David T. Walker 来日公演2009が大盛況のうちに閉幕!

●東京公演(※終了しました
日程:2009年12月14日(月)・15日(火)
会場:ビルボードライブ東京
予約受付開始日:
 ・Club BBL会員 2009年10月6日(火)
 ・一般 2009年10月13日(火)

●大阪公演(※終了しました
日程:2009年12月17日(木)
会場:ビルボードライブ大阪
予約受付開始日:
 ・Club BBL会員 2009年10月6日(火)
 ・一般 2009年10月13日(火)


 バンドメンバーが横目で顔をあげる。視線は主役であるデヴィッド・Tの振る舞いやプレイに向けられている。ステージで起こるさまざまな変化に臨機応変に呼応するメンバーの巧みな手腕が主役のフィーリングをがっちりとサポートする。

 単独名義初来日公演の2007年から数え3年、早いもので4回目となったデヴィッド・T・ウォーカー来日公演は、ホリデーアルバムの新作『Wear My Love』リリース直後というタイミングと、会場となったビルボードライブのクリスマスムード漂うきらびやかな装飾を含め、ウィンターシーズンに相応しい舞台が整えられた。ライヴ中、メンバー全員がサンタ帽をかぶって演奏する場面が用意された演出もデヴィッド・Tのユーモア表現の一つであり、クリスマスムードをエンジョイしてもらいたいというサービス精神。メロウで繊細なタッチと、音楽を楽しむ心持ちが一体となったステージが繰り広げられた。



 とはいえ、クリスマスムード一色ではなく、いつものように彼のキャリアを代表する楽曲もバランスよく配置。過去のステージで何度か披露された楽曲も、単にこれまでの構成を繰り返すのではなく、ステージングの積み重ねや新たなチャレンジを加味した異なるアレンジやアンサンブルの研磨もみられた。シンプルな編成ながらも厚みを感じさせる音の彩りや強靭なグルーヴは、これまで以上の迫力と緩急に満ち、デヴィッド・Tの強弱たっぷりのテンションがバンドメンバーを牽引。そのダイナミクスは圧巻の一言だった。

 とりわけ今回のステージでは、デヴィッド・Tが原曲でもプレイしたジャクソン5の楽曲を数多くフィーチャー。「I'll Be There」を短い小節数で奏でたあと「Never Can Say Goodbye」へと続く流れや、クリスマスソングのカヴァーではジャクソン5のクリスマスアルバム『Christmas Album』でデヴィッド・Tがプレイした数々の楽曲が奏でられ、また新作『Wear My Love』に収められたオリジナル曲「Holidays Are Mirrors」では「I Want You Back」のフレーズをさりげなく忍ばせる。マイケル・ジャクソンへの追悼の想いを声高に叫ぶのではなく、ミュージシャンらしく自身の音楽の中でそっと彩った、いかにもデヴィッド・Tらしい演出だった。ポップでソウルフルな彼ら楽曲にメロウなギターが実に良く響き合うということにも、メロディを重視しポップでシンプルなテイストを好むデヴィッド・Tの音楽的嗜好が見え隠れする。しかも単にメロディをなぞるプレイではなく、複雑にチェンジするコードワークそのものがメロディと一体化する奏法はデヴィッド・Tの真骨頂。その指使いは思わず見とれてしまうほどだ。



 時折りメンバーに声を掛けながらサインや合図を出す姿も彼らのステージではよく観られる光景。「ステージで大事なのはフィーリングだ」というデヴィッド・Tの言葉には、綿密なリハーサルのもと意思疎通をはかる完璧主義的プロ意識とはまた別の、その場その場で右にも左にも生モノのごとく変化し続ける感情を素直に表現したいんだという彼流のショーマンシップの源泉がある。そして、それこそが彼ら音楽表現の真髄であると僕は受け取りたいのだ。そのために必要な集中力とセンスを持ち合わす良き理解者をバンドメンバーとして起用するデヴィッド・T。ダイナミックにリズムを刻むンドゥグ・チャンスラー、多彩な引き出しで音空間を描き出すクラレンス・マクドナルド、主役の先導を寡黙に支えるバイロン・ミラー。「どこまでもついていく」という確かな信頼感を共有する彼らがデヴィッド・Tの描く音楽に欠かせない存在であることを、おおらかで繊細なステージは証明する。紛れもなく“デヴィッド・T・ウォーカー・バンド”の現在形が彼らだ。決しておおげさなことではなく、デヴィッド・Tの美意識と哲学はこんなところにも注がれている。

 終演後、客席にいたバンドマンらしき数人がこんなことを言っていた。「こんなグルーヴどうやったらだせるんだ。スゲえよ」。また別の客席では「ギターにとろけてうるうるしちゃった」というため息まじりの発言も。ゆるやかで幸せそうな表情だった。なんだかとてもうれしい気分になった。彼らにしか描けない音楽の瞬間を感じた喜びは、帰り道の肌寒い乾いた空気にすっと馴染みながら、僕の心にも居座っていた。

