Something for T. #16


【後編】




── 続木さんご自身のキャリアとしては、やはりジャズがベースなんですか?

続木:人前で演奏してお金をもらった最初はジャズじゃなくて、京都にいた頃に、シンガー・ソングライターの豊田勇造っていう、ジャンルでいうとフォークになるんですけど、でもいわゆるフォークシンガーとはちょっと違うタイプのシンガーとやってたんです。それがいわゆるプロとしての最初です。その後、東京でジャズをやるようになって、土岐さん(=土岐英史)と知り合うんですね。で、土岐さんがサンバのバンドをやるってことで誘ってもらって、ブラジル人のドラムとベースとパーカッション、あとブラジルから帰国したボサノヴァのギタリストの中村義郎っていう組み合わせで。義郎君もずっとブラジルにいた人だったんで、純粋に日本育ちは僕と土岐さんだけっていうバンドで、右も左もわからないながらやりはじめたっていう。

── チキンシャック結成前の話ですよね。

続木:はい、80年代の中頃、まだチキンシャックをやり始める前の話です。そのバンドは次第にメンバーが増えていって、パーカッションも3人、ギターも生ギターだけだったのがディストーションの効いたエレキギターも欲しいと。それで山岸ってギタリストが面白いからってことで山岸が加わるんです。それまで山岸はブラジル音楽とはあまり縁がなかったと思うんですけど、でも好きにやっていいからって言って。

── そのときが山岸さんとの出会いですか?

続木:そうなんです。そのサンバのバンドで、土岐さん、山岸、僕、っていう3人が出会って一つの組になったというか。

── それがチキンシャックへと発展していくと。

続木:はい。当時、山岸は別のバンドでデレク(=デレク・ジャクソン:チキンシャックの初代ベーシスト)と黒人系の音楽をやってたんですが、あるときいっしょにセッションやろうっていう話になって、土岐さんと僕が彼らといっしょにやることになって。それがチキンシャックになっていくきっかけでした。ドラムだけは固定してなくっていろいろ代わったり、シンガーが加わったり、最初はメンバーが流動的でしたけど、デレクを加えた4人が核になっていろいろ話をするうちにチキンシャックっていう一つのバンドになったという感じですね。で、山岸と接する機会が増えてきて、ジャズのセッションもやりつつ、一方では山岸つながりで塩次伸ちゃん(=ギタリスト塩次伸二)とかブルースの人たちともいっしょにやるようになって、高円寺のジロキチ界隈のセッションとか、いろいろと増えていったんですね。

── なるほど。

続木:チキンシャックをやりはじめた頃から徐々にR&Bとかブルース系のセッションが増えていって、しばらくジャズのほうはお休み状態だったんです。で、チキンシャックの活動が落ち着いて少なくなって、次、何やろうかな?って思ってたころ、やっぱり生ピアノがいいなあって、また思うようになったんです。チキンシャックでは電気楽器をいじり始めた頃で、世の中的にはシンセがどんどん進化し始めて鍵盤楽器も一気にデジタルの方向に流れ始めてた頃でした。デジタル的な進化とR&Bや他の音楽がリンクし始めて、そういうものを取り込んだ音楽がまた面白いっていう裾野が広がり始めた時期だったんです。

── 80年代は確かにそんな時代でしたね。

続木:そういう技術的な進歩をアメリカから聞きつけてくると「どうやったらこんな感じになるのか」ってなことをスタジオでいろいろ話をするわけです。エンジニアともそういう相談したりとか、特にチキンシャックの初めの頃はドラマーが決まってなかったこともあって、打ち込みやろうぜみたいなノリがあったり。それが実験的で刺激的で当時は面白かったんですね。でも、チキンシャックの後期になるとそういうことも隙き間がなくなって、だんだんと電気楽器的なこともつまらなくなってきちゃって。で、ふとピアノのことを考えると、やっぱりピアノって奥が深いし、ピアノいいなあって思い直したっていうか。で、ピアノでやるならジャズのほうが面白いし奥が深いと思って、ジャズに戻ろうと。

── クラシック音楽は通ってないんですか?

