Something for T. #08


【後編】




── 鳴海さんご自身の音楽的バックボーンについて少しお伺いしたいのですが。

鳴海:そうですね。僕の音楽との最初の出会いってのは、昭和39年くらいから音の記憶が繋がってるんですけど、ちょうど東京オリンピックの年ですね。ちょうどその前後くらいから、お豆腐屋さんのラッパの音やチャルメラの音とか、隣から聴こえてくるラジオの音のような「街の音」に興味があったというか。お豆腐屋さんに行って「そのラッパ吹かせて」ってお願いしたりして(笑)。なぜかそういう「音が出るもの」には片っ端から触りたくなるようなタチでしたね。あとは、幼稚園から小学校1年生までの3年間、ベートーベンのピアノソナタ「月光」を毎日聴いていました。

── いろんな「音」に興味が注がれていた、と。

鳴海:母親が小学校の教師だったので、ピアノのバイエルを一つ二つ教わったんですよ。兄貴がどういうわけか独学でどんどん弾いていくわけです。で、僕はそれを耳で聴いて旋律を覚えていくんですよ。そういう毎日でしたね。

── で、8才のときにガットギターを手にされて。



鳴海:当時はグループサウンズが流行ってましたから、コードを幾つか覚えて、ブルーコメッツとかヴィレッジ・シンガーズとかタイガースとか、そういう音楽を兄貴と一緒に演るわけです。そうしてるうちに弾けるようになっちゃったんですね。弾けるようになりたいと強く願ってたわけではなかったんですけどね。まあ、兄貴がワンマンな性格だったので、いっしょにやってても必ず「伴奏はお前だ」みたいな感じだったんで(笑)。

── なるほど。

鳴海:小学校5年生のときに理科の授業で「音」について習うことがあったんです。そのときに担任の先生が「これがギターという楽器です。私は弾けないんだけど」って、教室にギターを持ってきたんです。それを「ちょっといいですか」って僕がみんなの前で弾いたんですよ。そうしたら一同驚愕の嵐で(笑)。

── それがデビューだったわけですか。

鳴海:そうですね。大勢の人の前で弾いた初めての経験でしたね。

── それからはもうギター一筋で。

鳴海:高校生くらいになると上手いやつがいるんですよ。早弾きとか得意なヤツが。そうするとバンドを組んでもリードギターは他に譲って、僕は曲を作ったり編曲とかそういう方向に専念するようになって。だからギタリスト指向ってあまりなかったですね。

── そうなんですか。

鳴海:高校3年のときにヤマハのコンテストに応募して、それがきっかけでレコーディングを始めることになったんですが、担当のディレクターからはギター弾けるんだからギター弾きなさいって言われて。ギタリストになりたいって思って仕事始めたわけではなくて、ひきずりこまれたという感じでしたね。

── ギタリストとしてというよりはもっと幅広く音楽全体を意識してる感じでしょうか。

David T.Walker
『Ahimsa』
(1989)
鳴海:先生のソロアルバムのタイトルで『Ahimsa』って言葉がありますよね。ウエヤマさんのデイヴィッド先生へのインタビューにもでてきますけど、僕もこの言葉を僕なりに調べてみたら、ヒンドゥー教の言葉だってことがわかったんです。なので、デイヴィッド先生のルーツというかブラッドネスは、インドとかインドネシアのほうにも通じてるのかな、って思ったんです。『Coolin'n Groovin'』の「What's Goin On」でもソロのときアーテックスのギターをパンって叩いて出すフレーズなんか、あれは江差追分ですよね、まるでね。

── あー、なるほど。

鳴海:それとコーランのような旋律と言うか、中近東の雰囲気があるフレーズもありますよね。そういう音を聴くと、自身のルーツを熱心に探ってここまで辿り着いてるのかな、なんて思うんです。

── ルーツ。

鳴海:音楽って国境がないでしょ。デイヴィッド先生の場合、音楽を熟考する中で自分のルーツを探るっていうような感じがするんですよ。そういう風に突き詰めて考えるところから内的な思索って出てくるんだと思うんです。僕もデイヴィッド先生を知る以前から非差別・非暴力ってことを常に考えていて心の二本柱のようなところがあるんですね。よく「差別化」って言葉が使われるでしょ。広告業界用語というのか。

