【前編】
── まずはDavid Tとの出会いからお聞かせください。
二村敦志さん(以下、二村):マイケル・ジャクソンの大ファンだったんですよ。小学生の頃からファンクラブにも入ってて。そこからジャクソン5の音源も聴いていって。
── そこから入るんですか。
二村:いや、その時はデイヴィッドのギターという区別はなくて、なんか面白いギターだなーとか思ったんです。その頃は特にプレイヤーに着眼点を置いて聴くというような感じではなかったんですね。で、話はいきなり飛ぶんですけど「We Are The World」という曲がありましたよね。
── たくさんのアーティストが一同に会してる、あの曲ですね。
二村:そうです。マイケルも参加してるあの曲が好きで、参加しているアーティストの曲を全部聴きたくなったんですよね。ダン・エクロイドって誰なんだろうとか、キム・カーンズって誰なんだろうとか、そういう好奇心があって。まあ、参加してるのはアメリカのトップスターばかりだっていう話は聞いてたので興味を持ったんです。特にこの曲ではブルース・スプリングスティーンとスティーヴィー・ワンダーのハモりにドカーンとやられた感じだったんですよ。どうしてこの声とこの声をマッチングさせたのかなっていう疑問というか興味もあったりして。で、それがきっかけでスティーヴィー・ワンダーを聴いてみようということになって。最初に買ったのが『インナーヴィジョンズ』だったんです。
── そこに行き着くわけですね。
二村:そうなんです。ちょうど中学一年生くらいでしたか。その頃、「I Just Call To Say I Love You」とか流行ってた曲は知ってたんですけど、70年代の『ファースト・フィナーレ』までの3部作は名盤だという情報も知ってて興味があったんです。で、なんとなく『インナーヴィジョンズ』を手に入れて聴いてみると、おっ!?という感じだったんですよ。
── 「Visions」でのDavidのギターを聴いたと。
二村:まだその頃は自分で楽器をプレイするということより、音楽を「聴く」ということにしか興味がなかったんですけど、徐々にバックのミュージシャンってどういう人なんだろうということに興味が湧いてきたんですよ。そのうち、おそらく中三か高一くらいやったと思うんですけど、いわゆるAORというジャンルの音楽に傾倒していったんです。マイケル・フランクスとかスティーリー・ダンなんかの出会いがきっかけだったと思います。
── なかなか渋いですね。
二村:で、クルセイダーズもその頃聴いて知って、そこにデイヴィッド・T・ウォーカーというギタリストが参加しているという情報を本とか雑誌とかで知るようになって。で、何かの雑誌に「David Tの参加した名盤」みたいな特集がたまたまあって、そこにマリーナ・ショウの『Who Is This Bitch, Anyway?』とニック・デカロの『Italian Graffiti』が載ってたんですよ。
── で、それを聴いて。
二村:もう、即KO、という感じで。それが僕とデイヴィッドの「出会い」ですね。
── 他にもたくさんギタリストがいる中でデイヴィッドのギターにピンときたものがあったんですか。
二村:音というよりも、まあ月並みな表現かもしれませんけど俗に言う「ギターがうたってる」という感じですね。デイヴィッドって結構早いフレーズを弾いたりすると思うんですけど、でもなんか口ずさめる感じがあるんですね。僕は「歌」が好きなので、楽器だけのプレイでもどこか「うたってる」プレイヤーが好きなんです。ドラマーなんかでもそれは同じですね。
── 独特のフレーズですもんね。
二村:あのお馴染みのフレーズですよ。どうやって弾いてるんやろう、みたいな興味がありましたね。すごく悪い言い方をすれば、ワンパターン。でも普通に言えばワン・アンド・オンリー。デイヴィッドのギターって、そういう風にしか表現できない感じだと思うんですよね。ラリー・カールトンというギタリストも物凄く好きなギタリストの一人なんですよ。やっぱりマリーナ・ショウの『Who Is...』を聴いたときに「こりゃ反則だろう」という感じでしたし、AORでうたもの、ということでいうとラリー・カールトンってトップギタリストだし、よく聴いてたんです。でも、サウンドっていうことでいうと、デイヴィッドのギターは聴くとデイヴィッドだとわかるんですけどカールトンのギターは今一つわからないところもあって。デイヴィッドは独特のフレーズとサウンドがあって、そういうギタリストってB.B.キングとかもそうだと思いますけど、世界でもホントに数少ないと思うんですよ。ギタリストなのにボーカルを喰ってしまう存在というか。僕の中ではそんな感じなんですよデイヴィッドって。なんかもう「アーティスト」といったほうがいいというか。