続木:子供の頃やってました。でも、クラシックってのは幼少期から技術も磨いてキャリアを積み上げてきた人じゃないとあり得ない世界なんです。それこそ超絶技巧が要求される音楽なんで。ただ、ピアノって楽器はもともとクラシックの音楽を再現するために、200年くらいかかって形が完成した楽器なんですね。ピアノという楽器をどう扱うかってことを学ぶ為には、クラシックを聴くとその良さがわかるいい教材でもあるわけです。だから、僕は今ジャズをメインにやってますけど、クラシックはものすごく聴いてます。クラシックのピアノだけを聴くんじゃなくて、ピアノ以外の楽器も聴くようになるし、作曲家のこととか、根掘り葉掘り調べるようになるし、自分なりの理解の仕方で接してますね。コンサートも月に2回くらいは通ってます。

── なるほど。

続木:オーケストレーションに興味をもってクラシックを本格的に聴き始めたんですけど、ある程度演奏経験積んでから聴くと楽しめるなあって、40代の半ば過ぎた頃に気がついたんですね。逆に子供の頃からわかるのが不思議なくらいなんですが、最近若い10代の演奏家の演奏をたまに聴くと、ませてるなって思うことがありますね。自分が10代の頃にはこんな世界観とか持てなかったのによく理解できてて凄いなと。

── デヴィッドのギターとピアノの音って相性がいいなあって常々思ってたんですね。デヴィッドのギターにピアノが呼応する、あるいはその逆もですけど、音そのものなのか、音色の問題かもしれないですけど、すごく調和するというか、そう感じることがあるんですね。ピアノがあることでデヴィッドのギターはすごく映えるというか。

続木:僕もそう思います。ギターもピアノも和音を出す楽器ですよね。和音を出す楽器同士がいっしょに演奏するときって、実はピアニストとしては相手が出す音とか音色の兼ね合いで、どう交ざるか、またはどう濁るか、ぶつかったりしないか、ということはものすごく神経質になるポイントなんですね。でも、これは不思議なことなんですけど、デヴィッドのギターの音色と、ピアノやキーボードの音色ってほとんどぶつからないんですよ。

── へぇー。

続木:楽器って倍音構成が違うから音色が違うんですけど、倍音と倍音が変なところでぶつかると、そこでうなりが生じて音が濁るんですよね。ところがデヴィッドのギターはそういうことが起こらない。デヴィッドの倍音はピアノの倍音とぶつかりにくい音を発してるんです。ところが、ジャズでも他の音楽でもそうなんだけど、和音の構成はそんなにぶつかってないはずなのに、音色的にぶつかった感じがあると、音がうまく交ざらないっていうミュージシャンもいるんです。論理的には合ってるはずなのに、ぶつかる人とはどうしても耳障りでノイジーな感じになる。でも、デヴィッドの場合、仮に論理的にはバッティングしてたとしても、それほどぶつかった感じにならないんです。

── なるほど。

続木:バンプレの場合は、それ以外に山岸もいるわけです。和音出す楽器が3台あるんだけど、でもなぜかうまくいっちゃう。山岸の何が優れているかっていうと、周りの音を聴いて、どういう伴奏するのがいいかを瞬間で選んで、この音だといい感じで交ざるということを本能的に察知するところがあって。結果それがいい方向に働くことになってホントに素晴らしいんですよ。だから、3人いるんだけど、役割分担のようなことをきちんと決めてやったことはないんですね。グルーヴに関してはギャドソンとシミやんが二人でつくる。それに誰かが伴奏をはじめたらそれがきっかけで曲の形ができあがっていくっていう。

── 譜面はあるんですか?

