーされたDavid Tも、ゲスト参加名義ながら全力投球。ジョー・サンプル作の「Dead End」や「Gotta Lotta Shakalada」など、力強さと柔らかさが武骨に支え合う彼らスタイルに見事に調和するDavid Tのしなやかなプレイは、硬質なサウンドが謳歌したこの時代だからこそ求められた必然だったと痛感。

Michael Jackson / Looking Back To Yesterday (1986)

名義はマイケル・ジャクソンだが、ジャクソン5の楽曲も含めたモータウン在籍時の未発表曲集がこれ。シュープリームスやアイズレー・ブラザーズでも知られる「I Hear A Symphony」やジャッキー・ウィルソンの「Lonely Teardrops」など、オクラ入りにしておくにはもったいないトラックがズラリ。David Tは、1970年に録音されたという「Give Me Half A Chance」に参加。若き日のマイケルの躍動に映えるDavid Tのギターフレーズ。その図式は、約40年の時を経た今でも色褪せない輝きを放っている。

古内東子 / Hourglass (1996)

西海岸ミュージシャンと日本勢の2つの演奏陣をバックに、それぞれジェイムズ・ギャドソンと小松秀行の両者がプロデュースした5thアルバム。異なるスタイルの両陣営を彼女の歌声がしっとりと一つの個性に染めていく艶やかな一枚だ。メリハリの効いた「いつかきっと」から、本アルバム用にリミックスされたシングルヒット「誰より好きなのに」と続く冒頭の2曲に、伴奏陣のグルーヴと洗練がサラリと披露。彼女の描く切なさ溢れる感情表現は、強いダイナミクスと繊細さを伴って濃密に聴き手に迫る。ギャドソンがプロデュースした5曲のうち4曲に参加したDavid Tは、ゆったりとした表情の「心を全部くれるまで」や「おしえてよ」でのメロウなフレーズや、少数の伴奏者の中リズミカルに躍動する「ユラユラ」など、優しく感情に溶け込むプレイを披露。なかでもマイナートーンの「置き去りの約束」でのプレイは、切なさで溢れる詩世界を静かながらもキレ味鋭く解釈するDavid Tらしさが、描かれた物語の主人公たちの感情に横たわる今日と明日を見つめる視線として共鳴。砂時計の中を落ちる砂の一粒一粒のごとく投影された全10曲の想いとしなやかなアンサンブルは、時計が再び新しい時を刻みはじめるという予感も忘れてはいない。

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