その“Thoughts”が心に響く ─ 新作『Thoghts』に寄せて ─
心に響く音楽。そんな音楽に接したとき、なぜ心に響くんだろうと考えてしまうことがある。音楽には人の気持ちを動かすチカラがあると言われるし、それにはいろんな意見があるだろう。でも、よくある一般論的な見解はともかく、無条件に自分自身を振り返って見つめさせるチカラを持った音楽が僕の身の回りにはある。
デヴィッド・T・ウォーカーの新作『Thoghts』を聴いて、またそんな感覚が沸いた。ソロアルバムとしては13年ぶり。一瞬にしてその時間を埋めるに十分な、彼にしか描けない世界がここにあった。フレーズやバッキング、そして一音一音から響いてくる音色に大きな変化はない。“うた”を奏でるかのごとく呼吸するギターの音色は、どこまでも優しく、時に激しく、心の琴線に触れる感覚で聴き手を魅了する。決して大仰でなく、ただひたすら聴いて感じる柔らかな肌触りは、この世に数ある音楽の中でも他には感じ得ぬ種類のものだ。
収められたのは、カヴァー曲とオリジナル曲とを織り交ぜた12曲。自らの腕を信じ激動のミュージックシーンを渡り歩いた60年代から70年代を経て、日本主導での活動が増えた80年代から90年代は、オリジナル曲の比重も増えながら自己の音楽性や表現を追い求めた。それから13年という年月を経てカタチになった本作は、自身のキャリアを振り返りながら、自らが、今、プレイしたいという自然体の感覚によって選ばれた12曲が顔を揃えた。カヴァー曲には、自身にも馴染みがあり、支持してくれる日本人にも親しみのある楽曲をチョイスした彼一流の配慮も感じられる。バリー・ホワイト、マーヴィン・ゲイ、ルー・ロウルズといった時代を共にした亡き3人の楽曲をとりあげたところにも、長いキャリアを経た上での深い“想い”が垣間見える。オリジナル3曲のタイトルには、彼の真摯で思慮深いパーソナリティがさりげなく込められてもいる。アルバム全体を俯瞰したとき、すべてがそのスピリットと直結する表現として、これまでと同様に貫かれているところに彼の変わらない凄みを感じるのだ。
その音に触れれば触れるほど、きめ細やかな人間性までもがクローズアップされてくるという音楽。そこにあるのは、演奏者としての自信や表現者としての創造性を背伸びして作品に込める意志ではなく、彼が日々感じ、常々思考する日常の中で溢れ出た感情やプライドがそのまま無理無く投影されたような清々しさだ。アーティストとしての主義主張を、聴き手に必要以上に強制しない肩のチカラを抜いた感触。自己の“想い”と表現が一体化し、一切のブレがないという凄さは、デヴィッド・T・ウォーカーという存在の大きさを、振り返って聴き手自身にも響かせる。人生の一部となった音楽という表現に寄りかかり過ぎず離れ過ぎずのバランス感覚で、等身大に歩んだ彼のおおらかな信条が、決して代替の効かないオリジナリティ溢れるサウンドとして繰り出されることに深く共感するからだ。
巨人。バッキング職人。ギター名人。そのプレイには幾多の賞賛と敬意の形容がなされた。もちろんそれら言葉に偽りはなく、賛辞はむしろ足りないくらいだ。でも今日は少しだけそれを忘れてみたい。彼の指から、笑顔と渾身の表情で繰り出される、ギターという“Voice”にひたすら耳を傾け、体全体で浸ってみたい。繊細で美しい音色、鋭く艶やかな音色、どこまでも優しい音色。それをありのままに受けとめたとき、包み込まれるような大きさを実感すると同時に、きっと僕らは自分自身の音楽に対する気持ちに向き合ってみたくなる。それが彼の“Thoughts”なら、僕はいつでもそれを感じたい。彼の音楽を好きで良かったという確信が、また一つしっかりと心に響くはずだから。
Thank You David, Press On ! With A Smile.