── アーティスト。
二村:ギタリストというよりアーティストというか。ギタリストというカテゴリーにはめることがなんか失礼なことだなというか。そんな存在ですね。
── 存在感あるアーティスト、ですよね。
二村:吉田美和さんの『beauty and harmony』というアルバムが出たときに、すごく親しみを感じたんですね。あの作品が世に出ることによって、デイヴィッドという存在がより日本人に近付いてきてくれたというか、逆にこっちも歩み寄っていったと思うんですけどね。
── あのアルバムは大きかったですね。
二村:最初はデイヴィッドが参加してるという情報をキャッチできてなかったんですね。でも友人の家で聴かせてもらったときに、すぐにデイヴィッドだとわかったんですよ。で、やっぱり凄いよなこの人という感じで、そこからまたさらにデイヴィッドの魅力に引きよさられたというか。
── ホントにワン・アンド・オンリーですもんね。
二村:それにプラス「反則」というキーワード。あのギターはもう「反則」以外の何物でもないという感じですね(笑)。あと、デイヴィッドのギターを一言で言うと、まず「メロウ」。そして次に「セクシー」。もちろんリズミカルとかそういうこともあるんですけど、まずは「メロウ」な感じというか。それとどんなにハッピーな曲を弾いてもどこか物悲しい感じというか。哀愁というか。そんなところを感じますね。
── いわゆる歌伴としてのデイヴィッドと、インストとしてギターがクローズアップされるデイヴィッドと、いろんな側面があると思うんですけど。
二村:僕はやっぱり前者。ギターが主役ですというアルバムももちろん好きなんですけど、歌に絡んでくるギターが僕は好きなんですよ。絡んでくる、というよりも「まとわりつく」というか。
── まとわりつく。
二村:服のようにいろんな音を着せていくようなギター、というか。そういう感じがリスペクト、なんですよ。
── それからデイヴィッドに参加してもらうまでの経緯はどういった流れだったんでしょうか。
二村:デイヴィッド・T・ウォーカーという人は僕のアイドルなので、いつしかいっしょに演奏したいという夢を持ってたわけです。ミュージシャンだったらそういう夢の一つ二つ持つと思うんですよね。今回弾いてもらった「Luz」という曲を作ったときに、この曲は誰に弾いてもらいたいかということを想像したんですけど、デイヴィッド以外には考えられなかったんですね。アコースティックギターを僕が弾いて、デイヴィッドと共演したい、と思ったんです。マリーナ・ショウの「Feel Like Makin' Love」という曲がありますよね。「Luz」って曲が出来た時にこの「Feel Like Makin Love」のことを考えたんですよ。テンポ的にも近いものがあるし、参考に出来たか出来なかったか正直わからないですけど、「Luz」が出来たときに、なんかこう、初めての音楽に出会った感じというか、すごい衝撃が僕の中であったんですよ。で、この曲ってデイヴィッドが物凄く得意なテンポなんじゃないかなーと思ったんですね。そのとき「この曲にデイヴィッドのギターが入ったら」と考えて。ピンときたんですよね何か。
── なるほど。
二村:『プレイヤー』という音楽雑誌に「あなたが夢のバンドを組むとしたらどんなバンドを組むか」というコーナーがあって。僕、そういうのをシミュレーションするのが好きで。絵を書くのと同じように曲を捉えることが多いんですよね。例えばプロモーションビデオを作ったらこんなイメージになるだろうなあ、とか考えるわけです。デイヴィッドとの録音のときも、彼に言ったことの一つに「ちょっと温度を3度くらい下げてください」とお願いしたんですね。この曲は気温設定が16度じゃなくて13度なんですよ、みたいな。湿度がもうちょっと高い感じで、みたいな。僕、譜面とかで説明できないので抽象的な表現になってしまうんですね。
