Marlena Shaw “Who Is This Bitch, Anyway” Tour 2011
David T. Walker参加のマリーナ・ショウ来日公演が大盛況のうちに閉幕!

Marlena Shaw
『Who Is This Bitch, Anyway?』


2009年と2010年に続き、マリーナ・ショウ “Who Is This Bitch, Anyway?” リユニオンメンバーが三たび集結した奇跡のライヴが大盛況のうちに閉幕しました。1975年にリリースされ今なお新たな魅力を放ち続ける名盤『Who Is This Bitch, Anyway?』に参加した当時のメンバーであり、マリーナをして「Dream Team!」と言わしめ讃えたレジェンドたち、チャック・レイニー(B)ハーヴィー・メイソン(Dr)ラリー・ナッシュ(Key)に、デヴィッド・T・ウォーカー(G)による奇跡のステージは、さらにさらにパワーアップして会場を大きく揺らしました。何度観ても、ため息と興奮が入り交じる、感動のステージでした!

●東京公演(※終了しました
日時:2011年6月20日(月)〜26日(日)
   (※6/23(木)は休演)
会場・問合せ先:ビルボードライブ東京

●大阪公演(※終了しました
日時:2011年6月28日(火)・29日(水)・30日(木)
会場・問合せ先:ビルボードライブ大阪


Marlena Shaw "Who Is This Bitch, Anyway?" Reunion Tour 2011 Set List (2011.07.01)

メンバー:
Marlena Shaw (Vocal)
Chuck Rainey (Bass)
David T. Walker (Guitar)
Harvey Mason (Drums)
Larry Nash (Keyboard)
※以下は基本的なセットリストです。
※ステージによっては、アドリブ風のジャムセッションがあったり、ブルースナンバーが演奏されたり、順番が入れ替わったりすることもありました。

01. "You Been Away Too Long"
02. "Street Walkin' Woman"
03. "Davy"
04. "Rose Marie (Mon Cherie)"
05. "Feel Like Makin' Love"
06. "You" (or "Mercy, Mercy, Mercy")
07. "I'll Be Your Friend"
08. "You Taught Me How To Speak In Love"
09. "Woman Of The Ghetto"
Encore. "Loving You Was Like A Party"



 甘かった。完全に間違いだった。3回目の来日公演ということもあり、少しは冷静にステージを楽しめるかと思っていた。だがまったくだめだった。今回も昨年同様、いや、それ以上に、予想を超えた高揚がそこに待っていた。

 マリーナ・ショウの代表作にして、ソウル、ジャズ、ポップスの垣根を越えた歴史的名盤『Who Is This Bitch, Anyway?』。その名のもとに集ったメンバーによるリユニオンツアーが、一昨年、昨年に引き続き今年も開催された。最初の年は夢見心地、2年目はあらためて度肝を抜かれ、3年目となった今回はさすがにじっくりと余裕を持って彼らのパフォーマンスを楽しめるとタカをくくっていた。が、予想は覆された。もう何度足を運んだかわからないくらいほぼ同じセットなのにだ。いや、ほとんど同じ設定のアレンジなのだが、回を重ねるごとに微妙にバージョンアップしている。ブレイクや間奏での音の入り方やタイミングなど、ほんの僅かな違いなのだが、これが実にピリリと効いている。セッションミュージシャンが固定のメンバーで3年に渡って公演を継続することは、実はあまり例のない形態。昨年、マリーナは米国の雑誌インタビューで、このバンドで日本公演を行い素晴らしい体験をしたことを語っている。日本でのみ実現しているという特殊な状況であっても、彼らにとっては特別なバンドであり、回を重ねるごとに自然とメンバーの交流に親密さが増したということも、サウンドとステージングにより深みが増した要因の一つだろう。


