Marlena Shaw Last Tour In Japan "Who Is This Bitch, Anyway?" Set List (2016.07.31)
※以下は基本的なセットリストです。
※大阪と東京のビルボードライブ公演では、演奏されない曲があったり曲順が変更されたり、ほかに「Go Away Little Boy」「California Soul」「This Little Light Of Mine」やブルーススタンダードが演奏されるステージもありました。
メンバー:
Marlena Shaw (Vocal)
Chuck Rainey (Bass)
David T. Walker (Guitar)
Harvey Mason (Drums)
Larry Nash (Keyboard)
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Miyazaki "UMK SEAGAIA JamNight 2016"
01. "Amazing Grace"
02. "You Taught Me How To Speak In Love"
03. "Street Walkin' Woman"
04. "Mercy, Mercy, Mercy"
05. "I'll Be Your Friend"
06. "Woman Of The Ghetto"
07. "Loving You Was Like A Party"
08. "This Little Light Of Mine"
09. "Everyday I Have The Blues"
Billboard Live Osaka & Tokyo 1st Stage Set
01. "You Been Away Too Long"
02. "Until I Met You (Corner Pocket)"
03. "Street Walkin' Woman"
04. "Feel Like Makin' Love"
05. "What A Wonderful World"
06. "Rose Marie (Mon Cherie)"
07. "Mercy, Mercy, Mercy"
08. Blues Standard Session
09. "Loving You Was Like A Party"
Billboard Live Osaka & Tokyo 2nd Stage Set
01. "I'll Be Your Friend"
02. "You Taught Me How To Speak In Love"
03. "Street Walkin' Woman"
04. "Until I Met You (Corner Pocket)"
05. "Feel Like Makin' Love"
06. "What A Wonderful World"
07. "Rose Marie (Mon Cherie)"
08. "Everything Must Change"
09. "Loving You Was Like A Party"
はじまりがあれば終わりがある。信じたくないけどついにそのときがやってきた。2009年に初演し、ほぼ毎年のように行なわれたマリーナ・ショウとメンバー4人によるスペシャルなライヴは、マリーナの日本でのラストステージという知らせとともに、2016年の今年が最後の公演となった。このスペシャルな企画を立案したビルボードライブでもひと際人気の高かった公演だけに、これは大変残念な知らせ。しかし、最後のツアーという特別な舞台への期待感がココロ高ぶらせてくれたこともまた事実で、公演日が近づくにつれ大いなる高揚が膨らんでいったのだった。
その「ドリームチーム」は、いつものビルボードライブ公演以外に、今年は宮崎での野外ジャズフェス「UMK SEAGAIA JamNight 2016」にも参加。日本人ジャズグループを中心に、新世代ジャズシーンを牽引するロバート・グラスパーも加わったそうそうたる出演者のなか、彼らは大トリに登場。白いスーツをまとって颯爽と登場したマリーナのカッコよさは屋外ステージでも変わりないどころか、そのオーラに会場のボルテージは一気に上昇。1975年にリリースされたマリーナのアルバム『Who Is This Bitch, Anyway?』からの選曲はもちろんのこと、ビルボードライブのような室内空間とは違う野外フェスという場を意識してか、マリーナ十八番のゴスペルスタンダード「This Little Light Of Mine」や、重心低いファンクなグルーヴに体が横揺れする「Woman Of The Ghetto」など、躍動感あふれる選曲も目立った。エンディング後には出演アーティストが再びステージに揃いブルースナンバー「Everyday I Have The Blues」をテーマにジャムセッションへとなだれ込み、各楽器パートがかわるがわるソロプレイを披露しながら大団円。大勢の観客の心をグッとつかむ、ふところ深いパフォーマンスが繰り広げられた。
