David T. Walker plays Motown Classics 2015
2015年8月のデヴィッド・T・ウォーカー来日公演 "plays Motown Classics" が大盛況のうちに閉幕!


デヴィッド・T・ウォーカーがセッションマンとして数多く関わったモータウン・レコード。そんなモータウンの名曲を中心としたライヴが開催。デヴィッド・Tとも馴染み深いモータウンソングが披露された熱い熱いライヴとなりました!

東京公演※終了しました
日程:2015年8月2日(日), 3日(月)
会場・問合せ:ビルボードライブ東京

大阪公演※終了しました
日程:2015年8月6日(木)
会場・問合せ:ビルボードライブ大阪

東京公演の一部映像がオフィシャルFacebookで公開されました!(2015.8.12)

David T. Walker Live in Japan 2015 - plays Motown Classics - Set List (2015.08.07)

※以下は基本的なセットリストです。
※ステージによっては「An-Noor」が演奏されたり、これ以外の楽曲フレーズがアドリブ的に随所に織り交ぜられたりすることがありました。

David T. Walker (Guitar)
Jeff Colella (Piano, Keyboards)
Byron Miller (Bass)
Leon "Ndugu" Chancler (Drums)
01. "Quaker City (Q.C.)"
02. "Going Up!"
   (Intro: "Hard Times")
03. "Street Life"
04. "Lovin' You"
   (Intro: "On Love" or "Windows Of The World")
05. "Standing In The Shadows Of Love"
   (Intro: "Get Ready")
06. "My Baby Loves Me"
   (Intro: "You Can't Hurry Love")
07. "Never Can Say Goodbye"
   (Intro: "I Want You Back", Outro: "I'll Be There")
08. "Ooo Baby Baby"
09. "Superstition"
10. "Inner City Blues"
   (Intro: "Come Live With Me Angel")
11. "What's Going On"
12. "I Want You"



 猛暑が続く2015年8月。今年もまたデヴィッド・T・ウォーカーがソウルフルなメンバーとともに日本にやってきてくれた。今年のテーマはモータウンレコードの楽曲を中心とした「plays Motown Classics」。モータウンアーティストのレコーディングに数多く参加したデヴィッド・Tならではの企画であり、昨年催されたマーヴィン・ゲイ・トリビュート・ライヴ同様、どんな楽曲がチョイスされるのか、暑くまぶしい日差しを浴びながら、はやる気持ちを落ち着かせ会場へと足を運んだのだった。そしてそこには想像以上の熱い興奮が待っていた。

 ステージ前半はデヴィッド・Tのソロワーク楽曲を中心に展開。冒頭を飾る一曲目は、ビル・ドゲットの「Quaker City」のカヴァー。通称「Q.C.」と呼ばれるこの曲は、デヴィッド・Tと、チャック・レイニー、ジョー・サンプル、ポール・ハンフリーらによるユニット「Soul Food Cafe」が1989年リリースしたアルバム『Soul Food Cafe』にカヴァーが収録されている。デヴィッド・Tのルーツともいえるリズム&ブルースなテイストでありながら、よくあるブルースとはひと味違うジャズ的コードワークも織り交ぜる粋な展開が実にデヴィッド・Tらしく映る一曲だ。


 続く2曲目に入る前、クルセイダーズ版でも知られる「Hard Times」をデヴィッド・Tが一人ギターで奏ではじめる。通常はここからジョニー・ナッシュの「I Can See Clearly Now」へと続くのが定番コースなのだが、今回は変化球的にデヴィッド・Tのオリジナル曲「Going Up」へと展開。緊張と弛緩が交差するジェフ・コレラのリリカルなピアノが、ダークな照明効果も手伝ってジャズテイストの深遠なムードを彩り、鋭く刻まれるデヴィッド・Tのギターと化学反応しながらステージ全体の高揚を徐々に紡いでいく。続く3曲目はクルセイダーズの「Street Life」。冒頭デヴィッド・T自ら、昨年亡くなった盟友ジョー・サンプルへの追悼の意を語る場面からはじまったこの一曲は、だからといって神妙な雰囲気になるのではなく、ンドゥグ・チャンスラーのドラムをはじめメンバー全員が高いテンションでグルーヴを共有。会場全体も一気にヒートアップする展開が続いていく。

