Something for T. #03



David Tとかかわりのある様々な方にお話を聞くこのコーナー。第3回目にご登場いただくのは、レコード会社「MUSIC CAMP, Inc.」を主催・運営し、多くの媒体で執筆活動も行っている宮田信さんです。宮田さんは、デイヴィッド・T・ウォーカーの3rdアルバム『Plum Happy』のCD盤のライナーノーツを執筆されており、その内容に僕もかなり影響された一人です。今回は宮田さんに、David Tとの出会いからソウル・ジャズの探究、ロサンゼルスでの体験など、幅広い内容を伺うことができました。ぜひご一読ください。ご意見・ご感想、並びに宮田さんへのお便りなどございましたら、 管理人ウエヤマ までぜひぜひお送りください!

【前編】




── まずはデイヴィッドとの出会いからお話聞かせていただけますか。

宮田信さん(以下、宮田):僕がDavid Tを知ったのは76、77年くらいなんですよ。当時、エアチェックって流行ってましてね。FMラジオの。その中でよく聴いてた番組でNHK-FMの「軽音楽をあなたに」っていうのがあって。たまたま聴いてたらギタリスト特集っていう日があったんですよ。この頃って、フュージョン、というかクロスオーバーブームみたいなのがありましたよね。リー・リトナーとかラリー・カールトンとかいろいろあって。そのついでに、という感じだったと思うんですけど、たまたまDavid Tの曲がかかったんですよ。

── たまたま出会ったんですね。

宮田:なんじゃこりゃぁ〜、てな感じで、すぐにレコード探したんですよ。で、その頃、既にDavid TのODEのソロアルバムは廃盤だったんですよね。で、ディスクユニオンとかいわゆる中古レコード屋さんをいろいろと廻りはじめたんです。当時の中古レコード屋の場合、David Tのレコード探すときって、ジャズもソウルもR&Bもすべてのジャンルのコーナーを探さなければならなかったんですよ。

── お店によってジャンルのとらえ方が違ったり。

宮田:そうですね。どこに収まってるかわからなかったですからね。とにかく全て調べる、みたいな。だけど、探しても探しても全然無くて。で、ようやく見つかりはじめたのが80年くらいだったんですよ。すると、途端に次々とレアなアルバムがいろいろと見つかりはじめたんです。不思議なことに連続して次々とね。David Tの1stアルバムとか。

── 突然に、ですか。

宮田:おかしいなあ、と思ってたんですけどね。で、ちょうどその後、82年くらいに下北沢にあるフラッシュ・ディスク・ランチっていう中古レコード屋によく通ってて。店主の椿さんという方がいるんですけど、よく話をすることがあったんですよ。David Tが好きで、とか、ソウル・ジャズが好きで、とかいろいろ話をしてたんですけど、椿さんもそういうのが好きだということがわかって。

── 椿さんもその系、好きですもんね。

宮田:で、あるとき椿さんが「この店始めるときオレの持ってるレコード、結構売り払っちゃってね」というようなことを話したんですよ。よくよく話を聞いてみると、僕が手に入れたDavid Tのレコードってのがまさにその椿さんのヤツだったと(笑)。

── ほぉ〜! 面白い巡り合わせですね。

宮田:椿さんとも意気投合しちゃって。で、僕はその流れでフラッシュの初代アルバイトになったんですよ。

── そうなんですか〜。

宮田:そうなんですよ。大学2年生くらいのときだったかなあ。3年間くらいお世話になりましたね。椿さんとも二人でいろいろと話しましたね。それこそDavid Tにはじまって、ソウル・ジャズのアルバムとかをあーだこーだ言いながら探究してましたね。

── お店でもそういったレコードを紹介できるようになった、と。

宮田:例えば、アシッド・ジャズ・ブームとか、DJなんかがかけるような感覚みたいなのってありますよね。僕も昔DJとかやってましたけど、それよりも前から、高校生くらいの頃から何かイベントがあるとDavid Tの曲をテープに録音して、みんなの前でかけてたりしてましたね。これが一番かっこいいファンクネスなんだぜ、みたいな感じで。これが一番かっこいい黒人音楽だと思ったんです。

