Marlena Shaw Live Tour 2012
David T. Walker参加のマリーナ・ショウ来日公演2012が大盛況のうちに閉幕!

Marlena Shaw
『Who Is This Bitch, Anyway?』


2009年の初演に始まり、2010年、2011年と続いた、マリーナ・ショウ “Who Is This Bitch, Anyway?” リユニオンメンバーによるスペシャルライヴが大盛況のうちに閉幕しました。1975年にリリースされ今なお新たな魅力を放ち続ける名盤『Who Is This Bitch, Anyway?』に参加した当時のメンバーであり、マリーナをして「Dream Team!」と言わしめ讃えたレジェンドたち、チャック・レイニー(B)ハーヴィー・メイソン(Dr)ラリー・ナッシュ(Key)、そしてデヴィッド・T・ウォーカー(G)による奇跡のステージは「この名盤に参加したメンバー」という枠を超え、あらたなグルーヴとともに会場を大きく揺らしました!

●札幌公演(※終了しました
日時:2012年8月7日(火)
会場:Zepp札幌
主催:BOSSA
チケット問合せ先:大丸プレイガイド

●東京公演(※終了しました
日時:2012年8月9日(木), 10日(金), 11日(土)
会場・問合せ先:ビルボードライブ東京

●大阪公演(※終了しました
日時:2012年8月14日(火)
会場・問合せ先:ビルボードライブ大阪


Marlena Shaw "Who Is This Bitch, Anyway?" Reunion Tour 2012 Set List (2012.08.15)

メンバー:
Marlena Shaw (Vocal)
Chuck Rainey (Bass)
David T. Walker (Guitar)
Harvey Mason (Drums)
Larry Nash (Keyboard)
※以下は基本的なセットリストです。
※1stステージと2ndステージとでセットは異なり、全ステージに渡って曲順は入れ替わりました。
※ステージよっては演奏されない曲もあり、また「Street Walkin' Woman」やブルーススタンダードが演奏されることもありました。

01. "Stormy Monday" or "You Are My Everything"
02. "You Taught Me How To Speak In Love"
03. "Feel Like Makin' Love"
04. "Rose Marie (Mon Cherie)" or "Mercy, Mercy, Mercy"
05. "What A Wonderful World"
06. "God Bless The Child"
07. "Drink Muddy Water"
08. "I'll Be Your Friend"
09. "Woman Of The Ghetto"
10. "Loving You Was Like A Party"



 4年に一度のオリンピックイヤーとなった2012年。アスリートたちの躍動が連日伝えられるのと時を同じくして、熱い熱い音楽の宴が札幌、東京、大阪の3会場で催された。マリーナ・ショウが75年にリリースした、ソウル、ジャズ、ブルース、ポップスの垣根を越える歴史的名盤『Who Is This Bitch, Anyway?』録音メンバーによる、唯一、日本でしか観ることのできないスペシャルなライヴ。夏の恒例行事となった感もあるこのライヴも今年で4回目。さすがに過去3年見続けてきた蓄積もある。だから今年こそはゆったりと、隅々まで彼らパフォーマンスを楽しめると思っていた。だがとんでもない。あらたな変化と興奮が今年もそこに待っていたのだった。

 変化の一つは選曲だ。もともと3年前の初ステージの背景にあったのは、名盤『Who Is 〜』を支えたメンバーたちがアルバムの楽曲そのものを披露するというコンセプト。それが翌年、翌々年と重ねるうちに、僅かではあるが、アルバム以外の楽曲も披露されるようになり、4年目となる今年は、半数以上がアルバムに収録されていない楽曲構成となった。とはいえ、あらたに披露された楽曲は、長年培ってきたレパートリーともいえる主役のマリーナにとって馴染みのあるもの。メンバー全員親しみあるスタンダードナンバーも多く、リハーサルもままならない状況下であっても簡単な骨格さえ共有できてさえいれば大丈夫という“ファーストコール”なレジェンドたちの力量が発揮されるステージとなった。