2009年12月18日 ウエヤマシュウジ



David T. Walker Japan Tour 2009 Set List (2009.12.18)

※以下は基本的なセットリストです。
※ステージによっては、リストにない曲(「You Make Me Feel Brand New」「An-Noor」「Street Life」など)が演奏されたり、各曲の冒頭には短い小節でさまざまな楽曲のフレーズが挿入されることもありました。

01. The Real T.
4thアルバム『David T. Walker』収録のオリジナル曲。冒頭に「The Christmas Song」のフレーズを挿入。

02. Plumb Happy
3rdアルバム『Plum Happy』と9thアルバム『Ahimsa』収録のオリジナル曲。

03. Global Mindfulness
13thアルバム『Thoughts』収録のデヴィッド・Tオリジナル曲。

04. Never Can Say Goodbye
4thアルバム『David T. Walker』収録。オリジナルはジャクソン5のヒット曲。冒頭とエンディングに、同じく原曲ではデヴィッド・Tがギター参加したジャクソン5の「I'll Be There」のフレーズを挿入することもありました。

05. Going Up
2ndアルバム『Going Up』と9thアルバム『Ahimsa』収録のオリジナル曲。

06. Recipe
8thアルバム『With A Smile』収録のオリジナル曲。キャリアのスタートとなったキンフォークス名義でシングル盤としてもリリースされた一曲。

07. Santa Claus Is Comin' To Town
最新アルバム『Wear My Love』から、クリスマスソングの名曲カヴァー。冒頭に「I Wish You A Merry Christmas」のフレーズを挿入することもありました。また、この曲のみ、バンドメンバー全員がサンタ帽をかぶって演奏するというチャーミングな演出がありました。

08. Have Yourself A Merry Little Christmas
最新アルバム『Wear My Love』から、クリスマスソングの名曲カヴァー。ジャクソン5のクリスマスアルバム『Christmas Album』(1970)収録の同曲カヴァーでもバッキング参加している一曲。

09. Lovin' You
6thアルバム『On Love』、Rainey Walker Band『Rainey Walker Band』、Band Of Pleasure『Live At Kirin Plaza』(※再発盤のボーナストラックのみ)に収録されたミニー・リパートンの歌声で知られる名曲カヴァー。冒頭には3rdアルバム『Plum Happy』収録のボブ・ディランの名曲カヴァー「Lay Lady Lay」のフレーズが挿入されることもありました。

10. Holidays Are Mirrors
最新アルバム『Wear My Love』からのオリジナル曲。ジャクソン5の「I Want You Back」でデヴィッド・Tが奏でたフレーズが少しだけ聴ける一曲。

11. Walk On By (1st Stage) / I Want You (2nd Stage)
1stステージと2ndステージで演目が異なりました。「Walk On By」はバート・バカラックの名曲カヴァーで、12thアルバム『Beloved』に収録。エンディング部分に5thアルバム『Press On』収録の「With A Little Help From My Friends」のエンディングフレーズを盛り込んだアレンジを披露。「I Want You」は、13thアルバム『Thoughts』でカヴァーしたマーヴィン・ゲイの名曲で、チャック・レイニーとのユニット「レイニー・ウォーカー・バンド」の『Rainey Walker Band』でもカヴァーされた一曲。



●メンバー紹介:

Byron Miller (Bass) バイロン・ミラー
ハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらとのセッションで知られるファンキーベーシスト。80年代のクルセイダーズのライヴツアーでともに活動したのをはじめ、デヴィッド・Tとはスタジオで幾度も顔を合わせた仲。これまで3枚のソロアルバムをリリースし、近年では故ルーサー・ヴァンドロスのバックバンドの一員としても腕をふるったクールガイ。

Clarence McDonald (Keyboards) クラレンス・マクドナルド
60年代から活動を続けるキーボーディスト。デヴィッド・Tとの交流は古く、ポール・ハンフリーやビリー・プレストン等、数多くのセッションで共演。デヴィッド・Tのソロ活動の中では、Odeレーベルのソロアルバム『David T. Walker』『Press On』への参加をはじめ、90年代のソロ作『Beloved』でも息の合ったプレイを披露。2002年にはマリーナ・ショウの来日公演に同行するなど、近年でも幅広く活動を続けている。

Leon Ndugu Chancler (Drums) レオン・ンドゥグ・チャンスラー
マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、ジョージ・デュークらのリズム隊を担ったソリッドドラマー。70年代後半に自身のユニット「チョコレート・ジャム・カンパニー」を率いて『The Spread of the Future』『Do I Make You Feel Better?』の2作をリリース。80年代にはクルセイダーズの一員としても腕をふるい、90年代にもデヴィッド・Tのソロ作をサポート。きらびやかで骨太なリズムとシャープなスティックさばきを披露している。