David T. Walker来日公演2012が大盛況のうちに閉幕!

●東京公演(※終了しました
日程:2012年1月27日(金)・28日(土)
会場:ビルボードライブ東京

●大阪公演(※終了しました
日程:2012年1月30日(月)
会場:ビルボードライブ大阪




関西地区放送のFM COCOLOの番組「Billboard PREMIUM LIVE」2月11日(土)放送回(20:00〜22:00)で、ビルボードライブ大阪で行われたDavid T. Walkerライヴの音源がオンエアーされます。(2012.02.09)

David T. Walker Japan Tour 2012 Set List (2012.1.31)

※以下は基本的なセットリストです。ステージによっては演奏されない曲もありました。

01. For All Time (Overture)
02. Eleanor Rigby
03. Going Up
04. Global Mindfulness
05. Look Of Love
06. What's Going On
07. If You Want Me To Stay
08. You’ll Never Find Another Love Like Mine
09. Love's Theme
10. Ahimsa
11. Never Can Say Goodbye
  (Intro "ABC", "I Want You Back", Ending "I'll Be There")
12. Lovin' You
13. With A Little Help From My Friends
14. Soul Food Cafe



 瞳孔はひらいた。涙腺はゆるんだ。鳥肌は瞬時にたった。体は終止横揺れ。感じ得るものがとてつもなく大きな素晴らしいパフォーマンスだった。

 2011年6月のマリーナ・ショウ公演、続く9月「東京Jazz Festival」への「Jazz For Japanプロジェクト」の一員としての参加に続き、ソロ名義としては2010年12月以来約1年ぶり、デヴィッド・T・ウォーカーの来日公演が東京と大阪のビルボードライブで行われた。ここ数年は新しくリリースされるアルバム収録ナンバーを中心に組み立てられたステージ構成が目立ったが、今回は直前の新作リリースがなかったこともあり、果たしてどんなセットを用意してくるのか。その期待半分、でもホントはどんな曲をどんな風に奏でてもらってもいいんだという気持ちが半分という、結局のところそのプレイを目の当たりにできるだけで幸せといういつもの感情を抱きつつ、高まる興奮を抑え切れず会場に足を運んだのだった。

 拍手喝采の中、ステージに登場するとマイクを通さず「コンバンワ」と日本語で挨拶。観客を和ませる掴みに続き、2010年にリリースされた現時点での最新作『For All Time』収録の序曲「For All Time (Overture)」から、同じく同アルバム収録のビートルズナンバー「Eleanor Rigby」を続け、会場のノリをグッと引き込む序盤の立ち上がり。あの一音が奏でられた瞬間、デヴィッド・T・ウォーカーという名の音楽の虜になってしまっている自分に気づく。続くジャズテイスト溢れる「Going Up」では緊張感と静寂を演出する薄暗い照明効果も手伝って、途中、クラレンス・マクドナルドのピアノソロの間、ギターを降ろし、スーツの上着をスッと脱ぐクールな所作も実に美しい。その後も、彼のキャリアを俯瞰するかのように幅広くチョイスされた楽曲が緩急ある順番に練られて配置。グルーヴ感覚溢れる「Global Mindfulness」ではワウペダルを駆使したプレイを挟み込むなど、馴染みある定番曲も少しずつアレンジや構成を変えながら、どこをどう切ってもデヴィッド・T・ウォーカーとしか言いようのない佇まいでステージは進行する。東京公演初日の1stステージでは、ちょっとしたハプニングで演奏が一時中断。ステージを一旦降りたデヴィッド・Tだが、その間、即座にクラレンス・マクドナルドが、彼自身も参加した東日本大震災支援プロジェクトのアルバム『Jazz For Japan』に収録された「What A Wonderful World」をしっとりとピアノで奏で急場を凌ぐ。デヴィッド・Tが戻ってきたかと思うと、今度はクラレンスがバックステージへ。一瞬緊張が走った会場を「ゴメンナサイ」と日本語で応え柔らかくするデヴィッド・T。窮地は窮地でない、モノは考えようだよと言わんばかりに、自然体で場の空気をプラスに変えてみせる息のあったステージングも彼らならではだった。


