David T. Walker Live in Japan 2014 - tribute to Marvin Gaye - Set List (2014.07.13)
※以下は基本的なセットリストです。ステージによってはこれ以外の楽曲のフレーズがアドリブ的に随所に織り交ぜられたりすることがありました。
David T. Walker (Guitar)
Jeff Colella (Piano, Keyboards)
Byron Miller (Bass)
Leon "Ndugu" Chancler (Drums)
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01. "The Real T."
02. "Plum Happy"
03. "Recipe" (Intro: "I Want To Talk To You")
04. "You'll Never Find Another Love Like Mine"
(Intro: "From My Heart")
05. "Love's Theme"
06. "Lovin' You" (Intro: "On Love" or "Lay Lady Lay")
07. "Walk On By"
08. "How Sweet It Is To Be Loved By You"
09. "I Heard It Through The Grapevine"
10. "Let's Get It On" (Intro: "Come Live With Me Angel")
11. "Inner City Blues" (Intro: "Distant Lover")
12. "Mercy Mercy Me"
13. "What's Going On"
14. "I Want You"
マリーナ・ショウ、エヂ・モッタ、ラリー・カールトンとのライヴで、ここ1年、頻繁に来日を果たしたデヴィッド・T・ウォーカー。ソロ名義では、2013年2月以来となる今回の来日公演は、"tribute to Marvin Gaye"とのサブタイトルを冠したスペシャルな趣きだ。
マーヴィン・ゲイとデヴィッド・Tは、レコーディングセッションやライヴステージで幾度となく共演した間柄。その歴史は、1962年にリリースされたマーヴィンのシングル曲「Stubborn Kind Of Fellow」のレコーディングセッションにデヴィッド・Tが参加したところから始まる。その後、二人は1965年にモータウンのスタジオで初対面、以降、マーヴィンのアルバムセッションで数多く共演を果たすことになる。1972年にはマーヴィンのプロデュースによるサウンドトラック『Trouble Man』をはじめ、1973年にはダイアナ・ロスとのデュエットアルバム『Diana & Marvin』、名作との誉れ高き『Let's Get It On』、1974年にはライヴアルバム『Live!』、リオン・ウェアが関わった1976年『I Want You』のほか、『Here My Dear』(1978)、『Dream Of A Lifetime』(1985)、『Romantically Yours』(1985)などなど、1970年代から80年代にかけてデヴィッド・Tが参加したアルバムの数々が、二人の距離の近しさを物語っている。今年2014年はマーヴィンの名作ライヴアルバム『Live!』リリースから40周年、またマーヴィン没後30年というタイミングでもあり、デヴィッド・T自身にとっても初となるトリビュートライヴ。どんなステージが展開されるのか、高まる期待を押さえきれずに会場に足を運んだファンも多かったはずだ。
いつものようにバリっとしたスーツをまとい、さっそうとした振る舞いでステージに登場したデヴィッド・T。「トウキョウノ(オオサカノ)ミナサン、コンバンハ」と日本語で挨拶し、会場の雰囲気を和やかにしたかと思えば、ポロロンと撫でるように弦を奏で、いつもと変わらない美しい音色と響きで会場全体を瞬時にデヴィッド・T色に彩っていく。「トリビュート・トゥ・マーヴィン・ゲイ」と銘打ったライヴとはいえ、ステージ序盤には、デヴィッド・T自身の楽曲、「The Real T.」「Plum Happy」「Recipe」の3曲を続けざまに披露。挨拶がわりにはもってこいの、彼のソロライヴでは定番ともいえる楽曲と、キラ星のように繰り出される美しい旋律の弦の響きや弾力感たっぷりのジャズ&ブルースな趣きに、充実した健在ぶりが見て取れる。
