Marlena Shaw "Who Is This Bitch, Anyway?" Reunion Tour 2013 Set List (2013.07.28)
※以下は基本的なセットリストです(ステージによって演奏されない曲もありました)。
※「軽井沢ジャズ・フェスティバル」では「04」と「08」を除く8曲が演奏されました。
メンバー:
Marlena Shaw (Vocal)
Chuck Rainey (Bass)
David T. Walker (Guitar)
Harvey Mason (Drums)
Larry Nash (Keyboard)
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01. "You Been Away Too Long"
02. "Street Walkin' Woman"
03. "You Taught Me How To Speak In Love"
04. "What A Wonderful World"
05. "Feel Like Makin' Love"
06. "Mercy, Mercy, Mercy"
07. "Rose Marie (Mon Cherie)"
08. "Davy"
09. "Blues Standard Session"
10. "Loving You Was Like A Party"
やっぱり何度みてもカッコイイんだ、この5人。大きな器。心躍るステージ。期待に違わぬスペシャルなライヴは、今年もまた、いやこれまで以上の興奮を届けてくれた。
アルバム『Who Is This Bitch, Anyway?』を再現するというコンセプトを背景に企画され、2009年に初演されたこのスペシャルなライヴも、ついに今年で5年目。アルバム収録曲を中心としながらも、アルバム未収録のスタンダードナンバーやマリーナ作の楽曲をレパートリーに加えるなど、毎年少しずつではあるが選曲を変えながら見どころを彩り、アルバムの再現という枠を軽く飛び越える柔軟さで、彼ら5人は「マリーナ・ショウ・バンド」として一体感を育んできた。
迎えた5年目となる今年、ステージは「You Been Away Too Long」で幕をあける。年配の方から若い世代までオーディエンスの年齢層はバラエティに富んでいる。そのせいか、これまでにも増して歓声がひと際大きい。過去に何度か足を運んだ熱心なファンもいるだろうが、今回はじめてこのライヴを体験する観客が多かったということかもしれない。5年という単位が周期になるのかどうかはわからないが、回り回ってあらたなファンを獲得したとも受け取れるほど、今年の公演は賑わいと盛り上がり度が幾分増した感があった。
続いてハーヴィー・メイソンの「Hello There?」の声でマリーナとの語りの掛け合いがはじまる。アルバム『Who Is……』を知る者なら、これが冒頭のダイアローグを模した演出だと直感し、高ぶる期待と笑い声で会場は包まれる。フィーチャーされるマリーナとハーヴィーの二人に照明がおとされる中、ジャズテイストあふれる生ピアノで雰囲気を演出するラリー・ナッシュ、気配を消すようにマリーナとハーヴィーの会話をにこやかに見守るチャック・レイニー、一旦ギターを肩から外しスーツの上着を脱いだあとゆっくりと再びスタンバイする所作も美しいデヴィッド・T。映画のワンシーンのようにも思える5人のシチュエーションが、アルバムに収められたダイアローグのイメージと交差しながら一つの情景を描いていく。チャーミングな表情としぐさでジョークを軽く織り交ぜながら、会場のムードを徐々に高めていくマリーナ。くるぞくるぞという期待感のもと「Street Walkin' Woman」へとなだれ込む展開は、ステージ序盤の見せ場の一つだ。
一転、メロウなテイストがしっとりと包む「You Taught Me How To Speak In Love」では、中盤からはじまるデヴィッド・Tのソロプレイに、会場全体が息をのむ緊張感を携えていく。ハーヴィー・メイソンのドラムが楽曲ニュアンスの強弱を的確にコントロールする横で、感情を込めに込めながら澄みきった音色とパーカッシヴな一音とを織り交ぜ徐々に盛り上がりの階段をのぼっていくギタープレイはデヴィッド・Tの真骨頂。原曲のニュアンスを残しつつも、骨格を忘れさせるほど渾身のフィーリングとタッチでバンドアンサンブルを牽引する姿に、観客も高揚を隠せなくなる。ステージ序盤でこの躍動。この時点で魔法にかかってしまったのは、僕だけではないはずだ。
