Something for T. #05



David Tとかかわりのある様々な方にお話を聞く「Something for T.」のコーナー。第5回目にご登場いただくのは元The Changのギタリスト兼ボーカリストで、現在は武田カオリさんとのユニットTICAで活動する石井マサユキさんです。ギタリストとして非凡な才能を発揮する石井さんは、大のDavid T好きを公言されています。今回は石井マサユキさんに、David Tとブラックミュージックについて、そしてご自身の音楽観まで幅広くお話を伺うことができました。大変興味深い内容です。ぜひご一読ください。ご意見・ご感想、並びに石井さんへのお便りなどございましたら、 管理人ウエヤマ までぜひぜひお送りください!

【前編】




── まずはデイヴィッドとの出会いからお聞かせください。

石井マサユキさん(以下、石井):もう20年以上前ですかね。その頃いっしょによくいた友人たちがいわゆるレコードジャンキーというやつで。コレクターですね、所謂。で、いろんなレコードを見つける中で、彼らがセッションマンに着目しはじめたんですよ。

── セッションマンの仕事、というやつですね。

石井:60、70年代に一貫して屋台骨を支え続けているミュージシャンたちってのが存在しているということを、その頃意識したというか。で、そんなセッションマンの人たちも、数は少ないけれど、リーダーアルバムを発表してると。

── その辺りからデイヴィッドと接点が。

石井:当時は『Real T』(*David Tの4thアルバムの通称名)なんかがですね、そうですねぇ、7〜8000円だったかな。『Press On』はもっとしたかな。1万くらいしましたかね。『On Love』はもうちょっと安かった気がするけど。

── 結構高価ですよね。最近はもうそのODEの3枚はなかなか見つけるのが難しいようです。

石井:当時は決して手に入らないようなレアなものではなくて、お金を出せば手に入るっていう印象でしたね。デイヴィッドのアルバムでいうと、たまたまこの3枚を僕は手に入れて今に至っているんですよ。

── 雑誌「ギターマガジン」の96年8月号で、デイヴィッドと対談されてますよね。

石井:そうですね。あれがデイヴィッドとの初対面だったんです。ちょうどデイヴィッドが吉田美和さんのソロアルバム『beauty and harmony』に参加してる頃だったかな。で、僕はその頃ずっとデイヴィッドのことが大好きだっていろんなところで公言してたんですね。一方でそのギターマガジンに連載を持ってたりしてて。で、リットーミュージック(*ギターマガジンの発行元)の方の粋な計らいで対談が実現したんですよ。僕はその掲載された号を今持ってないんですけどね(笑)。

── 石井さんご自身へのデイヴィッド・Tからの影響って大きいんですか。

石井:そりゃあもちろん。あの変な饒舌というか……。時代を超えてあのデイヴィッドが弾くようなハンマリングオンとプリングオフのフレーズって使用され続けていますし、世代や時代や場所を超えて、デイヴィッドが弾いた様々なフレーズの持つファンクネスが与えた影響って大きいと思います。

── なるほど。

石井:ヒップホップにも、デイヴィッドの様なフレーズが絶妙にカットアップされて、なんともいえないメロウなトーンが作られているようなギター物のトラックが、定番としてありますね。ああいったファンクネスの原型になってるのがデイヴィッドのあの奏法だと思うんですよ。

── 間違いなくワン・アンド・オンリーですよね。

石井:ボビー・ウォマックとかカーティス・メイフィールドなんかもそういうギターの弾き方をしますね。彼らは実は非常に優れたギタリストなんだけれども、彼らはいわば「スター」だから、ギタリストとしてはあんまり注目されなかったろうけど。

── メッセンジャーとしての存在感は大きかったでしょうね。

石井:デイヴィッドのような人たちって、良くも悪くもスター性がないですよね。サイドマンだから当たり前なんですけど。その代わり腕は確かで。スター性のあるアーティストたちは、そういう腕の確かなデイヴィッドたちなんかと一緒に仕事する中で、テクニックを学んだりするんじゃないかな、ファンクネスという部分で。そういった誇りというか伝統みたいなものが、今のブラックミュージックにも受け継がれているような気はします。だから僕らが想像する以上に、デイヴィッドのようなセッションマンの存在って、ある意味ではすごく大きい存在なのかもしれないって思うこともあるんですよ。

── デイヴィッドのようなギターをサンプリングして加工して再利用する、という今のヒップホップ世代の黒人ミュージシャンにとっても、大きなステイタスになっているという。

石井:今の世代の黒人のミュージシャンからリスペクトを多く受けているソウル系のシンガーは、やっぱりカーティスとかダニー・ハザウェイとかスティーヴィーワンダーとかかな。60、70年代に重要な意味を持った彼らのメッセージにエネルギーを感じるのでしょうか。また、そういった聴かれ方とは別に、何かすごく引っ掛かる旋律があるとか、フレーズがあるとか、そういうことが重要だ、という聴かれ方もあるでしょう。そこのところが、スターとは違うデイヴィッドのような存在から受け継いでいる部分なのかな。その引っ掛かる部分ってのは、やっぱりあのハンマリングオンでありプリングオフ。あのファンクネス。そこなんじゃないかな。