メンバー紹介を間にはさんだあと、デヴィッド・Tのライヴレパートリーともいえる名曲カヴァーが続く。まずは、ルー・ロウルズの「You'll Never Find Another Love Like Mine」。前回のソロ公演から参戦したピアノのジェフ・コレラは、かつてデヴィッド・Tとともにルーのバックバンドで活動をともにしたデヴィッド・Tとは旧知の仲。包み込むようなルーの低音ヴォイスが印象的な原曲のメロディを、デヴィッド・Tのギターとジェフのピアノが、交互に呼吸を合わせながら紡いでいく。切れ目無く続けて披露されたバリー・ホワイトの「愛のテーマ(Love's Theme)」では、原曲の特徴でもあるストリングス隊によるオーケストレーションサウンドを模したシンセの音色と高音部に駆け上がるメロディが奏でられた瞬間、歓声がひと際大きくこだまする。さらに続けてミニー・リパートンの名曲「Lovin' You」へとなだれ込む。デヴィッド・Tのソロ楽曲「On Love」や、自身3枚目のソロ作『Plum Happy』でカヴァーしたボブ・ディランの名曲「Lay Lady Lay」のフレーズを冒頭にちりばめながら流れるように本編に突入するアレンジは近年ステージの王道的スタイル。特に今回は比較的ゆったりとしたテンポで、一音一音に感情を込めたプレイがいつも以上に光ってみえた。音を詰め込みすぎない抜群の間合いでジャズのテイストを織り込み、フレーズを積み重ねストーリーを描きながら感情表現するジェフのピアノも実に見事。それに呼応するように、繊細さと高いテンションの緩急を、大きな振り幅のダイナミクスで自在に繰り出すデヴィッド・Tの凄みときたら! 胸いっぱいの愛に満ちた渾身のステージングが、息をのむ緊張感とともに観客全員を一気にひきつけていく。
さらに、ここ数年ライヴでは披露されなかったバート・バカラック&ハル・デヴィッド作「Walk On By」が続く。ファンキーな冒頭から原曲の主旋律へ展開し、後半に再びファンキーなテイストへとテンションが変化するアレンジは、デヴィッド・Tのライヴでは定番の構成。エンディングには、デヴィッド・Tの5枚目のソロ作『Press On』収録のビートルズカヴァー「With A Little Help From My Friends」のエンディングでも演じられたスライ&ザ・ファミリーストーンの「Sing A Simple Song」のフレーズをリアレンジして盛り込む展開が高揚を一気にいざなっていく。
ここでステージ前半戦が終了。ここまでだけでも充分すぎるほどデヴィッド・Tらしさが堪能できたステージだったが、いよいよここから今回のメインテーマである"tribute to Marvin Gaye"が始まる。その皮切りに配したのは「How Sweet It Is (To Be Loved By You)」。1974年リリースのマーヴィンのライヴアルバム『Live!』や、デヴィッド・T自身13枚目のソロ作『Thoughts』でもカヴァーしたシンプルなシャッフルソングが、ゆるやかなテンションで会場を包みこんだあと、1968年リリースのマーヴィン作『In The Groove』収録のシングルカット曲でありモータウンクラシックの感もある「I Heard It Through The Grapevine」が続く。デヴィッド・Tが、山岸潤史、清水興、続木徹、ジェイムズ・ギャドソンと組んだ日米混成バンド「Band Of Pleasure」の幻の4作目とも言われる1996年リリースのオムニバス『JVC Soul All Stars』でカヴァーされたこともあるこの楽曲は、ンドゥグ・チャンスラーの重量感あるリズムのドラミングが印象的なアレンジに仕上がった。そして、マーヴィンの1976年作『I Want You』収録曲である「Come Live With Me Angel」のメインフレーズをギター一本で静かに紡いだあと続くのが「Let's Get It On」だ。1973年リリースの名作『Let's Get It On』のタイトルナンバーのこの曲は、74年のアルバム『Live!』のステージでライヴ披露されて以来、随分と久しぶりの生演奏。70年代のマーヴィンを代表するこの一曲を、デヴィッド・Tのソロライヴで堪能できるという歓びに、終始笑みが絶えなかったのは僕だけではなかったはずだ。
