David T. Walker来日公演2013が大盛況のうちに閉幕!


●大阪公演(※終了しました
日程:2013年2月21日(木)
会場:ビルボードライブ大阪

●東京公演(※終了しました
日程:2013年2月23日(土), 24日(日)
会場:ビルボードライブ東京


※公演映像ダイジェストPart2がYouTubeオフィシャルチャンネルにアップされました!(2013.5.25)
※公演映像ダイジェストPart1がYouTubeオフィシャルチャンネルにアップされました!(2013.5.19)


David T. Walker Japan Tour 2013 Set List (2013.2.25)

※以下は基本的なセットリストです。ステージによっては演奏されない曲もありました。

01. "I Can See Clearly Now"
02. "Recipe"
03. "Thoughts"
04. "Global Mindfulness"
05. "You’ll Never Find Another Love Like Mine"
06. "Love's Theme"
07. "An-Noor" or "Ahimsa"
08. "Never Can Say Goodbye"
  (Include "I Want You Back", "I'll Be There")
09. "Lovin' You"
  (Include "Lay Lady Lay", "On Love")
10. "What's Going On"
  (Include "What A Wonderful World")
Encore
11. "Next Time You See Me"
12. "Soul Food Cafe"



 やっぱりやられた。最高だ。もう何回目のことだろう。心トキメク素晴らしいひととき。ちょっぴりウルウル。このときを、この瞬間を、一年間待っていたのだ。

 「ソロ名義での初の来日公演」として今や伝説となった2007年から、毎年自身のバンドを率いて数々のマジックをみせてくれるデヴィッド・T・ウォーカー。マリーナ・ショウとのドリームバンドの一員として来日した8月から半年、冬の恒例となったソロ名義での来日公演というプレゼントを受け取りに、今年も心躍らせながら会場にむかった。


 ステージの幕開けはジョニー・ナッシュの名曲カヴァー「I Can See Clearly Now」から。ソロアルバム『With A Smile』収録版やこれまでステージで演じたバージョンと比べ、テンポをグッと落とし、静かに一音一音を噛み締めるように繰り出すアレンジは、その分、ギターの低音部と高音部をしなやかに上下するコードワークの指づかいが際立って見え、思わずうっとり見とれてしまうほど。ポロンと一音奏でただけでご飯三杯イケるというデヴィッド・Tのメロウなトーンだが、複雑に変化しながらギターを操る指づかいもまた、ワイン3本は軽くイケる絶品の美しさだ。一転して歯切れ良いR&B調のオリジナル曲「Recipe」から、再びスローにテンポを落とす「Thoughts」へと、楽曲の緩急を十分に意識したステージングが観客の心を徐々につかんでいく。

 過去に何度かステージで演じている楽曲でも、毎回わずかにアレンジを変えてくる彼ら。骨格となる基本構成は事前にきちんと合わせているはずだが、その場その場での突発的なアレンジの変化はステージではよくあること。しかし、テンポを幾分落とすというアレンジは今回特に意識的であるようにも見えた。それゆえ、放たれる一音の持つインパクトや、無音部分の隙き間や重みがクッキリと際立ち、だからこそ、さらっと表面をなぞるようにゆったりとだけ感じる流れには決してならないサウンドが、より強調されながら表情豊かにうまれる。静かなテイストで柔らかくスタートするものの、少しずつリズムやテンポに厚みが増し、はじまりの展開がどうだったかを忘れさせるほど楽曲後半に盛り上がりをみせるマジックのような彼ら特有のプレイスタイルが、ゆったりとした心持ちと手に汗を握るような緊張感とを聴き手に共存させながら高揚に拍車をかけていく。


 そのマジックに貢献するのがデヴィッド・Tを支えるメンバーたち。ドラムのンドゥグ・チャンスラーとベースのバイロン・ミラーが紡ぐリズムは、繊細と躍動のダイナミクスを瞬時にコントロールする振り幅で、強固な土台を築きメリハリあるバンドアンサンブルを牽引。「Recipe」と「Global Mindfulness」でそれぞれンドゥグとバイロンのソロパートをフィーチャーする場面が配置されるなど、これまで以上に硬軟自在に描かれたパフォーマンスが会場全体をヒートアップさせていく。

 ところが今回、不動の一員であった鍵盤奏者クラレンス・マクドナルドが体調不良のため不参加。代わりに白羽の矢がたったのは、デヴィッド・Tとも旧知の仲であるジェフ・コレラ。90年代のデヴィッド・Tのソロアルバム3作『...from My Heart』『Dream Catcher』『Beloved』への参加をはじめ、タイロン橋本『Key To Your Heart』での共演、近年ではソロ13作目となる『Thoughts』にも参加している実力者のジェフ。だが、なんといっても彼ら二人の最大の接点は、ルー・ロウルズのツアーバンドメンバーだったということだろう。