── 面白いですねー。
二村:Band Of Pleasureの『LIVE AT KIRIN PLAZA』とかのエグゼクティブ・プロデューサーの藤岡博之さんという人が、今の僕のプロデューサーなんですね。僕のライブを見てくれたのが知り合ったきっかけなんですけど、その時に「おまえのここはこうだ」とか「ここがこうなればいいじゃん」みたいなことをいきなりガーッて言われたんですよ。そのときはまだ藤岡さんのことを良く知らなかったんで「なんやこのオッサンは」とか思ってたんですけど、次のライブときもまた見に来てくれて。そのライブの後いっしょに呑みに行ったんですけど、そのときに「おまえって洋楽好きなんだなあ」という話になって。僕より24歳年上なんで、僕が好きな70年代の音楽をリアルタイムで聴いてきた人なんですよね。だから、僕の音楽を聴いて、ものすごく歯がゆいところと可愛らしいと思うところと両方あるんじゃないかなって気がしてるんですよ。「よう昔の音楽知ってんなあ」という部分と「なんでこれ知っててこれ知らんねん」という部分があるというか。そういうところが話をしていて面白いといつも言われるんですよ。
── うんうん。
二村:で、その藤岡さんに「もしお前の夢が叶って共演できるミュージシャンがいるとしたら誰と演りたい?」って聞かれたんですよ。そしたら僕は「二人います」って答えたんです。「一人はジェイムス・テイラーで、もう一人は……デイヴィッド・T・ウォーカーってギタリスト、知ってはります?」って言ったんですよ(笑)。そしたら「知ってるがなアホ! オレは昔デイヴィッドとよう仕事しとったで」って言われて。でもそのときはまだ信用してなくて「ホンマですかぁ〜」みたいな感じだったんですね。そしたら「じゃあ、お前のその夢、オレが叶えさせたるよ」って言われて。それが最初の始まりでしたね。
── それが藤岡さんとの出会いでもあったわけですね。
二村:去年(2003年)の5月に吉田美和さんの『beauty and harmony 2』のライブ公演があって大阪にデイヴィッドが来たんですね。その時に藤岡さんといっしょに僕もバックステージに潜入させてもらったんです。そのツアーメンバーがまた凄いメンバーだったでしょ? 最初にオマー・ハキムを見つけて「うわぁ〜オマーや」みたいな感じで完全にファンの心境で。で、ちょっと僕、トイレに行ったんですよね。で、トイレから出てきたら、目の前で藤岡さんとデイヴィッドがハグしとったんですよ。「うわぁ〜ホンマやぁ〜、ホンマなんや〜」って。
── それがはじめての対面だったと。
二村:そのときに藤岡さんとデイヴィッドが世間話していろいろとしてたんですけど、横にいる僕のことにデイヴィッドが気が付いたらしく「こいつは誰だ?」みたいなことを聞いたんですよ。そしたら藤岡さんが「大阪で頑張ってるシンガーで、あなたにギターを弾いてもらうのが夢なんですよ」というようなことを言って僕のことを紹介してくれて。「僕はあなたにぜひギターを弾いてもらいたいんですよ」って言ったら「全然問題ないよ」って言ってくれたんですよ。「ただ、このツアーが終わって帰国したあとにまた日本にやってくるとしたら結構費用がかかるよ」って言われて。で、「レコーディングするときは僕があなたに会いにいきます」って話をして。
── なるほど。
二村:で、そのときはそこまでで話は終わったんですけど、その後、僕もアルバム制作のプリプロダクションを行うという段階のときに、デイヴィッドに再交渉したんですね。デイヴィッドとしてはオッケーだったんですけど、スケジュールとか費用的な問題とかいろいろあってなかなか先に進まなかったんです。で、11月くらいにトラックがほぼ完成して。12月くらいにはデイヴィッドに録音してもらいたかったんですけど、いろいろあって年明けて今年(2004年)1月にようやくデイヴィッドのスケジュールも合うという日程が決まりそうということになって。飛行機のチケットもとれて3泊5日の強行スケジュールでアメリカに向ったんです。
── LAでの録音だったんですよね?
