Something for T. #01


【後編】




── タイロンさん自身の音楽的ルーツはどのあたりに?

タイロン:最初はフォークだったんだよね。黒人音楽ばっか聴いてるように思われがちなんだけど、根はギタージャカジャカ系なんですよ。当時はね、ロックって勢いだけ、みたいに思ってたところがあってね。オレはフォークで歌詞で勝負だぜ、みたいな。なんか知的な感じがしたというかね。実際、社会問題にも興味あったしね。ジョーン・バエズとかポール・サイモンとか大好きだった。特にポール・サイモンは良くコピーしたなあ。

── 当時はフォーク全盛時でしたよね。

タイロン:そうだね。中津川フォークジャンボリーとか行ったなあ。高校の頃だよね。新宿駅西口フォークゲリラとかも凄かった。でも、そこには行かなかった。行けなかったんですよ。うちの親父が厳しい人でね(笑)。親父も昔そういうのを経験してたらしくてね。いわゆる反体制うんぬん、みたいなやつ。で、その時に痛い目にあったそうなんだよね。だから結果は見えてたというかね。自分の子供に同じ過ちを繰り返させたくなかったのかもしれないね。でも当時は新宿に行きたくてねー(笑)。

── 今でもギターはよく弾くんですか?

タイロン:もともとギターを弾いて歌うっていうスタイルだったからね。弾きますよ今でも。特に最近はギター弾くのが楽しいね。原点に帰るっていうのかな。ギター片手に歌うっていうのを演りたいんだよね。それに、今までいろいろやってきて、最近気付いたというか発見というか、あるんですよ。例えば、サックスって楽器があるじゃない。ソロなんか吹くと静寂に耐えられなくなるっていうか、「間」を持たせられないん人って多いんだよね。それでやたら音数を多くしてしまう。まあ、音数が多いのはいいんだけど、要するに、その音にそれほどの意味はないんだよね。ただ隙間を埋めてるだけ、というかね。ところが、上手い人ってのはホントに一音吹くだけでそれで十分って感じなんですよ。どういうことかというと、全て「言葉」を奏でているという感覚なんだよね。サックスで出てくる一音一音が、言葉を発しているように聞こえる。言葉って、イントネーションとかアクセントの位置とかあるでしょ? それが上手く連続することで言葉が疾走していくんだよね。それがグルーヴになる。言葉のグルーヴ感というかね。そういうことが最近になってわかってきたんだ。

── 言葉のグルーヴ感、ですか?

タイロン:そう。言葉って面白いもんでね。例えばよく言われることだけど、日本語と英語の違いってありますよね。言葉って、単語の連続。その連続性ってのが、日本語と英語じゃアクセントの位置も抑揚もみんな違うでしょ? 英語で作られた歌には、英語の単語の発音によってうまれるグルーヴってのが元々あるんだよね。日本語はもともと抑揚が平たんでしょ? 跳躍感が無いんだよね。

── 跳躍感。

タイロン:例えば俳句ってあるじゃない? 日本人が俳句を読み上げるときにはアクセントはないんだよね。それが味わいでもあるし、日本語の、日本人の言葉を発するときの備わってる基本的な感覚だと思うんですよ。でも、外人が俳句を読み上げると必ずアクセントがつく。言葉が跳躍してしまうわけですよ。もともと日本語には跳躍感は存在しないんだよ。でも、英語にはそれがある。ある意味で対極的なんだよね。単語そのものの跳躍感が連続して疾走することでグルーヴがうまれるんだよね。

── 日本人には備わってない感覚ですよね。

タイロン:備わってない感覚だけど、身に付かないわけじゃないですよ。音楽のグルーヴやリズムを理解しようとすると、その音楽が作られた言語が大きく関わってくる、ということだよね。クラシックを演ってて、ドイツ語やイタリア語を学ぼうとする人が結構いたりする。アメリカ音楽だって同じことが言えると思うんですよ。日本人だって、例えば10年くらいアメリカに住んでると、そういう感覚が身に付くんですよ。だから全く不可能なことじゃない。ただ、誰しも簡単に10年間アメリカで暮らせないよね。だから、そういうグルーヴを感じる「コツ」のようなものを、もっと効率的に感じ取れる術のようなものがあるといいですよね。ノアの箱船じゃないけど、そういう大きな船にみんなで乗れるといいと思うんだよね。

── そういう意味でも、楽器を演奏する場合、言葉が重要だということですよね。

タイロン:David Tの素晴らしいところは、そういうところでもあるんですよ。ピッキング一つとっても、そういう感情というか、歌心、というのかな。「歌うように弾く」ということ。聴いててわかるんだよ。もっともDavid T本人もそういうことを言ってるんだけどね。それがちゃんと実践されてる。というか伝わってくる。音数の多い少ないじゃない。その音が、まるで言葉を発してるように聴こえてくる。それは、言葉によるグルーヴってのを理解してるからこそできるワザ、だよね。そして、その「言葉づかい」がホントに個性的でしょ? 他のどんなギターとも違う呼吸だよね。実際に会ってみて、そしてそのギターを直に聴いてみて、ホントにそう感じたんだよね。本当に「うたってる」んだよ。

── ボーカリストならではの視点ですね。

タイロン:長年英語で歌をうたってきて、ようやくそういう感覚が肌で理解できてきた、というかね。どう表現すればいいのかっていうことが歌いながら感じ取れるしね。だから最近は歌うことがとても楽しいんですよ(笑)。

(2002年8月、都内某所にて)



タイロン橋本
1954年7月2日生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学科卒。74年、細野晴臣氏率いるティン・パン・アレイに参加。75年、単身アメリカ西海岸に渡り、黒人音楽の洗礼を受ける。78年、日本初のサルサバンド "オルケスタ・デル・ソル"に参加。その後、88年に1stソロアルバム『Moments Of Love』を米国・日本・イギリスで同時発売。94年には、カメリアダイアモンド TV-CFソングを手掛け話題となる。さらにこの年、David T. Walker、Joe Sampleと共演した6thアルバム『Key To Your Heart』をリリース。現在まで関わったCMはおよそ600余り。作曲・編曲、演奏のほか、ナレーター、ヴォイストレ−ナ−まで幅広い活動を行う。 最新作は全曲70年代シンガーソングライターの名曲をアコースティック一発録音でカヴァーした8thアルバム『MERURI』(2003年9月発売)。

タイロン橋本
『MERURI』
VIVID VSCD-0422
(2003)
オフィシャルサイト
"Tyrone Hashimoto Web Site"
http://www.tyronehashimoto.com/

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