そしてさらに、メドレー的展開でマーヴィン71年の名作アルバム『What's Going On』収録ナンバーから「Inner City Blues」「Mercy Mercy Me」「What's Going On」と3曲が一気に披露される。この3曲はかつてBand Of Pleasureのライヴレパートリーとして演じられたこともある言わずもがなの名曲群。その一曲目「Inner City Blues」では、照明効果も手伝って、ダークで陰影ある音空間が演出される中、途中、オートワウを多用したバイロンミラーの十八番的ベースソロが繰り出されるなど、深遠ながらもファンクテイストを忘れないアレンジが印象的だ。そこから続けざまにテンポとキーを徐々にあげながら「Mercy Mercy Me」へと展開。マーヴィンの歌メロをキーボードのジェフが担うアレンジにひと際歓声がこだまし、さらに続いて「What's Going On」へと展開すると、会場は一気にヒートアップ。デヴィッド・Tのギターを中軸にしながらも、中盤、躍動感あふれるジェフの鍵盤とが重なり合いメジャーキーとマイナーキーが交錯しながら展開する楽曲に、バイロン・ミラーの太く静かに鎮座するベースと、これでもかと言わんばかりに渾身の表情と愛くるしい豪快な笑顔でデヴィッド・Tと阿吽の呼吸で追随するンドゥグ・チャンスラーのドラムとが相まって、会場全体が大きくグルーヴする盛り上がりでステージは一旦エンディングへ。
アンコールでは、まずンドゥグ一人がステージに登場しドラムソロパートに。少しスリムになった印象のンドゥグだったが、なんのなんの、これ以上叩くとスネアが破壊されてしまうと思えてしまうほど重量感溢れるパワフルさや、なたを振り下ろすかのように切れ味鋭いハイハットへのスティック使いなど、躍動感たっぷりのドラミングは健在。「どこまでもついていく」とデヴィッド・Tをリスペクトし続けるエネルギッシュで自在な屋台骨こそ、デヴィッド・Tが彼を必要とする信頼感だ。そして、バイロンとジェフ、デヴィッド・Tが加わり「I Want You」へとなだれ込むと、会場のボルテージは最高潮に! こんな余力がどこに潜んでいたのかと首を傾げたくなるほど、メロウながらも力強いファンクネス充分なバンドアンサンブルに、心躍る至福の瞬間が続きステージは大団円。
振り返ってみれば、ステージ序盤3曲こそデヴィッド・Tの自作曲だが、残る中盤のカヴァーと後半のマーヴィン・トリビュートは、デヴィッド・Tとも馴染み深い故人が数多く関わった楽曲たちだ。マーヴィン・ゲイ、ルー・ロウルズ、バリー・ホワイト、ジーン・ペイジ、ミニー・リパートン、ハル・デヴィッド。ステージによっては、公演直前に旅立ったボビー・ウォマックの楽曲フレーズをところどころに織り込む演出もあった。確かに「トリビュート・トゥ・マーヴィン・ゲイ」と銘打った公演名のとおり、ステージ後半はたっぷりとマーヴィンの楽曲にフォーカスした。しかし、あえてマーヴィンの楽曲カヴァーのみにこだわらなかった構成に、今回のステージに臨むデヴィッド・Tの意気込みと思慮深い態度が垣間見える。自身の音楽キャリアの一角を形作ったアーティストの多くは既にこの世を旅立った。でも、彼らの残した素晴らしい楽曲やメロディは形や姿を変えながらも引き継がれていく。いい曲がそこにあり、気の合うメンバーと精一杯のプレイをして、自由に楽しんで感じてもらいたい。そんなデヴィッド・Tの声なき声が、目の前で繰り広げられたステージの行間に溢れていた。大仰な物言いや振る舞いではなく、実にサラリと自然体で、時代をともに生き抜いた“仲間たち”への思いを、緩急たっぷりに全力投球のパフォーマンスが伝えてくれる。彼らとともに歩んだ「音楽の人生」の歓びすべてを血肉として、自ら「David T. Walker」という名の音楽に昇華してみせる凄みと素敵さを僕は感じたい。スペシャルに企画された「トリビュート」の姿勢は、実はデヴィッド・T自身の音楽の一部に常に横たわっている信条でありスピリットなんだと受け取っておきたいのだ。だからこそ、ガッツと愛情に満ちた彼のショーマンシップは、ほかの誰にも描けない美しく優しく切れ味鋭いギターの音色とともに、聴き手の心をいつだって響かせ続ける。
ステージ中央にぽつんと置かれた誰もいないセンターマイク。進行役のデヴィッド・TがMCで使う以外、演奏中にそれを使うシンガーはもちろんここにはいない。でも、ステージの4人が繰り出す音楽にさそわれて、伝説のアーティストたちが時折りフッと降りてくる。4人のバンドサウンドが、聴こえるはずのない「うた」を彩ってくれる。その光景が重なりあった瞬間、このステージに臨む彼らの思いを分ち合えた気がした。そして終演後、ステージ去り際に日本語で語ったユーモアたっぷりの「マタネ!」というチャーミングな一言が、彼の信条でもある「Press On With A Smile」というおおらかなスピリットを代弁しているようにみえた。
2014年7月13日 ウエヤマシュウジ
Live Photo by JUN2
Thank you, Jeff, Ndugu, David, and Byron !!!