 続いてはデヴィッド・Tのステージでは定番のミニー・リパートンのカヴァー「Lovin' You」だ。冒頭に自身のオリジナル曲「On Love」やバカラックの「Windows Of The World」のフレーズを挟み込む“Love”に満ちた演出も健在で、繰り出されるメロウで繊細なトーンはデヴィッド・Tの真骨頂。途中、バトンを渡すかのようにデヴィッド・Tからジェフにソロプレイが場面転換する呼吸も実に美しく、内なる感情を創造性豊かなフレーズと化すジェフの叙情的なピアノも広がりある音空間を彩っていく。ゆったりとスローにはじまるこの曲が、リズムの伸縮を繰り返しながら少しずつ高揚の階段を昇り、気がつくといつのまにか序盤と全く表情の異なる高いテンションの音空間になっているというダイナミックな緩急。椅子から立ち上がり渾身のアクションと遊び心満載のチャーミングな振る舞いを見せるデヴィッド・Tのパフォーマンスを含め、ふところ深い振り幅の大きさも見どころの一つだ。

 ここまでで前半戦が終了。この時点で既に充実度120%のステージであったが、いよいよ後半となるここから今回公演のメインテーマであるモータウンソングのステージがスタートする。冒頭、テンプテーションズやレア・アースのヒットで知られる「Get Ready」のメインフレーズをサラリと奏でたあと、フォー・トップスのヒットナンバー「Standing In The Shadows Of Love」へとなだれ込む。デヴィッド・Tのソロデビュー作『The Sidewalk』にカヴァーが収録されているこの曲は、途中、小指のトリルを織り交ぜたデヴィッド・T得意のキラ星フレーズも挿入されるという、うっとり度の重ねワザも随所に披露。その後、冒頭にシュープリームスの「恋はあせらず(You Can't Hurry Love)」のフレーズをスローテンポで挟み込みながらはじまるマーサ&ザ・ヴァンデラスの「My Baby Loves Me」へと続く。デヴィッド・Tが本格的にモータウンと関わりはじめたのは、マーサ&ザ・ヴァンデラスのツアーバンドの一員に起用されたことがきっかけの一つであり、1967年にリリースされた彼女らのライヴアルバム『Live!』には、若き日のデヴィッド・Tのギターサウンドが克明に記録されてもいる。自身の2ndソロアルバム『Going Up!』でもカヴァーをするなど、歌の世界観も含めてデヴィッド・Tのメロウなテイストがアンサンブル全体を優しく包み込んでいく。


 続いて披露されたのはジャクソン5「Never Can Say Goodbye」。イントロ部分に同じくジャクソン5の「I Want You Back」のフレーズを挿入し、エンディングを「I'll Be There」のフレーズで閉めるというデヴィッド・Tのライヴでは鉄板の流れが今回も登場。原曲の持つポップなテイストとデヴィッド・Tのメロウで美しいトーンとが調和し、バンドサウンド全体の旨味と化した抜群のパフォーマンスが見られた。続くスモーキー・ロビンソン作の甘美なナンバー「Ooo Baby Baby」は、ミラクルズを代表するヒットナンバーであり、デヴィッド・Tも1993年リリースのギタリスト共演プロジェクト「Spirit Traveler」のアルバム『Playing The Hits From The Motor City』でカヴァーした一曲。原曲のテンポをさらに落としたメロウ極まりないトーンに、とろけるようなうっとり感が会場全体でじわり上昇した瞬間を目の当たりにしたのも束の間、瞬時にンドゥグのドラムがアグレッシヴなリズムに場面転換し、スティーヴィー・ワンダーの「Superstition」へと続く。デヴィッド・T自身も1973年リリースの5thソロアルバム『Press On』でカヴァーし、同年キャロル・キングのソロツアーのオープニングアクトに「David T. Walker Band」として同行した際のステージでも披露されたこのファンキーな一曲は、ワウワウエフェクトとクラビネット風トーンでメインリフをリピートし続けるジェフ・コレラの鍵盤ワークに、バイロンとンドゥグの強力なリズムが重なりあい、そこに黒々としたブラックフィーリング満載のデヴィッド・Tのフレーズが飛び込んでくるという、思わずニヤリなファンキーチューン。サビの小節で全員がブレイクした直後にデヴィッド・Tが繰り出したファンクネスあふれるフレーズのカッコよさときたら! 若き日のデヴィッド・Tが乗り移ったかのように錯覚してしまうほど、御年74歳とは思えぬ躍動に満ちたプレイに会場の高揚は歓声とともに一気に加速する。