── かっこいい黒人音楽。

宮田:その前から僕はギターをやってたんですね。ジャズを演ってたんで、ジャズのレコードいろいろ聴いていたんです。で、当時はギター関係の雑誌も少なかったんですけど、そういう雑誌には、例えばブルースだったらBBキングとかエリック・クラプトンを聴けとか、ジャズだったらケニー・バレルとかウェス・モンゴメリーとかジム・ホールだ、とか、そういう感じだったんですよ。で、その辺りは一通り全部聴きました。聴いたんですけど、どうも納得いかないんですよ。

── なんか違う、と。


宮田:オレの求めてるのはこんなんじゃない、というか。もっとこうファンキーな感じのものを探していたというか。で、その中で一番ハマったのがDavid Tだったんです。ブルースでもなくジャズでもない。一番おいしいところを持ってるじゃないですか、David Tって。やっぱりあのメロウネスにハマりましたよね。

── コーネル・デュプリーなんかともちょっと違う、みたいな。

宮田:全然違いましたね。もちろんコーネル・デュプリーとかフィル・アップチャーチも好きで良く聴いてたんですけど、David Tはやっぱりちょっと違ってましたね。他とは比べることができないというか。のめり込むレベルが違ってましたね。

── 独特の魅力がありますからね。

宮田:中毒のような感じですよね。

── で、それからのめり込んでいくわけですか。

宮田:そうですね。中古レコード屋巡りが始まったんですよ。当時は他にあまり知ってる人もいなくてね。情報もほとんど無かったですね。

── 当時のDavid Tはそれほど有名な感じでもなかったんでしょうかね。

宮田:そうですね。例えば『アドリブ』っていう雑誌なんかだと、スタジオミュージシャン特集みたいな記事の中にちらほらでてきたりとか、あとは『ジャズライフ』誌の中で、今、下北沢で「イーハトーボ」っていうジャズ喫茶やってるマスターで確か今沢さんという方が連載を書いてて。その中でソウル・ジャズとかのブラックなレコードを紹介してたんですけど、その中でDavid Tが紹介されたりしたこととか、そんな感じだったですね。写真も一枚だけ出回っているのがあったんですけど、それしかみたことなくて。毛糸の帽子をかぶってバードランドを抱えてるっていう写真なんですけど。

── あー、僕もどっかでみたことあります、その写真。

宮田:またその写真がかっこいいんですよね。オレはギター一本で勝負してるんだぜ、みたいな感じで(笑)。

── 今でも彼の写真って少ないんですよね。

宮田:そうですね。で、そんなこんなで、ある時クルセイダーズのメンバーとして来日するっていう情報が流れたんです。80年か81年くらいでしたか。なけなしの金をはたいて観にいって。いやあ、もう感動しましたね。

── それまではDavid Tが来日したことは……。

宮田:68年にモータウンの来日公演で一度来てますけど、それ以来の来日だったと思います。もう大フィーチャリングでしたよ。ハッキリ言ってDavid Tを観に行ったようなもんでしたけどね。ずっと彼ばっかり観てました。ソロが始まると前の方に出てって観てたみたいな。で、「David T.Walker!」って紹介されても、拍手もそんなに沸かなかったし、やっぱりDavid T観たさに、という人ってあまりいないのかな、と思いましたね。

── で、その時にDavid Tに会ったんでしたよね。

宮田:そうなんですよ。サインもらおうと思って、会場が新宿の厚生年金会館だったんですけど、出口がすぐ横にあるんで待ってれば出てくるだろうと思ってたんですよ。David Tの1stアルバム『The Sidewalk』を手に持って。

── ドキドキですよね。

宮田:そうですね。で、30分くらい待ってたかな。そしたら隣にもう一人David Tのレコードを持った人がいることに気が付いたんですよ。その人もなんかワクワクしてる風で。僕が当時「幻の」と言われてた1stアルバム持ってたから、それを見て「すごいっすね〜」とか言ったりして。でも、この人どっかで見たことあるなあ、と思ったんですよ。で、また厚生年金会館のこと良く知ってるんですよね。楽屋はここから入ってどうのこうのって。で、この人誰だったっけなあ、と思ってたら、実は林家こぶ平さんだったんですよ(笑)。

── あの落語家の?

宮田:そうですあのこぶ平さんですよ。あの人ジャズがすごい好きな人なんですよね。何万枚ってレコードコレクションがあって。だから当時からすごく好きだったんでしょうね。なんか派手な業界のお姉さんみたいな人に連れてきてもらってた感じだったんですけどね(笑)。



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