David T. Works Vol.51

無数に存在するDavid Tのセッションワークには、きちんとクレジットされてなかったり、際立った特徴が薄く淡々としたプレイもあります。今回はそんな“控え目ワーク”なアルバムを中心に紹介。しかしこれもまたDavid Tの仕事。というわけで、まだまだまだ続くこのコーナー。Vol.51の10選をどうぞ。

Jerry Butler / The Soul Goes On (1968)

インプレッションズの名シンガーの68年作は、オーティス・レディング「Sittin On The Dock Of The Bay」やサム・クック「Chain Gang」などの名曲カヴァーをジェリー流に歌い上げる気合いとクールな繊細さが二重丸の好盤。全編アーサー・ライトによるアレンジが光る中、唯一ボビー・マーティンが手掛けたアルバム冒頭を飾るギャンブル&ハフ作「Never Give You Up」で、David Tは輪郭をつかむことも困難な小さなボリュームながらも、メロウな歌声の傍らでひっそりと堅実なプレイを披露している。

Mahalia Jackson / What The World Needs Now (1970)

ゴスペルシンガー、マヘリア・ジャクソンのスタジオレコーディングとしては最後となるアルバム。のちに多くのシンガーに影響を与えたと言われる、スピリチュアルで荘厳な佇まいの歌声が全編に溢れる中、バカラック作のアルバムタイトル曲「What The World Needs Now Is Love」やピーター・ポール&マリー「Day Is Done」、ジャッキー・デシャノン「Put A Little Love In Your Heart」など、ポップで親しみやすい楽曲がところどころに配置され、その躍動が時代の気分と実にマッチ。David Tの貢献は薄く、聴き慣れたいつもフレーズは影を潜めているものの「Joy In The Morning」などで、バックアップに徹するプレイで彼女を控え目ながらも支えている。

Donovan / Essence To Essence (1973)

英国のフォーキー詩人ドノヴァンの73年作。アラン・スペナー(B)、ヘンリー・マッカロウ(G)、ピーター・フランプトン(G)といった英国勢と、トム・スコット(Sax)、クレイグ・ダージ(Piano)、ダニー・クーチ(G)といった米国勢の凄腕達を集合させたアンドリュー・オールダムのプロデュースワークは、彼らの堅実なバックサウンドとドノヴァン特有の弾き語りによるアコギの音色と歌声が抜群の調合で渡り合う一大絵巻。ラストを飾る「Sailing Homeward」ではキャロル・キングがピアノ参加も果たすなどバラエティに富んだ色彩を残している。「1971年に彼とレコーディングした」と回想するDavid Tの証言からも、おそらくは数年に渡って録音されたトラックをまとめあげた一枚。なぜかDavid Tのクレジットは見当たらないが、おどけたテンポも楽しい「Yellow Star」で奏でられるヘンリー・マッカロウのギターの横で、うっすらと弾力的リズムを刻む特有の音色を僅かだが聴くことができる。

Willie Hutch / Color Her Sunshine (1977)

マルチプレーヤーにしてソングライター、ウィリー・ハッチの76年作。華やかで高揚感漂う冒頭の一曲「Come On Girl Let's Get It On」にはじまり、メロウな風貌のタイトル曲「Color Her Sunshine」や、スローテンポでしっとりと迫る「She's Just Doing Her Thing」など、主役であるウィリーの絶好調ぶりと安定感抜群の制作力を楽曲自身が物語るしなやかな彩りが全編を支配。クレジット表記には現れてないもののDavid Tは「We Can Make It Baby」に参加。実はこの曲、マーヴィン・ゲイのセッション用に1972年に録音された一曲で、そのバックトラックにウィリー本人が歌入れして仕上げたもの。マーヴィン版はこれまで陽の目をみることは無かったが、2001年にリリースされたCD「『Let's Get It On』デラックスエディション」で初披露されている。

Maxine Nightingale / Love Lines (1978)

リオン・ウェアの「If I Ever Lose This Heaven」を収録した1976年作『Right Back Where We Started From』が90年代に再評価された英国シンガーの一枚。当初本作は欧州のみでリリースされ、後に収録曲を再編して1979年に『Lead Me On』と題して米国でもリイシュー。時代の空気にマッチしたアップテンポでダンサブルな「You Got To Me」や「(Bringing Out) The Girl In Me」と、メロウテイスト溢れる「Lead Me On」や「Someone Like Me」といった楽曲がバランス良く配置された仕上がりは、レイ・パーカーJr(G)、エド・グリーン(Dr)、ラリー・カールトン(G)、デヴィッド・ハンゲイト(B)ら米国西海岸勢を起用しアレンジャーとして手腕を発揮したミシェル・コロンビエの貢献が大。そんな中「I Die Inside Without You (Darlin' Dear)」で聴けるラリー・カールトンのギターフレーズの横に、ホンのごく僅かな音量バランスで瞬間よぎるDavid Tの音色は、クレジットこそないものの、その控え目なひっそり加減がたまらなく愛おしく響く絶妙のワンポイントリリーフだ。