続木:コード譜くらいはありますけど、細かいキメも書いてないしラフな感じです。音の重ね合わせとか誰がどういうふうにパートをわけてやろうかとか、あまり細かく決めないですね。デヴィッドはデヴィッドのやり方があるし、僕も山岸も、デヴィッドにこういうふうにやってなんて指示したいと思ってないから、デヴィッドの持ってるパターンの中で、カッコよくやってくれたらそれでいいからって感じです。

── デヴィッドにとっては、かなり自由にやれてた、と。

続木:キメキメにやるんじゃなく、グルーヴの中に自分の居場所を見つけて乗っかって行くという感じ。そういう意味では音の役割分担が極めて自然に出来ていたので、何か邪魔をし合うってことがほぼ無かったですね。でも、自由にやってるといっても、デヴィッドもかなり周りを気にしながらやるんですよ。でもここぞってところでオイシいことをやってくるから、そういう姿をみると「さすがデヴィッド!」ってなるわけです。

── 曲の最後で、他のメンバーがブレイクして、デヴィッドだけが少し長い時間ソロフィーチャーされる場面ってありますよね。バンプレでいうと1stの『Live At KIRIN PLAZA』の「You Are My Sunshine」とか。ああいう展開も自然に出てきた結果なんですかね。

続木:デヴィッド自身からそういうふうにやらせてくれ、なんてリクエストがあることはないです。さっきの話にもつながりますけど、やっぱり山岸のチカラによるところが大きいかなって思いますね。山岸って、ステージの構成全体の中で、ここでこういうことが入ると絶対カッコイイとか、この曲はデヴィッドの活かしどころやろとか、ここでデヴィッドが入ってきたらイキまくりよるハズやとか、ある意味、お客さんにも受けるようなことを直感的に思い浮かぶ人なんですよ。「最初にトオルちゃんが一人でやってからデヴィッドが入ればカッコイイよな」とか「最後デヴィッド好きなようにやってよ」とか、アイデアを振るんですよ。そういう前フリがあってのことだから、無理矢理やらされてるって感じでなくてデヴィッドも「よっしゃ」って感じになってやるんですよ。

── その気にさせるのがうまいんですね。

続木:そうなんです。デヴィッドがその気になってやる、そうするとお客さんも喜ぶ、そういうコントロールというのか、山岸はとってもうまいんですよ。デヴィッド自身がそういうことを自分でプロデュースするよりも、山岸が「これどうかな?」ってデヴィッドをその気にさせたほうが、ある面ハマッてるところもあったと思いますね。

── デヴィッドが自分で率いてる自身のバンドだと、逆に山岸さんのような立場になって、メンバーへの配慮がより強くなるからか、少し控え目な感じになってるところがあるようにも思います。その分、ポイントを利かせたメリハリは十分にあるけど、自分一人だけが延々とソロプレイをやるなんてことはほとんどないですから。

続木:これは自負といえば自負なんですけど、デヴィッドがリーダーのバンドのときよりも、バンプレでやってるときのデヴィッドのほうが、デヴィッドの多彩な面がより強調されてでてきたり、お客さんがデヴィッドを楽しむうえでも楽しみどころがあちこち見えるんじゃないかって思うんですね。逆にデヴィッドがリーダーのバンドだと、デヴィッドの美学がより反映されているステージになる。バンプレの場合は、デヴィッドが自分からやらないことをどうやってやらせようかってことを考えて、それを無理なく自然に引き出してデヴィッドが光るっていうことになるんですね。これはホントに山岸の凄いところで誇れるところでもあるし、バンプレのメンバーとして自負できるところでもあるんです。





── 続木さんが書かれた「A Tiny Step」についてですが、僕はこの曲がとっても好きなんですけど、これはコルトレーンの「Giant Steps」のオマージュであると。

続木:そうなんです。僕の「A Tiny Step」の冒頭でデヴィッドが弾くフレーズが、転調こそしてるんだけど、そのまま「Giant Steps」のフレーズと和音なんです。これはデヴィッドに対しての僕のオマージュでもあるんですけど、デヴィッドにその「Giant Steps」のフレーズをどうしても弾いてほしかったんですね。さっきの話じゃないけど、デヴィッドはコルトレーンが憧れだって知って、何かコルトレーンの代表的な曲をイメージして、それをデヴィッドに弾いてもらう曲を書きたいって思って。

