David T. Works Vol.04

David Tが参加した数々の名演の中からピックアップして紹介するこのコーナー。ではVol.04の10選をどうぞ。

Cannonball Adderley / The Happy People (1972)

巨匠キャノンボール・アダレイが72年に残したブラジリアン色の濃い異色作。渾沌と混迷の音の洪水。マイルス・デイヴィス『ビッチェズ・ブリュー』がもたらした電化ジャズの影響と、サイケムーヴメント真っただ中のトリップ感覚が見え隠れする風景は、直後に訪れるクロスオーバーな時代への突入を予感するに十分な音世界。無論、全体を覆うのはまさしく「ジャズ」以外の何物でもないのだが、そこにラテンのリズムが新しい血肉となり注入されているところがミソであり印象的だ。パーカッションで参加のアイアート・モレイラとの全編に渡るコラボレーションは本アルバムの最大の魅力。この時期のアダレイのブラジルへの接近は、同時期、マイルスのアイアート起用との相似を考えると興味深い。ジョージ・デューク(key)やチャック・レイニー(B)らの好演も見事な14分を超す長丁場のB1「Savior」で聴ける、全てにワウペダルを使ったサイケデリック感あふれるフリーキーなDavid Tのプレイは異色中の異色。だがこれもまたDavid Tの存在感。自身も「最も印象に残る」と回顧する記念碑的セッションがここにある。

Gene Page / Hot City (1974)

幾多のアルバムで指揮をとる70年代屈指の名アレンジャーにしてストリングスの魔術師ジーン・ペイジ。旧知の仲でもあるバリー・ホワイトのプロデュースによる70年代最初のソロ作となる本作は、全編メロウなアレンジで綴るインストアルバム。バックを務めるはウィルトン・フェルダー(B)、エド・グリーン(Dr)らのお馴染みリズム隊に、ギターパートはレイ・パーカーJr、ワー・ワー・ワトソンに我らがDavid Tというこれまた黄金比率の極。A3「She's My Main Squeeze」でのっけからメロウなDavid T節が、さらなるメロウなストリングスにのって最高のグルーヴ感をもたらしている。弦楽器のアレンジを中心に本作を眺めると、参加した他のギタリストの音色やタイム感に独特の解釈が聴き取れるのもまた一興。「Don't Play That Song」などで聴けるアレンジは、陳腐な物言いだが70年代ムービーのBGMにぴたりハマるという錯覚を思い起こさせる。それが今また新鮮なのは、弦楽器のもたらす生感覚の羨望か。あるいはひたすら持続するグルーヴを生み出すリズム隊のループ感覚がフロア需要にジャストにハマるからなのか。などと考えるのは僕だけか。

Stanley Turrentine / Pieces of Dreams (1974)

そのジーン・ペイジがアレンジャー兼プロデューサーとしてクレジットされたスタンリー・タレンタインの74年作。太い低音のテナーサックスは一歩間違うと危うい方向に向かってしまう塀際ぎりぎりのムーディさを演出。力強さとエロさ加減は表裏一体紙一重。全編に渡ってフィーチャーされたストリングスの妙が際立って、静かな曲調の中にも漂うグルーヴが実に心地良い仕上がり。「静かなグルーヴほどDavid Tのギターはよく映える」の格言のとおり、ダニー・ハザウェイのバージョンでも知られるリオン・ウエア作の名曲A2「I Know It's You」で聴けるDavid Tのギターは、まさに彼ならではのツボを得たアプローチで聴き応え十分。B1「Midnight and You」でも、メロディ音として認識不能なカッティング音でさえ彼のオリジナリティとして機能してしまう、そんなDavid T節の連続が堪能できる。アルバムラストを飾るボビー・ウォマック作のミディアムグルーヴ「I'm in Love」は、David Tのきらびやかさとアグレッシヴ感覚が等価に同居する名演。先の格言はもはや「どんなグルーヴでもDavid TのギターはDavid Tでしかない」という常套句に差し替えたい。

Betty Everett / Happy Endings (1975)

やはりそのジーン・ペイジがアレンジャー&プロデューサーとして参加したベティ・エヴェレットの75年作。参加ミュージシャンも、ジョー・サンプル(Key)、レイ・パーカーJr(G)、ワー・ワー・ワトソン(G)、エド・グリーン(Dr)と馴染みの面々。となればその音は容易に想像がつくというもので、洗練されたリズム隊の織り成すきめ細やかなビートに優しく柔らかに絡みつくストリングスの妙が冴え渡る一枚に仕上がった。柔らかさが際立つ可憐な歌声も、抑制の効いたソウルアルバムとして楽しめるはず。スティービー・ワンダー作の名曲「Just a Little Piece of You」では、David Tの小気味良く歌うギターも手伝って、落ち着きあるミディアムグルーヴを形作った。

Herbie Hancock / Man-Child (1975)

長いキャリアの中で様々に表現の形を変えながら常に華麗な鍵盤を聴かせるハービー・ハンコックの75年の大傑作アルバム。この時期のハービーと言えば73年の名盤『ヘッド・ハンターズ』に代表されるファンク路線。本アルバムでもエッジの効いたシャープなビートにファンクネスとジャズフィーリングが交差する、クロスオーバー感覚全開の音世界を繰り広げている。特にA1「Hang Up Your Hang Ups」のグルーヴ感といったらどうだ! ハービー・メイソン(Dr)、ポール・ジャクソン(B)、ワー・ワー・ワトソン(G)、ベニー・モウピン(Sax)らの織り成す怒涛のドライブ感でKO率は120%。ワー・ワーの名演数え歌として知られるキレのあるバッキングも実に印象的だ。なんと言ってもハービーの華麗でアグレッシヴなエレピと生ピアノが実に素晴らしい。他にも、ルイス・ジョンソンのブリブリベースが鮮烈なA3「The Traitor」、洗練された極上強力ファンクB3「Hertbeat」など、音の隙間を縫うハービーのエレピとシンセとクラビネットによる縦横無尽なシンコペーションがアルバム全編を支配し聴き応え十分。そんな豪傑揃いの楽曲群の中でDavid TはB2「Steppin' in It」で、目立たないが確実なバッキングワークで応戦している。