 そして終盤、ここからエンディングにかけては、昨年の来日公演「tribute to Marvin Gaye」でも披露されたマーヴィン・ゲイの楽曲が続く。「Come Live With Me Angel」をイントロ部分に軽く挿入したあと続くのは「Inner City Blues」。前曲「Superstition」での高揚を瞬時にクールダウンさせるバンドアンサンブルやバイロンのベースソロも実に見事で、エンディングに近づくと、キーを転調させ徐々にテンポアップしながら途切れなく「What's Going On」になだれ込むと、会場のボルテージはさらに上昇。デヴィッド・Tのソロ公演のほぼすべてのステージで演奏されてきたこの曲は、楽曲自体に高揚感をいざなうテーマ、メロディ、コード感があるというポテンシャルに加え、これまで以上に強力なンドゥグのファンクネスが炸裂。マーヴィンの楽曲でありながら、もはやデヴィッド・Tの体の一部に同化したような、本編ラスト曲を飾るに相応しい、バンドアンサンブルそのものが音楽の楽しさを物語るという躍動に満ちていた。


 アンコールでは、ンドゥグのドラムソロからスタート。多くのドラマーにありがちな技巧的な側面や小気味良さを押し付けるソロではなく、スネア、タム、バスドラ、ハイハット、シンバル、スティック、スタンドまで含めたあらゆるドラムパーツを駆使し、原点とも言うべき打楽器的発想を重視したプリミティヴなドラミングを披露。その重量感たっぷりのプレイに会場全体が釘付けになった矢先、「I Want You」のイントロに切れ味鋭くスイッチすると興奮のメーターはさらに加速。前回公演同様にスリムに絞った体型ではあったが、そんな懸念を全く意に介さず、なたを振り下ろすかのような切れ味鋭いスティックさばきや、ハイハットとスネアとシンバルを縦横無尽に刻む力強いドラミングは、デヴィッド・Tに絶大なる安心感をもたらす仕事ぶり。数あるドラマーの中からデヴィッド・Tがンドゥグを必要とすることの意味をステージ全体で証明しながら、アンサンブルが大きな大きなリズムをうたわせて前進する。中盤、メインの楽曲テーマからはずれ、一旦転調しファンクネスを絵に描いたようなセッション風の展開が披露されると、興奮度合いは一気にピークに。ココロ熱くたぎるドキドキ感が続くなか、ステージは終幕へ。


 終わってみれば、メンバーそれぞれの個性をこれまで以上に引き出し、バンドアンサンブル全体の魅力を一段高みに引き上げたように思えた今回のライヴ。「Motown Classics」と題したテーマ設定や選ばれた楽曲のすべてがデヴィッド・Tと馴染み深く、原曲が深く広く解釈された結果、デヴィッド・T自身の音楽として昇華されしっかりと刻印されたように思えたステージでもあった。原曲でうたったシンガーたちがこの場にいなくとも、バンドアンサンブルでうたの世界観を伝えあらたな息吹をも注ぎ込む音楽的冒険に満ちてもいた。時折りアイコンタクトしながらメンバーそれぞれの見せ場をつくり、笑顔で全体を牽引するデヴィッド・Tの一挙手一投足を、食い入るように注視しながら即座に呼応し、高い次元で化学反応しあいながら広がりある音空間を紡いでいくメンバーたち。ポピュラーミュージックの歴史の1ページをリアルに体現しシビアな世界を生き抜いてきた彼らにとって、一音一音への必然性と妥協を許さない音づくりへのこだわりは半端ない。しかしその上で、演奏中に起こる意思疎通のくるいやミスに何ら動じることなく、感情をあらわにすることもいとわないおおらかな振る舞いも含めて、そこに見え隠れするのは、音空間の中でうまれるフィーリングを大切にし表現することこそがミスのない完璧さを求めること以上に肝心であるというシンプルで力強い信条だ。その信条は、積み重ねた紆余曲折の音楽人生が縮図のごとくステージに投影されているように思えてくる凄みでもある。これこそがデヴィッド・T・ウォーカー・バンドの妙味でありショーマンシップであると受け取りたいのだ。

 高年齢のメンバーによるバンドサウンドとは到底思えないほど、躍動感に満ちた大きな大きな音楽。ライヴという限られた時間と空間の中に垣間見える確固たる美意識や音楽観、加えて寛大さあふれる器の大きな人間力の凄みは、いつだって僕を奮い立たせ、幸せな心持ちを抱かせる。彼らの音楽力に途方もなく大きな鼓舞を受け取るよろこびを噛み締めていられるのだから。

