David T. Works Vol.44

まだまだまだ続くこのコーナー。Vol.44の10選をどうぞ。

Jimmie & Vella / Jimmie & Vella (1972)

シンガー・ソングライター・デュオ、ジミー・キャメロンとヴェラ・キャメロンのコンビの通算2作目。全編彼らのペンによるフォーキーで抑制された肌触りの楽曲を、それぞれがヴォーカルパートをとりながら描く歌世界はシンプルながら個性的な風貌。特にリンダ・ルイスを彷彿とさせる仄かなソウルフィーリングを併せ持つヴェラの歌声とアコギのリズム音もアルバムに柔らかく色彩を加えている。中でもアコースティックなファンクネスが宿る「Chica Boom」や「Lord Abide With Me」などは彼らの持ち味が静かに凝縮したブラックフォーキー&ソウル。内に秘めた彼らの情熱をサポートするかのように、David Tも2曲に参加。冒頭を飾る「The Door Is Open」では、低音弦中心に弾力あるビートを刻む静かなプレイだが、「Do You Really Know How I Feel」ではヴェラの奏でるアコギの隣でいつものきらびやかなフレーズを連発。楽曲の持つピースフルなテイストを後押しする見事なサポートがここにある。

The Henry Jackson Company / The Henry Jackson Company (1973)

ヘンリー・ジャクソン率いる総勢9名のゴスペルユニットの1stは、ジョー・サンプル(Key)、ウィルトン・フェルダー(B)、ポール・ハンフリー(Dr)、アール・パーマー(Dr)、ボビー・ホール(Per)、ディーン・パークス(G)といった当時の西海岸最強の面々を起用し、主役のヘンリー他、楽曲によってリードを代えながら聴かせる強力アルバム。ほとんどのアレンジを担うジーン・ペイジの片腕的存在としてDavid Tも全力サポート。軽快でノリの良い「Lord We Need You」や「I'm Glad I'm His (And He Is Mine)」、スローテンポで情感のこもる「When Will People Learn To Love」や「He Didn't Have To Do It」など、硬軟自在のバッキングを披露。特に、丸く弾力のあるフレーズにワウペダルを織り交ぜながら迫るミドルテンポの「The Truth Will Catch A Lie」や、メンバー全員が一丸となって圧倒的な歌唱力で聴かせる「He Didn't Have To Do It」でのギタープレイは絶品の一言で、ラストを飾る「I'm So Thankful」でもファンクネス溢れる得意のフレーズを連発。同時期リリースされているOdeでのソロ作で聴ける絶頂期の音色が、そのままここでも堪能できるというありがたい一枚だ。

Ray Charles / Come Live With Me (1974)

自身のレーベルCrossover Recordsからの第一弾。アルバム前半は、シド・フェラーによる多層的なオーケストレーションにレイ一流のゴツゴツとしたソウルフィーリングが充満する中、生ピアノの代わりに奏でられるエレピの音色が絶妙のアクセントとなって展開。アルバム冒頭を飾るビートルズナンバー「Till There Was You」や、ブードロー&フェリス・ブライアント夫妻コンビ作の表題曲「Come Live With Me」など、全編に漂うエレピの音色は重厚感を軽妙にブレンド。アルバム後半はさらに軽快なタッチが加わったファンキーテイストが次第に顔を覗かせ始め、中でも、ミドルテンポで隙き間のあるファンクネス溢れるスタンダードナンバー「Louise」のカヴァーや、ジミー・ルイス作「Where Was He」、ラストを飾る「Everybody Sing」など、地にしっかりと根を張る太いソウルフィーリングと、スマートで重くなり過ぎないニューソウル的風味の交差が面白い。David Tは同じくブードロー&フェリス作「Problems, Problems」一曲のみに参加。クレジットもなく、際立ったフレーズもさほど無いものの、実にシンプルで朴訥とした一音一音に響く、David Tらしいソウルフィーリングがさりげなく伝わってくる。

Clydene Jackson / Fresh (1975)

同じくレイ・チャールズ主宰レーベルCrossoverから、全編レイが製作に関与した一枚。セッションヴォーカリストとして多くのアーティストと共演を重ねていく彼女のソロデビューとなった本作は、オリジナル曲も半数収録するなど、シンガーとしてだけではない多才な一面も覗かせる。ジェリー・ジェフ・ウォーカーの「Mr. Bo Jangle」や、オールディーズナンバー「Tammy」のカヴァー、自身のオリジナル「I'll Be Good For You」など、しっとりとしたR&Bテイストで歌い上げるスマートな情熱が心地良い。David Tは、レイ自身も70年作『Love Country Style』で採り上げたジミー・ルイス作「If You Were Mine」に参加。レイの原曲版でもプレイしたDavid Tだが、ここではまた違ったアレンジとフレーズを華麗に披露している。

Love Unlimited Orchestra / My Sweet Summer Suite (1976)

ご存知バリー・ホワイト率いるオーケストレーション集団の76年作。自身のソロアルバムやラヴ・アンリミテッドのプロデュースなど、名義を変えながらもタッグを組むジーン・ペイジとのアレンジワークによって生まれるバリーサウンドを数多く露出したこの時期。ポップでリズミカル、軽快ながらもソウルフィーリングのあるサウンドを追求するコンセプトは本作でも揺るぎなく安定感たっぷり。そのサウンドに欠かせないDavid Tも、当然のごとくもれなく参戦。特徴的なフレーズは少なく、あくまでバリーの要望に着実に応えるリピート主体のバッキングで存在感は希薄だが、アルバム中もっともスローな「Are You Sure」では、ほんの少しだけそのメロウな側面をチラリと顔を覗かせ、ラストを飾る「I'm Falling In Love With You」では、次第に盛り上がりを見せるストリングスとリズム隊に呼応するかのようにエキサイトなフレーズが飛び出す。バッキング時はひたすらクールに奏でるDavid Tが思わず奏でるエネルギッシュなプレイに、フィーリングを重視する彼一流のスタイルを痛感。同時にそれは、この多人数のアンサンブルが、瞬間、密度濃い高揚感に包まれた証しでもある。