そして、なか一日あけてはじまった大阪と東京でのビルボードライブ公演。過去に何度か足を運んだ来場者もいる一方、今回はじめて観るという声が客席からちらほら聴こえてくるなど、ラストステージに寄せるファンの思いが一堂に会するライヴだということをあらためて痛感する。アルバム『Who Is...』を再現するというコンセプトでスタートした2009年の初演から、年々少しずつアルバム収録曲以外の楽曲もセットに加わっていったこの公演。ラストツアーとなる今回は一日二回公演の1stステージと2ndステージで微妙に異なるセットが用意された。ハーヴィー・メイソンの“Hello There”の一言からはじまるダイアローグを模した演出からなだれ込む「Street Walkin' Woman」や、柔らかなタッチでメロウ極まりないフレーズを奏でるデヴィッド・Tの美しいギターが主役マリーナをもとろけさせる「You Taught Me How To Speak In Love」、チャック・レイニーの特徴的ベースラインではじまり中盤ラリー・ナッシュのエレピがメロウながらも力強く牽引しマリーナがセクシーにおどけながら観客を沸かせる「Feel Like Makin' Love」、マリーナとデヴィッド・Tが歌とギターでユーモアたっぷりに会話する「Rose Marie」など、企画の中心軸にあるアルバム『Who Is...』収録曲が披露されるとひと際大きな歓声が。笑顔でカウントをとりながら年齢を感じさせない俊敏な動作でリズムにのるマリーナの動き一つ一つが実に粋で気品高く、それに瞬時に呼応するメンバー4人のパフォーマンスは、彼らの音楽が彼ら自身の血肉と化して共有できているかのような頼もしさで、何度見てもココロときめいてしまうのだ。
アルバム『Who Is...』収録曲以外の選曲の比重も増加。過去のステージでも披露された「What A Wonderful World」では冒頭にルイ・アームストロングとの逸話を語り、「Mercy, Mercy, Mercy」ではキャノンボール・アダレイとの思い出を語りながら本編に突入するなど、楽曲にまつわるマリーナのショートストーリーが自身のキャリアと歴史を紐解いているかのようにも見えた。「What A Wonderful World」の軽やかで心地よいスイングと、「Mercy, Mercy, Mercy」のタメを効かせたスローテンポのグルーヴとが共存するバンドアンサンブルに体は自然と横揺れに。力みのない自然体の躍動こそ彼らの真骨頂で、体に馴染んだアドリブ的ブルースナンバーではデヴィッド・Tの粘り気あるギターが炸裂。やわらかい指使いから繰り出されるコントラスト高い一音一音は視覚的にも惚れ惚れする美しさだ。
そしてこのバンドでは今回初披露となった「Until I Met You」は、マリーナがカウント・ベイシー楽団のヴォーカリストだったキャリアの初期、同じ楽団のギタリストだったフレディ・グリーン作の「Corner Pocket」に歌詞をつけレパートリーにしていた一曲。いるはずのないビッグバンドの管楽器が聴こえてくるかのような、水を得た魚のごとくスイングするマリーナの姿が優雅で実にみずみずしく映る。そのほか、すべてのステージでは披露されなかったものの、マリーナが1969年にリリースしたアルバム『The Spice Of Life』収録の代表曲「California Soul」もこのバンドで今回初披露。同じく同アルバム収録の「Go Away Little Boy」をしっとりと歌い上げる姿も印象的だった。
なかでも格別だったのがこのバンドで今回初披露となったベナード・アイグナー作の「Everything Must Change」のカヴァーだ。アルバム『Who Is...』のプロデューサーでもあるアイグナー作のこの一曲は、クインシー・ジョーンズの1974年作『Body Heat』でのアイグナー本人のヴォーカル版をはじめ多くのシンガーにカヴァーされる名曲中の名曲。本来であれば『Who Is...』に収録されてもおかしくなく、マリーナも2003年リリースのアルバム『Lookin' For Love』でカヴァーするほどのお気に入りの一曲だ。ラリー・ナッシュのピアノの音色で静かにはじまり「ものごとは常にすべてかわっていく」という万物流転の世界観を、必要最小限に削ぎ落とされたやわらかな音とダークな照明に包まれて、情感込めながら歌い演じる姿に手に汗握るような緊張感が宿る。まるで彼らの音楽人生を投影しているかのような迫力と凄みがにじむ素晴らしいアンサンブルが繰り広げられたのだった。