 ステージ冒頭を飾る「You Been Away Too Long」で聴ける、華やかで凛としたマリーナの姿と、続くハーヴィー・メイソンとマリーナのウィットに富んだ会話ではじまる「Street Walkin' Woman」でアクセルを加速したところで、つかみはOK。一気にクールダウンし、情感込めて歌い奏でる「Davy」あたりから、観客である僕らは彼らの魔法にかかりはじめる。この抜群の緩急こそが、熟達した彼らならではのショーマンシップ。楽曲に込められた感情の起伏を自在にコントロールしながらステージ全体の起承転結に結びつけ、観客をグイグイと引き込む。そのマジックは、主役のマリーナの自由度を増し、表現の幅をも拡げていく。彼女がどんな風にステージを展開しても大丈夫という安心感は、メンバー間の意思疎通が強固なことの証し。それはギターで自らの心持ちを表現するデヴィッド・Tも同様だ。マリーナが声という楽器で問いかけ、デヴィッド・Tがギターという声でうたい返す。「Rose Marie」で披露される、まるで、生バンドを従えた二人が主役のミュージカルのワンシーンのようなコール&レスポンスの掛け合いは、このバンドに宿った楽しさ溢れる醍醐味の一つ。こぼれる二人の笑みや仕草までもが音楽の一つとなって、観客の頬を自然体に緩やかにし緊張感を解きほぐす。名人芸というにはあまりにも魅せるデヴィッド・Tのうたうギターは、主役のマリーナのために用意された「もう一人の歌い手」のような艶やかさだ。

 バンドのボトムを下支えするのはチャック・レイニーとハーヴィー・メイソンのリズム隊。華麗で多彩なプレイは影を潜め、メンバーとの歩調を合わせたバックアップに徹するハーヴィーの、驚くほどシンプルに抑制されたドラミングは、瞬間的に際立ったメリハリのフィルインやスネアの強弱を施すことでバンド全体を動かすグルーヴを見事に描き出す。寡黙に淡々とこなしているように見えるチャックのベースも、奔放に振舞うマリーナの動きをしっかりと見据えながら追随する。それら大きくうねるステージ全体をグッと引き締めるラリー・ナッシュの鍵盤は、忠実さとアドリブ感覚を冷静な心持ちでさらりと奏でるメロディとタッチで、マリーナのパフォーマンスを際立たせる。それらをすべて掌握した上で、豊かな表情で振る舞うマリーナ。暗黙の了解というにはあまりにも見事なコンタクトとステージングは、それこそが当時アルバムには収まり切れなかった、生演奏ならではの呼吸とマジックだ。

 それがもっとも象徴的に描かれたのは「Feel Like Makin' Love」でのアンサンブル。メロウなトーンと小気味良いグルーヴの序盤から、途中転調し、リズムが大きく揺れはじめる中盤、ハーヴィーの強弱あるドラムフィルによる絶妙の場面転換が演出される。ラリーの鍵盤とチャックのベースが同時に追随し、アンサンブル全体の器が徐々に大きく広がりをみせ、それが一つの頂点に達する寸前、デヴィッド・Tのギターが拍車をかけるトーンで食い込んでくる。そのすべてを受け入れてすくい取り、全体をまとめ牽引するマリーナの堂々たるパフォーマンス。メロウで艶やかなテイストと、徐々に盛り上がりをみせる熱く情熱的な展開に宿った高揚と躍動。バンドの持つポテンシャルが見事に具現化した一曲に、会場全体が揺れ動いた瞬間だった。