二村:そうです。ロス初日は普通に観光。2日目がスタジオでデイヴィッドの録音の日だったんです。で、今回の録音したエンジニアが元サヴォイ・ブラウンのバリー・ポールというギタリストの人だったんですね。スタジオのオーナーでもあるんですけど、この人、デイヴィッドのことを知らなかったみたいで「デイヴィッドってどんな人?」って僕に聞いてきたんです。で、「マリーナ・ショウのアルバムとかで弾いてるギタリストで……」って説明したら「ええ〜っ!うっそぉ〜!?」ってびっくりしてて(笑)。そんな人のレコーディングさせてもらえるの?みたいな感じで盛り上がりましたね。
── やっぱり緊張しましたか?
二村:そりゃあもうドキドキですよね。デイヴィッドってよく冗談というかジョークを言うんですよ。スタジオに入ってきたとき彼はソフトケースを抱えてたんですけど「アツシごめん。今日ギター持ってくるつもりがトロンボーン持ってきちゃったよ!」って言うジョークで掴みはオッケーみたいな(笑)。場がドカーンっていう感じで盛り上がりましたね。で、そのトロンボーンジョークで一盛り上がりした後、デイヴィッドがちょっと眉間にしわを寄せてプロデューサーの藤岡さんに言うんですよ。「ポップコーンが無いよ」って(笑)。
── でましたポップコーン(笑)。
二村:藤岡さんも久々のデイヴィッドとの再会だったからか、いつもだったら用意しておくポップコーンのことをすっかり忘れてたようで。すかさずデイヴィッドが「ポップコーンがないような仕事、オレはやらないよ」みたいな。もちろんジョークなんですけど、その後すぐにデイヴィッドが僕に言うんですよ。「なあアツシ。僕はデイヴィッド・T・ウォーカーと呼ばれているけど、ホントの名前はデイヴィッド・"P"・ウォーカーなんだよ」って。その瞬間、何が言いたいのかうっすら気がつきましたけど(笑)。「そう、デイヴィッド・ポップコーン・ウォーカーなんだ」ってデイヴィッドが言った瞬間、その場にいる全員が一斉に大爆笑ですよ(笑)。
── あー、目に浮かびますね〜。
二村:それがデイヴィッドとの一番の思い出だったりして(笑)。
── で、その後にいよいよレコーディングへと。
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LAでのレコーディング風景。
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David Tに書いてもらったというサイン(ノート右側)。"Press On With a Smile"の文字が見える。左側にはロス滞在3日目に会ったジェイムズ・ギャドソンのサインも。
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二村:その冗談が20分くらい続いた後ですけど(笑)。で、まず曲を聴いてもらったんです。「キーは何?」って聞かれて、譜面は一応用意してたんですけど、僕は譜面が読めないですし、譜面での説明はできないんですけどって伝えたんです。そしたらデイヴィッドは「日本語の歌だし君の曲だから、君が描いてる世界に僕が歩み寄ることが正解だと思う」というようなことを言ったんです。そこで僕はデイヴィッドに曲のイメージを伝えようと思ったんです。
── イメージ。
二村:僕の中でこの「Luz」って曲にはイメージ設定があったんです。「深い森の中で小鳥が生まれて、その小鳥がやがて大空へ羽ばたいていく」というイメージなんですよと、デイヴィッドに伝えたんです。「季節は春で、朝6時くらいで」とか「前日に雨が降って夜露がまだ残ってて」とか「葉っぱにてんとう虫が乗ってて、その葉っぱに夜露がぽつんと落ちた瞬間に曲が始まるんです」みたいな話をデイヴィッドに伝えたんです。「森の中にはハンモックがあって、あなたの隣には僕がいて」みたいなイメージだと伝えたら「オッケー。君のイメージは十分わかったよ」という話になったんですよ。
── かなり具体的なイメージですね。
二村:そうですね。で、曲を聴いてもらったわけなんですけど、まずデイヴィッドは「このアコースティックギターは誰が弾いてるの?」ってまず聞いてきたんです。で、僕は「あー、ギターにケチつけられるのかなー」って冷や冷やしてたんです。藤岡さんもデイヴィッドがアコギの部分だけ差し換えろって言いたいんだろうかと思ったらしく、僕もちょっと恐かったんですけど、デイヴィッドはこう言ったんです。「このアコースティックギター、ジェイムズ・テイラーみたいだね」って。
── ほお!