 そのショーマンシップは、来日公演としては初登場の楽曲たちにも注がれた。その一つが、1stアルバム『The Sidewalk』での初演、後年12作目となる『Beloved』でも再演されたバート・バカラックのナンバー「Look Of Love」。大切な人への想いに満ちたハル・デヴィッドの詩世界を、十八番のタッチとトーンで甘くメロウに描く佇まいは実にデヴィッド・Tらしい舞台の彩りだった。もう一つの初お目見え、最新作『For All Time』でカヴァーされた、スライ&ザ・ファミリーストーンの「If You Want Me To Stay」では、ワウエフェクトを多用したベースのバイロン・ミラーのキレのある弾力感たっぷりのファンクネスに、同じくワウペダルを駆使しながら鋭いフレーズを繰り出すデヴィッド・Tの姿が印象的で、ステージによってはバイロンとドラムのンドゥグ・チャンスラーそれぞれのソロパートを交える演出も披露してみせた。ステージ前半のこれら初披露の楽曲の登場は、今回のステージ全体がこれまで以上にアグレッシヴで、同時に、静かなテイストとの強烈なコントラストを描いたことの予兆でもあった。

 静と動の対比。彼らアンサンブルの特徴の一つがまさにコレだ。静かな導入部分から徐々に盛り上がりをみせ、終盤そのエネルギーが頂点に向かって高揚していくという構図は聴き手の心を鷲掴みにして離さない。ダイナミックながらも繊細さを忘れないンドゥグ・チャンスラーのドラミングも、彼らアンサンブルに大きく寄与する肝となる対比。そんな対比の妙がステージのあちこちに注がれているのだ。

 例えば、繰り出される個性的な音世界と、デヴィッド・T・ウォーカーという音楽家の人間性とが、どんな楽曲においても、違和感無い表現として対比しながらも自然体に結実しているということ。マーヴィン・ゲイの「What's Going On」カヴァーは実に象徴的だ。ライヴでも定番曲として定着しつつあるこの曲はデヴィッド・Tにとって重要な一曲。彼に限らず、これまでこの曲に多くのカヴァーが残されたのは、楽曲に込められたメッセージや時代性、なにより特徴的なメロディやグルーヴ感覚を含めたテイストに、ミュージシャンの多くが共感するからこそ。シリアスなテーマのあまり、重厚なテイストが強調されるバージョンも多く、デヴィッド・T自身も1971年リリースのソロ作『David T. Walker』収録版ではその趣きを漂わしているが、今回のステージで目の当たりにした「What's Going On」にあるのは、当時と同様にワウペダルを駆使した、叫びにも似た強い感情表現の高揚を残しつつも、その先にある希望や光明を感じさせるピースフルでLoveに満ちた世界観。「Look Of Love」から「What's Going On」を曲間を途切らすことなく続けざまにプレイした構成も、この2曲の連なりによって自らの“Love”を伝えるデヴィッド・T流のメッセージだとも思えた。“Press On With A Smile”に代表される前向きでユーモア溢れるチャーミングな人柄と、個性的な音そのものとが、わかりやすい形で対比しながら調和し聴き手に届く瞬間の幸福。その幸福はステージ終盤に向かってさらに器を大きくしていく。


 原曲では自身も参加したジャクソン5の名曲「ABC」と「I Want You Back」をメドレー的につないだあと静かに繰り出す「Never Can Say Goodbye」や、続くミニー・リパートンの名曲カヴァー「Lovin' You」のメロウなトーンも、芯のある力強いタッチによるギター奏法の緩急があるからこそ、柔らかくゆったりとしたニュアンスを表層的になぞるだけでは決して辿り着けない説得力ある表現として聴き手を刺激する。そこにあるのは、メロウなテイストに潜む緊張感と力強さ、加えてメリハリの効いた一音一音の圧倒的なダイナミクス。ギターを奏でているのではなく、ギターと一体化した存在こそが彼の音楽そのものであるとさえ思うほど、奏でられた世界から伝わる、心のこもった彼の思いが、優しさと強さを伴って聴き手に迫る。