── やはり彼らは「音」そのものに反応してるんでしょうか。

石井:そうでしょうね。デイヴィッドってのはある意味透明人間のような存在で、ああいったギターのフレーズにデイヴィッドという存在を見てる人ももちろんいるかもしれないけど、見てない場合の方が多いでしょう。デイヴィッド自身が弾いてるかどうかが問題ではなくて、デイヴィッド的なフレーズに反応する若い黒人ミュージシャンは今でも存在している。彼らは基本的には、もてたいとかカッコよく在りたいとか思ってスターを目指してるのだろうけど、そういう彼らがデイヴィッドに代表されるあのメロウなフレーズを、女の子達からもてる為のツールとして好んで使うということ、そのことをすごく不思議なことに感じます。

── 不思議なこと。

石井:単純に言ってデイヴィッドが活躍していた頃の音楽って古い音楽でしょう? 黒人音楽は、新しい、ということが一番重要な要素ですよね。たぶん日本のヤンキー文化なんかとそっくりでしょ、大衆的な黒人音楽文化って(笑)。とにかく目立つ、ピカピカ、女にもてる、というのが大原則。だからそんな古い時代の音楽からのカットアップを、もてる為のツールに変換できるってところが凄いなー、というかたくましいなー、と。ファンクネスって伝統なんだな、と。黒人音楽って一言でいってもいろんなジャンルに細かく分けられるけど、どのジャンルにも共通のファンクネスがあるように感じるし、時代も超えて受け継がれるんだな、と感じます。デイヴィッドのギターにも黒人音楽そのものというか、黒人の持つファンクネスそのものみたいな部分が濃く感じられます。だから70年代と今では全く違ってる状況があるにもかかわらず、デイヴィッド的なフレーズが場面場面でずっと必要とされ続けているのかな、と。

── 石井さんご自身もデイヴィッドのギターに黒っぽさを感じとってるわけですよね。

石井:それはそうですよ。デイヴィッドのギターって、僕にとってはもうずば抜けて黒いんですよ。表現とかフレーズとかあのギターの全てが僕にとってはブラックネスのかたまりなんです。あらゆる黒人ミュージシャンの中でも一番強烈にそれを感じるんですよね。妙にひきずるエキゾチックな感じもあるし。で、その感じっていうのは実はジミヘンとかとも共通する部分でもあるんですよ。そのことは以前デイヴィッド本人とも話をしたことがあって。

── 対談されたときですね。

石井:デイヴィッドのルーツってインディアンなんでしょ? ジミもそうですよね。で、インディアンってもともとアジア系で弦楽器に親しんできた文化ってのがあるから僕にもそういう血が流れてるんじゃないかって思うんだ、みたいな話を彼はしてました。デイヴィッドという人は非常に研究熱心な人なんですね。ルーツということについてもいろんなことを考えてる人なのでしょうね。






── ギタリストってそれぞれ個性があると思いますけど、デイヴィッドの魅力って何でしょうか?

石井:デイヴィッドはピッキングが細かいですよね。非常に神経質なピックのもち方をしますね(ここで、手でピックを持つ仕草をする)。弦楽器をコントロールするときに、弦に対してピックをあてるという行為の中で、一番レスポンスがいいんだけどもっとも乱暴になりかねない当て方なんですよね。かるくチョッパーしてるような感じでしょ。そんなアプローチで弦に当てているんじゃないか、って思うことがありますね。

── よく黒人ギタリストは手首を鋭角に曲げてアップストロークから入るという傾向があると言われますけど。

石井:うーん、それは知らなかったです。ま、ギターはそもそもかなり乱暴な楽器ですからね。それにそもそもポップスとかロックとかソウルとかって物自体が、乱暴で雑な文化のような気もしますし。

── 雑な文化。

石井:うん。まあ、雑な文化っていうとちょっと乱暴すぎる表現かもしれないけど。この半世紀の間に産まれた商業音楽ってそういうものだと思うんですよ。興奮のるつぼにみんなで落ちてしまおうっていうか。ただ基本はそうだけど、暗い過去や全く別の文脈のルーツを持つアフリカン・アメリカン達や、一部のマイノリティ達が、都市型の暮らしの中で文化を独自に進化させていく過程の中では、ポップスと一括りにはできないようなムードを持つ音楽も沢山産まれてますよね。

── うんうん。

石井:先程のスターの話とはちょっと矛盾しちゃいますが、60、70年代に活躍した人たちってのはポップアイコンと言うにはあまりに重すぎる存在に感じちゃう様な人達が大勢いますよね。60、70年代のあるミュージシャンたちってのは、何か神憑かってるような印象を受けるでしょ。自分がそう信じてきちゃった、というのもあるだろうけど。

── 確かにその感じはありますね。

石井:そういうことがホントかどうかは別にして、少なくとも60、70年代に彼らはそんなかんじの表現をしてますよね。もちろん60、70年代には彼等にそういった表現をさせるような社会的背景があったってことが切り離せないんだけど。この辺りのいろんなことはもっときちんと勉強したいですね。

── 石井さんもそうですけど、僕たちの世代はそういう70年代の音楽をリアルタイムで体験してない世代ですよね。

石井:当時、彼らがアメリカ国内で本当にどんなかんじで受け止められていたかというのは肌で知りたかったですね。当時のピカピカの不良達に、実際にはどんな風に聴かれていたんだろう? 意外と軽いノリだったりして、とか。でもやっぱり僕は60、70年代にはミラクルがあったって信じてます。やっぱり変だもん。60、70年代って。思い込みでもいい。このまま思い込んだまま老後を迎えるのも悪くないです。



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