二村:デイヴィッドには僕がジェイムズ・テイラーが好きだなんて一言も話してなかったんですけど、直感的にそう感じてくれたみたいで。で、「すんません、実は僕が弾いてるんです。ごめんなさい」って言ったら、「そうだったのか。アツシ、君のギターは素晴らしいギターだよ」って言ってくれて。すごく驚きましたね。
── それはうれしいですよねー。で、録音が始まると。
二村:まずイントロ部分とアウトロ部分にメインテーマとなるオクターブのユニゾンを譜面上に指定しておいたんです。そこだけ僕が指定したところで、あとはもうホントにデイヴィッドの好きなように弾いてという感じで。
── 「好きなように弾いてくれ」の部分は本当にデイヴィッドが好きなように?
二村:そうなんです。1時間半くらいですかね。ずっとデイヴィッドのギターを聴いてました。もともと1時間でという約束だったんですけどね。で、レコーディングが終わった後いっしょに食事に行ったんですけど、その時に「今回のレコーディングはかなり面白かったよ」って言われたんですよ。なので「どうしてですか?」って返したら、「まず君は僕のことが好きだよね」ってデイヴィッドは言うんですよ。「君は僕の作品を良く聴いてくれていて、僕と共演するのが夢だったんだろ? その夢をそう簡単には壊せないよ」みたいなことを言ってくれたんですよ。
── すごいことですね。
二村:僕もデイヴィッドのあの曲が好きでどうだとかこうだとか、デイヴィッドについてのいろんな話を本人に話したんですよ。やっぱりマリーナ・ショウとニック・デカロのあの曲の話になって。「アツシ、君は何才だい?」「26才です」「うそだろ? マリーナ・ショウはわかるけど、その歳でニック・デカロはないよな」みたいな話で盛り上がって。それまではもうガチガチに緊張状態で話してたんですけど、そんな会話があって僕はデイヴィッドと会話しやすくなったというか。
── デイヴィッドが自分の曲にギターを弾き始めたとき、率直なところどんな風に感じましたか?
二村:率直に言うとデイヴィッドって不器用なギタリストなんだなと思いましたね。そして意外と譜面に弱いんだな、と。
── なるほど。
二村:譜面上に指定してあるユニゾン部分のフレーズを彼はオクターブ低いところで弾いたんですよ。「デイヴィッド、それはちょっと違うよ」って言ったら、「ごめんアツシ、よくわからないんで、メロディを口で歌ってくれないか」ってデイヴィッドは言うんですよね。
── なんとなくデイヴィッドらしいですね。
二村:あとは、ホンマにオレの曲にギター弾いてるんや、という感想ですね。これはもう目の前で現実に起こってるわけですけど、それが「凄いことなんだ」という感覚よりも、「もっと長くデイヴィッドのギターを聴いてたいな」という感覚でしたね。
── あーその気持ちよくわかります。
二村:で、テイク2が終わったあと、デイヴィッドは出来が結構気にいった様子だったんですよ。エンジニアのバリー・ポールも藤岡さんも僕に「アツシ、今のテイクどうや」って聞いてきたんですけど、僕は「No」と答えたんです。偉そうに(笑)。すかさずデイヴィッドは「Why?」と。なので僕は「僕のことはどうでもいいから、もっと弾いてください」って答えたんです。「この曲に関してはあなたのギターが主役なんですから」って。
── で、テイク3へといくわけですか。
二村:もともとこの「Luz」って曲はデイヴィッドが参加してくれなかったら女性とデュエットするつもりの曲だったんです。で、もしデイヴィッドが参加できることになったら、デイヴィッドと共演したい、デイヴィッドとデュエットしたい、という気持ちだったんです。「この曲はあなたのギターはギターではなくてボーカルなんです。あなたにギターでうたって欲しいんです」ってデイヴィッドに言ったんです。そんな話を伝えて、テイク3を録ったんです。
── で、それが採用に?
