David T. Walker Japan Tour 2010 Set List (2010.12.13)
01. For All Time (Overture)
02. Eleanor Rigby
03. Holidays Are Mirrors
04. Global Mindfulness
05. Thoughts
06. Never Can Say Goodbye (Intro "I Want You Back", End "I'll Be There")
07. Love's Theme
08. Plumb Happy
09. Lovin' You (Intro "On Love" 〜 "Lay Lady Lay")
10. Justified
11. Santa Claus Is Comin' To Town
12. Soul, In Light & Grace
13. Soul Food Cafe
2007年の単独名義公演から早3年、5回目となるデヴィッド・T・ウォーカーの来日公演がまだ寒さも厳しさを増す前の師走、大阪と東京のビルボードライブで行われた。メンバーは昨年同様、クラレンス・マクドナルド(Key)、バイロン・ミラー(B)、ンドゥグ・チャンスラー(Dr)にデヴィッド・Tの4人。15枚目となる最新アルバム『For All Time』にも主要メンバーとして参加したレジェンドたちによる、息の合ったアンサンブルが今年もまた目の前で繰り広げられた。
ステージを彩った楽曲は、近年DCT recordsからリリースされた『Thoughts』『Wear My Love』そして新作『For All Time』の3作からと、それ以前の作品からとの、自身のキャリアをバランス良く配置した構成。新作『For All Time』の冒頭に収められ、デヴィッド・Tがこれまで奏でたフレーズを重層的に織り込んだ序曲「For All Time (Overture)」をまずはステージ冒頭にコンパクトに配置した演出も、今回のステージが彼のキャリアを総括する構成であることを暗示していた。
続くビートルズのカヴァー「Eleanor Rigby」で、早々テンションの高いパフォーマンスで会場の心をグッとつかみ、最近のオリジナル曲を続けざまに披露。ジャクソン5の「I Want You Back 〜 Never Can Say Goodbye 〜 I'll Be There」や、バリー・ホワイト率いるラヴ・アンリミテッド・オーケストラ「Love's Theme(愛のテーマ)」のイントロが流れた瞬間は、会場から「よくぞ演ってくれました」的喝采がひと際大きな歓声となって響き渡る。中でも「これを演らなかったらみんなから怒られるからね」と冗談交じりに本人が語るほど、彼のステージでは誰もが聴きたいと願う「Lovin' You」は圧巻の一言。これまですべての来日公演で演奏され続けてきたこの名曲カヴァーは、骨格は同じでも毎回微妙に異なったアレンジが施されており、今回のステージでもこれまでにない格別な趣きが佇んだ。繊細で静かなオープニングから、メロウでありながらも緊張感あふれる中盤、そして次第に高揚が増幅していく後半へと紡がれる楽曲は、気がつくと全く異なるリズムとテンポに変貌。会場全体を無意識のうちに揺らしながら、全身を使って奏でていくこの緩急こそデヴィッド・Tの真骨頂。他の誰にも真似できない大きなグルーヴによるライヴパフォーマンスの真髄を見た瞬間だった。
その強力なグルーヴは、新作『For All Time』に収録された「Soul, In Light & Grace」で頂点を極める。バンドメンバー全員のコーラスワークも加わった強烈なアンサンブルによるファンクネスは、デヴィッド・T自身の歌声が拍車をかけながら、会場をゆるやかに大きく揺さぶっていく。この揺れ幅たるや、一体この人たちは何歳なんだと感嘆の声をあげてしまうほどエネルギーに満ちたインパクト。さらに、アンコールで奏でたシャッフルナンバー「Soul Food Cafe」演奏の直前には、アドリブ的テイストでブルースを弾き語りはじめる場面も。なんと東京最終公演では、楽曲こそ違え、弾き語りの中に名曲「Press On」の歌詞を織り交ぜ、体中から絞り出すように唸り、そして歌うデヴィッド・Tの姿が! ステージでギターを奏でながら歌うことはほとんどなかったデヴィッド・Tが、目の前で吹っ切れたように歌い、そしてギターを奏でている。その光景こそ彼が挑んだ新たなチャレンジ。今回ステージを観ることができなかった方々は、ぜひその一端をニューアルバム『For All Time』で感じていただきたいと願うばかりだ。
レコーディングとライヴの積み重ねによって、さらに安定感の増したバンドプレイに、デヴィッド・Tのメロウで繊細なタッチと、躍動感溢れるテンションの高いプレイのコントラストはより一層際立ってみえた。メンバー全員がアイコンタクトで意志疎通し、主役であるデヴィッド・Tの動向を注視しながら息づかいが聴こえるかのごとく奏でるアンサンブルは実に見事で痛快。ちょっとした進行のミスをも音楽表現の一つとして成立させるフィジカルな柔軟性も含めて、舵を取るデヴィッド・Tとの一体感は揺るぎない。音楽の最高の楽しみを知る彼らならではの息吹がステージ上に充満しているのだ。
こんなにも泣けて、チャーミングでハッピーな、そして躍動みなぎるパフォーマンスを僕はほかに知らない。もはや他の誰も描けない境地へと向かったギターの匠。その姿を「神」と喩え崇めることは決して大袈裟なことではなく、偉大な表現者への敬意の現れ。だが、幸せそうな笑みを浮かべながら、自らの指と手と全身から繰り出す全力投球のプレイスタイルと、一音一音から放たれる澄みきったメロウな音色と弾力感溢れる鮮烈なグルーヴは、50年に及ぶキャリアと紆余曲折の音楽人生によって進化し続け彼にしかできない人間味溢れる音楽表現として結実した賜物なのだと思いたい。その進化は、ギターという表現手段で生き抜いた彼が、自らの声でうたうという表現の封を再び切ったことにも見て取れる。会場にいた誰もが、うたいながら奏でるデヴィッド・Tの姿に、年齢を超越したエネルギッシュな躍動を感じとったはず。そこにまだまだ知らないデヴィッド・Tの底力があるのかもしれないと付け加えたいのだ。
“Press On With A Smile”に、そして“On Love”で、“For All Time”な心持ちで進化する“デヴィッド・T”という名の音楽。その最高の楽しみをお裾分けしてもらいに、僕の足はいつの日かまた会場へと向く。そのとき彼の音楽をもっと好きになっているという想像は、きっと確信に変わるに違いないのだ。
Thank you David! Press On!
