David T. Works Vol.50

ついに500枚到達! しかしDavid Tの仕事はもっともっとあります。というわけで、まだまだまだ続くこのコーナー。Vol.50の10選をどうぞ。

Willie Hutch / Mark Of The Beast (1974)

ソロアルバムや映画のサントラなど、この時期立て続けに自身の作品をリリースするソングライター兼マルチプレーヤーのウィリー・ハッチの74年作。冒頭を飾る「Get Ready For The Get Down」のつかみはOKなプレ・ディスコ的トラックが予兆させる、軽妙なファンクネスとメロウネスが全編を支配するグルーヴ感溢れる好盤だ。そんな中、本作に収録された「Try It, You'll Like It」からDavid Tの音色が。それもそのはず、この曲はシスターズ・ラヴが1973年にシングルリリースした同曲や、あるいは2001年にリリースされたマーヴィン・ゲイの73年作『Let's Get It On』デラックス・エディションにアウトテイクとしてボーナストラック収録された同曲と、同じバックトラックを流用したもの。自身のライティング楽曲ということからか、トラックごと他のシンガー名義でも使うというハッチ流カットアウト手法に、このアンサンブルの仕上がりの素晴らしさの証しと、バックアップしたミュージシャンへのただならぬリスペクトがあると思いたい。

Donald Byrd / Places And Spaces (1975)

ラリー&フォンスのミゼル兄弟率いるスカイハイ・プロダクションズによるジャズファンク傑作盤。前作『Steppin' Into Tommorow』から間を空けず同年リリースされたことからも、彼らの本領がズバリ発揮された脂の乗り切った感ある一枚だ。グイグイと迫るリズム楽器隊のグルーヴと、しなやかでアクセントの聴いたウェイド・マーカス指揮によるストリングス隊との細やかなシンコペートは前作の流れを汲む非の打ち所ない完璧なアンサンブル。ミゼル兄弟を筆頭に、チャック・レイニー(B)、ハーヴィー・メイソン(Dr)、キング・エリソン(Per)、ジョージ・ボハノン(Trombone)らツワモノたちによる鉄壁サウンドは、他には誰も描けない浮遊感漂う洒脱な洗練をつくり出した。「Wild Parade」で聴けるオクターヴ奏法的フレーズや「Just My Imagination」での微細に挿入されたキラ星フレーズは、クレジットこそないもののDavid Tのプレイによるもの。幾重にも彩られた音の階層に、派手さはないもののひっそりと加わるDavid Tの音色は、やはり70年代中期のドナルド・バード作品群に欠かせないエッセンスだ。

Original Soundtrack / Bucktown (1975)

ブラックムーヴィーの常連、フレッド・ウィリアムソンとパム・グリアが共演した75年の映画サントラ盤。同じくブラックムーヴィーでの仕事も多数こなす、ジョニー・ペイト指揮による本作は、疾走感とグルーヴ感溢れるブラックネス満載の教科書的音源がぎっしり。およそ楽曲とは呼べない文字通り映画の場面を効果的に演出するために用意されたであろうBGM的佇まいのトラックが数多く並ぶ中、David Tもその演出に大きく貢献。ワウペダルを駆使した躍動感溢れる「Have A Good Time」や「Spin」、メロウなフィーリングでこれでもかと官能を演出する「Love Theme」など、得意のフレーズで手腕を発揮。時代の空気や要請もあっただろうが、起承転結というドラマシナリオの高低に硬軟自在のフレーズで対応するDavid Tの技量と表現力は、映画界からも引く手数多の貢献であったに違いない。

Eloise Laws / Ain't It Good Feeling Good (1977)

サックス奏者ロニー・ロウズ、フルート奏者ヒューバート・ロウズ、女性シンガーのデブラ・ロウズの「ロウズ四兄妹」の一人エロイーズ・ロウズが、インヴィクタスに残した77年作。レーベル主宰者でもあるホランド=ドジャー=ホランドによるプロデュースワークは、レーベルとしては末期のこの時期だったが、それでも印象に残る楽曲の数々を残した。アルバム冒頭を飾る「You Got Me Loving You Again」から「Love Goes Deeper Than That」へと続くアップビートでダンサブルなテイストはこの時代特有の色彩。しかし続くアルバムタイトル曲「Ain't It Good Feeling Good」で聴けるグッと抑えたミドルテンポのグルーヴに思わず体が横揺れ。ノリ一発で終わることのない彼女のたくましい表現力がアルバムの完成度アップにひと際貢献している。ジーン・ペイジが唯一アレンジャーとして参加した「Where Did We Go Wrong」でうっすらと鈴の音ごとく鳴っているDavid Tのフレーズは、ABC Recordsに残した彼女の同年もう一枚のソロアルバム『Eloise』で、より一層彼女の歌声と溶け込む共演を果たしている。

Original Soundtrack / Casey's Shadow (1978)

タイトル名の競走馬、その調教師と家族の姿を描く「すばらしき仲間たち」の邦題で日本公開もされた映画のサントラ盤。主題歌となったドビー・グレイの「Let Me Go Till I'm Gone」や、挿入歌のドクター・ジョン「Jolie Blonde」と「Coon-Ass Song」以外は、映画の場面場面で使用される効果音源トラック色の濃い色合い。そんなBGM的装いのアルバムの中、ごく僅かにうっすらとフレーズを刻むDavid Tは、数あるオファーを控え目ながらも丁寧に全うする仕事人の佇まい。映像作品の一部を担うという、純粋な音楽表現とは異なるフィールドで、いつもと変わらぬ音色で貢献するDavid Tの姿に、オリジナリティ溢れるクリエイティヴィティ意識の懐深さと、「必要とされればプレイする」というセッションマンとしての職人気質のプロ意識が、違和感なく両立する瞬間とギタリストとしての立ち位置が見え隠れする。この両立こそ、聴き手として共感するリスペクトの源の一つなのだ。