昨年のステージからフィーチャーされたルイ・アームストロングの名曲「What A Wonderful World」を軽やかなテイストで鮮やかさに決めた後、「この“素晴らしき世界”を作るのは“Love”」と語りはじめ「どう? チャック」とのニュアンスで問うマリーナ。その答えはこれだと言わんばかりにチャックが繰り出す「Feel Like Makin' Love」のイントロベースに、歓声が沸き、高揚は一気に加速していく。シンコペーションの効いたラリー・ナッシュの鍵盤が紡ぐグルーヴも年々テンションが増している。続くキャノンボール・アダレイの「Mercy, Mercy, Mercy」でも、腰にくるラリーの軽妙な生ピアノが、追い打ちをかけるように躍動の灯をともす。思わず体が横揺れするミドルテンポのソウルフィーリングに呼応するかのように、黒く粘り気たっぷりのデヴィッド・Tのギターソロが音数を詰め込み過ぎない振り幅のコントラストで彩りを添える。2009年の初演では、4人の呼吸を逃さないよう着実なプレイに徹していたラリーも、徐々に間合いをつかんだか、昨年公演では本領発揮の鋭いフレーズを多彩に連発。今年はさらに、培った阿吽の呼吸はそのままに、バンドアンサンブルを彩る両輪ともいえるデヴィッド・Tとの旨味の緩急を、自由奔放に振る舞いながらもバックを担う4人へのさりげない配慮を忘れないマリーナのクレバーな舵取りがバランス良く注ぎわけているようにも見えたのも印象的だった。
そのマリーナとデヴィッドTが織り成す「うた」と「ギター」による掛け合いに会場から笑みがこぼれる「Rose Marie」や、演奏されないステージもあったものの、高揚を一瞬にして鎮めステージの空気を一変する「Davy」など、テイストの異なる歌世界を幾つもの色合いで豊かに感情表現する熱演に、マリーナの懐深い底力が見え隠れする。そして終盤、ブルースフィーリングたっぷりのセッションナンバーでは、その場でチョイスされる馴染みあるブルースフレーズや、5人にとって十八番のアドリブ的展開が、最小限の骨格を除き、決めうち無しのフィーリングで見事に描かれていく。この雰囲気、この楽しさ。存分にステージを楽しんでいる様子が伝わるレジェンドたちのパフォーマンスに、同じ瞬間を共有していることの至福をあらためて実感するのだ。
アンコールの定番曲「Loving You Was Like A Party」で盛り上がりは最高潮を迎え大団円。終わってみれば、過去4年の公演から選りすぐられた、バランスのとれた選曲のように見えた。きっと何度見ても、また再び味わいたくなるベストなセットだという実感。東京公演でのテレビ中継という制約あるステージングを余儀なくされたことも影響したと思われる一方、「“Who Is This Bitch, Anyway?” リユニオンメンバー」として召集された彼らが年数を重ね「マリーナ・ショウ・バンド」として一体感を強固にしたことで、自然と絞りこまれ固まっていったセットのようにも思えた。僅かな呼吸の乱れや突発的なアクシデントもなんのその。そんなことをものともしない堂々とした迫力と凄みが彼らのステージにはいつも横たわる。そこにあるのは、“Show Must Go On”なショーマンシップと、おおらかで豊かな音楽力の大きな器。マリーナがステージで発した「I Wish Soul !」に代表されるスピリットは、きっとメンバー全員、各人各様のスタイルで息づいていると思いたい。彼ら自身が描くパフォーマンスそのものが、随所でそれを証明しているんだと受け取りたいのだ。
なお、東京と大阪のビルボードライブでの公演のほかに、今年は「軽井沢ジャズ・フェスティバル」にも出演した彼ら。自身の名義による単独ライヴとは異なり、複数のアーティストが出演し時間的制約もあるフェスという性格上、止むなくカットされた楽曲もあったが、そんなことを全く感じさせないほど、クラブ形式の会場とはまた趣きがひと味違う、ホールコンサートならではの醍醐味も手伝って、5人のスペシャルなステージはひと際盛り上がりをみせた。
終演後、大きな歓声と喝采で包まれるスタンディングオベーションの中、ステージ中央に揃って深々と一礼する5人。今年の全ステージで遭遇したこの光景に、何度も胸がいっぱいになる。だからこそ、しなやかに熟した5人が描く音世界がどんなものであったとしても、またこの場にいたいという思いは消えることがない。音楽の人生を歩む彼ら5人の大きな器とガッツを、いつでも肌身で感じたいのだ。
2013年7月28日 ウエヤマシュウジ
Photo by Masanori Naruse
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