── 差別化をはかる、という使い方の。

鳴海:その「差別化」って言葉も聞きたくないというか。結局、みんながみんな「差別化をはかった」結果、残ったのは差別意識だけ、みたいな。差別という言葉を使うことで差別意識が残るのがイヤで。デイヴィッド先生も何かのインタビューで話してたんですけど「怒りの感情を持つこと自体が嫌悪」って。僕も同じなんです。デイヴィッド先生からはそういった精神的な部分も影響を受けてると思うし、もともと受け皿として僕の中にあったものなのかもしれないなって思うんですよね。






── ニューアルバム『The One Man Band』についてですが、デイヴィッド・Tに捧げたという1曲目の「Mr. Sunshine」。これは言葉が出なかったですね。凄いプレイの連続というか。

鳴海:デイヴィッド先生の『The Sidewalk』というアルバムにウェス・モンゴメリーへの敬愛の念を込めた「Direction Wes」って曲があるんですけど、まさにこの「Mr.Sunshine」は「Dedication David」ということなんですね。僕の体の中に馴染んでしまったデイヴィッド先生のいろいろなものを全部出した、出し切れたかなという感じです。

── 今回のCDにはいわゆるアルバムジャケットに相当するものがありませんよね。唯一、CDのディスクの表面に花のデザインのようなものが刷られてますが。

鳴海:はいすみません(笑)。CDの表面にあるデザインは、トールペインティングというヨーロッパの伝統的なデザインの種類の一つなんですけど、箱根細工のようなもので、図柄は決まってるんだけどそこにオリジナリティを加えていくというようなもので。で、実は僕の妻が描いた小物入れに使われている花の絵をあしらったのがあのディスクのデザインなんです。まあ、これでいいかなって(笑)。

── そうすると奥様がデザインされたと。

鳴海:そうです。まあ今回のCDは僕が一人で作ったということもあって、お手製なんで、これで十分かな、と。曲目とか詳細はウェブサイトに書いてあるし(笑)。シンプルでいいかな、と。

── バックトラックもご自身で?

鳴海:そうです。ドラムはリズムボックスのような機械を一部使ってますが、ベースとキーボードは僕が弾いてます。

── タイトルの『The One Man Band』もそうですけど、文字通り鳴海さんご自身が手掛けた作品ということなんですね。

鳴海:ギター専門だと思われがちなんですけどそんなことはないんです。よくリズム&ブルース命とか、ブルースしか聴かないとか、いろいろ豪語する人がいますよね。そういう人たちの中には、リズムとか打楽器にはメロディやハーモニーが伴わないと思っている人がいるんじゃないかって思うときがあるんです。音楽が立ち現れると、そこには必ずハーモニーが伴うものだと思うんですけど、そのことを忘れてしまってるんじゃないかって。そういう人たちには僕の音楽は散漫に聞こえることがあるんじゃないかって思うことがあります。メロディが先行してるときもあればハーモニーが先行してるときもある。リズム、メロディ、ハーモニーってのが音楽の3大要素だとすると、僕はそのどれも、それこそ「差別」したくないんです。セッションやステージなんかでは僕はギターだけじゃなくてキーボードを必ず弾きます。これは必須ですね。

── ギターはギターの、キーボードはキーボードの役割があると。

鳴海:キーボードでやれば簡単に実現できることをギターで無理矢理やる必要はないし、その逆もそうなんです。リズムだけ、メロディだけ、ではない。さっきの3要素を「差別」することなく満たすには、それこそステージではギターとキーボードをとっかえひっかえしながらプレイしなきゃいけない。そうですね、これはもう3年くらい前からそんなスタイルで演奏しています。

── この『The One Man Band』を聴いてると、ギターオンリーじゃないところが、まさにそんな感じですね。デイヴィッド・T風のそれっぽいギターだけを弾いて満足、というところとは別の次元にあるような気がするというか。

鳴海:デイヴィッド先生が良く使うポロロンっていうあの駆け上がりフレーズは、ジーン・ペイジのアレンジの中でストリングスと相まったらもう凄いことになりますよね。マーヴィン・ゲイの『I Want You』とか、アイズレー・ブラザースの『Masterpiece』とかで聴ける「あの音」ときたらもう。特に『Masterpiece』でのプレイは、きっとストリングスを聴いた上であのフレーズを弾いてるんだと思うんですよね。ストリングスを聴いて盛り上がった感覚でフレーズを弾くっていう。あれって即興の編曲だと思うです。