── なるほど。

Band Of Pleasure
『A Tiny Step』(1995)
続木徹さん作曲による同名曲を収録した3rdアルバム。


John Coltrane
『Giant Steps』(1960)
アルバムタイトル曲を収録した60年盤。


続木:コルトレーンの「Giant Steps」って曲は訳すと「巨人の歩み」で、「Steps」って「s」がつくんですね。つまり、天才のものすごく大きな何歩も進むステップってことで。それに対して僕はとてもそんな大きな歩みではなく、ホントに小さな一歩でしかないけどっていう意味でリスペクトを込めたオマージュとして「A」をつけた「A Tiny Step」っていう曲にしたんです。デヴィッドにとってコルトレーンが憧れの人だとしたら、そのフレーズを盛り込むことである種の共感を生むだろうし、デヴィッドの中にあるコルトレーンがそこにあらわれてくるんじゃないかなって思ったんです。結果、デヴィッドのプレイがすごくいいものになったなあって思うんです。

── 僕もこの「A Tiny Step」でのデヴィッドはすごくいいプレイだと思うし、続木さんのピアノがこれまたとっても素敵です。

続木:デヴィッドに関わり合ってコルトレーンにも関われるような曲ができないかなって、ずっといろいろ考えていたんです。相当入り組んだ構成なので入念な練習が必要だし、ライヴではほとんどやらなかったですけど、でも、僕の中ではデヴィッドとコルトレーン、そして僕、の三角関係ができたなあっていう思い入れがある曲ですね。

── 素敵な曲ですよね。「この曲を聴けばトオルが優れた作曲家だということがわかる」ってデヴィッドも絶賛してました。

続木:ありがとうございます。デヴィッドという人はジャズのサウンドの影響が強いなって思うことがあるんです。ブルースとかR&B系のギタリストは使うコードが割と単純でシンプルだったりするんですけど、デヴィッドが使うコードって9thとか13thとかテンション系のジャズっぽいコードをよく使いますよね。バンプレでもリズムはファンクとかソウルをやってるんだけど、デヴィッドのギターからはジャズの影響が感じられることがあって、上に乗ってる他のサウンドと合わさって色っぽく聴こえる。デヴィッドの頭の中でもそういうサウンドが自然と鳴ってるんじゃないですかね。

── ジャズのエッセンス。

続木:僕がジャズっぽいフレーズを使ったとき、デヴィッドが僕に対してすごく意識してるなって感じることもありました。例えば、先にデヴィッドのソロパートがあって、その直後の僕のソロがジャズっぽいアプローチになるのが予想される時、その前に、まいったか!ってくらい凄いソロをデヴィッドがやることがあって。で、そうなると、その後を引き継ぐ僕のパートはもう何やってもかなわないっていう感じになってしまうわけです。そこまで凄いデヴィッドのソロがあったら、そこで終わった方がデヴィッドの演奏の凄さがキレイに印象に残るから、僕が変なことやって濁しちゃうより絶対にいいって思うくらい、スイッチが入っちゃうときがデヴィッドにはあるんですよ。そういう雰囲気を演奏自体が醸し出して僕に繋がれてくるんで「まいりました」って言うしかない(笑)。牙をむくっていうか、勝負してくるっていうか、いい意味で怖いなあって思う瞬間がありましたね。そういう場面に出くわすと本気でやってくれてるんだなあって思いますし、ジャズに強い思い入れががあるんだなあって思うんですよ。

── デヴィッドがリーダーのバンドで自分の書いた曲をやるときは、そういう側面がたっぷり聴けますが、他のアーティストのバックでやるときは、ある程度決められたことをこなすようなことが多いから、そういう面が見えにくいですよね。でもバンプレの場合は、デヴィッドが書いた曲もそうでない曲も両方やるんで、そういう意味では貴重で面白いバンドだと思います。