Crusaders / Street Life (1979)

永きに渡る彼らのキャリアで最も知られているであろう代表作。ポップで居心地良いフュージョンサウンドと一言で片付けられそうなテイストが充満する本作だが、さりげないストリングスの挿入やリズム楽器の複雑な調合など、さらりと通り過ごせない高度な音楽性と、体のどこかに引っ掛かりを覚えてしまうゴツゴツとした塊のような個性が所々に見え隠れするところが彼らの真骨頂。ツボを得たバリー・フィナティーのギターソロやジョー・サンプルの流れるようなエレピが堪能できる「Rodeo Drive (High Steppin')」でも、クールで洗練された音世界の隙き間から覗く“テキサスファンク”の水脈は、グッと抑制されたカタチで熱を帯びながら居座っている。David Tはほとんど輪郭を捉えることのできない控え目な参加。だが、ランディ・クロフォードをフィーチャーして大ヒットしたタイトル曲にもその息吹がひっそりと溶け込んでいることを、演奏する彼らの姿を脳裏に映しながら想像するだけで、実にワクワクした心持ちになるから不思議だ。

Tramaine Hawkins / Tramaine (1979)

エドウィン・ホーキンス・シンガーズやウォルター・ホーキンスといった“ホーキンスファミリー”の一員として活動したゴスペルシンガー、トラメイン・ホーキンスが満を持してリリースした1stソロアルバムは、そのウォルター・ホーキンスの全面的バックアップによる肝煎りの一枚。伸びやかな懐深い歌声でポテンシャルを存分に発揮する「Lord I Try」や、ダウン・トゥ・アース感覚ながら洗練されたリズム&ブルースの「Highway」をはじめ、ゴスペルに根ざしながらもポップな感覚をフィーチャーしたアレンジに全編おおらかさが充満する仕上がり。中でも際立っているのはストリングスの調べと多彩なコーラスワークによるゴスペルサウンドに乗って歌う彼女の歌声が実に素晴らしい「Holy One」。多くの楽器が重なるアンサンブルの背後に、極めて小さな音量で瞬間的にメロウに奏でるDavid Tの優しいフレーズをアクセントにしながら次第に高揚する壮大なアレンジのこの一曲に、彼女のシンガーとしてのポテンシャルと魅力が象徴的に描かれている。

Whisper / Whisper in Your Ear (1979)

Solarレーベルからの79年作。きらびやかで躍動感溢れる彼らのサウンドは時代によって幾分テイストを変えるものの、十八番のコーラス&ハーモニーワークに流れる心地良さは毎度健在。その心意気が冴え渡る本作の仕上がりも安定感たっぷりで、安心して心と体を預けながら楽しめる一枚だ。永きに渡るキャリアの中で旧知の間柄であるDavid Tとは呼吸もぴったり。「If I Don't Get Your Love」や「You'll Never Get Away」から僅かに聴こえるDavid Tのギターフレーズは、いつもの特徴的音色は幾分影を潜める控え目な色合い。それでもレコーディング現場で彼が必要とされることの意味を、表現者として並々ならぬ個性を持つ稀有な存在としてあらためて感じてしまうのだ。

Robert Guillaume / This Is The Moment (1996)

俳優ロバート・ギヨームが長年の活動の中でシンガーとして歌声を残した楽曲を集めた一枚。アルバムのほとんどの楽曲アレンジをジーン・ペイジが務めた本作は「ジキル&ハイド」「ライオン・キング」「オペラ座の怪人」「美女と野獣」といった物語の楽曲を中心に歌うという企画盤。クレジットはないもののDavid Tは「Love Theme "For You"」と「What Are Friends For」の2曲に参加。いずれも80年代初頭のセッションを再編集するカタチで収録。「What Are Friends For」は、当時のTV番組でグラディス・ナイトとデュエットする映像も残されている。

Marvin Gaye / Very Best Of Marvin Gaye (2001)

新たなミックス版や未発表音源の収録など手を替え品を替えしてリリースされるマーヴィン編集企画盤の数々。本作もデビューから晩年までのヒット曲をバランス良く配置したベスト盤で、彼のヒストリーを知るに適した一枚。その中でキラリと光る未発表曲「Where Are We Going?」にDavid Tが参加。この曲、フォンス&ラリーのミゼル兄弟制作によるドナルド・バードの1972年作『Black Byrd』に収録されDavid Tが素晴らしいバッキングプレイを披露する同名曲と同じ楽曲で、奇しくも同じ72年に同じくミゼル兄弟が手掛けマーヴィンが歌入れしたバージョン。異なるアレンジ以上に主役のマーヴィンの歌声が楽曲の雰囲気をひと味違ったものにしており、その存在感はさすがの一言で、同じ2001年リリースの「『Let's Get It On』デラックスエディション」にも収録された。こんな未発表曲がまだまだたくさんオクラにあるのかもしれないという想像は、聴き手の期待感をくすぐるに充分で、あらゆる意味でマーヴィンの大きさを痛感させる。

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