The Temptations / Do The Temptations (1976)

中期テンプスのモータウン時代最後となった一枚。ノーマン・シーフの躍動的なジャケ写に比例するかのように、ダンサブルテイストがチラホラ顔を覗かせながら、「I'm On Fire」などメロウなナンバーもしっかりと残す貫禄たっぷりの仕上がりが納得度十分。ベンジャミン・ライトによるほぼ全編に渡るアレンジワークも実は聴き逃せないところだ。David Tは「Is There Anybody Else」のみにひっそりと参加。同じくこの曲をサポートしたワー・ワー・ワトソンの特徴的なフレーズとは対照的に、一聴しても判別しにくくクレジットも無い影の薄い参加だが、良く聴くとその隙き間から漏れる鋭い音色が、この曲に欠かせないアクセントとなっていることに気がつく。瞬間的な“一音”に必要とされる素晴らしい個性に、あらためて拍手を贈りたくなるのだ。

Billy Preston & Syreeta / Fast Break (1979)

「ザ・ドロッパーズ」の邦題で公開された同名映画のサントラ盤。音楽制作を務めたジェイムズ・ディ・パスクァーレとデヴィッド・シャイアによる楽曲に、ビリー・プレストンとシリータがソロ&デュエットでボーカル参加。モータウンからのリリースのためか、バックを担ったミュージシャンも、エド・グリーン(Dr)、ソニー・バーク(Key)、ワー・ワー・ワトソン(G)、エイブラハム・ラボリエル(B)、アーニー・ワッツ(Sax)といったツワモノたち。David Tは、映画のテーマ曲としてアルバム冒頭に収められた「Go For It」のディスコヴァージョンのみに参加。その名の通りノリノリでアッパーなアレンジの中、途中、キレのあるパーカッシブなソロを繰り広げるDavid Tに、ファンキーサウンド百戦錬磨の底力を痛感。

Norman Connors / Invitation (1979)

70年代後半、何かとDavid Tと関わりの多いノーマン・コナーズ。前作『This Is Your Life』に引き続き、自身のバンド“スターシップ・オーケストラ”を中心に、ゲイリー・バーツ(Sax)、ボビー・ライル(Key)、ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、ジーン・カーン(Vo)といったお馴染みのゲスト陣が随所でバックアップした一枚。ハービー・ハンコック「I Have A Dream」のカヴァーや、ゲイリー・バーツのサックスが響く「Be There In The Morning」など、軽快なダンサブルチューンとメロウテイストをバランス良く配置した充実作だ。David Tは、アル・ジョンソンのヴォーカルを起用したアルバム冒頭を飾る一曲「Your Love」から参戦。続くメロウバラード「Handle Me Gently」や、ジョーンズ・ガールズのバックコーラスが文字通りのビートに溶け込む「Disco Land」など、決して大仰なソロプレイではなく、ここぞという隙き間を縫う妙技で楽曲全体をサポートしている。

Stanley Turrentine / Betcha (1979)

アレンジワークとストリング指揮を務めたジーン・ペイジの心地良いオーケストレーションが全編映える名サックスプレイヤーの79年作。ジェイムズ・ギャドソン(Dr)、ジェフ・ポーカロ(Dr)、ソニー・バーク(Key)、ワー・ワー・ワトソン(G)、チャールズ・フィアリング(G)、リー・リトナー(G)など、集うメンバーもいつものツワモノたち。太く懐の深いスタンリーのサックスの音色は、トッド・ラングレン作のユートピアの名曲「Love Is The Answer」など、全編をメロウなテイストに包んでいる。新旧各世代が交差するメンバーの一人として参加したDavid Tも、冒頭を飾る「Take Me Home」から息のあったプレイで応戦。表題曲「Betcha」では小音量ながら十八番フレーズできらめきを添え、「Concentrate On You」では、イントロ部分で個性的アプローチとテクニックで迫りながら、ムーディなサックスの音色に自然と溶け合う柔軟性を発揮。ほぼ全編に渡って披露されるキラ星プレイは、同じく参戦した他のギタリストとは確実に異なる個性で聴き手を魅了する。

Chuck Jackson / I Wanna Give You Some Love (1980)

ルーサー・ディクソンをプロデューサーに迎え、一部ジャマイカで録音されたEMI America盤。それゆえか、ボブ・マーリー作のナンバー2曲がカヴァーされるという面白い一枚。名曲「Waiting In Vain」はレゲエテイストを抑えた軽快なポップチューンにアレンジされ、アルバムタイトル曲「I Wanna Give You Some Love」には、ジュニア・マーヴィン(G)を筆頭にリズム隊とコーラス隊にウェイラーズのメンバーが客演している。一方、クレジットこそないものの、アルバム冒頭を飾るリオン・ウェア作「No Tricks」の背後には、David Tの弾力感たっぷりのフレーズがチラリ。「The Way You Hold Me」や「You Don't Want Me」でも、力強いボーカルの横でコップから溢れる寸前の水面ギリギリのキレと艶でうっすらと輪郭を刻む。そして極めつけとなる「Let's Get Together」では、控え目に徹していたバッキングから一変して、一聴してそれとわかるキラ星フレーズを惜しみなく繰り出す。退くときは退き、出るときは出る。この緩急こそDavid Tの真骨頂であり、起用者が求める魔法のタッチなのだ。

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