 1990年のルー・ロウルズ来日公演をはじめ、90年代からジェフとデヴィッド・Tの二人は、2006年にルーが他界するまでツアーメンバーとして活動をともにしている。ポイントを押さえた臨機応変ぶりやアイコンタクトによる間合いは、さすがにルー・バンドで培った阿吽の呼吸。優しいメロディラインとゴスペル的素養の快活さが持ち味のクラレンスとはまたひと味違う、効果的なシンセサウンドやアーシーなオルガンの音色に加え、浮遊感たっぷりな70年代的エレピサウンドの多彩さも披露。また、ジャジーで流麗でありながらタッチの強弱を駆使し情感込めて特徴的な旋律を奏でる生ピアノも素晴らしく、特に「Thoughts」や「Lovin' You」での、デヴィッド・Tとシームレスにフレーズを引き継ぎ渡し合いながら紡ぐ起伏ある音の会話に、思わず感情が高ぶる。「What's Going On」では楽曲後半にかけて次第にドライヴしていく鍵盤さばきが、徐々に沸点へと達しながらデヴィッド・Tのギターとも見事に調和するなど、バンドサウンドにあらたな息吹をもたらした。アルバム『Thoughts』レコーディング時にも共演し、今回のステージでも披露されたルー・ロウルズの名曲「You'll Never Find Another Love Like Mine」カヴァーでは、当時の光景を思い浮かべているかのようなジェフとデヴィッド・Tの二人が笑顔で奏でる息のあったお馴染みのフレーズに、まるでルー本人がステージ中央にポツンと立った誰もいないマイクスタンドでうたっているかのようで、瞬間、胸が熱くなった。

 そしてふと思う。このルー・ロウルズの「You'll Never Find」をはじめ、バリー・ホワイト率いるラヴ・アンリミテッド・オーケストラの「Love's Theme」、ジャクソン5の「Never Can Say Goodbye」、ミニー・リパートンの「Lovin' You」、マーヴィン・ゲイ「What's Going On」といったカヴァー曲は、デヴィッド・Tにとって単に馴染み深い楽曲というだけでなく、既に世を去った戦友とも言うべきレジェンドたちへの思いでもあるということを。メロウで優しく、美しさを伴いながら、パーカッシヴで力強いテンションの緩急と押し退きで、丹念に一音一音が紡がれていく光景は、彼らレジェンドが残したかけがえのない楽曲が、デヴィッド・Tの体の一部になっていると感じさせるのと同時に、聴き手である僕らの心にもクッキリと刻印を残していることの大切さをもそっと思い起こさせる。ルイ・アームストロングの名曲「What A Wonderful World」のフレーズを「What's Going On」演奏時にサラリと挿入した試みも、奏でるキーが同じという演奏上の利点や、2つの楽曲に相通じるテーマ性を見出すデヴィッド・Tらしい粋な発想による演出だと思わせる一方、音楽を楽しむ素敵さと尊さを日々の感情の中で大事に感じる世界を彼自身が望んでいることの証しだとも思いたい。決して大上段に構えることなく、一足先に旅立った盟友たちと観客である僕らともども、思いを共有したいという彼流の自然体によるメッセージなんだと受けとりたいのだ。


 アンコールでは、なんと帽子をかぶって登場したデヴィッド・T。近年はステージ序盤に上着を一度脱いでプレイすることの多いデヴィッド・Tだが、今回は最後まで上着を着たまま。スーツに帽子をまといギターを奏でるその姿は絵に描いたようなブルースマン。時間の関係か演奏されないステージもあったが、その姿にピッタリはまるかのようにプレイされたブルーススタンダードの「Next Time You See Me」に続き、ブルースフィーリングたっぷりのアドリブ的弾き語りをも披露しながら「Soul Food Cafe」へとなだれ込む。ステージ本編とは趣きを少しかえたアンコールでのアグレッシヴさもまた、表現者デヴィッド・T・ウォーカーの姿そのものだ。

 やっぱり、という一言で片付けてしまうのは失礼かもしれない。でも、そうとしか言えないほど今年もまた「やっぱり」、心トキメキ、心奪われたステージだった。年齢を重ね、熟した味わいが特徴的になるアーティストはたくさんいる。もちろんデヴィッド・Tだってそうした部類にとらえられてもおかしくはない。だけど、それだけでは決してない、現在進行形の思考や行動が生むモチベーションや意欲を、確固たる自信で自ら消化し、茶目っ気たっぷりの振る舞いとともに、音ひとつで納得させるミュージシャンを僕はほかにしらない。彼の信条でもある「プレス・オン」という言葉が発せられた1973年から40年。そのときどきで感じる大好きな楽曲があり、それをハッピーに届けたいというシンプルな思い。これまでも、今も、そしてきっとこれからもずっと、その心持ちに揺るぎはないという確信を彼自身が全身全霊のステージで証明してくれる。だからこそ、そんな彼の思いを、彼にしか描けない音楽で共有する楽しさを、いつだって心待ちにしたいんだ。

