Marlena Shaw “Who Is This Bitch, Anyway” Tour 2010
David T. Walker参加のマリーナ・ショウ来日公演が大盛況のうちに閉幕!

Marlena Shaw
『Who Is This Bitch, Anyway?』


2009年、奇跡のライヴと絶賛されたマリーナ・ショウ “Who Is This Bitch, Anyway?” リユニオンツアーから1年、あのメンバーたちが再び起した奇跡のライヴが大盛況のうちに閉幕しました。1975年にリリースされ今なお新たな魅力を放ち続ける名盤『Who Is This Bitch, Anyway?』に参加した当時のメンバーであり2009年のリユニオンツアーのステージ上ではマリーナが「Dream Team!」と讃えたレジェンドたち、チャック・レイニー(B)、ハーヴィー・メイソン(Dr)、ラリー・ナッシュ(Key)に、デヴィッド・T・ウォーカー(G)が引き続き集結。ミラクルを起した「Dream Team」による、前回以上に息のあったアンサンブルに、ただただ心揺さぶられっぱなし。多くの感動と興奮をもたらした素晴らしいステージに感激の嵐です!

●大阪公演(※終了しました
日時:2010年7月22日(木)・23日(金)・24日(土)
会場・問合せ先:ビルボードライブ大阪

●東京公演(※終了しました
日時:2010年7月26日(月)・27日(火)、
         29日(木)・30日(金)・31日(土)
   ※7月28日(水)は公演がありません。
会場・問合せ先:ビルボードライブ東京

Marlena Shaw "Who Is This Bitch, Anyway?" Reunion Tour 2010 Set List (2010.08.01)

メンバー:
Marlena Shaw (Vocal)
Chuck Rainey (Bass)
David T. Walker (Guitar)
Harvey Mason (Drums)
Larry Nash (Keyboard)
※以下は基本的なセットリストです。
※ステージによっては、演奏されない曲があったり、アルバム『Who Is This Bitch, Anyway?』からの一曲「You」が演奏されたり、順番が入れ替わったりすることもありました。

01. You Been Away Too Long
02. Street Walkin' Woman
03. Davy
04. Rose Marie (Mon Cherie)
05. Feel Like Makin' Love
06. Mercy, Mercy, Mercy
07. You Taught Me How To Speak In Love
08. (No Title Songs) ─ Blues Jam Session
09. Loving You Was Like A Party



 2009年の前回来日公演は舞い上がっていた。心ここにあらず状態で、ただただ興奮し、余韻に浸ることもできず、圧倒されっぱなしだった。その奇跡のメンバーたちが今年もやってきた。同じメンバー、そして「名盤『Who Is This Bitch, Anyway?』リユニオン」というコンセプトも同じ。あの感動をもう一度しっかりと胸に刻むべく、会場で今か今かとその瞬間を心待ちにする。この緊張感は何度味わっても心地良い時間だ。


 前回に引き続き同じ顔ぶれが功を奏したからか、アンサンブルの呼吸や間合いに堅実さを増した伴奏陣をバックに、豊かな表情とチャーミングな仕草でメンバーを円やかにとりまとめ、硬軟自在に場の空気を瞬時に彩るマリーナの姿が実に印象的だった。デヴィッド・Tとの掛け合いも、心から楽しんでいる様子が二人の笑顔からうかがえ、観客である僕らも自然と穏やかな表情になる。ほとんどの楽曲のイントロを奏でたラリー・ナッシュの鍵盤は、しっとりとしたムードづくりからファンキーなテイストまで、リアレンジされた楽曲の中でアドリブ的要素も多いステージ演出の根っこをしっかりと押さえる軸のようにも見えた。あの時代特有のとろけるようなエレピの音色をグルーヴ感たっぷりに披露した鍵盤さばきも見事だった。また、今回披露されたジャムセッション風ブルースナンバーで見られた、奔放にシャウトするマリーナや黒いフィーリングたっぷりに鋭いフレーズを奏でるデヴィッド・Tの姿など、一夜限り的急造ユニットではない、バンドらしさに満ちた5人の豊かなアンサンブルが際立っていた。楽曲の構成や展開を骨格だけ決め、その場の流れに応じて臨機応変に動かしていく卓越したステージングは、それが全員の意識として共有できる最小人数のベストなメンバー構成であることの裏返しのようにも思えた。


 そしてやはり昨年同様、いや、それ以上にデヴィッド・Tのソロパートは大きくフィーチャーされた。そのプレイをして「Sweet Sound !」とステージ上で絶賛するマリーナ。「You Taught Me How To Speak In Love」での、スローで抑制されたアレンジが施された中盤、デヴィッド・Tの抑えに抑えた緊張感溢れるソロプレイを、僕は全身震えるような心持ちで聴き入る。感情を込めに込めたデヴィッド・Tがどんなプレイをするのか、どこまで行ってしまうのか、マリーナをはじめ、ステージのメンバー全員がその動向を注視し、タイミングをうかがいながら、一音一音をダイナミクス溢れる緩急で重ねていく。瞬間、体中が熱を帯びた。この姿こそ彼らバンドアンサンブルの真骨頂。彼らの描く世界に引き込まれる一体感の共有は至福の瞬間だ。

 大阪・東京での全16ステージ。多少の曲の入れ替わりはあったものの、ほぼ同じセットだったにも関わらず、一つとして同じステージはない。そのどれもが、その時々、瞬間瞬間で沸き起こる感情を音に込め、全体を主役であるマリーナが無言のコンタクトでまとめあげたステージ。卓越した技量を持つ彼らならば、同じセットを同じように繰り返し表現することはきっとたやすい。観客が望む一定のクオリティを繰り返し表現することが良質なエンターテインメントなのだとしたら、無論、彼らにその力量が備わっていることは言うまでもない。しかし、繰り返しのステージの中に潜む、生き物のごとく息吹を放つ彼ら音楽表現の主張とプライドが、形を変えながらここぞという場面で顔をのぞかせる。その凄みが僕の心をズシリと射抜く。ステージ全体の大きな流れの中に瞬間見え隠れする彼ら音楽表現の真髄とショーマンシップを、彼ら自身がステージ上で感じながら、同時に観客である僕らも同じように感じ共有できることの幸福。生演奏というリユニオンの舞台は、35年前の当時アルバムに収められた奇跡とはまた別の、強固な一体感というミラクルを生んだ。だとするなら、35年振りに集った彼らが挑んだ全ステージは、信頼関係に裏打ちされたアンサンブルの骨格を育んだ新たなバンドの船出だとも思いたい。だからこそ、もっとこの光景を観ていたい、さらなるミラクルが生まれる瞬間を体感したいと心から願うのだ。

 いつの日かまた、この光景を目の当たりにする日があるのなら、その瞬間を味わうためだけでも、また観客のひとりとしてその場にいたい、と思う。名盤の名の下に集ったメンバーたちの熟した呼吸と間合いが、きっとまた僕を心地良く舞い上がらせるに違いないのだから。

2010年8月1日 ウエヤマシュウジ
Photo : Masanori Naruse

※前回2009年の公演リポートはこちら