 アルバム『Who Is 〜』からは、ステージ序盤に「You Tought Me How Speak In Love」と「Feel Like Makin' Love」を披露。イントロフレーズが奏でられた瞬間、すぐさま「待ってました」と言わんばかりにフロアに沸き起こる歓声が、愛着あるファンの多さを物語る。特に今回「You Taught Me How Speak In Love」は、さらにテンポを落とし、中盤、マリーナからデヴィッド・Tにソロパートの場面がバトンタッチされると、メロウなタッチの緩急とパーカッシヴな一音とを自在に交差させながら徐々に高揚を演出する抜群のフレージングと構成力、そして澄みきったギターの音色が会場中に響き渡った。緊張感とうっとりとしたため息のこぼれるメロウネスとが交互に階段をのぼるかのように一音一音を紡ぎだすデヴィッド・Tのプレイは、生演奏ならではの圧巻の迫力と美しさ。楽曲中盤から後半にかけて、5人の呼吸が徐々に一つの音世界を形作り、興奮が沸点に到達していくに従って、レコード盤に収められた原曲への思いとはまた別の、懐深いアンサンブルの凄みに圧倒されていく。

 さらに今回、ラストナンバーとなった恒例の人気曲「Loving You Was Like A Party」をはじめ、ラリー・ナッシュの鍵盤ソロパートが、これまでにも増して多くの小節を担っていたのも印象的だった。アドリブ多発の彼らのステージでは、これまで軌道修正の役割を自ら買ってでるかのように全体の指揮を下支えし、骨格に忠実なアンサンブルを心掛けていたように見えたラリーだが、今回その枠を意識的にとり払い、吹っ切れたかのように本領発揮の凄腕プレイをビシバシと連射。静かにリズムを刻むハーヴィー・メイソンも、そのエネルギーに呼応し、随所でキレのある強弱のメリハリで、持ち前の高い技術によるドラミングの一端を、派手な振る舞いを一切行うことなくさらりと滲ませる。それら全てが、のどをからしながら渾身のチカラでうたう主役のマリーナをグッと後押しし、ステージ全体の躍動に貢献。回数を重ねたステージングの効果は、5人が互いに刺激を発し合いながら、ひとつのバンドとして良好な関係に裏打ちされた一体感を育んでいるようにも見えた。





 オープニング曲となったブルースナンバー「Stormy Monday」やスウィングナンバー「You Are My Everything」をはじめ、ステージ中盤からは主役のマリーナが日常のステージで馴染み親しんでいる楽曲が次々と披露される。ルイ・アームストロングの名曲「What A Wonderful World」のカヴァーは、2003年にリリースされたマリーナのソロアルバム『Looking For Love』収録版同様にボサノヴァ調のアレンジを施した軽やかでピースフルな佇まいを演出。「この曲のオリジナルレコーディングでベースを弾いているのはここにいるチャック・レイニーよ」とのマリーナの賛辞に会場から拍手が響いた。そのチャックは、昨年末に体調を崩し、今回が回復後初のステージ。幾分スリムになったように感じられたし、本調子ではなかったのかもしれないが、いつものように黙々と、しかし鋭い視線で主役のマリーナやバンド全体を見据え、グルーヴを支える姿はさすがの一言だった。続く「God Bless The Child」は、2010年にリリースされたデヴィッド・Tのソロアルバム『For All Time』にマリーナ自身がゲストヴォーカルとして参加したことも記憶に新しい、ビリー・ホリデイの名曲カヴァー。練られたアレンジにのせて情感込めてうたうマリーナの迫力と、デヴィッド・Tのメロウでジャズテイストに満ちたブルージーなギターが、力強さを伴ったエレガントさで見事に共鳴する。かと思えば、黒々とした粘り気たっぷりのファンキーカッティングが宙を舞った「Woman Of The Ghetto」では、ステージによってはワウペダルを駆使したソロプレイも飛び出すなど、ブラックフィーリング満載のギターバッキングがキレ味鋭く鎮座。ほかにもブルーススタンダードの「Drink Muddy Water」や、マリーナの自身のペンによるシャッフルナンバー「I'll Be Your Friend」など、5人の体に染み渡る音楽エッセンスが程よくちりばめられたこれら楽曲は、彼らの懐深さを気負いなく自然体で伝える選曲となった。高揚がアドリブによって次第に積み重なる展開の楽曲も多く、無事にエンディングを迎えられるのか、観ているこちらが冷や冷やしてしまうほど、即興的ステージングがこの5人のアンサンブルの特徴であり聴きどころ。マリーナの動向を4人が互いにコンタクトしながら緩急を刻み、多少の強引さを伴いながら決してきれいにまとまったカタチでなくとも見事にエンディングに着地する姿は、その道中と空間を彼ら自身が楽しんでいることさえも音楽の一部であると言わんばかりのおおらかさ。「人生、誰もが向かっている先は同じところ。山あり谷あり。その道中をどう歩むかが肝心なのよ」という声なきメッセージを、アンサンブルそのものが雄弁に語っているかのようだ。

