Marlena Shaw "Who Is This Bitch, Anyway?" Reunion Tour 2009
David T. Walker参加のマリーナ・ショウ来日公演が大盛況のうちに閉幕!
ジャズ、ソウルのジャンルを飛び越え艶やかな歌声を披露するマリーナ・ショウが1975年に残した永遠のアルバム『Who Is This Bitch, Anyway?』。その主役マリーナとバックを支えたメンバーによるリユニオンライヴは、福岡・東京・大阪・札幌の4会場でいずれも大盛況のうちに閉幕しました。“リユニオン”の名に相応しく、当時のアルバム参加メンバー、チャック・レイニー(B)、ハーヴィー・メイソン(Dr)、ラリー・ナッシュ(Key)に、デヴィッド・T・ウォーカー(G)が再び集結。かつて、DREAMS COME TRUEの中村正人氏は、吉田美和ソロアルバム『beauty and harmony』(1995年)の制作時に「現代の『Who Is This Bitch, Anyway?』を作りたかった」とし、ハーヴィー、チャック、デヴィッド・Tの3人をバッキングに起用、その翌年のライヴツアーにも彼ら3人は同行しました。その3人が実に13年ぶりに共演、ラリー・ナッシュが加わったバンドとしては約35年ぶりのリユニオンライヴに、興奮と感動の渦が巻き起こりました。(※公演はすべて終了しました

Marlena Shaw
『Who Is This Bitch, Anyway?』(1975)

●福岡公演(※終了しました
日時:2009年7月29日(水)・30日(木) 
会場・問合せ先:ビルボードライブ福岡

●東京公演(※終了しました
日時:2009年8月1日(土)・2日(日)・3日(月)
会場・問合せ先:ビルボードライブ東京

●大阪公演(※終了しました
日時:2009年8月5日(水)・6日(木)・7日(金)
会場・問合せ先:ビルボードライブ大阪

●札幌公演(※終了しました
日時:2009年8月9日(日)
会場:札幌芸術の森 野外ステージ
問合せ先:SAPPORO CITY JAZZ 2009


Marlena Shaw "Who Is This Bitch, Anyway?" Reunion Tour 2009
Set List


メンバー:
Marlena Shaw (Vocal)
Chuck Rainey (Bass)
David T. Walker (Guitar)
Harvey Mason (Drums)
Larry Nash (Keyboard)
01. You Been Away Too Long
02. Street Walkin' Woman
03. Davy
04. Rose Marie (Mon Cherie)
05. Feel Like Makin' Love
06. You
07. You Taught Me How To Speak In Love
08. The Lord Giveth and The Lord Taketh Away
09. Loving You Was Like A Party



 客電が落ち、ひと際大きな歓声が沸き起こる。ハーヴィー・メイソン、ラリー・ナッシュ、チャック・レイニー、デヴィッド・T・ウォーカーに続き、主役の歌姫マリーナ・ショウの登場。目の前のステージに並ぶ5人の光景に興奮を隠せない。奇跡のステージは、このときを待っていたかのように、静かに幕を開けた。

 1974年末にレコーディングされ、1975年初頭にリリースされたマリーナ・ショウのアルバム『Who Is This Bitch, Anyway?』。リアルタイムに体感した世代はもちろんのこと、CD化された90年代初頭以降に初めて耳にした若い世代を含め、多くのリスナーを魅了し虜にしたこのアルバムは、ジャズ、ソウル、ゴスペル、ポップスなどあらゆるジャンルを呑み込んだ完成度の高い音楽性も相まって、聴き手の心の内にそれぞれのストーリーを刻んだ。そのアルバム誕生から約35年。アルバムそのものをコンセプトにしたライヴが当時の録音メンバーで催されるというのだから、これはたまらない。心躍らずにはいられない、とはまさにこのことだ。