2010年12月13日 ウエヤマシュウジ
Photo : Masanori Naruse
01. For All Time (Overture)
最新作となる15thアルバム『For All Time』収録のオリジナル曲をステージ用にコンパクトにリアレンジ。Overture(序曲)というタイトル通り、これから始まるステージの高揚を静かに予感させる一曲。
02. Eleanor Rigby
最新作となる15thアルバム『For All Time』収録のビートルズナンバーのカヴァー。原曲とはまた違った高揚感溢れるアレンジに、会場も一気に熱を帯びる掴みはオッケー的一曲。
03. Holidays Are Mirrors
14thアルバム『Wear My Love』収録のオリジナル曲。
04. Global Mindfulness
13thアルバム『Thoughts』収録のデヴィッド・Tオリジナル曲。
05. Thoughts
13thアルバム『Thoughts』収録のデヴィッド・Tオリジナル曲。
06. Never Can Say Goodbye (Intro "I Want You Back", End "I'll Be There")
4thアルバム『David T. Walker』収録のジャクソン5のヒット曲カヴァー「Never Can Say Goodbye」を中心に、冒頭に「I Want You Back」とエンディングに「I'll Be There」を織り交ぜた、ジャクソン5ナンバーを続けて披露。いずれも原曲でデヴィッド・Tがギターを弾いている名曲。
07. Love's Theme
13thアルバム『Thoughts』収録。原曲は、バリー・ホワイト率いるラヴ・アンリミテッド・オーケストラによるデヴィッド・Tが参加していた一曲。
08. Plumb Happy
3rdアルバム『Plum Happy』と9thアルバム『Ahimsa』収録のオリジナル曲。
09. Lovin' You (Intro "On Love" 〜 "Lay Lady Lay")
6thアルバム『On Love』、Rainey Walker Band『Rainey Walker Band』、Band Of Pleasure『Live At KIRIN PLAZA』(※再発盤のボーナストラックのみ)に収録されたミニー・リパートンの歌声で知られる名曲カヴァー。冒頭に6thアルバム『On Love』収録のタイトル曲、また、3rdアルバム『Plum Happy』収録のボブ・ディランの名曲カヴァー「Lay Lady Lay」のフレーズが挿入されることもありました。
10. Justified
最新作15thアルバム『For All Time』からのオリジナル曲。ステージでは本邦初公開のワウワウペダルによる粘り気のあるプレイが実にファンキーでブルージー。
11. Santa Claus Is Comin' To Town
14thアルバム『Wear My Love』から、クリスマスソングの名曲カヴァー。この曲のみ、バンドメンバー全員がサンタ帽をかぶって演奏するというチャーミングな演出がありました。
12. Soul, In Light & Grace
最新作15thアルバム『For All Time』からのオリジナル曲。デヴィッド・Tをはじめ、バンドメンバー全員によるヴォーカルワークを取り入れた一曲。途中、オーヴァードライヴの効いたディストーションサウンドによるソロプレイを聴かせながら、強烈なグルーヴを生んだファンクネス溢れる一曲。
13. Soul Food Cafe
1989年にデヴィッド・Tが組んだ同名ユニット名義でのアルバム『Soul Food Cafe』に収録され、バンド・オブ・プレジャー『Live At KIRIN PLAZA』でも収録された一曲。冒頭にはデヴィッド・Tによるブルージーな弾き語りが添えられる場面もありました。
●メンバー紹介:
Byron Miller (Bass) バイロン・ミラー
ハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらとのセッションで知られるファンキーベーシスト。80年代のクルセイダーズのライヴツアーでともに活動したのをはじめ、デヴィッド・Tとはスタジオで幾度も顔を合わせた仲。これまで3枚のソロアルバムをリリースし、近年では故ルーサー・ヴァンドロスのバックバンドの一員としても腕をふるったクールガイ。
Clarence McDonald (Keyboards) クラレンス・マクドナルド
60年代から活動を続けるキーボーディスト。デヴィッド・Tとの交流は古く、ポール・ハンフリーやビリー・プレストン等、数多くのセッションで共演。デヴィッド・Tのソロ活動の中では、Odeレーベルのソロアルバム『David T. Walker』『Press On』への参加をはじめ、90年代のソロ作『Beloved』でも息の合ったプレイを披露。2002年にはマリーナ・ショウの来日公演に同行するなど、近年でも幅広く活動を続けている。
Leon Ndugu Chancler (Drums) レオン・ンドゥグ・チャンスラー
マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらのリズム隊を担ったソリッドドラマー。70年代後半に自身のユニット「チョコレート・ジャム・カンパニー」を率いて『The Spread of the Future』『Do I Make You Feel Better?』の2作をリリース。80年代にはクルセイダーズの一員としても腕をふるい、90年代にもデヴィッド・Tのソロ作をサポート。きらびやかで骨太なリズムとシャープなスティックさばきを披露している。
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