『Thoughts』リリース記念インタビュー特別編
─ 月刊誌『ADLIB』掲載David T. Walkerインタビュー完全版を特別掲載! ─


ニューアルバム『Thoughts』のリリースに合わせて、幾つかのメディアでデヴィッド・T・ウォーカーへのインタビューが執り行われました。その中の一つ、月刊誌『アドリブ』2009年1月号に掲載されたインタビュー記事について、インタビュアーの音楽ライター金澤寿和さんとアドリブ様のご厚意により、誌面では掲載されなかった部分を含めた「完全版」を、当サイトにて発表できることになりました。ぜひご一読ください!


David T. Walker
『Thoughts』('08)


金澤寿和(以下、金澤):13年ぶりの新作ということですが、アルバムが生まれる経緯について教えてください。

David T. Walker(以下、David T.):もう何年も、長年の友人であるDREAMS COME TRUEのマサト(中村正人)とミワ(吉田美和)から「新しいアルバムを」と提案されてきたんだけど、昨年(2007年)の暮れから話が本格化し始めたんだ。今年(2008年)の1月に、彼ら2人がL.A.に来て何回かミーティングを重ねてね。とりあえずみんなで曲を選んでみようということになって。どんなことができるかな?ってね。それが始まりだった。ホントのところ、最初はアルバムを作るつもりはなかったんだ。自分の中ではアルバムを作ることがそんなに重要なことではなかったからね。ただ、作り始めてからは、次第に自分の中で重要な位置を占めるようになっていったという感じだね。

金澤:なぜ、さほど重要ではなかったのですか?

David T.:60年代からずっと音楽を演ってきて、今、音楽的に自分が言いたいことや表現したいことが無いような気がしていたんだ。そもそも「自分の音楽を作る」ということすら、頭に考えがなかった。その間も、いろんなアーティストと演奏したり忙しくしていたのでね。あと、ミュージックビジネスの“ビジネス”の部分が少し複雑になりすぎて苦手だし、あまり好ましくないという気持ちもあった。でも、去年、日本で自分のバンドでライヴを行ったことがとても心地良くて素晴らしい経験だった。それが、レコーディングをしてみようかと思うようになったきっかけだった。20曲以上の候補から実際に録音する曲を選び、3曲のオリジナル曲を書いて、ミュージシャンやエンジニア、スタジオを決めたり、全部自分でやったんだ。

金澤:特にこの数年間、Ode時代をはじめ、80年代や90年代のソロアルバムが再発になったり、来日公演がDVD化されたり、徐々に盛り上がっていって、そして最後の砦が今回のニューアルバムだってことで、この流れが非常にうれしいものだったんですけどね。

David T.:その通りだね。マサトやミワだけでなく、日本にいる多くのファンから「早く新作を」って、たくさん声が届いていたからね。

金澤:新作ではどんな構想を描いていたんですか?

David T.:まず最初に、自分が好きなアーティスト、もしくは自分がオリジナルのレコーディングでいっしょにプレイしたことがあるアーティストの中から楽曲を選ぼうと考えた。メロディがちゃんとあるってことも大切で、そのメロディを自分がきちんと感じられてそれをギターで表現できるような曲。そういう曲を選んだんだ。

金澤:オリジナル曲はいつもデヴィッドさんのスピリットが表現されてるように思うのですが、タイトルだけみると我々日本人にはあまり馴染みのない言葉というか、そういう印象も受けました。それぞれどういうメッセージが込められているんでしょうか?

David T.:普段は自分で書いた曲を説明したりはしないんだけどね。まずは聴いてもらうのが一番。それ以上のメッセージはない。“Music speaks for itself”さ。音楽が音楽を語る。音楽というのは、聴いて“いい”と感じるか、何も感じないか、そのどちらかだと思うので、あとは、このタイトルからこの曲のヒントを掴んでもらえればいいし、自分のギタープレイからもなんとなく感じてもらえると思う。それ以上のことはあえて自分からは何も言わないようにしているし解説はしたくないんだ。でも今回は、曲を書いたときの気持ちを少しでも知ってもらうことが重要かなと感じたので、アルバムのブックレットに自作曲の紹介を入れてみた。タイトルを見ると、ある程度私のメッセージをわかってもらえるんじゃないかなと思う。例えば「グローバル・マインドフルネス」という曲のタイトルを見てもらえれば、地球の尊さとか大切さとか、そこに住む人間たちへの意識とか思いやりのことについて何か感じてもらえると思う。ブックレットに書いたものは、そのときの自分の気持ちなので、それを読んでもらって、そしてまずは音を聴いて、それぞれ自分自身で感じてもらえるとうれしい。ギタープレイと同じで、自分の感じる気持ちや言葉による解説というのは、今日と明日では変わるかもしれないので、意味がなくなってしまうかもしれない。クリエイティブ・ライセンスという言い方をするけど、創作物というのは今日は今日で、明日は明日で違うものになることがあるからね。