2008.11.05 ウエヤマシュウジ
●収録曲(全12曲)
01. Global Mindfulness (David T. Walker Original)
オープニングを飾るはデヴィッド・Tのオリジナル曲。ライヴ感覚溢れるアンサンブルと、どんな環境でも誰に対しても心を配る想いが大切なんだ、というデヴィッド・Tの心持ちが推し量れるタイトルが、アルバム全体の“想い”を示唆しているようで感慨深い。
02. Love's Theme
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[ Original : Love Unlimited Orchestra『Rhapsody In White』(1974) ]
バリー・ホワイト率いるラヴ・アンリミテッド・オーケストラの代表的一曲。デヴィッド・Tは原曲でもバッキングを務めたが、本作では同じく原曲でプレイしたギタリスト、ワー・ワー・ワトソンがゲスト参加。原曲で聴けるオーケストレーションとのコラボレーションとはまた違ったコンパクトなアレンジだが、楽曲の持つ存在感はやはり格別で、デヴィッド・Tも伸びやかで大きなフレーズを刻んでいる。
03. Street Life
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[ Original : The Crusaders『Street Life』(1979) ]
クルセイダーズが残した80年代の名曲。デヴィッドTが80年代のクルセイダーズのライヴツアーメンバー在籍時にはステージでこの曲を幾度も演奏していた。スローでメロウな楽曲が多い本作の中で、バンドメンバーと一体化したグルーヴィーなノリが楽しめる一曲だ。
04. Watch What Happens
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[ Original : Michel Legrand『Les Parapluies de Cherbourg (Soundtrack)』(1964) ]
フランスの作曲家&アレンジャー、ミッシェル・ルグランが、カトリーヌ・ドヌーブ主演の映画『シェルブールの雨傘』で披露した名曲(原曲タイトルは「Recit de Cassard」)。フランク・シナトラ、アンディ・ウィリアムス、サラ・ヴォーンなど、数え切れない程多くのカヴァーを生んだ、シンガーなら必ず一度は歌いたい的スタンダードナンバー。
05. How Sweet It Is
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[ Original : Marvin Gaye『How Sweet It Is To Be Loved By You』(1965) ]
マーヴィン・ゲイが60年代に残した一曲。1974年にリリースされたマーヴィンの伝説的ライヴアルバム『Live!』ではデヴィッド・Tがバッキングを務めた。愛される感情への想いを歌ったR&Bフィーリングたっぷり一曲のチョイスに、デヴィッド・Tのアルバムへの想いと音楽的嗜好の一端があらわれている。
06. Ribbon In The Sky
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[ Original : Stevie Wonder『Original Musiquarium I』(1982) ]
数あるスティーヴィー・ワンダーの名曲の中でも屈指のメロディで個人的にもフェイバリットの一曲。デヴィッド・Tは過去にタイロン橋本の94年作『Key To Your Heart』でもこの曲のバッキングを務めている。今回は原曲に近い構成だが、クラレンス・マクドナルドのピアノが楽曲の美しさを際立たせながら終盤徐々に繰り広げられる高揚感に感動が増幅。ライヴにもそのまま持ち込めるアレンジとバンドアンサンブルが実に素晴らしい。ギターフレーズにスティーヴィーの歌声が重なるように広がりながら、新たな情景を描き出すデヴィッド・Tらしさ溢れる珠玉の一曲。感涙です。
07. Generosity Of Spirit (David T. Walker Original)
デヴィッド・Tのオリジナル曲。ンドゥグ・チャンクラーの強烈なドラムで幕を開ける痛快テンポのこの一曲はライヴでも映えそうなドライヴ感とおおらかさ。2007年の来日公演で実証されたバンドメンバーの一体感がさらに加速されたような一曲だ。
08. You Make Me Feel Brand New
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[ Original : The Stylistics『Rockin' Roll Baby』(1973) ]
フィリーソウルを代表するグループ、スタイリスティックスの名曲カヴァー。デヴィッド・Tはペギー・リーの1974年作『Let's Love』に収録された同曲カヴァーで、数多い彼の名バッキングの中でも指折りのミラクルな名演を残している。本作ではボーカリストが不在だが、歌メロ部分とバッキングの両方をギターで担い表現するソウルフィーリングが絶妙だ。
09. You'll Never Find Another Love Like Mine
[ Original : Lou Rawls『All Things In Time』(1976) ]
盟友ルー・ロウルズを代表する一曲。彼のライヴツアーに同行する機会の多かったデヴィッド・Tは、ステージで必ずといっていいほど歌われたこの曲を伴奏していた。いつもはルーが歌っていた旋律をギターフレーズとして甦らせて演じた、2006年ツアー半ばにして急逝したルーへのトリビュートとなる一曲だ。
10. If You Don't Know Me By Now
[ Original : Harold Melvin & The Blue Notes『Harold Melvin & The Blue Notes』(1972) ]
フィリーソウルの名コンビ、ギャンブル&ハフ制作の中でもひと際多くのアーティストにカヴァーされたハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツを代表する一曲。デヴィッド・Tのソウルフィーリングが充満したスウィートな肌触りが実に素敵で素晴らしい。
11. I Want You
[ Original : Marvin Gaye『I Want You』(1976) ]
全曲リオン・ウェアのペンによる楽曲をマーヴィン・ゲイが歌ったアルバム『I Want You』の表題曲。このマーヴィンのアルバムにデヴィッド・Tは数曲バッキングで参加しているが、この「I Want You」には不参加。その後、チャック・レイニーとのジョイントユニット“レイニー・ウォーカー・バンド”が1994年に唯一残したアルバム『Rainey Walker Band』でこの曲のカヴァーを披露している。本作では、デヴィッド・Tのアグレッシヴでメロウなプレイとバンドアンサンブルが一つになって次第に高揚していく見事な一曲に仕上がっている。
12. Thoughts (David T. Walker Original)
ラストを飾るのはデヴィッド・Tのオリジナル曲。ゆったりと落ち着きのあるメロディから情感のこもったイメージが伝わってくる姿が実にデヴィッド・T的。タイトルに込めた“想い”は、アルバム全体を締めくくるに相応しい深く柔らかな趣きを残している。
(2008.11.05 ウエヤマシュウジ)
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