順調そうに見えたツアーだったが、アクシデントもあった。東京公演初日の2ndステージでマリーナのコンディションが悪化。以降の公演が心配されたものの、なんとか取り戻し翌日2日目もステージに立ったマリーナだったが、やはり万全のコンディションというわけにはいかず、東京公演2日目の2ndステージではついに開場前に「マリーナのコンディションが100%の状態でない」ことが主催者から告げられるという事態に。しかし、いざ本番ではそれまでの公演とかわりなく予定のセットをすべて披露するという奮闘ぶり。100%の状態ではなかったはずだが、それでもつらそうな素振りを抑え、いつも通りの気品高い佇まいでユーモアたっぷりな振る舞いとともに観客の期待に応えようとする姿に胸がいっぱいになる。東京公演3日目の最終日には、前日までの懸念がなかったことのように思えるほど復調し、目を見張るような素晴らしいステージを繰り広げたのはさすがの一言だった。
こんなシーンもあった。東京公演2日目の1stステージで、マリーナがいつもどおりのコンディションではないことを自らメンバーにそっと告げているような素振りを見せた。そこでどんな意思疎通があったのかはわからない。しかしその直後から、デヴィッド・Tは大きな掛け声でマリーナを鼓舞。メンバー全員の演奏がギアチェンジし、不調を全員でカヴァーするチカラがみなぎったようにみえたのだ。名手たちを集めただけの急造ユニットとは次元の違う、バンドとして気持ちを共有し一体化している5人の姿がそこにあった。瞬間、目頭が熱くなった。マリーナのラストステージという寂しさからではない。Show must go onのスピリットと、メンバーのガッツとさりげない優しさに震えるような感動をおぼえたのだ。音楽を演じ表現することの意味と素晴らしさを感じたその瞬間の高揚を、僕はきっと一生忘れない。
2009年の初演から数えて8年間、のべ80回を超えるステージをこなした彼ら。一つのバンドのステージ数としてこれが多いのか少ないのかはわからない。でも、この公演が高齢のメンバーによる、日本でしか観ることのできないスペシャルなライヴだということを考えると驚異的なステージ数だと思えるし、その一部でも同じ時間を共有できたことがとても誇らしく思えてくる。平均年齢70歳を超えるメンバーが長時間のフライトを経て遠い日本に何度もやってきてくれる。熱演につぐ熱演をありったけの心意気で披露してくれる。感謝の気持ち以外に何があるというのだ。
アルバム『Who Is...』が描いた奇跡のような高い音楽性や芸術性は、彼ら5人にとっては膨大なセッションワークの中でうまれたホンの一コマ。そこに集ったメンバー5人は、年に一度、8年間不動のメンバーで日本でのみ集結し同じ時間をともに過ごしながら交友を深め、まるで家族のような真の「バンド」になり「チーム」になった。そんな彼らが描くステージは「あの名盤がライヴで再現される」というシンプルな歓びから、彼らが培った奥深い音楽の魅力を知る歓びへとかわり、決して楽しいばかりではない紆余曲折な人生の機微と素敵さをも語ってくれたように思えた。ソウル、ジャズ、ブルース、ゴスペル、ポップスといったあらゆる音楽ジャンルを交差させ、ひたすら楽しく、チャーミングな笑顔で、粋で気品高い振る舞いで、ユーモアとシリアスの緩急たっぷりに、全身全霊でパフォーマンスする彼らのあたたかく大きなハートは、観客である僕らをいつだって奮い立たせる。同じ楽曲を演奏しても一度足りとも同じようにはならない。一音に込めるフィーリングを大切にし、音楽の楽しさをステージ全体で証明してくれるこんなにも素敵な5人。彼らをレジェンドと称したくなる気持ち以上に、目の前で描かれるリアルで大きな音楽と生きざまに心底共感するのだ。
はじまりがあれば終わりがある。思えば彼ら5人の音楽の人生はその繰り返しなのかもしれない。東京での最終公演終了後、ステージ上で花束を受け取るマリーナ。鳴り止まない大きな拍手につつまれ観客全員に丁寧に感謝を伝える5人。やり遂げた満足気な表情に、最後の公演という寂しさはいつしか清々しさにかわった。そして終わりがあればはじまりがある。日本での公演は終わっても、音楽とともに生きる彼らの日常が閉じることはない。音楽の道を歩む扉はいつだって開いている。
2016年7月31日 ウエヤマシュウジ
Thank you, Marlena!!!
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