金澤:では、カヴァー曲について教えてください。

David T.:バリー・ホワイトの「愛のテーマ (Love's Theme)」は、当時レコーディングしたときのことを良く覚えている。原曲は世界中で大ヒットした曲で、楽曲の中で自分も大きなパートを担っていたし、ジーン・ペイジのストリングスもすごく大切だった。バリーとは何枚もアルバムを作ったけど、その中でもこの曲はとてもハッピーなサウンドだったし、今はもうこの世にいないバリーへのリスペクトの気持ちを込めて選んだ。バリーが70年代以降、ポピュラーミュージックに果たした役割とか影響というのはとても大きくて、そんな彼と知り合えて仕事ができたことは名誉なことだと思うね。

「愛のテーマ (Love's Theme)」の原曲が収録されている、バリー・ホワイト率いるLove Unlimited Orchestra『Rhapsody In White』('74)

金澤:原曲にも参加しているワー・ワー・ワトソンさんとは久しぶりの共演では?

David T.:4〜5年くらい演ってなかったかな。久しぶりに電話して手伝ってもらうことにしたんだ。

金澤:ワー・ワーさんもそうですが、今回の新作にはアル・マッケイさんも参加してますね。いわゆるカッティングの名手二人を起用していますが、ご自身のギタープレイとのコンビネーションは意図的だったんですか?

David T.:彼のギタースタイルはカッティングスタイルだってことは当然意識していたし、それでお願いした。アル・マッケイはホントに彼が小さな頃から知っているんだ。ワー・ワーはクレイジーでいつも笑わせてくれるホントに面白い男なんだよ(笑)。

金澤:そういえば、先週はレイ・パーカー・Jrさんが来日していました。キャロル・キングさんも今、来日してます。デヴィッドさんと同じ日に公演があるんですよ。

David T.:キャロルか……久しぶりに会いたいなあ。

「Street Life」の原曲が収録されているThe Crusaders『Street Life』('79)

金澤:クルセイダーズの「Street Life」を選んだのは?

David T.:クルセイダーズの中でボーカルソングは案外少ないからね。ミワが大好きな曲だということもあって選んだ。この曲はクルセイダーズの原曲でも私は少しだけギターを弾いてる。ほとんど聞こえないと思うけどね(笑)。ミワがこの曲を演ろうと言わなかったら、自分からはこの曲を演ろうとは思わなかったかもしれないけど、大好きな曲だし、クルセイダーズで来日したときも何度も演ってるしね。

金澤:クルセイダーズの曲を演るのであれば、もっと初期の曲を演るんじゃないかと思ったので、ちょっと意外な選曲でした。

David T.:意外とコードチェンジが大変な曲でね(笑)。メロディも案外トリッキーなんだよね。

Joe Sample & David T. Walker『Swing Street Cafe』('81)

金澤:クルセイダーズと言えば、ジョー・サンプルさんとの共演アルバム『Swing Street Cafe』がヨーロッパから最近また再発されました。

David T.:『Swing Street Cafe』は、ジョーとブルースアルバムを作ろうよ、って作ったアルバム。ベースがジェイムズ・ジェマーソン、ドラムがアール・パーマーでね。テープを使わずにダイレクトに録音する方式をとったので大変だったよ。スタジオで作ったとはいえ、あればライヴ・レコーディングに近いものだった。あと名前の表記。グループ名として、どっちの名前を先に表記するかで揉めたよ(笑)。

金澤:その他のカヴァー曲は、まるでモータウン・クラシックのような選曲ですね。

David T.:60年代のモータウンでは、オリジナルで弾いたかどうかは定かではないんだよ。その頃はミュージシャンはクレジットされなかったことが多かったからね。

「I Want You」の原曲が収録されているMarvin Gaye『I Want You』('75)


「Ribbon In The Sky」の原曲が収録されているStevie Wonder『Original Musiquarium I』('82)


「Watch What Happens」の原曲が収録されているMichel Legrand『Les Parapluies de Cherbourg (Soundtrack)』('64)


「別れたくないのに (You'll Never Find Another Love Like Mine)」の原曲が収録されているLou Rawls『All Things In Time』('76)


「You Make Me Feel Brand New」の原曲が収録されているThe Stylistics『Rockin' Roll Baby』('73)


「If You Don't Know Me By Now」の原曲が収録されているHarold Melvin & The Blue Notes『Harold Melvin & The Blue Notes』('72)

金澤:マーヴィン・ゲイの「I Want You」についてはどうですか?

