David T. Works Vol.26

David Tが参加した数々のアルバムの中からピックアップして紹介するこのコーナー。まだまだ続きます。ではVol.26の10選をどうぞ。

Solomon Burke / We're Almost Home (1972)

ソウルミュージック界の裏のドン、ソロモン・バークがMGMに残した72年の傑作盤。何と言ってもソロモンの味のある安定感十分のパフォーマンスが素晴らしく、バックを務める演奏陣の好サポートも手伝っての高い完成度を誇っている。2本のアコースティックギターをバックに懐深く歌い上げるレイ・チャールズのカヴァーA4「Drown In My Own Tears」での表情豊かなブルースフィーリング。王道とも言える熱唱ぶりが実に輝かしくさまになるA5「I Can't Stop Lovin' You」のソロモン流R&Bへのアプローチ。ストリングスアレンジが洗練さを演出するニューソウル風味のB3「Misty」のメロウネス。ソウルミュージックの魅力を余すところなくバラエティ豊かに展開するソロモンの才が見事に凝縮された仕上がりが実にうれしい。プロデュースワークに、ジーン・ペイジの名があることからか、David Tも本作のソウルネスに一役貢献。アルバムタイトルにもなったA1「We're Almost Home」で、とろけるような一撃を浴びせてくれる。

The Crusaders / The 2nd Crusade (1973)

ジャズ、ブルース、ソウルの要素をシンコペーションの効いたポップフィーリングで料理する作風が心地よいクルセイダーズの72年作。ウィルトン・フェルダーが全曲ベースを担当する本作は、前作『1』でのポップテイストをさらに押し進めつつも、高度なアンサンブルワークによって泥臭さと洗練さを絶妙なバランスで溶け込ませる非常に聴きやすいインストゥルメンタルミュージック路線を展開している。メンバー全員が楽曲制作にそれぞれ関与しおのおのの個性を発揮しながら、そのどれもがバンド全体の個性にうまく溶け込む色付けが施されるという世にも不思議なクルセイダーズワールドが存分に楽しめる。そして、ゲスト参加した3人のギタリストも実に個性的な仕事ぶりを発揮。堅実に下地を作るカッティングワークを披露するアーサー・アダムスはキレ味鋭く周囲に食らいつき、マイナートーンのミディアムポップファンクA8「A Message From The Inner City」やニューソウルテイスト溢れるB2「No Place To Hide」で聴けるラリー・カールトンのソロプレイは、静かな佇まいながらも楽曲に確実に色彩を施すサポートで頼もしい。そして、もう一人のギタリストDavid Tも、ワウプレイや粘っこい弾力感溢れるフレーズで十分に貢献を果たしている。

Leon Haywood / Keep It In The Family (1973)

名盤の呼び声高い75年の『Come And Get Yourself Some』の前作だが、決して引けをとらない充実した内容の一枚だ。アルバム冒頭A1「Keep It In The Family」から素晴らしいリオンのボーカルが炸裂。ジーン・ペイジのストリングスアレンジがハートをチクチクくすぐるスローテンポのA3「That Sweet Woman Of Mine」へと続くあたりで、もう「決まり」の感ある完成度。クレジットが一切明記されてないが、全編通して聴こえてくる素晴らしいサポート陣による伴奏も本作品に強力な彩りを添えており実に頼もしい。そして、ここぞというタイミングをズバリ突きながら入ってくるオブリは間違いなくDavid Tの手によるもの。オーケストレーションと弾力のあるリズム隊が、強力な磁場を放ちながら躍動し続けるミディアムテンポのB1「A Hundred Pounds Of Clay」で聴けるDavid Tの粘り気たっぷりのカッティングは、思わず拳に力を込めてしまう重量感が妙な心地よさを演出。ブラックムーヴィーのBGMとしても通用するインストナンバーB3「B.M.F.Beautiful」でのキレのあるドラムとそこに食らいつくメロディアスなギターソロも実に印象的だ。聴き所は何と言っても、生ピアノの調べがジャジーなテイストで迫りながらバックボーカル陣のサポートも手伝って絶妙のソウルネスを演出するA5「When It Comes Down On You In The Middle Of The Night」。派手さはないもののその黒さの一端を担うDavid Tのフレーズが存在感を残している。

Smokey Robinson / Smokey (1973)