 集結したメンバーは、当時アルバムに参加した5人。その後も幾多のセッションやレコーディングで顔を合わせたレジェンドたちだが、このアルバムの名のもとに5人が集ったのは、アルバム制作時以来今回が初めて。ステージ上ではマリーナがメンバーを「ドリーム・チーム」と紹介。聴き手である僕ら以上に、演奏者である彼らにとってもスペシャルなライヴだったことが伺い知れる。近年使用している5弦や6弦ベースではなく、当時使用していた4弦仕様のフェンダー・プレシジョン・ベースを敢えて用意したチャック・レイニー。ツアー半ばに調子が悪くなったため別機種に交換を余儀なくされたもののアルバムでは全編披露したフェンダーローズのメロウなヴィンテージサウンドを奏でたラリー・ナッシュ。アルバム冒頭に収められた男女のダイアローグまでもステージ上で再現し演出したマリーナとハーヴィー・メイソン。アルバムに吹き込まれた肝となるバッキングフレーズをここぞという場面で随所に織り交ぜプレイしたデヴィッド・T。それぞれがそれぞれの心持ちで当時の心境を思い起こしつつ挑んだ舞台に、聴き手である僕らもイマジネーションを膨らませていく。

 なにより、年齢を重ねたマリーナは艶やかでしなやかだった。「Davy」や「You」での情感込めて歌う姿はもちろんのこと、ラリー・ナッシュのピアノをバックに語りを交えて彼女の歌世界を瞬時に彩る演出や、時折り見せるジョーク交じりのユーモラスな仕草さに、長年に渡って蓄積されたステージングの粋と妙が覗く。感情の起伏を自在にコントロールし、熱を抱えたクールさで立ち振る舞う彼女の姿は圧巻だった。アルバムでは短い収録時間だった「The Lord Giveth and The Lord Taketh Away」では、同じゴスペルソングの「This Little Of Mine」などを織り交ぜながら笑顔で歌う姿も実に軽快。その姿は“貫禄”という一言では片付けたくない、音楽の楽しさがダイレクトに伝わってくる、気負いのない頼もしさだ。


 中でもデヴィッド・Tのギターとの掛け合いは、両者の笑顔が会場を柔らかく包み込む印象的な場面だった。とりわけ「Feel Like Makin' Love」や「You Taught Me How To Speak In Love」でソロパートが大きくフィーチャーされたデヴィッド・Tは、繊細な一音からアグレッシヴでパーカッシヴな一音まで、決して前面には出過ぎず、どこか一歩退いた立ち位置ながらも渾身の表情で精魂込めた一音を緩急溢れるフレーズと化して全身で繰り出す熱演中の熱演。その姿は、観客だけでなくステージ上のメンバー全員をも魅了したはずだ。

 アルバムに参加したラリー・カールトンやデニス・バドマイアー、マイク・ラングもビル・メイズもベナード・アイグナーもここにはいない。ましてやバックコーラス隊もストリングス隊もいない最小限にそぎ落とされたバンド編成は、アルバムに宿った世界観の骨格であり、旨味をすくい取ったかのようなシンプルさ。この骨格ならではの新しいアレンジとアンサンブルによるライヴ感覚は、当時アルバムには収まりきれなかった隠された魅力の正体のように見えた。時を経て熟しに熟した音楽力の真髄だけでなく、彼らの音楽人生と35年前の若き日の姿が重なり合った対比が、表現される音以上の高揚と感動を伴って聴き手の胸に響く。同時にそれは、観客である僕らそれぞれの想いとも相まって、演奏者と観客の双方に宿る宝箱の扉が開き溶け合った瞬間だった。当時のメンバーによるアルバムの再現というライヴコンセプトをもはや飛び越え、楽曲の持つフィーリングとエッセンスが豊潤な拡がりを見せた瞬間でもあった。

 会場全体が一つのアルバムに想いを馳せた奇跡のライヴ。単なる再現でもなくコピーでもない。音楽に人生を捧げ歩んだ彼らの道のりと、その過程で蓄積され育まれた豊かな音楽性への共感は、新たなミラクルとして会場にいた多くの観客の心の宝箱に収まった。終演後、自然と沸き起こったスタンディングオベーションが続くあいだ、僕らはそれを確かに実感したのだ。

2009年8月 ウエヤマシュウジ
Photo : acane