David T.:この曲は、リオン・ウェアとTボーイ・ロスが書いた曲。他にもマーヴィンの曲は好きで「What's Going On」なんかも演ることが多いけど、この「I Want You」という曲はマーヴィンっぽい曲だなと思うね。

金澤:スティーヴィー・ワンダーの「Ribbon In The Sky」は?

David T.:スティーヴィーは、彼が「リトル・スティーヴィー」と呼ばれていた頃から知ってるし、最初に日本に来た1968年は、スティーヴィーたちといっしょだった。「Ribbon In The Sky」は、めちゃくちゃ有名というよりは、隠れた名曲という感じ。でも、この美しいメロディが私のギターに合ってると思ったんだ。

金澤:ミシェル・ルグランの「Watch What Happens」は?

David T.:たくさんの人がカヴァーしている曲だよね。この曲で描かれているストーリーが好きなんだ。「誰かがあなたの心の中に入って来たら何が起こるかその行方を見ていてごらん」というような歌詞の世界がね。ミシェルとは、70年代始めに映画音楽で何回かいっしょに仕事したこともあったね。

金澤:ルー・ロウルズやスタイリスティックスのようなフィリー・ソウルの楽曲も選んでますが。

David T.:ルー・ロウルズは、80年代後半から90年代にかけてアメリカ国内やヨーロッパでいっしょにツアーを廻っていた。今回カヴァーした「別れたくないのに (You'll Never Find Another Love Like New)」は大ヒット曲だったのでステージでは必ず演っていた。何度も弾いてきたのでメロディもすっかり頭に入ってるよ。スタイリスティックスの「You Make Me Feel Brand New」は、やはり歌のストーリー好きなんだ。「自分以外の相手、それは奥さんだったり恋人かもしれないけど、そういう人によっていつも自分が新しい自分になれる、新鮮な気持ちになれる」というハッピーな歌詞が好きだね。ボーカルハーモニーも好きだし、この曲を最初に聴いた時に感じた「この曲が好き」という気持ちは今もずっと同じなんだ。「If You Don't Know Me By Now」は、「今この時点で僕のことを知らなければ、これから先、もう知ることはない」という曲で、厳密に言うとこれはラヴソングじゃないけれど、でもラヴソングのようにも聴こえる。この曲も初めて聴いたときから好きだった曲。今回、最初に聴いたときから長年ずっと好きな曲が多いかな。そういう意味では、今回はポピュラー・ソングに対する私の嗜好があらわれているかもしれないね。

金澤:曲のストーリー性を意識されて選曲したという印象が強いです。

David T.:そうだね。曲のメロディを覚えるときは、歌詞の意味を理解しながら覚えるんだ。でもレコーディングの段階になると、一度自分の中で消化してしまうので、あえて聴いたりもしないし、覚えてなかったりもする。歌の世界が判った後は、そこから自分自身がどういうインプレッションを受けるかということが大切で、それを感じながらギターをプレイするんだ。

金澤:今回、何か音楽的なチャレンジがあったとしたら、それはどんなことだったんでしょうか?

David T.:例えば、初期のキャリアではよくカヴァー曲をやったりしたけど、ここ最近のアルバムではバカラックナンバーをカヴァーした『Beloved』を除けば、カヴァー曲をほとんど演らなかった。でも聴く人にしてみれば、耳馴染みがあるカヴァー曲のほうがいいんじゃないかって思ったんだ。自分は自分のためだけに音楽をやるわけではなく、聴いてくれる人たちのために演るわけだからね。あとは、ここ10年から20年、特にポップスの世界では、コンピュータを使ったものが多かったので、今回は生のミュージシャンたちで全てを演った。それは今の時代には、ある意味で「チャレンジ」なのかもしれないね。もちろん、コンピュータに対して、何ら敵対する意識などないけど、生身のミュージシャンが集まって「せえの」って演ることを超えることはないと思う。

金澤:心あるミュージシャンの多くは、生の演奏スタイルに戻っている、というところはあるかもしれませんね。コンピュータはレコーディングシステムとして使うという、演奏は生でというのが増えてるように思います。

David T.:その通りだね。生きてるミュージシャンがいた、ということも「チャレンジ」の一つだったかもね(笑)。

金澤:今回、カヴァー曲があって自作の曲もあるという点では、オード時代のアルバムの流れに似ているなと思ったんですね。その辺りは意識していたのですか?