Wah Wah Watson / Elementary (1976)

本名メルヴィン・レイジン。ソウルミュージック界に欠かせないギタリスト、ワー・ワー・ワトソンの唯一のソロアルバムがコレ。無数のセッションに名を連ね、David T、フィル・アップチャーチと並んで70年代の米国3大グルーヴ系バッキングギタリスト(勝手に決めちゃいましたが)の一人であるワー・ワー。クレジットされてないものまで含めるとその仕事量はDavid Tにも負けず劣らず。過酷なセッションワークの中で生まれた交友関係が好を奏したか、豪華バッキングミュージシャンたちがこぞって参加した本作は、痛快かつファンキーなワー・ワー節のオンパレード。そのギタープレイはDavid Tと類似する部分も多いが、小気味良いキレと独特のノリは、やはり彼ならではの個性。特にエフェクター類を駆使し、エコー感覚を存分に取り入れたバッキングは当時あまり見られなかった表現方法だ。A5「Together」や、文字通り“赤子の鳴く声”な音色で迫るA3「Cry Baby」では、ルイス・ジョンソンの腰にくるファンキーなベースラインが心地良く、アグレッシヴな感覚が際立つ。David TはA4「My Love For You Comes And Goes」で彼らしいフレーズとピッキングを奏でながら、ワー・ワーと対照的なアプローチを聴かせて存在感をあらわにしている。

Maxi Anderson / Maxi (1977)

ブルーノート発の歌姫マキシ・アンダーソンの唯一のアルバム。マリーナ・ショウの『Who is this bitch, anyway?』に代表される、ブルーノートとは思えないソウルフルかつポップな歌声とアンサンブルのコンテンポラリー・サウンドがここにある。とは言え、バックを務めるウィルトン・フェルダー(B)、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、ソニー・バーク(Key)、レイ・パーカーJr(G)など豪華ミュージシャンの織り成す音世界はまさに70年代の総決算ともいうべき極上のグルーヴ。当然のごとく、アルバム冒頭からDavid T節は全開で、その白熱ぶりはアルバム最後まで万遍なく展開。それにしても彼のギターは女性ボーカルにはハマりまくりです。

Flora Purim / That's What She Said (1978)

アイアート・モレイラ夫人にして、歌うブラジリアン艶女フローラ・プリムの78年作。その筋の華やかな面々がバッキングミュージシャンとして多数名を連ねている本作の風味は、例えて言うなら「ラテンフュージョン」。小刻みにリズムを奏でるアイアートのパーカッションはもちろんのこと、ジョージ・デュークのエレピとムーグシンセサイザーが複雑に変化しつづけるコードプログレッションに自在に浮遊してて心地良く、アルバム全体のトーンを一つの色に染めあげる。ハイライトはやはりA3「Hidden Within」。疾走感漂う楽曲に、ジョージ・デュークのムーグのうねうね感に、この曲のみ参加しているDavid Tがファンキーにそして艶やかにグルーヴギターを刻む。70年代末期の色濃い仕上がり具合が微妙な緊張感を生んでいるのと同時に、それがまた有無を言わせぬ盛り上がりであることも間違いないという、なんとも奇妙な1曲なのである。

Terry Callier / Turn You To Love (1979)

エレクトラ移籍後の2作目となるテリー・キャリアーの79年作。彼の代表作と言われる73年『What Color Is Love』や75年の『I Just Can't Help Myself』などで聴けるフォーキー・ソウルな音楽性が微妙に薄れ、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、ジェイムズ・ジェマーソン・Jr.(B)らの手堅いプレイにシンセが絡み、リズムとビートを強調するコンテンポラリーなサウンドが特徴的。72年の傑作『Occasional Rain』収録の名曲「Ordinary Joe」を洗練度の高いアプローチでリメイクするなど、随所にアイデアは感じられるが、このトレンドに沿った音作りにぎこちなさを感じてしまうのもまた事実。そんな中、David Tはいつもの彼らしいプレイで、テリーの歌声とうまく溶け込んでいる。ゆったりとしたムードの「You And Me (Will Always Be In Love)」の後半、突如として聴こえてくるDavid Tの渾身ソロプレイには度肝を抜かれること必至。この後、しばらくシーンから姿を消すテリーだが、90年代に突如として復活。98年の『Timepeace』は彼の最高傑作だ。

古内東子 / 魔法の手 (1998)

この乾いた洗練はどこからくるのだろう。名曲「銀座」を収録した古内東子の傑作アルバムがコレ。ダビングワークを駆使し、震えるようなテイストでありながら芯のある強いハイトーンボイスは、いつにも増して心地良い。その歌声をサポートする面々もこれまた強者揃いの豪華版。David Tもスロー&ミディアムテンポの楽曲でこれ以上ないメロウなグルーヴを演出する。本アルバムに限らずだが、90年代に入ってから多く見られる日本人アーティストとのコラボレーションでは、David Tのギターは70年代から80年代よりも存分に弾きまくっているように思える。70年代にDavid Tを聴いて育った世代がアルバム制作側に立っているという環境とDavid Tへのリスペクト。それゆえに生じる際立ったギターパートのミックスアレンジ。そんな妄想にも似た考えを巡らすたびに、なぜかたまらなくうれしくなってくるのだ。

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