 そしてステージエンディング間際に登場した、来日公演での初披露となる3つ目の楽曲が、通算5作目のアルバム『Press On』でカヴァーされたビートルズナンバー「With A Little Help From My Friends」だ。時間の関係か、演奏されなかったステージもあったが、ビートルズの原曲とは異なるアレンジによるアルバム『Press On』収録バージョンの骨格を踏襲しながらも、テンポや構成を今回のステージに合わせて完全リメイク。中盤、ギアが切り替わったかのように繰り出される、このメンバーならではのミドルテンポの強烈なファンクネスが怒濤のように続くアグレッシヴな展開に度肝を抜かれ、途中、場面転換のブリッジとしてあの名曲「Press On」のイントロフレーズを織り交ぜるカッコよさ! そして、ジャッキー・デシャノンの「Put A Little Love In Your Heart」のメロディラインを織り込みながらスライ&ザ・ファミリーストーンの「Sing A Simple Song」のフレーズをエンディングにたたみ掛けるという、アルバム『Press On』収録版と同様の展開に鼓動が波打ち、心拍数のメーターは瞬時に振り切られる。その昔、70年代初頭には自身のバンドでよくプレイしていたという、複雑なコードチェンジによる奏法を必要とするこの曲を久しぶりに演じ指と腕を酷使してしまったか、演奏終了後、両手を「イテテテ」と言わんばかりに、楽曲のタイトルに引っ掛けて「Help Me!」と叫びながらブラブラさせ、おどけた仕草を見せるデヴィッド・T。もちろんそれは熱演の高揚を観客と共有しようとする彼一流のユーモア。でもその奥底にあるのは、困難に立ち向かう者への、まさに「ヘルプ」の精神を伝える気負いのないメッセージなんだとも思えた。「必要なときに友達にヘルプされることは大切なこと」という主張を、ことさら声高に叫ぶのではなく、ファンキーでハッピーなバンドアンサンブルで、ユーモアたっぷりにサラリと粋な形で日本の僕らに伝えてくれたと思いたいのだ。


 アンコール曲「Soul Food Cafe」の冒頭ではブルースフィーリングたっぷりのアドリブ的弾き語りを披露。ジャズ、ソウル、ポップス、ブルースと、ポピュラーミュージックのあらゆる要素を呑み込み、全力投球でパフォーマンスする御年70歳を超えるリヴィング・レジェンドの姿は、見た目こそ年相応にも見えるものの、ステージでの立ち振る舞いや秘めたるエネルギーとパワーは年齢を超越したリスペクト以外の何物でもない存在感。ひとまわりもふたまわりも違う世代が「この姿を見習わないといけない」などと悠長なことを言ってられないほど、僕らの心持ちを瞬時に奮い立たせ、その意欲をグイっと一歩前に後押しするチカラは尋常ではない。彼にしか発せない優しく、暖かく、そして力強い、キラキラとした幸せのオーラは、会場にいるすべて人たちの心を大きな器で包み込んだはずだ。

 昔からのファンも若い世代のファンも関係なく、デヴィッド・T・ウォーカーという存在に魅せられる僕らの琴線はきっと大差なく、行き着くところはきっと同じなんだと思う。心踊り魅了されるデヴィッド・T・ウォーカーという魔法の謎を解く鍵は、ステージで彼がつぶやいた日本語まじりの「フロム・マイ・ココロ」という一言に象徴されている。“ココロ”を込めて届けられる音楽と、音楽を歩む人生とが一体化した凄みと“Love”に満ちた素敵さを分かち合いたくて、僕らはきっとまた彼に会いたくなるんだ。

Thank you David! Press On!
2012年1月31日 ウエヤマシュウジ



01. For All Time (Overture)
最新作となる15thアルバム『For All Time』収録のオリジナル曲をステージ用にコンパクトにリアレンジ。Overture(序曲)というタイトル通り、これから始まるステージの高揚を静かに予感させる一曲。