David T.:自作曲とカヴァー曲、そのミクスチャーな感じが好きなんだ。みんなが知ってるカヴァー曲に、今の自分の想いを音楽的に加えたいという感じかな。

金澤:メンバーはここ数年いっしょにバンドもやってるンドゥグ・チャンクラーとかバイロン・ミラーとかのグループと、もう一つカーティス・ロバートソンやジェフ・コレラ、ケニー・エリオットなどのもう一つグループ、計2つのグループで録音してますが。

David T.:ジェフやケニーとは、ルー・ロウルズのバンドで知り合ったんだ。かれこれ15年くらいになるかな。

金澤:過去のソロアルバムに習うと、3枚ごとに区切りがあるんですけど(笑)。

David T.:確かにそうだね(笑)。別に計画していたわけではないんだよ。実は、娘も3人なんだけどね(笑)。

金澤:「3」という数字がお好きなんですかね?

David T.:どうだろう? 数字ってことでいうと「7」か「1」が好きだね。特に「1」が好き。

金澤:もちろんあなたは「No.“1”」ギタリストです。

David T.:そうは思わないけど、ありがとう(笑)。「1」が好きなのは「No.1」という意味ではなく、「すべては一つ、一つになれる」というような意味で好きだね。

金澤:今後、いっしょに演ってみたいなと思うミュージシャンはいますか?

David T.:個別の名前はあまり言いたくないんだけどね。でも、ノラ・ジョーンズとか、とてもシンプルで好きだね。あとはマライヤ・キャリーとか、シンガーが多いかな。彼女らのスタイルに、私のスタイルで何か手を貸すことができるならやってみたいね。あとはジャズ系のミュージシャンとか。いいミュージシャンは世界中にたくさんいるし、そういう人たちともやってみたいね。彼らが演ってることが、自分の中で信じられることだったら誰とでもいっしょに演りたいと思う。あと、今はもういない人ということだったら、ジョン・コルトレーンがもし生きていたらいっしょに演ってみたかったな。マイルス・デイヴィスからは一度誘いがあったんだけど結局実現しなかった。ちょうど『ビッチズ・ブリュー』の頃だね。でも、これまで本当に尊敬するたくさんのミュージシャンといっしょに仕事させてもらえたよ。

金澤:デヴィッドさんの昔からのファンの人は、もちろんこの新作を聴くと思いますけど、今回はドリカムさんのファンのような新しいファンが新しく聴く機会が増えると思います。そういった人たちに向けてメッセージをお願いします。

David T.:このアルバムの音楽はすべて歴史を持った曲ばかり。その曲がどこで生まれて、今どこにあるのかということを知ることはとても大切なことだと思う。このアルバムがそんな歴史を知る上で何か役に立つのであればうれしいね。オリジナル曲は、ブックレットにも書いたけど、自分が伝えようとしたことを少しでも感じてもらえるとうれしい。そんな想いがアルバムタイトルでもある『ソウツ』なんだ。


(2008年11月 ユニバーサル ミュージック本社ビルにて)

インタビュアー:金澤寿和
協力:月刊誌『ADLIB』
構成:ウエヤマシュウジ

金澤寿和(かなざわ・としかず)
1960年、埼玉県生まれ。AORを中心に、ブラック・コンテンポラリーやジャズ・フュージョン、日本のシティ・ミュージックなど、70〜80年代のコンテンポラリー・サウンドに愛情を注ぐ音楽ライター&コンパイラー。アドリブ、レコードコレクターズ、ストレンジデイズなどの音楽専門誌でレギュラー/準レギュラーのライター活動をはじめ、CSラジオ局「STAR digio」などの音楽番組ナヴィゲート、さらには旧譜の発掘・再発企画やコンピレーションCDの監修・選曲を多数手掛ける。デヴィッド・T・ウォーカー関連では、Ode時代をはじめ、80年代から90年代のソロ作計9作品、同じくOdeレーベルの同僚メリー・クレイトン等の再発に尽力。著書に『ブラック・コンテンポラリー・ミュージック・ガイド』『AOR Light Mellow』『Light Mellow和モノ669』など。現在、伝説のAOR本『AOR Light Mellow』のグレードアップ増補改訂版『AOR Light Mellow Premium 〜10th Anniversary Edition〜』(2009年夏発刊予定)を執筆中。

金澤寿和オフィシャルサイト「Light Mellow on the web」 http://lightmellow.com/