The Crusaders / Standing Tall (1981)

1979年リリース『Street Life』でのランディ・クロフォードの起用に始まる、インスト主体からヴォーカル入りというアルバム構成を継承し、本作ではジョー・コッカーがゲスト参加。「I'm So Glad I'm Standing Here Today」と「This Old World's Too Funky For Me」で味わい深い歌声で彼ら音楽表現をバックアップしている。これまでもクルセイダーズと関わりの深い我らがDavid Tは、同じく『Street Life』でも共演したギタリストのバリー・フィナティとともに、準メンバーとしてクレジット。が、本作では当時売り出し中の若きバリーにリードギタリストの座を譲った感ありで、際立った音数は聴こえてこない地味な貢献に留まっている。このコンビネーションが彼らバンドアンサンブルに新たな息吹をもたらしたか、翌年1982年のクルセイダーズ来日公演はこのギターコンビで同行している。

上田正樹 / No Problem (1981)

全編ロサンゼルスで録音された81年盤は、ンドゥグ・チャンスラー(Dr)、ネイザン・イースト(B)、フレディ・ワシントン(B)、アーニー・ワッツ(Sax)、ジョージ・ボハノン(Trombone)、グレッグ・ポリー(G)といった腕利きたちを、井上鑑プロデュースでまとめあげた作品。西海岸特有の乾いたテイストに、日本語詞によるヴォーカルがうまくフィットした仕上がりが二重丸。英語詞でうたうストーリーズのカヴァー「Brother Louie」やジミー・クリフ「Many Rivers To Cross」も上田正樹ワールドに違和感なくハマっており、あらためてヴォーカリストとしての存在感を痛感することしきり。David Tは全編に渡って、これ以上ないくらいの引き出しをこれまでになく存分に披露する120%の貢献で、エネルギッシュでメロウなフレーズを連発。David T的にも存在感を十二分に感じ得る一枚だ。

Marvin Gaye / Dream Of A Lifetime (1985)

マーヴィン没後に発表された未発表曲集。モータウン時代とコロンビア移籍後と両方のレーベルに残されたテイクが収録されているため、サウンドプロダクションの表情に輪郭の異なりが見てとれるものの、楽曲単体でみると質の高いアンサンブルも多く、聴き所多しの一枚。マーヴィン流ディープファンクネスが炸裂する「Savage In The Sack」での小気味良くも粘り気あるブラックフィーリングたっぷりのリズムバッキングなど、David Tもマーヴィンと息のあった共演で貢献。ストリングスの調べが美しくも儚いバラード「It's Madness」やミディアムテンポのR&B「Life's Opera」で静かに重なるギターの音色は、それまでのマーヴィンとの共演でのいずれとも異なる王道的アンサンブルの粋が聴き手の心持ちに響く。ラストを飾る表題曲「Dream Of A Lifetime」では、壮大なオーケストレーションをバックにせつなく歌い奏でるマーヴィンと、最初から最後まで彼に寄り添うかのごとく想いの一端を音色と化して繰り出すDavid Tの姿に、二人の信頼関係の深さを痛感するとともに、この共演をステージで見たかったという想いに幾度となく駆られるのだ。

Various Artists / In The Pocket : The Drum Project/On The 1 (1998)

P-Vineレコードと「リズム&ドラムマガジン」誌のタッグによるドラムにフォーカスしたコラボ企画盤。バーナード・パーディー、エド・グリーン、ポール・ハンフリー、ハル・ブレイン、ハワード・グライムス、ジェイムズ・ギャドソンの6名のドラマーを軸にした、生ドラムの素晴らしさと彼ら6人の卓越した技術・表現力そして個性が楽しめる一枚だ。David Tは、ジェイムズ・ギャドソンのパートによる2曲「In Between Man」と「I Wanna Make It Right」に参加。6名のドラマーの中で唯一ヴォーカルを披露するギャドソンと、それをきっちりと支えるDavid Tのプレイ。80年代からのDavid Tのソロ活動やBand Of Pleasureで培った二人の呼吸と間合いの粋を感じずにはいられない安定感たっぷりのアンサンブルがここにある。

Martha Reeves / Martha Reeves (2005)

ヴァンデラスとのユニットによるモータウンでの活動で、1968年にはDavid Tと日本でも公演した彼女が、満を持して1974年にリリースした初ソロアルバム。リチャード・ペリーをプロデュースに迎え、ジェイムズ・ジェマーソン(B)、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、アーサー・アダムス(G)、ワー・ワー・ワトソン(G)、デニス・コフィー(G)、ジョー・サンプル(Key)、キング・エリソン(Per)、ジム・ケルトナー(Dr)といった豪華布陣がバックアップする名演がずらり。モータウン時代から旧知の面々も多く、その一人でもあるDavid Tも本作の録音に参加。しかし1974年アルバム発売当時は、そのプレイは収録されずにリリース。ところが、2005年にHip-O RecordsからリリースされたリイシューCDにボーナストラックとして収録された「Our Day Will Come」から、しっかりとDavid Tの音色が。30年以上の月日を経て、二人の共演はこうしてようやく陽の目をみた。

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