Ed Motta with special guest David T. Walker 2013
David T. Walkerがスペシャルゲスト参加した、ブラジルのシンガーEd Mottaの来日公演が閉幕!

Ed Motta『AOR』(2013)

ブラジルのシンガーにしてグルーヴマスターEd Motta(エヂ・モッタ)10年ぶりの東京公演が閉幕! 2013年にリリースされたばかりのエヂ・モッタの新作『AOR』にも客演したデヴィッド・T・ウォーカーがスペシャルゲストとして参加したステージはサプライズとミラクルとリスペクトに満ちたライヴでした!

東京公演※終了しました
・公演:2013年10月17日(木), 18日(金), 19日(土)
・会場:ブルーノート東京

Ed Motta with special guest David T. Walker 2013 Set List (2013.10.20)

※以下は基本的なセットリストです(ステージによって曲順は若干変更されました)。
※ステージによっては「What's Going On」や「Lovin' You」が即興的に短い小節数で演奏されることもありました。

Ed Motta エヂ・モッタ (Vo, Rhodes)
David T. Walker デヴィッド・T・ウォーカー (G)
Matti Klein マティ・クライン(Rhodes, Piano, Key)
Paulinho Guitarra パウリーニョ・ギタルラ (G)
Hannes Hüfken ハネス・ヒュフケン (B)
Miguel Casais ミゲル・カサイス (Dr)
01. Playthings Of Luv
02. Simple Guy
03. Lost In The Night
04. 1978 (Leave The Radio On)
05. Farmer’s Wife
06. Smile
07. Free Style Solo
  included "Minha Casa, Minha Cama, Minha Mesa",
  〜 "A Tijuca em Cinemascope"
08. Windy Lady
09. Dondi
10. Baixo Rio
11. Drive Me Crazy
12. Colombina



 着席してまず目に飛び込んできたのが、ステージ中央と左手にそれぞれ設置された2台のローズピアノ。その奥にはグランドピアノが控える。主役エヂの本気度が伝わるこの光景に、これからはじまるステージがきっと極上のものになるという直感とともに、開演を待つ僕の期待はグンとヒートアップしていく。

 8月に国内盤がリリースされた新作『AOR』を携え、2003年以来ちょうど10年ぶりに来日したブラジルのシンガーにしてサウンドクリエーター、エヂ・モッタ。大トロとウニが大好物、発言の中には、大貫妙子、吉田美奈子、ナイアガラ、ティン・パン・アレイ、といったワードが次々と飛び出すほど日本のシティポップスにも精通した生粋のレコードコレクターでもある彼のブルーノート東京公演に、新作『AOR』に一曲参加したデヴィッド・T・ウォーカーがスペシャルゲストとして参戦するというのだから、期待が高まらないわけがない。実は、エヂとデヴィッド・Tはこれまで実際に会ったことはなかったそう。アルバム『AOR』での客演は、デヴィッド・Tのギターパートのみをロスで録音、その音源ファイルデータをネット経由で送信しエヂが仕上げるという、いまどきのレコーディングスタイル。だから今回のステージは彼ら二人にとって最初の「ご対面」の場であり、初めて交えるセッションの場でもあるという、ミラクルな初モノづくしのライヴとなった。

 ステージ序盤、まずは「Playthings Of Luv」から、ハーフタイムシャッフルの「Simple Guy」、そして「Lost In The Night」と、新作『AOR』からの楽曲を続けざまに披露。アルバムでも十分メリハリあるエヂの歌声だが、生ライヴではさらにスモーキーで実にソウルフルだ。バックを支えるバンドメンバーは国際色豊かで、キーボードのマティ・クライン(Matti Klein)とベースのハネス・ヒュフケン(Hannes Hufken)はドイツ、ドラムのミゲル・カサイス(Miguel Casais)はポルトガル、ギターのパウリーニョ・ギタルラ(Paulinho Guitarra)はエヂと同じブラジル出身といった多国籍な陣容。派手さはないがシンプルで堅実なバックアップは、最小限の人数ながらアルバムのテイストを小気味良く伝える卓越した技量のパフォーマンスで徐々に聴き手のテンションを高めていく。「はじめて映画館に行って『スターウォーズ』や『サタデーナイトフィーバー』を見た。それが1978年だ」などと語りを交え次曲「1978 (Leave The Radio On)」に繋げたり、「マイアミヴァイスのようなTVドラマミュージックテイストの曲」との解説から「Farmer's Wife」へと突入するなど、自身の体験談やちょっとした制作背景を語ったあと演奏に入る構成や、演奏をはじめるカウントをエヂ自ら担っていたのも実に印象的だった。