続木:デヴィッドって、僕らが知ってるいろんなタイプのギタリストとは全然違うんですよ。よく言われる「セッションマン」っていう同じようなタイプで括られてるギタリストとも、まったく世界が違う。いっしょにやってみて、より一層そういうふうに感じました。

── なんなんでしょうね? あの存在感というか。

続木:一つのジャンルには括れない独特の不思議な世界観がありますよね。そうかと思うと逆にバーサタイルにいろんな人のバックをやって、いろんなところに接点を持ってて、ブルージーなサウンドもOKだけどジャジーな感じの中に入っても全然OKだし。土岐さんなんかも、楽器は違うけどわりと同じような感じの人で、ジャズやっててもそれ以外のスタイルのものをやってても、彼自身のスタイルは全然変わんなくって、ビバップの人から見ると決してビバップではないし、だからといってデヴィッド・サンボーンのようなタイプとも違うっていう、なんとも言えないスタイルを持ってるんです。デヴィッドも、ブルースの人からみたらブルースギターではないし、ジャズの人からみたらジャズギターともちょっと違う。なんともジャンル分けができないし、デヴィッドスタイルとしかいいようが無い。いっしょにやってても、他のギタリストとは比較にならないワン&オンリーだし、まあ、比較してもしょうがない存在ですけど。

── ホントにそう思います。

続木:自分がいいと思うことをずっと一本やりでやっていくっていうことの尊さみたいなことを教えられたし、音楽ってフレージングじゃなくって音一発だけで豊かなニュアンスがだせるんだ、とか、デヴィッドといっしょにやってわかったことというか、いっしょにやってなかったらずっとわからなかったんだろうな、と思うことがいろいろあるんですよ。別に大きな衝撃的なことではなくって、ちょっとした仕草とか動きの中でそれが発見されるということも含めてね。

── いつの日か、バンプレのメンバーが再び演奏する機会があるとしたら、もうかれこれ20年前の音ですけど、20年経った今「あの頃をもう一度」という楽しみもあるし、それぞれが20年やってて育んできたことによるマジックが起こるんじゃないかっていう、両方の期待があるんですけどね。

続木:バンプレは別に解散したわけではないし、何かがきっかけでしばらく休もうとかみんなで決めたわけでもなく、気がついたらお休みが長く続いているという感じなので、また機会があって集まって音をパッと出したら「ああこの感じだぁ」って瞬時に思い出せると思います。先日チキンシャックのメンバーで集まったときも、かれこれ17年いっしょに音出してなくて大丈夫かなあって思ってたんですけど、とりあえずカウント出して一小節か二小節か音だしたら「ああこの感じ!」って一瞬で戻ってきたんですよ。おそらくバンプレも同じようなグルーヴを感じれるんじゃないかなあって思うんですよね。山岸と僕はチキンシャックとバンプレ両方やってましたが、バンプレはチキンシャックで出す音とはまたちょっと違う雰囲気と音の繋がり方があって、自分の音の出し方も自然と変わってくるところがあります。ある程度バンドという形態でやってると、そのバンドごとにお互いの音を聴きながら自分の音の出し方とかアプローチの仕方とか、すぐにスッと落ち着くところに落ち着くという感じがあるんですよね。すぐに「ああ、これがバンプレサウンドだった」ってよみがえってくるんじゃないかなって。

── 機会があればぜひまたその音を聴きたいです。

続木:僕は今年60歳になるんですけど、20年前と較べて、息づかいとか、さわり具合とか、60歳なりの音がどっかで出てくるだろうし、山岸だってニューオリンズで苦労してやってきたこととか自然にでてくると思うし、そういうことがうまく反映されていくってところはあると思います。バンプレの核になってるアンサンブルの形って、メンバーのそれぞれの人間性みたいなものと深く関わっていたと思うんで、そこはきっとずっと変わらないんだと思いますね。