静かな佇まい。ミラクルズ脱退後のソロ第一作となる本作に派手さは皆無だが、メロウネスの極致の感ある実に素晴らしい出来の一枚だ。プロデューサーにスモーキー自身とウィリー・ハッチ。アレンジワークにはジーン・ペイジ、デイヴィッド・ブラムバーグが名を連ね、抑制されたソウルネスを存分に演出している。時折り表情を見せる淡々としたエレピの音色もアルバム全体の色彩を決定付ける大きな要素の一つとなっており聴き所の一つだ。名曲A3「Never Can Say Goodbye」やキャロル・キングのB1「Will You Love Me Tomorrow」のカヴァーは、本家以上に落ち着きのあるムードを醸し出す。また、B3「The Family Song」やB4「Baby Come Close」は、スローなテンポの中にも芯のあるリズムと音色が張り詰めた空気を発散し、聴く者を静かに圧倒する。David Tはワウペダルによるオブリと相変わらずのメロウフレーズで、スモーキーの歌声を完全バックアップしている。

Billy Preston / The Kids & Me (1974)

ソウルとロックフィーリングが絶妙なバランスで堪能できるビリー・プレストンの74年作。ゴスペル、ブルース、R&Bと、バラエティに富んだブラックネスな仕上がりが素晴らしい一枚だ。中でも、ホーンセクションとムーグ風シンセが絶妙に交差しながらグイグイと前進するキレのあるファンキーロックナンバーA3「Struttin'」の躍動感から、同じく生ピアノと腰にくるリズムセクションが絶妙にシンコペーションを生み出すA4「Siser Sugar」へと続く展開は白眉で、フロアでの需要にも容易に応えてくれるナイスグルーヴの感十分。ゴスペルをルーツに持つ彼ならではのアレンジも、本作を気高いステージへと後押しするのに一役買っている。そして、後にジョー・コッカーが大ヒットを飛ばすビリーの名曲「You Are So Beautiful」でDavid Tが登場。ビリーの熱唱とバックコーラス隊に隠れて大きくは目立たないが、最初から最後まで出過ぎず引っ込み過ぎずのメロウなオブリを奏でるDavid Tのプレイは、音数の多いアンサンブルの中でも確実に個性をあらわにする摩訶不思議な魅力を放っている。おそらくはDavid Tとの交流が深かったビリーの確信犯的起用。それが容易に想像できるのもまた、David Tの魅力の成す業としか言いようがない。

Nino Tempo & 5th Ave.Sax / Come See Me 'Round Midnight (1974)

60年代には妹エイプリル・スティーヴンスとのデュオで「All Strung Out」をヒットさせ、フィル・スペクターサウンドの後継者としてその筋では有名なサックス奏者にして名アレンジャー、ニノ・テンポが74年に残したファンキーアルバムの傑作。ジェフ・バリーとの連名プロデュースによる本作は、スペクター・サウンドを期待するとちょいとハズレの感が大だが、それとは異なる趣きの、実に痛快かつクールなグルーヴが満載の一枚だ。全編ニノのサックスが大盤振る舞いの構成だが、サポートするバックアップ陣の演奏も引き締まり具合満点でフロアでも十分通用するビートが実に頼もしい。生ピアノの跳ね具合が心地よいA2「High On the Music」のしなやかさ、B4「Money」のダークなテイストなどバラエティに富んだ楽曲群は聴く者をなかなか飽きさせない。アルバムラストを飾るB5「Last Cut-Side2」も、グルーヴ感たっぷりにリズムを刻むタイトなドラムに乗ってエレピとサックスが自在に交差するアレンジが実に絶妙で心地よい。そんな中、David Tの参加は音量バランスが非常に小さいのが残念だが、ファンキーテンション溢れるミディアムテンポの「What Now My Love」などで、粘り気たっぷりに弾力感のあるフレーズとリックで勝負。ニノのサックスの勢いにも決して劣ることなく主張しながらも一線を超えない謙虚さをも同時に演出する「壁際の魔術師」的プレイが実に彼らしく居心地よいのだ。

Tom Brock / I Love You More and More (1974)

バリー・ホワイトの完全プロデュースによるトム・ブロックの74年作。アレンジワークにはいつものジーン・ペイジが名を連ねれば、そこはもうメロウネスの極致。主役のトム・ブロックの伸びやかで甘いボーカルは、バリー・ホワイトの世界にドンピシャにハマりまくりでまさに適材適所感満載。こうも甘くムーディなテイストをあからさまに放出して良いものかと、思わずその甘美な世界に嫉妬さえしたくなること間違いなしの舞台を構築するのは、これまたバリー人脈がフル稼動。心地良さの要因が、彼らバックアップ陣の「あの」演奏によるものであることもまず疑いようのないポイントの一つだろう。David Tの活躍は非常に地味だが、それでも本アルバム最大の聴きどころであるバリー節炸裂のマイナートーンナンバーA4「I Love You More and More」で、堅実に堅実を重ね尽くすかのようなカッティングワークを披露している。