 6曲目「Smile」が終わると、メンバーは一休みとなり、エヂがフェイザーの効いたローズピアノで一人弾き語りをはじめる。そのうち、ドラムやベースといったリズム楽器を自らの声と表情、そして手の仕草を駆使して「一人バンドアンサンブル」のような佇まいでパフォーマンスをはじめるエヂ。これが絶妙の達者ぶり! しかしそれが、リズム楽器のリアリティーを追求する単なるヴォイスパーカッションと異なるのは、自ら公言するヴィンテージサウンド好きを地でいくかのような、ヴォコーダーやワウペダル風音色に、オーヴァードライヴのかかったベース音やチョッパー奏法、ハイハットを駆使したグルーヴ感溢れるドラムフィルインなど、70年代的サウンドエッセンスを模した形で繰り広げられるところであり、なにより長年口ずさみ続けた結果、彼自身と一体化されたと思えるメロディや楽器リフがふんだんに盛り込まれているところだ。ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」やレッド・ツェッペリン「ハートブレイカー」、シェリル・リン「Got To Be Real」やアース・ウインド&ファイア「Let's Groove」など、ハードロックからソウルにラテンにいたるまで、思わずニヤリとさせられるオールジャンルの楽曲フレーズを挟み込みながら、汗だくの姿で熱演するエヂ。自らのルーツであるそれらサウンドの肝を、リアルな楽器演奏ではなく、自らの「声」で表現するその姿こそ、いわばエヂ流の自己紹介的場面。多少長尺に思えるほどユーモアたっぷりに繰り広げる熱演は「もっと時間があればいくらでもやり続けられるさ」との声がサラリと聴こえてきそうなほど、表層的な旨味をなぞるだけでは決してない、先人の残した音楽をひたすら愛し続けた彼の音楽ヒストリーがしっかりと血肉化している証しのようにも見えた。





 ここまでがステージ前半の区切り。続いて「神が僕に与えてくれたギフト。ずっと憧れの存在のミュージックマスター」とのエヂの呼び掛けで、いよいよデヴィッド・Tが登場だ。瞬間、ステージ上が前半に繰り広げられた多才なエヂの世界観とはまた別の華やかな空気へと一変。その存在感とオーラはやはり圧倒的だ。アルバム『AOR』への参加という接点があるにせよ、参加曲は「Dondi」一曲のみのため、果たしてどんなコラボレーションが行われるのか。高まる期待の中、エヂのカウントではじまったその一曲目、いきなりサプライズが起こる。なんと、山下達郎の名曲「Windy Lady」のメロディが聴こえてきた! 日本のポップスやジャズ好きを公言し、中でも山下達郎を神と崇めるエヂらしい選曲といえばその通り。だが、デフォルメした奇異な佇まいではなく、原曲のもつニュアンスを損なわないリスペクトに満ちた直球勝負のアレンジにのって日本語で歌うエヂの姿と、そこに鳴っているのが我らがデヴィッド・Tの艶やかなギターであるという光景に、えも言われぬゾクゾクとした興奮が襲う。「達郎の楽曲とデヴィッド・T」といえば、ニック・デカロの90年作『Love Storm』という達郎カヴァー集への参加など、これまで接点がなかったわけではない。ただ、70年代のヴィンテージサウンドや和モノポップス好きのエヂが、その魅力のポイントとなるフレーズやマテリアルを知り尽くした上でカヴァーすることの意味を考えたとき、ソウルミュージックに魅せられた日本人アーティストのポップスを、ブラジル経由で米国から逆輸入したともいえる多少複雑な構図に、瞬間、不可思議さと幸福感が渾然一体に押し寄せてくる。でも、そんな戯言を一蹴するかのように、デヴィッド・Tが繰り出すテンション高いギターワークをフィーチャーした有無を言わせぬ極上サウンドが体内を駆け巡り、興奮のメーターは一気に振り切れる。ココロがジーンと揺さぶられた瞬間でもあった。