(2012年7月 都内某所にて)





 鍵盤奏者からみたギター奏者の存在ってなんだろう。その捉え方が気になっていた。

 メロディや和音を奏でながら、しかし、アプローチは異なるこの二つの楽器は、互いに補完し合える透過度の高い調和のレイヤーを、生まれながらにして持っている運命共同体のようなものだと思う。だからこそ時に反発もし、調和どころか交差もしないときもある。だが、デヴィッド・T・ウォーカーという巨人を前にすると、なぜかピアノの音色は優しく響き合い、強く共鳴し合う。

 ソウル、R&B、ジャズ、ブルースといったアメリカンミュージックの歴史を支えたレジェンド2人と、その彼らと彼らが作り上げた音楽をリスペクトする3人の日本人による稀有なバンド形態は、メンバーそれぞれの個性が世代や文化を超えて次第に溶け合っていくという特別な関係性を宿らせた。静かに思案するピアニストが、巨人の内なる視線の先を共有し「目を覚まされる」のに時間はかからなかった。共鳴し合う「小さな歩み」はうまれ、優しく真摯な眼差しが互いに新たなシンパシーを育んだ。

 年齢を重ねることで得られる深みや熟した旨味は、意図せず歩幅にも変化をもたらす。だが「解散したわけではなく長いお休み期間」と語るピアニストの視線の先には、5人の歩みがゆるやかに同期して再び重なり合う風景が見え隠れしている。うつむき加減で静かに情感を込める鍵盤奏者が奏でる、タッチと強弱の揺り幅は広くともどこまでも端正な鍵盤の音色は、ジェントルなギターの音色とも凌ぎを削りながら柔らかく調和し、文字通り「よろこびのバンド」の一翼を担う。そこにあるのは、どんなに環境や状況の変化があっても、互いを認めあえる人間力と音楽力の鎖は、伸縮を繰り返しながらも決して途切れることがないという肌身の確信だ。

 いつの日かまた、ゴトゴト揺れるバスに再び乗りこむ珍道中がはじまるそのとき。窓の外を眺めそれぞれの思いを馳せながら、時折り車中でおこる笑い声に目線をあわせ進む彼らは、伸縮と融和を繰り返しながらも再び同じ眼差しを瞬時に共有できるに違いない。たとえ小さな一歩でも、たとえ歩幅は異なっていても、彼らの歩みはそっと寄り添い、溢れる笑顔で同期する。その瞬間のよろこびを、いつか目の前で確かめたいんだ。

 
(聞き手・文 ウエヤマシュウジ)




続木徹(つづき・とおる)
1952年8月27日、京都生まれ。幼少期からピアノに接し、1973年ごろから京都在住のシンガー豊田勇造のバンドでプロとしての活動を開始。その後、新宿ピットインなど都内のジャズクラブを中心に活動を移し、1984年には初のソロアルバム『Neptune』をリリース。アルバムに参加したサックス奏者の土岐英史の誘いでブラジルフュージョンユニット「土岐英史 & Rio Som」に参加(後に山岸潤史が加入)。土岐、山岸、続木の3人が中心となり、1985年に「チキンシャック」を結成、通算10枚以上のアルバムをリリース。ジャズに加え、黒人音楽全般に、スタジオミュージシャンとしても活動範囲を広げ、90年代に入りデヴィッド・T・ウォーカー、ジェイムズ・ギャドソン、山岸潤史、清水興ら日米混成メンバーによる「バンド・オブ・プレジャー」を結成、オリジナルアルバム3枚と企画アルバム1枚を残す。その後、ジャズを中心としたトリオやカルテットの他、向井滋春のグループやハーモニカ奏者で実弟の続木力との「続木ブラザーズ」や、豊田勇造とのユニットなど、幅広い場でジャンルにとらわれない活動を続けている。

続木徹オフィシャルサイト「ピアニストの手と私」
http://megasameta.com/


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『For All Time』
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Solo album 60's & 70's
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