01. "The Real T."
4thアルバム『David T. Walker』収録のオリジナル曲。
02. "Plum Happy"
3rdアルバム『Plum Happy』と9thアルバム『Ahimsa』収録のオリジナル曲。
03. "Recipe"
8thアルバム『With A Smile』に収録されたオリジナル曲。60年代にはキンフォークス名義でシングルリリースされた一曲。
04. "You'll Never Find Another Love Like Mine"
13作目『Thoughts』に収録されたルー・ロウルズの名曲カヴァー。
05. "Love's Theme"
13作目『Thoughts』収録。原曲は、バリー・ホワイト率いるラヴ・アンリミテッド・オーケストラによるデヴィッド・Tが参加していた一曲。
06. "Lovin' You"
6thアルバム『On Love』、Rainey Walker Band『Rainey Walker Band』、Band Of Pleasure『Live At KIRIN PLAZA』(※再発盤のボーナストラックのみ)に収録されたミニー・リパートンの歌声で知られる名曲カヴァー。
07. "Walk On By"
12作目『Beloved』にカヴァー収録されたバート・バカラック&ハル・デヴィッド作の名曲カヴァー。
08. "How Sweet It Is To Be Loved By You"
13作目『Thoughts』にカヴァー収録されたマーヴィン・ゲイの名曲カヴァー。
09. "I Heard It Through The Grapevine"
スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、グラディス・ナイト&ザ・ピップスなどのバージョンでも知られるマーヴィン・ゲイの名曲カヴァー。バンド・オブ・プレジャーの幻の4作目といわれるオムニバスアルバム『JVC Soul All Stars』にカヴァー収録。
10. "Let's Get It On"
1973年リリースのマーヴィン・ゲイの名作『Let's Get It On』収録のタイトルナンバー。冒頭部分には、1976年リリースのマーヴィンのアルバム『I Want You』収録の「Come Live With Me Angel」をギターのみで披露。
11. "Inner City Blues"
1971年リリースのマーヴィン・ゲイの名作『What's Going On』収録曲のカヴァー。1974年リリースの『Live!』収録の同曲にデヴィッド・Tが参加。
12. "Mercy Mercy Me"
1971年リリースのマーヴィン・ゲイの名作『What's Going On』収録曲のカヴァー。
13. "What's Going On"
1971年リリースのマーヴィン・ゲイの名作『What's Going On』収録曲のカヴァー。David Tの4thアルバム『David T. Walker』にカヴァー収録。マーヴィン・ゲイの1974年リリースのライヴアルバム『Live!』収録の同曲にもDavid Tが参加。
14. "I Want You"
1976年リリースのマーヴィン・ゲイの名作『I Want You』収録曲のカヴァー。David Tの13作目『Thoughts』や、チャック・レイニーとのユニット「レイニー・ウォーカー・バンド」の『Rainey Walker Band』でもカヴァー収録された一曲。
●メンバー紹介:
Jeff Colella (Piano, Keyboards) ジェフ・コレラ
ルー・ロウルズのバックで長年デヴィッド・Tと活動をともにした鍵盤奏者。1990年のルー・ロウルズ来日公演にはデヴィッド・Tとともにバンドメンバーの一員として来日。デヴィッド・Tのソロ活動の中では、90年代のソロアルバム『...from My Heart』『Dream Catcher』『Beloved』の3作と、2008年の13作目『Thoughts』に参加するほか、タイロン橋本『Key To Your Heart』でもデヴィッド・Tと共演している。
Byron Miller (Bass) バイロン・ミラー
ハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらとのセッションで知られるファンキーベーシスト。80年代のクルセイダーズのライヴツアーでともに活動したのをはじめ、デヴィッド・Tとはスタジオで幾度も顔を合わせた仲。これまで3枚のソロアルバムをリリースし、近年では故ルーサー・ヴァンドロスのバックバンドの一員としても腕をふるったクールガイ。
Leon Ndugu Chancler (Drums) レオン・ンドゥグ・チャンスラー
マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらのリズム隊を担ったソリッドドラマー。70年代後半に自身のユニット「チョコレート・ジャム・カンパニー」を率いて『The Spread of the Future』『Do I Make You Feel Better?』の2作をリリース。80年代にはクルセイダーズの一員としても腕をふるい、90年代にもデヴィッド・Tのソロ作をサポート。きらびやかで骨太なリズムとシャープなスティックさばきを披露している。
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