2015年8月7日 ウエヤマシュウジ
Live Photo by Yuma Totsuka




01. "Quaker City (Q.C)"
David Tのソロアルバムには収録されていないカヴァー曲(ユニット「Soul Food Cafe」のアルバム『Soul Food Cafe』にカヴァーが収録)。オルガン奏者ビル・ドゲットのオリジナル曲で、通称タイトルは「Q.C.」。

02. "Going Up"
2ndアルバム『Going Up』と9thアルバム『Ahimsa』収録のオリジナル曲。

03. "Street Life"
13作目『Thoughts』に収録されたクルセイダーズの名曲カヴァー。

04. "Lovin' You"
6thアルバム『On Love』、Rainey Walker Band『Rainey Walker Band』、Band Of Pleasure『Live At KIRIN PLAZA』(※再発盤のボーナストラックのみ)に収録されたミニー・リパートンの歌声で知られる名曲カヴァー。

05. "Standing In The Shadows Of Love"
フォー・トップスが1966年にリリースしたヒットナンバー。David Tはソロデビュー作『The Sidewalk』でカヴァー収録。

06. "My Baby Loves Me"
マーサ&ザ・ヴァンデラスが1966年にリリースしたヒットナンバー。彼女らのライヴアルバム『Live!』ではDavid Tがツアーバンドの一員として参加。また、David Tの2ndソロアルバム『Going Up!』にもカヴァー収録。

07. "Never Can Say Goodbye"
4thアルバム『David T. Walker』収録のジャクソン5のヒット曲カヴァー。冒頭に「I Want You Back」とエンディングに「I'll Be There」を織り交ぜた構成。いずれも原曲でデヴィッド・Tがギターを弾いている名曲。

08. "Ooo Baby Baby"
スモーキー・ロビンソン作のミラクルズが1965年にリリースしたヒットナンバー。David Tは、ギタリスト共演プロジェクト「Spirit Traveler」が1993年にリリースしたアルバム『Playing The Hits From The Motor City』でカヴァー。

09. "Superstition"
5thアルバム『Press On』収録の、スティーヴィー・ワンダーのカヴァー。

10. "Inner City Blues"
1971年リリースのマーヴィン・ゲイの名作『What's Going On』収録曲のカヴァー。1974年リリースの『Live!』収録の同曲にデヴィッド・Tが参加。

11. "What's Going On"
1971年リリースのマーヴィン・ゲイの名作『What's Going On』収録曲のカヴァー。David Tの4thアルバム『David T. Walker』にカヴァー収録。マーヴィン・ゲイの1974年リリースのライヴアルバム『Live!』収録の同曲にもDavid Tが参加。

12. "I Want You"
1976年リリースのマーヴィン・ゲイの名作『I Want You』収録曲のカヴァー。David Tの13作目『Thoughts』や、チャック・レイニーとのユニット「レイニー・ウォーカー・バンド」の『Rainey Walker Band』でもカヴァー収録された一曲。




●メンバー紹介:

Jeff Colella (Piano, Keyboards) ジェフ・コレラ
ルー・ロウルズのバックで長年デヴィッド・Tと活動をともにした鍵盤奏者。1990年のルー・ロウルズ来日公演にはデヴィッド・Tとともにバンドメンバーの一員として来日。デヴィッド・Tのソロ活動の中では、90年代のソロアルバム『...from My Heart』『Dream Catcher』『Beloved』の3作と、2008年の13作目『Thoughts』に参加するほか、タイロン橋本『Key To Your Heart』でもデヴィッド・Tと共演している。

Byron Miller (Bass) バイロン・ミラー
ハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらとのセッションで知られるファンキーベーシスト。80年代のクルセイダーズのライヴツアーでともに活動したのをはじめ、デヴィッド・Tとはスタジオで幾度も顔を合わせた仲。これまで3枚のソロアルバムをリリースし、近年では故ルーサー・ヴァンドロスのバックバンドの一員としても腕をふるったクールガイ。

Leon Ndugu Chancler (Drums) レオン・ンドゥグ・チャンスラー
マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらのリズム隊を担ったソリッドドラマー。70年代後半に自身のユニット「チョコレート・ジャム・カンパニー」を率いて『The Spread of the Future』『Do I Make You Feel Better?』の2作をリリース。80年代にはクルセイダーズの一員としても腕をふるい、90年代にもデヴィッド・Tのソロ作をサポート。きらびやかで骨太なリズムとシャープなスティックさばきを披露している。