 過去2度の公演でもソロパートが大きく目立ったデヴィッド・Tは、今回さらにスケールアップされているように見えた。その艶やかなトーンの真髄は「You Taught Me How to Speak in Love」で正体をあらわにする。元々メロウなこの曲を、さらにゆったりと展開するアンサンブルは、中盤、このときを待っていたかのようにマリーナによってデヴィッド・Tにフィーチャーの場面がバトンタッチ。椅子に座ったまま、体を深く曲げ、ギターと一体化して静かに一音一音を丁寧に紡ぐデヴィッド・T。音を詰め込み過ぎない間と呼吸で、じっくりと、そして次第にフレーズの息吹が産声をあげ、表現の器が徐々に膨らみはじめると、ゆっくりと椅子から立ち上がり、ここぞとばかりにスイッチが入った立ち振る舞いでサウンドを牽引。小さく静かに抑制した一音から、大きくテンションの高いパーカッシヴな一音まで、類を見ないコントラストとダイナミクスでこの歌世界を描いていく。渾身の表情と全身のアクションでギターと一体化して語り歌うデヴィッド・Tのプレイを、笑顔で見守るマリーナ。その笑顔に笑顔で会話するデヴィッド・T。この瞬間こそ、スペシャルなバンドアンサンブルの真髄を物語る見せ場であり真骨頂。どこまでも自由に、フィーリングで奏でているように見えるデヴィッド・Tのソロプレイは、誰もとめられないスイッチの凄みを感じる一方、高揚のレベルをコントロールしながら観客とバンドメンバーを一体化させる理性を同時に持ち合わす巧みなパフォーマンス。理性のメーターが振り切れるギリギリの境界線を行きつ戻りつしながら徐々にピークに達していく感情のコントロールを円熟の一言で片付けるのではなく、長年に渡って自らの腕と感性で磨き上げ蓄積したギター表現の賜物なのだと思いたい。本当に凄い。心底、彼を好きでいてよかったと思えた珠玉の瞬間だ。


 アルバム『Who Is〜』以外で今回初の登場となったシャッフルナンバー「I'll Be Your Friend」は、1979年のマリーナのソロアルバム『Take A Bite』からの選曲で彼女の自作曲。過去2年間での公演でも、『Who Is〜』収録の同じくマリーナの自作曲「The Lord Giveth and The Lord Taketh Away」の代わりに同じシャッフル調のゴスペルライクなブルースナンバーがプレイされたが、その代替えとも言えるトーンの一曲だ。原曲ではピアノだけをバックに歌うマリーナだが、そこにベースとドラムとギターが重なることで、より強固な躍動がみなぎる。これまで何度となく数え切れないほど演じたシャッフルナンバーの一つかもしれないが、この手の楽曲が好きだという様子がマリーナの歌と表情からも見え隠れする。アンコール前のエンディング曲では、1969年の名曲「Woman Of The Ghetto」を披露。しっとりとしたメロウな楽曲が多い『Who Is〜』とは異なり、ほぼワンコードで展開されるミドルテンポのこの一曲では、ソロバンドではあまり聴くことができないものの、数多くの歌伴で披露してきた、ディープなグルーヴに見事にフィットするデヴィッド・T流ファンクネスバッキングが全開。アルバム『Who Is〜』収録以外の曲を、アンコール前のエンディング曲に配置する試みには「たまには他の曲演ってもいいわよねぇ。だって、せっかくこんな素敵なドリームチームがここにいるんだから」という、マリーナの余裕たっぷりなコメントが聞こえてきそうだ。


 ところで、東京公演5日目の6月25日はデヴィッド・Tの70歳の誕生日。ステージではマリーナが「Happy Birthday To You♪」と歌いだすサプライズも。その一週間前の6月17日が71歳の誕生日だったチャックも合わせて、それぞれバースデーケーキが運ばれ、会場全体で二人を祝福。まさかここ日本で、本人を目の前にして、会場の全員で誕生日をお祝いできることがあるとは想像もしていなかったが、ビルボードライブの粋な計らいは素敵なサプライズとなった。

 アンコール終演後、メンバー5人がステージ中央に集まり肩を組み観客に一礼する。ライヴ会場ではよくある光景だが、その直前、腰をかがめるタイミングを合わせるようにマリーナが4人に小さく声をかけたように見えた。自由奔放に、フィーリングでメンバーをコンタクトするマリーナが見せた細やかに心を配る仕草と、5人が揃って深々と一礼する姿に、瞬間、胸があつくなった。年齢を重ねてなお、ステージを自在に楽しみ、観客を存分に楽しませようとする心意気とガッツ。「こちらこそありがとう」。その場にいた観客、スタッフを含め、全員がそう思えた瞬間だった。彼らがそこにいるだけで心トキメク音楽が生まれる。その素晴らしさの意味を、そして音楽の人生を歩む彼らの素敵さを、彼ら自身がステージで証明していることを、僕は忘れたくない。

2011年7月1日 ウエヤマシュウジ


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