Marilyn McCoo & Billy Davis Jr. / Marilyn & Billy (1978)

フィフス・ディメンションのマリリン・マックーとビリー・デイヴィス・Jrの二人によるデュオの78年作。ディスコミュージック全盛時代に発表された「その手」の音楽と同列に語るにはちょっと早急過ぎの感ある微妙なR&Bテイストがかろうじて体感できる一枚だ。それが、アルバムの半分以上の楽曲をスティーヴ・クロッパーがプロデュースいる点に大きく起因するのは間違いないところで、そこに顔を出すのは、ポール・ハンフリー(Dr)、ジェイムズ・ジェマーソン・Jr(B)、リチャード・ティー(P)といった面白いメンバー陣。クロッパーの小気味良いカッティングと時折り顔を覗かせるホーンセクションが、この時期特有のノリに反するツボを生み、非常にリラックスして楽しめる仕上り具合はなかなか良好なのだ。残りの楽曲は、ハーヴィー・メイソン(Dr)、ワー・ワー・ワトソン(G)、リー・スクラー(B)、リー・リトナー(G)と言った強者たちががっちりとサポート。特にB1「I Thought It Took a Little Time」とB2「Stay With Me」で聴けるワー・ワーのギターは、メロウネスたっぷりのサポートでさすがの一言。David TはB3「Saving All My Love For You」一曲のみに参加。ほとんどその輪郭をとらえることのできない「マイナー貢献」が残念なところだが、大ヒットしたホイットニー・ヒューストンのバージョンと、ここでのマリリンのボーカルを聴き比べは一興だろう。

Woods Empire / Universal Love (1981)

意外な程レアな存在として知られる男女混合ユニット唯一のアルバム。80年代初頭の典型的なサウンドプロダクションによるダンサブルチューンが並ぶA面に対して、幾分メロウタッチの楽曲で構成されるB面が本作の聴きどころ。エド・グリーン(Dr)、ジェイムズ・ジェマーソン・Jr(B)、ネイザン・イースト(B)、クラレンス・マクドナルド(Key)らのバックアップによるミディアムテンポの楽曲群は、画一的な感あるダンスナンバーと比べると、肩の力がすっと抜けていくような有機的な魅力がある。リードボーカルの歌声とバックを務める4人の女性ボーカルも意外な程しっくりと馴染んでおり聴き心地良い。David TもこのB面に静かに参加。大きく目立ったプレイこそないものの、それでもアルバムを順番に通して聴いたときに最初にDavid Tのギターが登場するB2「Destiny」では、やはりその個性的なフレーズとピッキング音に「ハッ」とさせられ、彼のギターがいかに大きな魅力を放っているかを再認識するのである。

大上留利子 / Heart Pain (1995)

スターキング・デリシャスでの熱唱、「大阪で生まれた女」を女性として最初にカヴァーしたボーカリスト。幾多の逸話とともにその名を歴史に残す大上留利子が95年に発表したソロアルバム。全曲、康珍化作詞によるジャパニーズ・ポップスの名曲群に彼女の歌という血を吹き込み新たな息吹をもたらした快作だ。マイケル・ランドウ(G)、ポール・ジャクソン・Jr(G)、ジェフ・ローバー(Arr)らをゲストに迎え、一歩もひけをとらない堂々たる風格とあくまでもナチュラルでシンプルな歌声を同居させる彼女のパフォーマンスが如実に堪能できる仕上がり具合は実に良好。例えば、山下久美子の名曲「雨の日は家にいて」のカヴァーで聴ける、あまりにさらりとした歌声はシャウト&ソウルフルのイメージを覆される気分にもなるが、それが卓越した技術に支えられたゆえの自然体によるパフォーマンスであることは想像に難くないのだ。David Tはアルバム冒頭を飾る「胸が痛い」1曲のみに参加。サビの後、待ってましたとばかりに奏でられるDavid Tならではのソウルフルでブルースフィーリング溢れるソロプレイは、憂歌団の名演を一瞬忘れさせる素晴らしいオリジナリティを再認識させてくれる。

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