── 即興の編曲。

鳴海:デイヴィッド先生がどうしてああいったギターのフレーズを弾くのかって考えると面白いですよね。1フレットから高音部のフレットにスケールアップするあの例のフレーズって、あれは彼流のストリングスが駆け上がっていくときの描写であり表現だと思うんです。音楽を全体として捉えてるからこそ出来上がったフレーズだと思うし、即興の中から生まれたアレンジだと思うんです。技術的に考えると単に1拍6連のフレーズでしょ?ということなんだけど、そうではなく、全体の流れがあってそのときの盛り上がりの中で生まれた結果だと思うんですよね。

── なるほど。

鳴海:僕のプレイはジョアン・ジルベルトに似てるって言われることがあるんですけど、僕がジョアン・ジルベルトの何に似てるかってことを考えると、きっと内的な部分で似てるところがあるんでしょう。ジョアン・ジルベルトのギターって、ストリングスアレンジそのものなんですよ。そういう部分を聴いて感じとってるから似てるってことになるんだと思うんです。デイヴィッド先生、ジョアン・ジルベルト、エウミール・デオダート、バート・バカラック。僕はこういった人たちから影響を受けていて、僕の一部分になって馴染んでいる。デイヴィッド先生もきっと彼らのことは好きな人たちのはずだと思うんですよ。その流れって決してギターだけではない、僕を支えてる音楽の大事な部分だと思うんですよね。


(2004年9月、都内某所にて)





 とにかく驚きだった。山下達郎さんのライブアルバム『Joy』で聴ける鳴海さんのギターはデイヴィッド・T・ウォーカーが好きな人なら思わずニヤリ、KO必至のプレイが続出だ。最近では、知る人ぞ知る存在だった1982年リリースのソロユニット「東北新幹線」の再評価への気運が高まっている感もある。

 そんな彼が動き出した。2004年9月にリリースされたソロアルバム『The One Man Band』。冒頭に収められるデイヴィッド・T・ウォーカーに捧げた珠玉の一曲「Mr. Sunshine」のきらめきは圧巻の一言。「いつも私を暖かく照らし続けてくれていた太陽」のような存在、デイヴィッド・T・ウォーカー。ここにあるのはそんな彼へのリスペクトに満ちあふれた世界である。

 デイヴィッド・T・ウォーカースタイルとは何か。この意味をこれほど深く考えさせるミュージシャンはいない。鳴海さんのギターはそのスタイルを正統的に受け継ぐ頂点のような存在であるがゆえに、その余りある心酔振りが周囲に誤解を与え兼ねない危うさを合わせ持つ。音色やフレーズに影響の跡が見えるギタリストは数多く存在するが、鳴海さんの奏でる音楽はそこに留まらない拡がりと奥行きがある。根っこにあるのは音楽の全体像を見据える視線だ。

 曲目もアルバムタイトルさえもないパッケージ。そこにあるのはディスクの表面に描かれた花たちのみという究極のシンプルさ。文字通りハンドメイドなこの一枚は、余計な肉を削ぎ落とした音楽家が放つ「今」の物語。そのストーリーの全てに彼の遺伝子がさりげなく包まれる。全7曲。その傾倒が如実に見て取れる「Mr.Sunshine」を除けば、一見するとデイヴィッド・Tの影は薄い。しかし、柔らかく優しい7つの異なる肌触りのストーリーが、視線の先にある音楽的奥行きを物語る。表面的な音色の模倣に終始する表現とは一線を画す意識の高さ。その意識こそ、音楽家・鳴海寛の存在証明でもある。

 彼を照らし続けた「Mr. Sunshine」という大きな存在。ディスクに彩られた花たちはその光を浴びて開花した鳴海寛という音楽家そのものだ。音楽家に宿った「Mr.Sunshine」の遺伝子は音楽家自身の遺伝子と融合しながら自らの光を放ち始める。遺伝子の継承はこれからも続く。音楽の歴史が偉大なる先人たちへのリスペクトの歴史である限り。

 
(聞き手・文 ウエヤマシュウジ)





鳴海寛(なるみ・ひろし)
1958年3月20日生まれ。東京・新宿出身。8才でギターを手にし、並行してキーボードを独学で親しむ。1976年、作曲コンテストに入賞してCM音楽でプロデビュー。同時にツアーサポートやスタジオコーラスなどの活動を開始。1982年、山川恵津子とのデュオユニット「東北新幹線」でアルバムデビューを果たす。以降、山下達郎、来生たかお等のツアーサポート、中山美穂、CINDYの作曲・編曲を手掛け、自己のユニット「frasco」では3枚のCDをリリース。現在もライブ活動を行いながら、2004年9月、自宅録音によるハンドメイドアルバム『The One Man Band』を制作。


鳴海寛
『The One Man Band』
(2004.9.9)

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