02. Eleanor Rigby
最新作となる15thアルバム『For All Time』収録のビートルズナンバーのカヴァー。

03. Going Up
2ndアルバム『Going Up!』と9thアルバム『Ahimsa』収録のオリジナル曲。

04. Global Mindfulness
13作目『Thoughts』収録のデヴィッド・Tオリジナル曲。

05. Look Of Love
1stアルバム『The Sidewalk』と12作目『Beloved』収録のバート・バカラック曲のカヴァー。

06. What's Going On
4thアルバム『David T. Walker』に収録のマーヴィン・ゲイの名曲カヴァー。マーヴィン・ゲイのライヴアルバム『Live』収録の同曲にもDavid Tが参加。

07. If You Want me To Stay
15作目『For All Time』収録のスライ&ザ・ファミリーストーンのナンバー。

08. You’ll Never Find Another Love Like Mine
13作目『Thoughts』から、ルー・ロウルズの名曲カヴァー

09. Love’s Theme
13作目『Thoughts』収録。原曲は、バリー・ホワイト率いるラヴ・アンリミテッド・オーケストラによるデヴィッド・Tが参加していた一曲。

10. Ahimsa
9thアルバム『Ahimsa』収録のオリジナル曲。

11. Never Can Say Goodbye (Intro "ABC", "I Want You Back", End "I'll Be There")
4thアルバム『David T. Walker』収録のジャクソン5のヒット曲カヴァー「Never Can Say Goodbye」を中心に、冒頭に「ABC」「I Want You Back」とエンディングに「I'll Be There」を織り交ぜた、ジャクソン5ナンバーを続けて披露。いずれも原曲でデヴィッド・Tがギターを弾いている名曲。

12. Lovin' You
6thアルバム『On Love』、Rainey Walker Band『Rainey Walker Band』、Band Of Pleasure『Live At KIRIN PLAZA』(※再発盤のボーナストラックのみ)に収録されたミニー・リパートンの歌声で知られる名曲カヴァー。

13. With A Little Help From My Friends
5thアルバム『Press On』収録のビートルズナンバー。

14. Soul Food Cafe
1989年にデヴィッド・Tが組んだ同名ユニット名義でのアルバム『Soul Food Cafe』に収録され、バンド・オブ・プレジャー『Live At KIRIN PLAZA』でも収録された一曲。冒頭にはデヴィッド・Tによるブルージーな弾き語りが添えられる場面もありました。



●メンバー紹介:

Byron Miller (Bass) バイロン・ミラー
ハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらとのセッションで知られるファンキーベーシスト。80年代のクルセイダーズのライヴツアーでともに活動したのをはじめ、デヴィッド・Tとはスタジオで幾度も顔を合わせた仲。これまで3枚のソロアルバムをリリースし、近年では故ルーサー・ヴァンドロスのバックバンドの一員としても腕をふるったクールガイ。

Clarence McDonald (Keyboards) クラレンス・マクドナルド
60年代から活動を続けるキーボーディスト。デヴィッド・Tとの交流は古く、ポール・ハンフリーやビリー・プレストン等、数多くのセッションで共演。デヴィッド・Tのソロ活動の中では、Odeレーベルのソロアルバム『David T. Walker』『Press On』への参加をはじめ、90年代のソロ作『Beloved』でも息の合ったプレイを披露。2002年にはマリーナ・ショウの来日公演に同行するなど、近年でも幅広く活動を続けている。

Leon Ndugu Chancler (Drums) レオン・ンドゥグ・チャンスラー
マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらのリズム隊を担ったソリッドドラマー。70年代後半に自身のユニット「チョコレート・ジャム・カンパニー」を率いて『The Spread of the Future』『Do I Make You Feel Better?』の2作をリリース。80年代にはクルセイダーズの一員としても腕をふるい、90年代にもデヴィッド・Tのソロ作をサポート。きらびやかで骨太なリズムとシャープなスティックさばきを披露している。