 予想外のサプライズを目の当たりにした「Windy Lady」がエンディングに近づくと楽器隊はフェードアウトし、途切れなくデヴィッド・Tのギターのみにフィーチャー。ステージによってさまざまだったが、そこから、ジャクソン5の「Never Can Say Goodbye」「I Want You Back」「I'll Be There」や、デヴィッド・T自身もソロアルバムでカヴァーしたハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツの「If You Don't Know Me By Now」やボブ・ディラン「Lay Lady Lay」といった楽曲フレーズをちりばめ、ジャズ的コードワークを巧みに積み重ね艶やかなトーンをこれでもかと繰り出しながら、アルバム『AOR』に唯一客演した一曲「Dondi」のイントロへとなだれ込む。キャッチーでポップなメロディと展開が、デヴィッド・Tのギターと相性バッチリなこの曲は、デヴィッド・T自身「最近一番気にいっている」と公言するほど優しく瑞々しいばかりの魅力に溢れている。憧れのレジェンドに、自身の楽曲で最高のプレイをしてもらいたいと願ったエヂの熱い眼差しが結実したこの一曲に、時折り交わされるエヂとデヴィッドの満面の笑みによるアイコンタクトも加味されて、聴き手である僕らも実に晴れ晴れとした心持ちになる。


 さらに、公演初日の1stステージこそ予定通りのセットをこなした感のあった彼らだが、その日の2ndステージ以降、ついに堪えきれなくなったか、デヴィッド・Tのライヴでは定番曲の「What's Going On」や「Lovin' You」を、即興でリクエストするエヂ。慌ててコード展開をさぐりながら追随するバンドメンバーを尻目に、憧れのレジェンドが繰り出すパフォーマンスを食い入るように凝視するエヂの姿は、パフォーマーという立場を一瞬忘れ、いちファンとして珠玉の時間を楽しんでいるかのような微笑ましい佇まい。その光景を見ている観客全員も、思わず頬がゆるむ幸せな時間だったに違いない。


 デヴィッド・Tのフィーチャーはまだまだ続く。「Ed Motta & Conexão Japeri」名義で1988年にリリースされたエヂの処女作となる同名タイトルアルバムからの「Baixo Rio」では、デヴィッド・T十八番のメロウなギターフレーズが連発。2000年リリースの『As Segundas Intenções do Manual Prático』収録の「Drive Me Crazy」では、スローでメロウなトーンを聴かせることの多い近年のデヴィッド・Tのステージでは機会の少なかった、アップテンポでスピード感たっぷりにグルーヴする楽曲にフィットする弾力的バッキングが炸裂。アンコール曲「Colombina」では、コード展開が同じだったことから、途中、バリー・ホワイトの「Love's Theme(愛のテーマ)」のフレーズをデヴィッド・Tが挟み込むと、それに呼応し同曲のストリングスパートをエヂが自らの「声」で模し受け返すという掛け合いも。グルーヴ感溢れるベースソロに続き、デヴィッド・Tのきらめくばかりの美しいフレーズが宙を舞いながらステージはエンディング。会場全体の高揚が文字通り最高潮に達した瞬間だった。

 奇しくも日本を愛する2人のミュージシャンがはじめて顔を合わせ、そして肌身で音の会話を繰り広げた場所が日本だったという、出来過ぎたストーリーのようにも映るステージに「音楽に国境なし」という言葉が頭をよぎる。でもここであらためて感じるのは、その言葉を言葉として理解するよりもずっと、その意味を音そのもので彼ら自らが証明してみせてくれたことの素敵さだ。このミラクルな舞台が、ここ日本で実現したことの重要さをあらためて感じ、そしてその場に立ち会えたことの喜びが、ステージにあふれた素晴らしいコラボレーションの余韻を、より深みあるものに変えていく。終演後、素晴らしいステージだったことをエヂ本人に伝えたところ、日本のポップスが大好きなんだよとあらためてコメントが。大好きな日本で憧れのアーティストとときをともにした満足感と、真横でプレイするデヴィッド・Tの存在に度肝を抜かれたであろうファンと同じ目線の高揚した心持ちのすべてを、終演直後で放心状態だったはずのなんとも憎めない愛らしい表情が語っていた。安堵にも似た「これでよかったのだ」という感触は、我が道を貫き音楽の人生を歩むレジェンドと、そのレジェンドをリスペクトし続けた音楽愛あふれる巨漢の奇才という、二人のジャイアンツだからこそ芽生えた化学反応でありミラクルだったはずだ。

 最終公演日の最終ステージ、アンコール曲「Colombina」が終わる寸前、スポットライトがデヴィッド・Tとエヂの二人にフォーカスされる。デヴィッド・Tが奏でたブルースフィーリングあふれるテンション高いソロプレイに、即興でソウルフルな歌で呼応するエヂ。二人だけの掛け合いが数回続き、会場全体が「このハッピーなひとときが終わってほしくない」と願ったであろう瞬間、誰よりエヂ自身がきっと同じ気持ちだったに違いないと、彼の満足気な表情がすべてを物語っていたように見えた。

2013年10月20日 ウエヤマシュウジ
Photo by Tsuneo Koga






Thank you, David and Ed !!!