 だからこそあらためて感じるのは、もしこれら楽曲が当時アルバムに収録されていたとしたらどんなマジックが起こっただろうという叶わぬ想像ではなく、むしろ、名盤と謳われるこのアルバムでさえ、彼らに蓄積された音楽力を僅かばかりに引き出した数あるミラクルの一つにすぎないんだという、レジェンドたちの途方もない大きな器への実感だ。それは、この5人が「名盤の名のもとに集ったミュージシャンたち」から「マリーナ・ショウ・バンドの一員」としてあらたな一体感を共有したと思える瞬間でもあった。贅沢の極み、と重々承知のうえで敢えて乱暴に言うなら、彼ら5人の音楽さえあれば、ほかに何もいらない。そんなふうにさえ思えるほど、心トキメク魅力溢れる音楽の醍醐味と凄みが、彼らのパフォーマンスに凝縮されているのだ。


 日本では長年多くの音楽ファンに愛され続けてきたこの名盤も、本国アメリカではソウル、ブルース、ジャズの名演が記録された高い芸術性を伴った音楽的価値ある作品として評価されつつも、特別な賛辞が継承されることなく半ば見過ごされている感も少なくない。だがここ日本は違った。日本人が持つ高い美意識と豊かな音楽的感性は、彼ら音楽ヒストリーのほんの通過点だったかもしれないアルバムの妙味と旨味を感じ取り、世代のギャップをも埋める感受性で30年以上に渡って愛し続けてきた。だからこそこのスペシャルなステージは、そんな日本のオーディエンスへの彼ら流の感謝のカタチだとも思えるし、同時に、より広大で魅力的な音楽の大海原へ航海の扉をひらく後押しを、チャーミングで茶目っ気たっぷりに全力投球の熱演で自ら示してくれた瞬間だったとも受け取りたい。会場を後にする観客のこぼれ落ちる満面の笑みは、彼らの思いがしっかりと伝わった証しだと信じたいのだ。

 名盤の名盤たる由縁は、観客それぞれの心の内に刻まれ、宝物を宝物として扱うよろこびはこれから先も変わることはない。でも、そんなことをも忘れさせるほど、力強い音楽力を受け取るよろこびと醍醐味を、大きな器の5人によるガッツあふれるステージは証明する。そこにあるのは、酸いも甘いも噛み分けた「これもまた人生さ」的向こう見ずなおおらかさと、いろんなものを背負いながらも一つの道を極めようと日々を歩む者に約束される、アスリートの自信とプライドにも似た音楽愛溢れる大きな大きなショーマンシップとスピリットだ。終演後、鳴り止まない喝采とスタンディングオベーションの中、観客一人一人に握手で応え、ステージ中央に揃って深々と一礼するレジェンドたちの姿に、こころ高ぶらない者などきっと一人もいない。そんな心意気たっぷりのパフォーマンスを目の当たりにしたとき、彼らの音楽に出会えて良かったという確信は、いっそう強く体中を駆け巡るんだ。

2012年8月15日 ウエヤマシュウジ