Thank you David! Press On!
2013年2月25日 ウエヤマシュウジ
Photo by Cherry chill will



01. "I Can See Clearly Now"
8thアルバム『With A Smile』, Band Of Pleasure『Live At Kirin Plaza』に収録された、ジョニー・ナッシュの名曲カヴァー。

02. "Recipe"
8thアルバム『With A Smile』に収録されたオリジナル曲。60年代にはキンフォークス名義でシングルリリースされた一曲。

03. "Thoughts"
13作目『Thoughts』収録のデヴィッド・Tオリジナル曲。

04. "Global Mindfulness"
13作目『Thoughts』収録のデヴィッド・Tオリジナル曲。

05. "You’ll Never Find Another Love Like Mine"
13作目『Thoughts』から、ルー・ロウルズの名曲カヴァー。

06. "Love’s Theme"
13作目『Thoughts』収録。原曲は、バリー・ホワイト率いるラヴ・アンリミテッド・オーケストラによるデヴィッド・Tが参加していた一曲。

07. "An-Noor" (or "Ahimsa")
ステージによって"An-Noor"と"Ahimsa"いずれかが披露。"An-Noor"は11作目『Dream Catcher』収録のオリジナル曲。"Ahimsa"は9作目『Ahimsa』収録のオリジナル曲。

08. "Never Can Say Goodbye" (Include "I Want You Back", "I'll Be There")
4thアルバム『David T. Walker』収録のジャクソン5のヒット曲カヴァー「Never Can Say Goodbye」を中心に、冒頭に「I Want You Back」とエンディングに「I'll Be There」を織り交ぜた、ジャクソン5ナンバーを続けて披露。いずれも原曲でデヴィッド・Tがギターを弾いている名曲。

09. "Lovin' You" (Include "Lay Lady Lay", "On Love")
6thアルバム『On Love』、Rainey Walker Band『Rainey Walker Band』、Band Of Pleasure『Live At KIRIN PLAZA』(※再発盤のボーナストラックのみ)に収録されたミニー・リパートンの歌声で知られる名曲カヴァー。

10. "What's Going On" (Include "What A Wonderful World")
4thアルバム『David T. Walker』に収録のマーヴィン・ゲイの名曲カヴァー。マーヴィン・ゲイのライヴアルバム『Live』収録の同曲にもDavid Tが参加。今回はルイ・アームストロングの名曲「What A Wonderful World」のフレーズを挿入したニューアレンジ。

11. "Next Time You See Me"
1981年リリースのジョー・サンプルとのジョイントアルバム『Swing Street Cafe』にカヴァー収録されたスタンダードナンバー。バンド・オブ・プレジャーでのライヴでもレパートリーだったが、2007年以降、デヴィッド・Tのソロライヴでは初披露の一曲(演奏されないステージもありました)。

12. "Soul Food Cafe"
1989年にデヴィッド・Tが組んだ同名ユニット名義でのアルバム『Soul Food Cafe』に収録され、バンド・オブ・プレジャー『Live At KIRIN PLAZA』にも収録された一曲。冒頭にはデヴィッド・Tによるブルージーな弾き語りが添えられる場面もありました。



●メンバー紹介:

Byron Miller (Bass) バイロン・ミラー
ハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらとのセッションで知られるファンキーベーシスト。80年代のクルセイダーズのライヴツアーでともに活動したのをはじめ、デヴィッド・Tとはスタジオで幾度も顔を合わせた仲。これまで3枚のソロアルバムをリリースし、近年では故ルーサー・ヴァンドロスのバックバンドの一員としても腕をふるったクールガイ。

Jeff Colella (Piano, Keyboards) ジェフ・コレラ
ルー・ロウルズのバックで長年デヴィッド・Tと活動をともにした鍵盤奏者。1990年のルー・ロウルズ来日公演にはデヴィッド・Tとともにバンドメンバーの一員として来日。デヴィッド・Tのソロ活動の中では、90年代のソロアルバム『...from My Heart』『Dream Catcher』『Beloved』の3作と、2008年の13作目『Thoughts』に参加するほか、タイロン橋本『Key To Your Heart』でもデヴィッド・Tと共演している。

Leon Ndugu Chancler (Drums) レオン・ンドゥグ・チャンスラー
マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらのリズム隊を担ったソリッドドラマー。70年代後半に自身のユニット「チョコレート・ジャム・カンパニー」を率いて『The Spread of the Future』『Do I Make You Feel Better?』の2作をリリース。80年代にはクルセイダーズの一員としても腕をふるい、90年代にもデヴィッド・Tのソロ作をサポート。きらびやかで骨太なリズムとシャープなスティックさばきを披露している。