二村:そのテイク3がこれがまたすごく良かったんですよ。で、「アツシ、今のはどうかな?」ってデイヴィッドが聞いてきたんですけど、でも「オッケーです……でも……」みたいな感じで僕がちょっとごねたんですね。すると「アツシ、今のプレイ、どこか悪いところがあったかな?」「いや、全然悪くないんですよ。悪くないんですけど、でも僕はもうちょっとあなたといっしょにいたいんです」って言ったんです。そしたらデイヴィッドはめっちゃ笑ってハグしてくれたんです。そのときがデイヴィッドとの初めてのハグだったんですけどね(笑)。
── (笑)
二村:で、「オッケーわかったよ。でもその前にちょっと休憩させてよ」って言って部屋を出ていったんですよ。その後、戻ってきてテイク4に入るんですけど、デイヴィッドの目がそれまでとちょっと違ってたんです。テイク3までと明らかに違ったのは、ギターソロ弾きはじめる瞬間に口が一瞬開くんですよ。で、その後奥歯を噛むような感じになってグイーンと来るわけですよ。「うわぁ〜すっげぇ〜」と思いましたね。
── 気合い入れ直した感じだったんでしょうかね。凄いなあ。で、そのテイク4が終わって。
二村:無事にテイク4が終わった後にデイヴィッドは僕に言いましたね。「君はものすごく抽象的だけどディフィカルトなリクエストをするよね。ものすごく楽しいけど、ものすごく難解だよ」って言われて。
── 難解だと。
二村:というのも、譜面に書いて説明するのと言葉だけで説明するのとでは全然違いますよね。ニュアンスを相手に受け取ってもらうことって相手によって受け取り方も当然違うし100の事を言っても100そのままは伝わらないと思うんですよ。言葉の壁ももちろんあるでしょうけど。でも僕はあまりそういう危惧は持ってなくて「いや、そんなことはないですよ。ホントに素晴らしいプレイでしたよ」ってデイヴィッドに話したんです。「僕がイメージしてた曲の遥か彼方先に行った曲になりました。素晴らしいです」って。そしたらデイヴィッドは「どうでもいいんだけどアツシ。日本人で僕にテイク4まで弾かせたのは、ここ近年で君が初めてだよ。You are Devil !」って(笑)。一同大爆笑ですよ(笑)。
── 面白いですねー。
二村:もう人生最良のひとときというか(笑)。デイヴィッドも実に楽しい人で、テイクが終わる度にいろんなジョークを常に挟んできたりいろんなことを話してくるんですよ。「アツシ、じゃあ、次のテイクはへヴィメタル調でいくからね」とかね。一言喋る度に場が爆笑になって。僕も何か笑わせようと思って、ジョークの応酬って感じでしたね。
── いや〜実に楽しそうな現場ですね。
二村:デイヴィッドとの別れ際にこんな会話があったんですよ。「君は自分で曲も詞も書いてるの?」「はいそうです」と。するとデイヴィッドから「アツシ、それが一番大切なことだよ。君の好きなジェイムズ・テイラーもそうだし。これからもずっと続けていってほしいよ」って言われたんですよ。その言葉がホント、ぐっと心に響きましたね。
── デイヴィッドらしい発言ですね。
二村:ホントに楽しいレコーディングだったとも言ってくれたし、もう最高の時間でしたね。で「6年前にこの『Luz』って曲を作ったときにあなたに弾いてもらうことが夢でした。ホントにその夢が叶って幸せです」みたいなことを僕がデイヴィッドに言ったんですね。するとデイヴィッドはニンマリ笑ってこう言ったんですよ。「アツシ、じゃあ、今回の君のアルバムのタイトルは『Dreams "Came" True』にしろよ」って(笑)。
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